鉄道好きにとって、趣味性と社会性を絶妙なバランスで両立させた良著です。
鉄道史なんて手垢がついた分野だと思ってましたが、本著の工夫に溢れたテーマ選定や構成には唸らされました。著者の広い分野にわたる造詣の深さがしっかり結実しているという印象です。
例えば、高速鉄道の章では、新幹線賛歌に終わることなく
...続きを読む、最新の各国の状況や技術論に触れつつ、最後は中国の一帯一路政策に繋げていく展開はなかなか見事。
単に「へー」情報の羅列というトリビアで終わることなく、ストーリー感のある、一つ上のレイヤ感のある学びが得られた気持ちになれます。
写真、図画や表も活用してわかりやすく、豊富なデータで定量的に説明しているのも良いところ。文庫という物理的な制限からあまり大きくないし、解像度的にも色的にもなかなかしんどいですが、ベストを尽くした印象があります。
最終章「リニア新時代と鉄道の公益性」は、著者による日本鉄道業界への課題提起で、「中速鉄道(新幹線と在来線の間)が必要」、「リニアホントに要るの?」、「公益性と収益性のバランスをどう取るのか?」どれも重要なテーマです。
いち利用者、納税者としても考え続けないといけないテーマで、活発に議論されていくと良いなと。特に最後の「公益性と収益性」は、日本の鉄道会社がほぼ不動産会社になるような、新聞業界的な事態にはならないことを祈っています。