あらすじ
鉄道とは、人類のドラマである!
その胸躍る軌跡のすべて
鉄道誕生から約二〇〇年――そこには、爛熟する豪華列車もあれば、等級制が生み出す人間模様もある。廃線問題が起こる一方で、座席や照明は進化し、激化するスピード競争はついにリニア開発までいたりついた。他に類を見ない独特な文化を生み運んできた鉄道の全軌跡を、第一人者が新聞や文学、写真や絵画を渉猟して描き切る、壮大にして無二の世界史!
「二等車は一等車の上流と三等車の大衆を分かつ、ちょっと曖昧な漠とした中間ゾーンであるだけに乗客心理は微妙であった。誰でも二等車に乗ると、あるいは乗れる身分になると、ほっと安心する。それでいい気になって、不遜な態度で乗務員に接する、知らぬ男女の二等客が思わぬ不倫関係で突如途中下車してゆく……」(「第六章 等級制と社会」より)
[本書の内容]
第一章 のびゆく鉄道
第二章 コンパートメントと大部屋式
第三章 無謀なスピード競争は終わったが、スピードはわが命
第四章 鉄道旅行の時代
第五章 鉄道快適化物語
第六章 等級制の人間模様
第七章 日本にもあった「一帯一路」
第八章 鉄道はデザインの宝庫
第九章 超高速時代と反芻
第一〇章 豪華列車からクルーズ列車へ
第一一章 芸術が描いた鉄道
第一二章 リニア新時代と鉄道の公益性
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Posted by ブクログ
鉄道好きにとって、趣味性と社会性を絶妙なバランスで両立させた良著です。
鉄道史なんて手垢がついた分野だと思ってましたが、本著の工夫に溢れたテーマ選定や構成には唸らされました。著者の広い分野にわたる造詣の深さがしっかり結実しているという印象です。
例えば、高速鉄道の章では、新幹線賛歌に終わることなく、最新の各国の状況や技術論に触れつつ、最後は中国の一帯一路政策に繋げていく展開はなかなか見事。
単に「へー」情報の羅列というトリビアで終わることなく、ストーリー感のある、一つ上のレイヤ感のある学びが得られた気持ちになれます。
写真、図画や表も活用してわかりやすく、豊富なデータで定量的に説明しているのも良いところ。文庫という物理的な制限からあまり大きくないし、解像度的にも色的にもなかなかしんどいですが、ベストを尽くした印象があります。
最終章「リニア新時代と鉄道の公益性」は、著者による日本鉄道業界への課題提起で、「中速鉄道(新幹線と在来線の間)が必要」、「リニアホントに要るの?」、「公益性と収益性のバランスをどう取るのか?」どれも重要なテーマです。
いち利用者、納税者としても考え続けないといけないテーマで、活発に議論されていくと良いなと。特に最後の「公益性と収益性」は、日本の鉄道会社がほぼ不動産会社になるような、新聞業界的な事態にはならないことを祈っています。