小説 - 集英社文庫作品一覧

  • 共喰い
    3.5
    一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと、自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって─。川辺の田舎町を舞台に起こる、逃げ場のない血と性の問題。第146回芥川賞受賞作。文庫化にあたり、瀬戸内寂聴氏との対談を収録。ほか「第三紀層の魚」併録。
  • 東京ロンダリング
    3.6
    1~2巻451~814円 (税込)
    内田りさ子、32歳。訳あって夫と離婚し、戻る家をなくした彼女は、都内の事故物件を一ヶ月ごとに転々とするという、一風変わった仕事を始める。人付き合いを煩わしく思い、孤独で無気力な日々を過ごすりさ子だったが、身一つで移り住んだ先々で出会う人人とのやりとりが、次第に彼女の心を溶かしてゆく――。東京の賃貸物件をロンダリング〈浄化〉する女性の、心温まる人生再生の物語。
  • 働く女
    3.3
    客を思う誠実さゆえに売り上げの伸びない百貨店外商部のチハル。無神経で時代錯誤のオヤジたちに悩まされるベテランOLのトモミ。手抜きのできない損な性分でボロボロになって働くエステティシャン、タマエ…。その他、ワガママ大女優から、ポリシーあるラブホテル店長まで、十人十色の働く女を活写! 共感し、思わず吹き出し、時には少々ホロ苦い。等身大の女たちの奮闘努力に、勇気の出る短篇集。
  • 小美代姐さん花乱万丈
    4.4
    1~2巻451~517円 (税込)
    大正生まれの小美代姐さん、花も実もある一代記。どんなときも明るく元気にたくましく! 一家の大黒柱で、売れっ子芸者。超ポジティヴな小美代姐さんが駆け抜けた激動の昭和。笑えて、泣けて、エネルギーをもらえる傑作評伝小説。
  • 田中慎弥の掌劇場
    4.5
    自殺と断定された妻を、自分が殺害したと主張する男。夫の浮気相手たちを殺す計画を立てる貞淑な妻。育児疲れの女に若い頃の自分を重ねる老婆。会社帰りに立ち寄ったバーで悪魔と隣合わせになった男。愚かで愛らしいその人々は、あなたのすぐ近くに存在するかもしれない――。何気ない日常生活が些細なことで歪みはじめる瞬間を、ブラックユーモアたっぷりに切り取った38編の掌編小説集。
  • 青きドナウの吸血鬼(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    クロロックの仕事に便乗し、ヨーロッパ旅行に出かけたエリカたち。ロマンティックな古都ウィーンに到着し旅気分の盛り上がった一行だが、空港で機関銃の襲撃という手荒い歓迎を受ける。狙われているのは、同行者の永井恭子か。警戒するクロロックとエリカに次々と降りかかる襲撃事件の行方は……!? 表題作のほか、『吸血鬼と幻の聖母』、『吸血鬼と花嫁の宴』を収録。大好評シリーズ第12弾!!
  • 吸血鬼愛好会へようこそ(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    エリカが通う大学のサークルに〈吸血鬼愛好会〉という団体があるという。入会資格は「夜中に、若く美しい女性を吸血鬼の格好でおどかして、気絶させること」。でも、誰がメンバーなのか、どこに部室があるのか、その正体を知る者はいない。そんなある日、若い女性がのどを切り裂かれ殺されて……!? クロロックとエリカの活躍が始まる――!! 表題作のほか、『吸血鬼は鏡のごとく』、『吸血鬼に向かって走れ』を収録。大好評「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ、第11弾!
  • オテル モル
    4.0
    「悪夢は悪魔」の合言葉のもと運営される会員制地下ホテルで働きはじめた希里。「最高の眠りと最良の夢」を提供すべく「誘眠顔」である彼女の奮闘が続く。リハビリ施設に入院中の双子の妹に代わり、小学生の姪と、かつて恋人であった義理の弟とともに暮らす希里が働き始めたのをきっかけに、彼ら三人にも変化がみえてきたころ、妹の沙衣の退院が決まる。直後、事件は起きてしまう――。
  • 道草(漱石コレクション)
    4.5
    小雨降るある日、健三は勤め帰りに思いがけない人物を見かける。それはかつての養父・島田で、海外留学から戻り大学教師となった健三から、何がしかの援助を得ようと十数年の時を経て近づいてきたのだ。島田、島田の先妻・お常、姉・お夏、妻・お住の父。困窮する係累にあてにされ、神経症気味の妻とも気持ちがすれ違う。永遠に「片付かない」日常の苦悩を描いた自伝小説ともいえる家族の物語。語注・年譜付き。
  • 湖底から来た吸血鬼(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    ダムができて湖に沈んだ村――のはずが、5年後に雨不足で村は再びその姿を現した。「それ」は墓の下からよみがえり、血を必要としていた…。そして、若い女が失血死したのだった。一方、ひょんなことからこの事件に遭遇したエリカとクロロックは同じ吸血鬼一族の存在を感じていた。そんなとき常田加奈子という少女が現れ、やがて第二の殺人が起こって――!? 『吸血鬼はお年ごろ』シリーズ第10弾!!
  • おしまいのデート
    3.7
    中学三年生の彗子は両親の離婚後、月に一度、父の代わりに祖父と会っていた。公園でソフトクリームを食べ、海の見える岬まで軽トラを走らせるのがお決まりのコース。そんな一風変わったデートを楽しむ二人だったが、母の再婚を機に会うことをやめることになり……。表題作のほか、元不良と教師、バツイチOLと大学生、園児と保育士など、暖かくも切ない5つのデートを瑞々しく描いた短編集。
  • 東京バンドワゴン
    4.2
    東京、下町の古本屋「東京バンドワゴン」。この老舗を営む堀田家は、今は珍しき大家族。60歳にして金髪、伝説のロッカー我南人。画家で未婚の母、藍子。年中違う女性が家に押しかける美男子、青。さらにご近所の日本人好きのイギリス人、何かワケありの小学生まで、ひと癖もふた癖もある面々が一つ屋根の下、泣いて笑って朝から晩まで大騒ぎ。日本中が待っていた歴史的ホームドラマの決定版、ここに誕生!!
  • 秘密への跳躍 怪異名所巡り5
    -
    弱小「すずめバス」のバスガイド・町田藍は、霊感が強く幽霊と話せるという特技がある。これを売りにした「幽霊ツアー」は、常連の女子高生・真由美をはじめ、変わり者のお客たちに大人気。夜な夜な赤子を抱いた女教師の霊が出るという高校の池を訪ねた一行。そこで真由美が奇妙な霧に包まれ妊娠してしまい!? (「生まれなかった子の子守歌」)など6編を収録した、大人気シリーズ第5弾!
  • 岳物語
    4.0
    1~8巻440~759円 (税込)
    山登りの好きな両親が山岳の岳から名付けた、シーナ家の長男・岳少年。坊主頭でプロレス技もスルドクきまり、ケンカはめっぽう強い。自分の小遣いで道具を揃え、身もココロもすっかり釣りに奪われてる元気な小学生。旅から帰って出会う息子の成長に目をみはり、悲喜こもごもの思いでそれをみつめる「おとう」…。これはショーネンがまだチチを見棄てていない頃の美しい親子の物語。
  • 巨食症の明けない夜明け
    3.3
    【第11回すばる文学賞受賞作】食べるということは、どういうことなのでしょうか。真剣な食欲とは、どのようなものなのでしょうか。わからないのです。いくら食べても、胃袋も心も満たされない食行動……。母親との関係に悩み、恋人ともうまくゆかず、過食に溺れる21歳の女子大生時子。都会で一人暮らしをする若い女性の不安と孤独を描く。
  • おだやかな部屋
    -
    男との愛に生きながら、確かな世俗の絆を求めようともしない孤独な女の心は、日常の些細な出来事も部屋から見下す街のながめも、謎めいたものに変えてしまう。ひとり居の女心のゆらめきに微かな性の芳香を漂わせながら、一組の男と女の微妙な愛のかたちを描いて生の不思議な深淵にせまる力作長編。
  • 柩の中の猫
    4.2
    1955年、20歳の雅代は、美大で油絵を教える川久保悟郎の家に、娘の桃子の家庭教師を条件に住み込むことになる。モダンな明るさに満ちたその家に母親の存在はなく、孤独な少女の心には飼い猫のララだけが入れるのだった。緊張をはらみつつも表面は平穏な日々。均衡を破ったのは悟郎の恋人の登場だった――。30年の時を経て語られる悲劇的な事件の真相。心理の綾を精緻に紡ぐサスペンス長編。
  • 吾輩は漱石である
    -
    明治43年8月24日水曜日。漱石44歳、修善寺の大患の大吐血。意識の闇のなかで育英館開化中学の職員室が現われ、あの三四郎が活躍し、マドンナがほほえむ。劇作の魔術師が描く笑いと思索、そして透明感いっぱいの夏目漱石。
  • 恋人はいつも不在
    3.9
    大学の頃から好きだった時男と3年かけて、ようやく恋人関係になれた奈月。なのに、この頃、時男のやさしさが見えない……。そんな時、時男の昔の恋人・小夜子が現れる。派手な化粧がよく似合う小夜子にひかれる時男。そして、奈月の前にも、以前に告白された協介が……。社会人としても3年目を迎え、すれ違う恋人たちの心と、その成長を女と男、それぞれの視点から丹念に綴った長編小説。
  • 海色の午後
    3.4
    唯川恵、幻のデビュー作! 海の見える部屋に暮らす遙子は、システムエンジニアの仕事をもち、医大生の恋人もいて、それなりに満ち足りた生活を送っている。だが、有力者の父から見合いの話が持ち込まれたことで平穏な日々にさざ波がたってゆく。恋愛、仕事、結婚、親子関係、様々なしがらみの中で揺れ動く20代の女性の心模様を描く。コバルト・ノベル大賞を受賞した著者のデビュー作。巻末にエッセイを収録。第3回コバルト・ノベル大賞受賞作。
  • 花影
    -
    女の盛りを過ぎようとしていたホステス葉子は、大学教師 松崎との愛人生活に終止符を打ち、古巣の銀座のバーに戻った。無垢なこころを持ちながら、遊戯のように次々と空しい恋愛を繰り返し、やがて睡眠薬自殺を遂げる。その桜花の幻のようにはかない生に捧げられた鎮魂の曲。実在の人物をモデルとして、抑制の効いた筆致によって、純粋なロマネスクの結構に仕立てた現代文学屈指の名作。
  • 化粧
    -
    さびれた芝居小屋の淋しい楽屋に、一人の女が座っている……。女の名前は五月洋子。大衆演劇「五月座」の女座長である。やがて客入れの始まる音が聞こえ、いよいよ初日幕開きの時刻が近づいてくる。洋子が舞台化粧を始めたその楽屋に、かつて彼女が捨てた息子だという人物が現れた――。捨てたのではない、ああするより他に仕方なかったのだ。わかっておくれ……。洋子の語る物語に、観客は幻惑されていく。井上ひさし初の一人芝居にして、一人芝居というジャンルの中でも最高峰と讃えられる傑作中の傑作戯曲。併せて松尾芭蕉の生涯を描く、歌仙仕立ての名作『芭蕉通夜舟』も収録。モノローグの至芸を味わえる戯曲集。
  • 頭痛肩こり樋口一葉
    -
    ぼんぼん盆の16日に地獄の釜の蓋があく…。夭折の天才女流作家、樋口一葉の19歳から死後2年目まで、それぞれの盆の16日に巡り来た運命は――。幽界(あのよ)と明界(このよ)にまたがる卓抜な仕掛けと会話で綴る樋口一葉像。没落士族の女家長・樋口夏子が、いかにして家族のために闘い、生き抜き、作家・一葉となって奇跡のような名作を生み出したのか。井上ひさしがユーモアをちりばめて描く、明治という激動の時代を駆け抜けた一人の女性の短くも美しい人生。再演のたびに新たな感動を呼び起こす傑作戯曲。
  • かもめ
    3.9
    19世紀末ロシアを舞台に描かれる作家志望の男と女優を夢見る女の恋。35歳のチェーホフが“恋だらけの物語”として構想した戯曲は、様々な演出家や時代によって形を変え、100年以上の時を経てなお、世界各地で愛され続けている。「人生の本質を見る真の繊細なまなざしを獲得した」と評された演劇史上不朽の名作が今、現代を生きる人々のための瑞々しい名訳となって甦る。
  • ゴッド・ブレイス物語
    3.8
    【第2回小説すばる新人賞受賞】朝子は、活気あふれる19歳のロックシンガーだ。ライブで人気を集めるバンドを率いている。騙されて行った京都で、そんな彼らが遭遇する愛と冒険の日々…。切ない恋心に胸を焦がしたことのある人なら、自分の不誠実な生き方に後ろめたい想いを抱いて生きている人なら、読んで涙せずにはいられない、花村萬月、鮮烈のデビュー作!
  • 白い手
    3.4
    親分格のヒロミツ。括約筋の働きが悪い松井。コロッケ屋の息子・神田パッチン。そして思い出しても“しん”とした気持になる〈白い手〉の女の子。海がひかり、風がおどり、森がさわいでいたあの頃。歩いていく先すべての風景が優しくするどく輝き、いつも何かがキラキラしていた少年たちの黄金時代。シーナとその仲間たちがくりひろげる、冒険と試練と友情の物語。
  • 女流
    -
    女流作家・太田満子の前に現れた夫の弟子にあたる年若き青年。若さゆえの一途な想いに心揺れる満子。恋する想いの純粋さと残酷さを、細やかに描きつくし“この日本では稀な真の恋愛小説”の誕生と絶賛された名作。女流作家の愛と生と死の軌跡。
  • 若葉のころ(凜一シリーズ)
    4.3
    京都の大学に進学し、二度目の春を迎えた凛一。氷川と逢える平穏で幸福な日々がようやく訪れたかに思えたが、三年ぶりに帰国した有沢が、再び凛一の心に波紋を広げていくのだった。そんなおり、大学フットボール部の主将として活躍する氷川に関する情報を外部に漏洩しているという疑いが凛一にかけられる。ふたりはこのまま逢うことができなくなるのか……。好評シリーズついに完結。
  • 逢はなくもあやし
    3.8
    旅に出たまま戻らない恋人を探すため、OL・香乃は彼の故郷である奈良・橿原を訪ねる。しかし彼の母親から彼は既に亡くなったと告げられる。「すぐ戻るから待ってろよ」と言ったのに、なぜ…。時が止まったような町で答えを探す香乃は、考古学者から亡き夫の復活を待ち続けた女帝・持統天皇の逸話を聞かされる。「待つ」ことの意味とは――。時を超え、男女の想いが交錯する。カンヌ映画祭出品『朱花の月』原案小説。
  • 棒の哀しみ
    4.0
    グレーのスーツ、地味なネクタイ、きちっと刈った髪。よく独り言を呟く神経質な男。一見普通に見えるが、田中という、棒っきれのようにしか生きられないやくざ者だ。強欲な親分の下、苛立っていた。素人をいたぶり、若い衆がやるようなことをする日々。先頭に立って抗争を乗り切り、跡目をとったつもりになるが、分家を言い渡される。のし上がらねばならぬと肝を決めた。文体の実験的試みが話題を呼んだ記念碑的な連作短編集。
  • 魂の岸辺
    4.0
    東京は下町、向島の料亭に生まれた川田周一。十四歳。母はすでになく、父も別居していた。義兄が家を出て、二人の異母姉と周一だけになった。刑事や物騒な連中が来るようになり、店を嵐の気配が包む。そんな中、周一は煙草や酒を覚え、喧嘩を女を知っていく。しっかり眼を開けていろ、との板前・久我の言葉を胸に、男という向こう岸へ、泳ぎ渡りはじめた少年の成長を描いたハードボイルド青春小説。
  • コースアゲイン
    4.0
    「コースアゲイン」とは「進路を元に戻せ」という船の専門用語だ。男はどこへ向かい、なぜ元に戻ろうとしているのか。この言葉は何を意味しているのか。物語の中には、酒があり葉巻があり、船があり海がある。そして男がいて女がいる。壮年の作家を主人公とした、一作一作が著者の心の傷から滲み出しているような、あたかも私小説とも思える20の短篇が収められている。
  • 罅・街の詩
    5.0
    1~2巻440~550円 (税込)
    30歳を前に商社を辞めて転職した。やくざまがいの探偵稼業。それまでの自分は投げだした。なぜこんなことを始めたかも、考えないようにしていた。そして、汚れた都会の罅の間から聞こえてくる人々の呻きに耳を傾け、その声を胸底に深く沈めてきた。女に言われた。街に詩を書いている。人の心が綴る詩を書いている。探偵、浅生。32歳。哀切で情感あふれる北方ハードボイルドの名編。
  • この人と結婚するかも
    3.3
    気になる男性と出会うたび、「この人と結婚するかも」って直感する。けど、結果はいつも外れ。このままじゃ私、ただのイタい妄想独身女!? 二度と変な直感は抱かないと反省したのも束の間、英会話教室で出会ったケンのことが早速気になって……(『この人と結婚するかも』)。その他、迷走する男の勘ちがいを描く『ケイタリング・ドライブ』を同時収録。女も男も、恋をしたら妄想がとまらない!
  • ベリーショート
    3.5
    放課後の教室、休み時間のおしゃべり、川沿いの通学路――「昨日、私は一年と三か月ぶりに学校へいった」。片想い、ともだち、いじめ――切なくて心が痛くなる。17歳。「大した悩みがあるわけじゃないのに、生きてるって大変なことだって、この頃思う」。ピュアで多感な高校生のリアルな日々を、小さな物語に紡ぎだした26篇。甘酸っぱいベリーの味がするショート集。
  • 自殺倶楽部
    4.0
    「私」は高校二年生。ある放課後、図書館で「海の泡同盟」と称する詩を読む会に誘われたが、その集まりは、実は自殺を目的とする集団だった。そこで「私」に課せられた役割は死を見守ること、他人の死を記録することだった――。「ヒカルモノ」である死と、その対照にある「ヨドムモノ」としての生。真っ直ぐに生きようとすればするほど、死に近づき魅了される十代の純粋な魂の軌跡を描く問題作。
  • 忘れ傘
    -
    訣(わか)れるために出会いがあるのか。人生を素直に進みたくない“待つ女”靖子の前に、俯いた表情の駒田が佇んだ。秘めやかな互いの仕草に大人同士の恋が香る。結末を識りながら確かめる辛い甘言。名作「雨やどり」につづく絹雲のようにからみつき離れていく、男と女の関係をつづる表題作と辛口恋情ロマンの短編集。
  • 夫の妹
    3.3
    二十五歳のOL知花は両親の猛反対を押し切って、先妻と死別した五十歳の上司・国元公二と結婚した。後妻の立場と大きな年齢差が懸念されたが、それよりも問題は夫の妹にあった。四十五歳の義妹・小恵子は、二十も年下の兄嫁を「お姉さま」と呼んで慕い、洋服の趣味から髪型、さらに口癖・習慣に至るまで、知花のすべてを模倣しはじめる。そこには公二の先妻の死とも絡む大きな秘密があった。
  • 別れてください
    4.3
    総務部人事課係長の石原滋が一目惚れした十一歳年下の妻瀬里は、フランス人形の如き美しさ。だが、表情に乏しく、夫との肉体的接触を嫌った。子供を作るときでさえも。耐えかねた滋は、部下の高田千絵と浮気をするが、それを察知した瀬里は、自殺騒動を起こし「別れてください」と懇願する。しかし、妻の行動に激怒した滋は、離婚を断固拒絶して自室に引きこもり、家庭内別居で対抗する……。
  • やさしく殺して
    3.3
    角丸真理子は父の反対を押し切って、屋敷芳樹と結婚した。小野和人という恋人をふっての決断だった。しかし、新婚生活のスタートとともに地獄ははじまった。言葉の暴力――それも叱責や罵倒ではなく、やさしい皮肉。真理子の神経を柔らかく包み込むように、夫の言葉が鼓膜から脳髄へと侵入していく。精神の限界に到達した真理子は、ついに決断した。「やさしく殺して……」。
  • 卑弥呼の赤い罠
    3.3
    私が死ねばよいと思っている人間が七人いる――その言葉を残し、老古代史学者の新藤英二郎は殺された。復元した甕棺の中で「女王・卑弥呼」の再現衣装をまとい、顔を朱に塗られて! 日本という国の成り立ちに関する過激思想ゆえに生命を狙われていた老教授を殺したのは誰なのか? 教え子の歴女・村野杏美(あみ)は、新藤と巡った北九州古代史の旅をふり返りながら、恩師の死の謎の挑戦する! 歴史ミステリー。
  • 悪魔が囁く教会
    3.3
    二度結婚に失敗したが多額の慰謝料を得た戸山いずみは、再婚を前提に二人の男と交際する。だが男たちはたがいに甘い言葉を囁きながら、競争相手を「結婚詐欺師」などと罵る。三たび教会で愛を誓うべき相手はどちらか。相談を受けた長谷川美枝子と弁護士向井明は人物鑑定に乗り出したが、善人か悪人かの評価に迷っているうちに、想定外の殺人が起きた! 驚愕の結末が襲いかかる心理ミステリー。
  • コールドケース
    3.4
    元刑事の春日は、自称「透視捜査官」千石健志郎がテレビの番組でコールドケース(=未解決事件)を超能力で解明する様子を見て愕然とした。彼こそ30年前に女性焼死事件の容疑者として春日が逮捕を目指していた男だったからだ。一方、ノンフィクション作家の長谷川美枝子も千石の透視捜査に疑念を抱く。元刑事の執念は時効成立となった迷宮入り事件の真実にたどり着くか? 本格心理ミステリー。
  • 普及版 世界文学全集 第1期
    3.5
    1~2巻440円 (税込)
    悪の大統領フセイドーンや輝く顎の闘魂の神・アントニーが登場する「オデュッセイア」。思いもかけぬ次第で資産家となったごろつき男が始めた新事業、超デラックス結婚式場「水滸伝」の話。女子大生の卒業論文から読む「シェイクスピア傑作選」。世界の名著を大胆華麗にパスティーシュ。爆笑のうちに教養が身につく今世紀最後・最大の文学全集。
  • ことばの国
    3.7
    日本が英・米・豪、そして中国と開戦。英語と漢語、漢字までも敵性語となったとしたら!? 偶然送信されてきた、間違いファクシミリが引き起こす大乱戦珍騒動。曖昧なファッション用語が招くフツーの生活のコンラン、ドタバタ……。氾濫する外国語。使用禁止ことわざ。スピーチ。あらすじ。手垢のついた言い回し。廃語辞典。討論。手紙などなど。ことばと言葉にたいする徹底究明的パスティーシュ小説集。
  • 跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ
    5.0
    ダンクシュートとは、ジャンプ一番、バスケットリングの上からスナップを効かせてボールを叩きこむシュートのことだ。ミサワ基地のジョーは、黒人の誇りをダンクを決めることに賭けた。ああ、神さま、ちびの黒人にでっかい羽根をください! スポーツ小説の幻の傑作と言われるデビュー作がここに復活! アイスホッケー短編「新顔」も収録。還ってきた名手の再編集スポーツ小説傑作集。
  • 女神がくれた八秒
    -
    98対97。フィラデルフィア対レイカースのバスケットボールの試合は、接戦だった。シュート一発で逆転する。ジムはいま、まさにジャンプ・シュートしようとしている。見つめる満員の観客が、歓声を爆発させようとする一瞬。だが、ジムは……。はじめる若さ、噴き出す清涼な汗、疑い知らぬ感激の涙……。ユーモア・タッチで綴る爽やかなスポーツ小説。表題作他12編を収録。
  • 父親 上
    3.0
    1~2巻440円 (税込)
    石井菊次は56歳。化粧品会社の宣伝と商品開発の担当部長。妻と二人の子供がいる。だが、平穏無事な生活とはこんなに脆いものなのか。スタイリストの仕事に生きがいを持つ娘の純子が、妻子と別居中の青年実業家・宗と道ならぬ恋におちた。娘の平凡な結婚を願う菊次は、宗の妻が初恋の人の娘であることを知り、複雑な思いに悩む。話題作の上巻。
  • 雨やどり
    4.1
    舞台は新宿裏通りのバー街。「ルヰ」のバーテンダー仙田を主人公に、彼の前を通り過ぎて行く、いろいろな男と女の哀歓漂う人間模様を描き出す連作。直木賞受賞の表題作をはじめ、「おさせ伝説」「ふたり」「新宿の名人」など8編を収録。
  • 男あそび
    4.0
    ひどく謎めいた女に成熟した順子には、自分が必要とする時に男を呼び寄せ、意のままに操ることができる奇妙な力があった。順子はそれを〈浮気の超能力〉と呼んで、思うまま人生を愉しんでいたが、ふと、どこか虚しい気持ちに陥るようになって……。表題作「男あそび」他7編を収録。軽妙に描く大人の女と男の物語。
  • 怪物が覗く窓
    3.1
    19歳の良太はドアスコープを付けた部屋で引きこもり生活を送っていた。父親はそんな息子を「怪物」と呼んで嫌悪する。やがて閉塞した良太の人生に転機がきた。向かいに若い女性が越してきたのだ。部屋の窓から眺めるその姿は、良太を久々に表の世界へ誘い出した。しかし、その女性が何者かに殺され、父は「ウチの変態息子」の仕業と決めつけた。だが…。意外な真相に戦慄する新感覚ミステリー。
  • 鬼の棲む家
    3.5
    新婚まもない華子は、古びた借家で夫の亮介を電動工具で殺害した! 華子は弁護士に「あの家には鬼がいたの」と語り、事件の背景には壮絶なDVがあったことを示唆する。それを知った華子の父は、夫こそ加害者で、娘は被害者だと訴え、罪の軽減に奔走する。だが、やがて父親は「鬼」の真の正体を知り愕然となる! 家族から殺人者を出した一家の崩壊する心理を描く、戦慄の新感覚ミステリー!
  • 生きてるうちに、さよならを
    3.6
    「あなたが天国へ行った瞬間を知ってたわ。だって真夜中にきたわよね、私の部屋に。ごめんねって泣きながら…」「兄弟、おれに黙って、なぜ先に逝った。バカヤロー!」親友の葬式で、勝手に死者との絆を強調する自己陶酔型の弔辞に嫌気がさした会社社長の本宮は、自分自身の生前葬を企画する。だが彼は知らなかった。妻の涼子が重い病に冒されて、余命幾ばくもないのを隠していることを……。
  • 危険なふたり(大塚綾子の人生相談シリーズ)
    4.0
    「あ、そう。ぼくが出張中に彼女とデートしていたのね。じゃ、二度とそんな真似できないようにしてあげましょ!」新入社員の星野豪太は緑川剛編集長の声に震え上がった。人気出版社に中途採用された喜びもつかのま、なんと男の上司から惚れられた。婚約者の桃子にその悩みを打ち明けられずにいるうちに、なぜか豪太は、自分も彼を愛し始めていることに気がついた……。
  • 可愛いベイビー
    3.5
    わずか半年で結婚生活の破局を迎えた松坂誠。しかし、妻の可愛い笑顔が忘れられない。ところが彼女はあっさり再婚。しかも相手は冴えない中年男。嫉妬の鬼と化した誠は、彼らの新居を監視しはじめるが、見せつけられるのは刺激的な光景ばかり。神経のバランスを崩した誠は、元妻の奪還を期して、異様なストーカーとなった。予想外の破滅が待ち受けているとも知らず……。
  • 家族会議
    -
    一家四人でしあわせに暮らしていた沢木孝は、ある日突然、妻の麻紀に先立たれる。幼い子供たちが哀れだと、義母の芳子が同居を申し出て、家事と育児を引き受けたが、その一年後、孝は若手の女性社員に求婚した。義母は激怒し、家族会議により婿の再婚計画を白紙に戻そうとする。だがそれでも「嫁」はやってきた。不幸であることこそ人生との異常な価値観をたずさえて!
  • 原稿零枚日記
    3.9
    作家の“私”はなかなか思うように執筆がはかどらない。小説の取材で、宇宙線研究所や盆栽フェスティバルなど、様々な地を訪れる“私”だったが、いつも知らず知らずのうちに不思議な世界へと迷い込んでしまう。苔料理を出す料亭、海に繋がる大浴場、ひとが消えてゆくアートの祭典。これは果たして現実なのか。幻と現(うつつ)の狭間で、作家は日々の出来事を綴り続ける──。日記形式で紡がれる長編小説。
  • おとぎのかけら 新釈西洋童話集
    3.6
    母親から育児放棄されかけている幼い兄と妹は、花火大会の夜にデパートでわざと迷子になる。公園で出会った女に連れて行かれたマンションで待っていたのは、甘いケーキと、そして……(迷子のきまり ヘンゼルとグレーテル)。「白雪姫」「シンデレラ」「みにくいアヒルの子」など誰もが知る西洋童話をモチーフに泉鏡花文学賞受賞作家が紡いだ、美しくも恐ろしい7編を収録した短編集。
  • アルセーヌ・ルパン 世界の名探偵コレクション10(2)
    5.0
    怪盗が名探偵に変身。太陽光線を利用した暗号の謎を解く「太陽の戯れ」、宝石細工師に化けたルパンが、かつての恋人の危機を救う「結婚指輪」、セーヌ河で発見されたショールから、異常な事件をかぎつけたルパンが殺人事件に巻きこまれる「赤い絹のショール」など7編を収録。痛快アクションの魅力と謎解きの面白さを満喫させる冒険ミステリー。
  • 九時まで待って
    4.2
    蜜子は31歳。作家浅野稀と共棲みして5年。つつましいアパートから始まった暮らしは、稀が売れっ子になるにつれて豊かになっていく。甘え上手で子どものように寄りかかってくる男との生活。だが最近、彼は独身を装い、蜜子の存在を世間に隠すようになった。心に少しずつ澱を感じ始めた蜜子の前に、味わい深い中年男と少年らしさを残した青年が現れて……。華やかな都会を舞台に描くほろ苦い恋物語。
  • 恋のからたち垣の巻 異本源氏物語
    4.0
    貴公子として名高いウチの大将こと光源氏。恋のドキドキとスリルを味わわぬとオジンになってしまうとばかり、以前に増してマメマメしい。今宵も、新しい恋を求め、ご婦人がたの間を飛び歩く。猛々しい貞女。男嫌いの姫君。色気より酒気の女房。りりしい武者姿の女盗賊……。お供は、人生キャリアたっぷりのヒゲの伴男。おお忙しの主従コンビが京の都でくりひろげる恋と笑いの大冒険。面白源氏物語。
  • オムライスはお好き?
    -
    窓際族とさげすまれ、女房、子供にいびられる中年男は卵料理に生きがいを見いだした。シブチンでええ格好しいの妻、親爺を煙たがる子供らに囲まれて、孤独で寡黙なお父さんの胸の中の呟きが、おかしくて哀しい表題作。やっと建てたマイホームを女房一族に占領され、挙句の果てに転勤命令。愛家家の悲哀を描く「かたつむり」他、男権弱化の世の中で夕暮れを迎えた男女の甘くも苦い極めつきの7編。
  • 愛の風見鳥
    3.0
    愛に定義など本来ありはしない! 数人の男性から愛を打ちあけられて、ピンクムードで幸せいっぱいの亜以子が得たものは……。麻子が突然の事故を目撃したとき、その妻ある男のうろたえぶりは…。さまざまな愛と、愛のたどる道を、ある時は甘く、ある時は辛辣に、情感豊かに読者に語りかける。
  • ベッドの思惑
    3.5
    恋も仕事もキャリアを積んだ、あかり31歳。ワンルームマンションで念願の一人暮らしを始めた。お気に入りのベッドを買って、バスルームで身体を磨き、妄想と希望は膨らむばかり。年下の文夫、同僚の梅本、オッサン角田など、言い寄る男は多彩だが、なぜか結婚にはいたらない。ソノ気になる相手は、いつ現れるのか。人生を楽しく優雅に過ごす女達の夢と本音をユーモアに包んで描く長編恋愛小説。
  • 墜ちていく僕たち
    3.6
    ある日突然、男が女に、女が男に変わったら……? 神出鬼没の摩訶不思議なインスタント・ラーメンが巻き起こすミステリアスな5つの物語。生まれてからずっと男でいつづけるのも、女で一生終わるのも、人間ってけっこう楽じゃない。性に悩めるあなたも、悩んだことなんて全然ないあなたも、さあ、そんな綱渡りのような固定観念を捨てて、性差の呪縛ものりこえて、新しい自由な世界へようこそ。
  • 吸血鬼と死の天使(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    大学の学食で、エリカは強烈な力を感じ取った。そして直後に、ひとりの学生が「胸が……苦しい」といって突然息絶えたのだった……。亡くなったのは、学内でも有名なプレイボーイの折田という学生で――!? ある特殊な力を持って生まれてしまった少女の悲しい運命を救おうと、おなじみ正義の吸血鬼父娘が立ち上がる!! 表題作のほか、『吸血鬼は昼寝どき』、『バレンタインと吸血鬼』を収録。大人気シリーズ、第9弾!
  • 雨の日には車をみがいて
    4.0
    ビートルズが東京へやって来た日、放送作家の卵だったぼくは、1台のオンボロ車、シムカ1000を手に入れたが、その代償のように1人の女友達を失う(第1話「たそがれ色のシムカ」)。アルファ・ロメオ、ボルボ122S、BMW2000CS、ポルシェ911S……。それぞれの車に素敵な女性との出逢いと別れをからめて、リリカルに描く青春恋愛小説の名作。
  • 十四歳の遠距離恋愛
    3.8
    2000年の名古屋。ロリータファッションに目覚めたばかりで、必死にロリータに邁進した結果、クラス中からバカにされていた「私」をかばってくれたのは、時代錯誤なファッションと言動で有名な柔道バカの藤森君だった。全く共通点はない二人だが、それがきっかけで付き合うことに。けれど、彼が東京へ引っ越すことが決まり……。障害の多い恋の行方は!? 純粋すぎる初恋を描いた、傑作恋愛小説。
  • 銀狼王
    4.0
    明治20年の初冬。開拓期の北海道で暮らす老猟師・二瓶は、アイヌの古老から「銀色の毛並みの巨大な体躯の狼が生き残っている」という話を聞き、愛犬・疾風を伴に出立する。「銀狼」と名づけたその狼を目指して山に分け入った二瓶は、「銀狼」のものと思われる足跡を発見する……。猟師と狼の知恵比べ、生死を賭けた駆け引き、そして、激闘――。人間と獣の枠を突き抜けた崇高なる数日間。
  • 犯罪ストリート
    -
    二千万円の金が入った買物袋を拾った警察官。完全に隠し通せるはずが……。(悪徳警官) 自分とは関係のないところでもてあそばれる結果となったひとりの女の運命。(空白の肖像) 虚実が錯綜した中でうごめくルポライターの生態。(重層軌道) など、ふとしたことから罠に落ち、深みにはまる男と女の人生を、鋭く抉るクライム・ノベル、6編を収録。
  • 愛と死の空路
    -
    国際線パイロット、志摩吾朗に思いがけない情報がもたらされた。かつて愛しあったスチュワーデスが、サンフランシスコで謎の失踪をしたという。シスコ便の場合、現地に着けば乗務員には約48時間の休みがとれる。その日から、彼女の行方を追う、志摩の執拗な追跡調査がはじまった。が、彼を待ち受けていたのは――麻薬、売春、暴力が渦まく暗黒街の罠だった…。著者会心の連作長編ミステリー。
  • 妖婦の伝説
    -
    役者と謀って男を毒殺し、「夜嵐」の異名をとった原田きぬ、古着屋を殺し、大金を奪った高橋お伝、大逆事件で幸徳秋水らと共に逮捕された菅野すが子。毒婦、悪女、妖婦などと決めつけられた美貌の女たち。本当に彼女たちが悪かったのか? 偏見に立ち向かい、文明開化期の影の部分を鮮やかに浮かび上がらせる連作。
  • 夜が傷つけた
    -
    弁護士・谷がかつて愛した洋子の夫・藤井久夫が屍体となって発見された。何者かが車で撥ね飛ばした上、もう一度轢くという念の入れようだ。そして洋子が姿を消した。義弟の和夫は谷に調査を依頼してきた。谷は元刑事の杉田に協力を求め、事件の陰に隠された巨悪に立ち向かう。あの傑作『眠りなき夜』のパート2。
  • ふるえる爪
    -
    最初の男のとき、殺人を犯したその男のために、弁護士になって弁護してやりたいと思った。そしていま、もう一度だけ女を賭ける、男に! 友情のために密輸を企てた馬鹿な男に! ほんとうに彼を恋しているのか確かめるために…。女弁護士・則子の愛と行動を描くハードボイルド長編。
  • 雨の塔
    3.9
    その岬には資産家の娘だけが入れる全寮制の女子大があった。衣服と食べ物は好きなだけ手に入るが、情報と自由は与えられない。そんな陸の孤島で暮らす4人の少女――高校で同性と心中未遂を起こした矢咲、母親に捨てられた小津、妾腹の子である三島、母親のいない都岡。孤独な魂は互いに惹かれあい、嫉妬と執着がそれぞれの運命を狂わせてゆく。胸苦しいほど切なく繊細な、少女たちの物語。
  • 陰陽師暗殺
    4.0
    金閣寺北方の総合病院・第7病棟に、キツネ憑きの発作を起こす老女が入院してきた。それは陰陽師・安倍晴明の伝説に基づく芝居なのか、それとも本物の心霊現象か。一方、一条戻橋の下で現代の陰陽師土御門泰山が殺害! 額には五芒星の形に輝く五本の蝋燭。さらに殺人の連鎖は止まらない。いったい誰が、何のために? ついに親友まで事件に巻き込まれ、英光大学の村野杏美は、魔界都市・京都へ!
  • 飛鳥の怨霊の首
    -
    日本版ハッブル宇宙望遠鏡を目指す「飛鳥」プロジェクトの若きリーダー、天文学者の刈谷天空は、専門外の領域で「天武天皇は唐の天文学者に操られていた」と発言、物議を醸していた。その刈谷が、遷都千三百年でにぎわう奈良の南、明日香村にある「入鹿の首塚」の前で自殺! 第一発見者である英光大学古代史研究会のメンバーは、刈谷のキトラ古墳にまつわる禁断の研究資料を発見した!
  • 乱舞
    4.6
    日本舞踊界の中心的存在として隆盛を迎えた梶川流。将来も安泰に思えたある日、家元猿寿郎が事故死した……。そして家元の血を継ぐ隠し子たちが、未亡人となった秋子の前に現れる。妹の千春や母の寿々までもが跡目を巡り弟子たちと争いを繰り広げるなか、梶川流を守るため、秋子が選んだ道とは――。因襲の世界で懸命に生きる女たちを描いた波瀾万丈の人間ドラマ。『連舞』に続く傑作長編小説。
  • バラの木にバラの花咲く
    -
    矢部円はテレビのモーニング・ショウのメイン司会者。美人でシャープな彼女をラジオから引き抜き、人気キャスターに育てたのは恋人のプロデューサー・坂口だった。何事にも強引で現実的な彼に円はうとましさを覚えはじめ、自分の信念を貫くため局を退めていった加納に惹かれていく……。二人の男の間で揺れながら懸命に自分の花を咲かせようと奮闘する女の長篇ロマン。
  • メッタ斬りの歌
    4.0
    「ああ、もうメッタ斬りに斬って斬って斬りまくりたいわねぇ」気配り、礼儀、人の世話を旨とする、健全な家庭婦人光代さんの近頃の口癖はこれである。自宅で貸間を始めて20年。不倫女子大生、浮気妻、軟弱男性。今や間借人はこんな輩ばかり。ケチでガンコなうるさいばあさんと人に酷評されながらも、他人にも自分にも「誠実」なババタリアンの奮闘物語。ユーモア長編。
  • ものいふ髑髏
    3.5
    金貸しを営む銭法師の喜久五郎という男が墓所の近くを歩いていると、衣の裾にしゃべる髑髏が食いついてきた。その口車に乗り大儲けを企てるが、恐るべき復讐に遭い……(「ものいふ髑髏」)ほか、登山事故の入院先で体験した奇妙な出来事や、暴漢に襲われた男が垣間見る悪夢など、平安朝物語から日常に潜む恐怖や不思議現象まで、怖くて妖しい物語10編を収録。
  • 少年の輝く海
    3.6
    瀬戸内の島。東京から山村留学にきた中学二年生鳥海浩次は、退屈な島暮らしにうんざりしていた。ある日、地元の同級生・計が、蔵から海図を見つけ出す。水軍の財宝をつんだ船が嵐で沈没したという伝説があり、その船のありかが記されているというのだ。格好の暇つぶしと、山村留学仲間の花香を誘い、三人で海へこぎ出すが……。少年少女のきらめく夏物語を瑞々しく描く。
  • リボルバー
    4.0
    桜吹雪の舞う夜の公園で17歳の少年は、殴り倒され、初めての屈辱と殺意を知った。やがて彼はふとしたことから5発の実弾が装てんされたリボルバーを手に入れ、誇りを傷つけた男の行った札幌めざして復讐の旅に立った。一方、銃を紛失した元警察官と少年を捜すクラスメイトの少女も、跡を追うことになるが……。九州から北海道へ、息づまる奇妙な旅をスリリングに描くサスペンス長編。
  • 王様の結婚
    3.0
    「これまでにいくつか恋をして、いくつか恋を失って、そのたびに3日で立ち直ってきたじゃないか。しっかりしろ!」ジョン・レノンが死んだ日にふられた男の消すに消せない恋の記憶……。以来、すっかり落ち込んだ日常と輝やかしい甘美な過去を交錯させて、男に再び訪れた新しい恋の季節を、ホロ苦いユーモアで描く青春小説。
  • 汚名
    -
    関東電工のエリート折原章一は、元上司から新会社設立への参加を求められた。身体障害者救済のためのコンピューターソフト会社だという。折原は芹沢涼子を知るが、涼子は脳性マヒで車椅子生活をしている息子をコンピューター技術者にしたいという。そんな時、産業用ロボットが人を殺してしまった。ショッキングな事件を背景に、身体障害者の本当の自立の意味を問いかけるミステリー長編小説。
  • 夢見るころはすぎない
    3.9
    退屈でなんにもないと思ってた。でも本当は、きらきらと輝くかけがえのない日々だった――。空振り続きの高校生活で、最後の学園祭に一発逆転のときめきを期待する女子高生。「一生処女でいようね」と誓ったオタク仲間の足抜けに、動揺する女子大生。理想と現実のギャップにもだえる、一途でキュートな女の子たちの青春6編。あのころのあなたが、きっとここに見つかる。(『「処女同盟」第三号』改題)
  • 窓

    -
    一流会社に就職が内定した隅野弘之は、出世の妨げになることを恐れ、遊び半分のガールフレンドと別れる決心をする。別れ話がこじれないよう一計を案じるが――。欲と保身のための計画が、連続殺人事件の発端に! 新宿署・牛尾刑事の忍耐強い追跡がはじまる。大都会にうごめく人々の錯綜する人生を描く、ヒューマン・ミステリーの力作。
  • 深爪
    3.8
    翻訳家のなつめは、人妻・吹雪と激しい恋に落ちる。吹雪の家で逢瀬を重ね、子供の昼寝の間に快楽をむさぼる日々。女同士の恋、家庭を壊すつもりなどなかったのに、会えば会うほど溺れてゆき、愛するがゆえに傷つけあわずにはいられない。一方、吹雪の夫・マツキヨは、幼い息子を守るため、そんな妻を受け入れ家庭を再生しようとするが――。一途で、不器用で、あたたかい、愛と赦しの物語。
  • サグラダ・ファミリア[聖家族]
    4.0
    将来を嘱望されながら、ある事件をきっかけに落ちぶれてしまったピアニスト響子。酒に溺れながら孤独に生きる彼女のもとに、かつて恋人だった透子が戻ってきた。ある日突然、赤ん坊を抱いて。しかし、女同士のカップルと赤ん坊の不思議な関係は、突然の透子の死によって壊れてしまう。希望を失いかけた響子の前に一人の青年が現れた――。切ない愛と新しい家族のかたちを描く、恋愛小説の傑作。
  • 天使の骨
    3.8
    ぼろぼろの守護天使たちがわたしにつきまとう……。人生のすべてをかけた劇団を失い、世捨て人のように暮らす劇作家ミチル。絶望の果てに、彼女は天使の幻覚を見るようになる。この天使たちを葬るために――。イスタンブールからリスボンへ、そしてパリへ。ヨーロッパを彷徨うミチル。再生の光は果たして見つかるのか? 魂の巡礼を鮮烈に描く青春小説の傑作。第6回朝日新人文学賞受賞作品。
  • さよなら、手をつなごう
    3.5
    あの頃、僕らはいつだって、目の前の何かに夢中になって、彼方の誰かに恋をしていた。宇宙飛行士を目指す兄の背中を、一途に追いかけていた幼い日々。たったひとりの親友以外には友達もいない学校生活で、不意に胸に焼きついた女の子の横顔――。まっすぐでイノセントな少年少女たちの一瞬を切り取った、心あたたまる青春小説集。
  • しょうがない人
    3.9
    バイクの無免許運転で捕まった父を交番に引き受けに向かうぼく。豪胆を気取っていても本心は気弱で家族にやっかいばかりをかける。しょうがない人-父親をうとましく思う反面、胸底には深い愛情をいだく息子の気持ちを軽快に描く表題作をはじめ、「非のうちどころのない球形」のメロンを求めて街を彷徨するぼくの、過去と現在が交錯する物語「メロンを買いに」など、繊細で豊かな傑作作品集。
  • 優しくって少し ばか
    3.9
    男は、いけない。女もいけない。いけない二人が一緒にいるから、なおいけない。けれど一人じゃいられない。答えは出ないと知りながら、次から次へと問題提起。重なったり、離れたり、擦れ違ったり、傷つけたり。危うい男と女の関係を縒り合わせて編んだ、問題の多い六つの中短編。第八回すばる文学賞佳作受賞作品を収録の、原田宗典の第一作品集。
  • 無伴奏
    3.9
    学園紛争、デモ、フォーク反戦集会。1960年代、杜の都・仙台。荘厳なバロック音楽の流れる喫茶店で出会い、恋に落ちた野間響子・17歳と堂本渉・21歳。多感で不良っぽい女子高生と男からも女からも愛されるような不思議な雰囲気の大学生の危険で美しい恋。激しい恋をひっそりと見守る渉の特別な友人、関祐之介。三人の微妙な関係が引き起こす忌まわしい事件は、やがて20年後の愛も引き裂いていく。
  • ひぐらし荘の女主人 短篇セレクション 官能篇
    3.4
    ひぐらし鳴き乱れる北鎌倉の屋敷にひっそり暮らす若き女主人。彼女に魅了された男は請われるがまま、悪に手を染めることになる。魔性の女に翻弄される男を待受ける思いがけない結末。表題作「ひぐらし荘の女主人」。ほかに、禁断の恋を描く「花ざかりの家」、飼育願望の極致「彼なりの美学」匂い立つ美と官能の饗宴、鮮やかなラストの反転。極上を味わう自選短篇集。
  • 泣かない女 短篇セレクション ミステリー篇
    4.0
    著者の自選短篇セレクションシリーズのミステリー篇。表題作「泣かない女」、推理作家協会賞受賞作「妻の女友達」をはじめ、「悪者は誰?」「鍵老人」の4篇を収録。男の歪んだ欲望と、女の捻れた欲望がぶつかりあう。普通の人々の生活がふとしたことから崩れていき、その隙間に忍び寄る狂気。心の奥底を覗き込むようなミステリーの醍醐味を味わえる傑作の連続。
  • 双面の天使
    4.0
    絵のように美しい兄妹、潤と茜。幼い二人に芽生えた“新しいママ”への小さな嫌悪がやがて恐ろしい惨劇を招いてしまう…、表題作「双面の天使」他、牝猫と暮らす独身中年の身近で起きる謎の完全殺人を描く「共犯関係」。都市に住む人々の孤独と狂気が思いがけない殺意を呼び起こす…サイコスリラー4編を収録。
  • あなたから逃れられない
    3.8
    若い豹のように美しい恭一に魅かれていく人妻の比奈子。画廊経営者の夫を欺いて二人の逢瀬を楽しんでいた別荘に不意に訪れてきた少女。そして彼女の突然の死が謎めいた事件をよびおこす。不倫の愛に溺れた比奈子を追いつめる脅迫者。また新たな殺人事件が……。緊張した男と女の愛を描くラブサスペンス書き下ろし。
  • 薄墨の桜
    5.0
    樹齢1200年、幹の回り11メートル余、万朶に咲いた薄墨の桜は、天空に広がりみごとというより他なかった。20年ぶりに蘇った名木は波瀾の人生を歩んだ料亭の女将と、美貌の養女とその恋人との複雑な人間模様を、妖しくも美しく浮き彫りにした。格調高い文章で綴った著者会心の作「薄墨の桜」。他に「八重山の雪」収録。
  • 太陽の庭
    3.8
    一般人には存在を知られず、政財界からは「神」と崇められている、永代院。地図に載らない広大な屋敷に、当主の由継を中心に、複数の妻と愛人、何十人もの子供たちが住まい、跡目をめぐって争っていた。そんな中、由継の息子・駒也は、父の女・鞠絵に激しく惹かれてゆく。許されぬ愛は、やがて運命の歯車を回す。破滅の方向へ――。「神」と呼ばれた一族の秘密と愛憎を描く、美しく、幻想的な物語。

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