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小雨降るある日、健三は勤め帰りに思いがけない人物を見かける。それはかつての養父・島田で、海外留学から戻り大学教師となった健三から、何がしかの援助を得ようと十数年の時を経て近づいてきたのだ。島田、島田の先妻・お常、姉・お夏、妻・お住の父。困窮する係累にあてにされ、神経症気味の妻とも気持ちがすれ違う。永遠に「片付かない」日常の苦悩を描いた自伝小説ともいえる家族の物語。語注・年譜付き。
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Posted by ブクログ
漱石への興味は、私の場合、まず明治に確立されて今なおそのまま名文と感じられる文体です。これは主語動詞がかっちりした英語に堪能だったこと、新聞小説としてのひきしまった章だてをとっていたことなどの影響なのでしょうか。 自伝的な「道草」も、「片付かない日常」を描きながらも、やはり読ませるなあと感心します...続きを読む。 幼少時は里子にだされた、ロンドン留学をへて帰国その後はー、経歴では短く語られる間の事情を本人は書き残しています。 ぎりぎりの線で折り合いをつけていかなくてはならない親戚や縁者、反りの会わない妻。目指すところがあるのにという気持ちが「道草」の題名ににじみます。 しかし奥さんは、結構近代的で似た者同士のよう、意見あわないなりに、よくやりとりしているし、健三はヒステリーの介護もお産の介助までしていて、夫婦はしっかりした関わりを持っていると感じました。子供の描写も遠慮ないけれど、最終場面は奥さんと子供の様子だし、苦渋に満ちながらも家庭愛をかんじます。 彼は姉よりも、かえって自分のほうを憐れんだ。「おれのは黙ってなし崩しに自殺するのた。気の毒だといってくれるものは一人もありゃしない」(六十八) 年齢を重ねた読者に、より共感と励ましを感じさせる作品とは思われます。再読を楽しみにするのもよいのではないでしょうか。昔!高校現国の恩師が漱石を読むことをイチオシで勧められていました。漱石は研究するとまた、たいへん興味深いとも。先生に感謝です。
漱石の作品の中で、一番好きかもしれない。 日々を淡々と綴るだけ、という雰囲気はなんとなく谷崎の『細雪』と似ていると感じた。 ただ、『道草』は退屈で憂鬱な日常を過ごすことの重さがすごい伝わってくる本。 退屈で同じような日々の繰り返しといえども、そこにものすごーく濃密ないろいろが詰まっていて、粛々とペー...続きを読むジをめくってました。 それがとっても楽しかったしいい時間だった。 内容としては別にそんな大したことは書いてないんです。主人公の健三は大学教授で、奥さん(不仲)と子供のために毎日仕事に出てお金を得てる。 教授といえども生活は決して楽じゃないのに、腹違いの兄弟から義父、縁を切ったはずの養父母まで色んな人からお金を無心されて、ヒステリー気味の奥さんともうまくいってなくて……… いや重いし、なんかリアル…! それもそのはず、これは漱石の半私小説とも言われている作品で健三の生い立ちや立場はかなり漱石とリンクするところがあります。 ていうか、お話の重さは置いといて、私が漱石の立場に立ったらこんなに綺麗に自分の作品に昇華できるんですかね…?(絶対できません) これができることが漱石が文豪たる所以なんだなぁと偉そうに思ったり。 私の日常も漱石の手にかかれば魔法のように小説になるのかもしれない。健三≒漱石ということもあって、今までちょっと距離の遠かった彼をちょっと近くに感じられるようになった気がした。
私小説と言われているようですが、夏目漱石本人がモデルと思しき健三がひたすら親戚面々から金を無心される話です。えーなにこれー! いい加減にしろと呆れながらも何だかんだ都合をつけてやる健三に、私も妻・お住と同じように苛立ちが募ってしまいました。 漱石って夢十夜とか三四郎の美彌子とか、儚く透けてみえるよう...続きを読むな幻想的な女性を描いてるイメージが強くありましたが、お住は地に足の着いた芯のある女性。 当時はまだまだ亭主関白な夫に三歩下がって付き従う妻、という夫婦観だったのでしょうが、夫にお小言もぶつけるし、気に入らないことがあればガンガン言い返して諍いを物ともしない強さが素敵でした。 「単に夫という名前がでて付いているからというだけの意味で、その人を尊敬しなくてはならないと強いられても自分にはできない。もし尊敬を受けたければ、受けられるだけの実質をもった人間になって自分の前に出て来るがいい。夫という肩書などは無くってもかまわないから」 って格好いい。 健三もムキになって反論するが結局お住の正しさの前に空回りしてしまうところが可愛い。 おれ自身は畢竟どうなるのだろう、と自分でも分かってる様子でおかしかった。 世の中に片付くなんてものは確かにないよなぁ。 形が変容するだけで、一ぺん起こったことはいつまでも続いていくという健三の考えに、思わず深く頷いてしまいました。
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