国内小説作品一覧
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-ビートルズを撮ったのは過去だから、現在は新しく作らなければならない ビートルズが来日したのは1966年。それからおよそ20年の時を経て 今までしまわれたままでいた極めて貴重なビートルズの写真が 小説の装丁に使われようとしている。 その機会に、写真家(男)と小説家(女)は会う。2人は1歳違いだ。 小説は書きあがったものではなく、今まさに書かれようとしている、 という点がポイントで、これから書かれるはずの小説に向かって 男は果敢に仕掛け、女はそれを受け止める。 来るべき小説をシミュレートする会話がすなわち 「ビートルズを撮った」という小説である、というこの構造。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/
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-自分自身になる途中 最初のアルバムを作ろうとしている女性がひとり。 A面に収録する曲はすでにできあがり、今はやや趣を変えるべく、B面の最初の曲に取り掛かっている。 そしてその間、ごく短い休暇が与えられ、彼女は会いたいだけの人に全部会う。 その、彼女が人に会う、そのやり方がいささか通念を逸脱していても、そのことはまるで問題にならない。 自分以外の何者かになるのではなく、もっとより自分自身になるための彼女の流儀にすぎないのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。
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-秋のはじまり三角形は、風に漂って海と戯れる 男が2人に女が1人。三角形だが三角関係ではない、というカタチが 片岡義男の小説世界にはごく自然な姿としてあらわれる。 (しかしそのことを繰り返し書く、ということがはたして 「自然」なことかどうかは一考に価する) もう秋が始まっていて、あたりには夏の名残が目に付いて よるべない空気が三角形を吹き流す。 いちばん心地いいのは風であり、飲みたいのはビール。 この小説にビールは実は出てこない。 いや、これから飲みたいね、というカタチで出てくる旨いビールなのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/
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-夏だから、というだけでなくて、ノドが渇く場面だ。ビールをくれ この若さでなぜそんな部屋数の多い家に住めるのか。 そんな現実的な疑問は物語を快適に読むための好奇心に変えたほうがいい。 たくさんの部屋。いくつも角を曲がる廊下。 そして、どこから見ても死角になっているバルコニー。 楽しくもご都合主義に満ちた舞台は、整った。 季節は夏。まずはビールで乾杯。 そして乾杯のあとの、男1人と女2人だ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。
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3.0法螺を吹けば、人は皆踊り出す。痛快!B級グルメ町おこしストーリー 「我々にはやきそばがあるじゃないか」。町おこしワークショップでそう発言した男に、最初は誰も耳を貸さなかった。しかし、「G麺」だの「路地カル」だのとダジャレを連発し、できもしなそうな夢想を語る男に、ワークショップの参加者たちは次第に魅了されていく。 富士宮やきそば学会会長の渡辺英彦氏をモデルとした、突飛で魅力的なアイデアが次々と実現していき、やがて日本中に広まっていく様を描いた町おこしストーリー。当事者たちからの聞き取りはもちろん、当時の記事や映像資料などを綿密に取材した、限りなくノンフィクションに近いフィクション。町おこしにかける人間たちの情熱が、人を動かし、行政を動かし、町全体を動かした。最初に法螺がある。現実は後からついてくるのだ。B級グルメによる地域活性のムーブメントを起こした“富士宮やきそば”の謎がいま明かされる!
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4.7「下妻物語」から20年。気高き青春小説集! 義足が可憐な乃梨子先輩を追いかけワンダーフォーゲル部に入った、筋金入りの可愛いもの好き男子・源治善悟郎は、乃梨子の親友で目つきの悪い里美先輩とすっかり意気投合。二人はクーデターを起こし「ピクニック部」を創部するが……。 礼節をもって、可愛く、爽やかに。卒業してもピクニック部の信念は色褪せない。 書き下ろし標題作他、『文学2024』(日本文藝家協会編)選出作品、フリマアプリを通じた友情を描く「ブサとジェジェ」、還暦でロリータに目覚める「こんにちはアルルカン」の全3編を収録。 押し通せ、自分自身を!この爽やかさが微塵もない世界で! 「下妻物語」から20年、気高き青春小説集。 (底本 2024年12月発売作品)
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-福岡県が大好きな6名の著名人が描く、「福岡」をテーマとした小説集。 上京前の不安な心境、仕事や恋愛の失敗、親と子のぶつかりあい……。 そんなピリッとからい出来事に直面した主人公たちは、福岡ならではの あの場所、あの味、あの人の心にふれ、新たな希望を見つけていく。 第一話 堀江貴文「1991年 俺のDESIRE」 第二話 田中里奈「とこやさんの魔法」 第三話 鈴木おさむ「恋木神社」 第四話 坪田信貴「誰かのために引いたおみくじ」 第五話 小林麻耶「『ニュースワイド』の時間です。」 第六話 佐々木圭一「伝え方が1割の男」
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4.3『芸人雑誌』の太田出版が送る、『おもろい以外いらんねん』大前粟生による世界初“ピン芸人”小説! Aマッソ加納の紹介(『アメトーーク!!』)によって業界の話題をさらった『おもろい以外いらんねん』に続く大前粟生「芸人本」の最新作は、これまで描かれることの少なかった“ピン芸人”にフォーカスをあてる。主人公・高崎犬彦とそのライバル・安西煮転がしの約20年もの人生を追いかけることで、芸人にまとわりつく「売れること」と「消費のされやすさ」の葛藤を描く。 「本気でネタを見てくれてる人って、売れれば売れるほど少なくなっていくんか? 売れるほど芸人らしくなくなっていくんか? せやったら、売れるってなに? 僕は、僕らは、なんのために芸人しとるん?」 ――本文より
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5.0吉沢亮 月9初主演! 北海道を舞台に、PICU(小児集中治療室)の設置を目指して奮闘する若手小児科医、志子田武四郎。 さまざまな困難に直面しながらも必死にもがいて成長する武四郎と、命の尊さを描くメディカル・ヒューマンドラマを完全ノベライズ! 北海道生まれの志子田武四郎は、心の奥底に熱い気持ちは秘めていたものの、「なんとなく医師になった」と自他ともに認識していた、安定志向の若き小児科医。 しかし、勤務先の病院に新設されたPICUへの異動が決まり、そこで日本唯一のPICU医・植野元と出会う。 そこで出会う先輩医師や、命の危機に瀕しつつも必死で生きようとする子どもたちの姿を通じ、懸命に奮闘する日々が始まった。 「広大な自然を相手に、医療用ジェット機を運用した日本屈指のPICUをつくる」という植野の強い覚悟を受け、武四郎の小児科医人生が大きく変わり始める――。
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3.8我が国では、脅威は常に「海」からやってくる——。海上保安庁が機密保持のために長らく秘匿してきたスペシャルフォース「SST」の活躍を描く、壮大エンターテイメント! この隠密部隊は〝実在〟する。 沖ノ鳥島沖で、中国の密猟船が突然自爆して海に沈んだ。さらに大量破壊兵器の調達に関わる男がクルーザーから謎の失踪を遂げ、百名を超える乗客を載せたカーフェリーへの爆破予告が届く。この未曾有の危機に立ち向かう海上保安庁の特殊部隊「SST」を待ち受けていたのは、想像を絶する国際的陰謀だった——。今まで詳細がひた隠しにされてきた〝実在〟の隠密部隊の活躍を描く、かつてない海洋エンターテイメント小説!
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-男女の愛欲と旅をテーマにした短篇集。 全財産を盗られたという、パリ旅行中の美しい日本人女性・原田和子。友人の頼みで、出版社の特派員・大木が一日アテンドすることに。やがて和子は、盗難にあったのは嘘だったことを打ち明けるが、大木は少女のようでいて家庭的なところもある和子に心を動かされ――。 表題作「愛にはじまる」のほか、若い恋人・尚二と別れようとしている銀座の店主・扶紀子が、まだ揺れ動く心を祭りの喧騒とともに描く「巴里祭」、タイプの異なる二人の男性と付き合いながら、そのいずれとも結婚するのをかたくなまでに拒否する「春の弔い」など、男女の愛欲と旅をテーマにした著者ならではの短篇集。
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3.0中上健次の盟友が模索し続けた文学の可能性。 「それにしても、言い争いばかりしてきたような気もする。そして、私にとって、はじめて出会った時に思い決めた“中上健次”への徹底的大反論はまだ、これから先のことだったのだ。 (中略)いずれにせよ、私の“中上健次”という名の目標は、今更、なにが起ころうと変えようがない。中上さんも、それは承知のうえだ、と私は信じている」 <「“中上健次”という存在」より> アイヌ、プルトン、マオリの言語と文学――急逝した中上健次を読み直し、新しい世紀に向けて文学の可能性を探ったエッセイ集であり、中上とデビュー以来盟友として深く関わった津島佑子の1990年代の文学的軌跡でもある。
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3.0
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3.0生きる意味を探す元エリート少年の青春小説。 性悪な英語教師をブン殴って県下有数の名門進学校・I高を中退した17歳の斎木鮮は、中学時代の恋人だった幹とアパートで一緒に暮らし始める。幹もまた父親の分からない子を産んだばかりで女子高を退学していた。 さまざまな世間の不条理に翻弄されながらも肉体労働での達成感や人間関係の充足を得て徐々に人として成長していく鮮――。 幼少期に性的悪戯を受けた暗い過去や、母親との不和による傷に苦しみながらも鮮は一歩ずつ前へと歩みを進めるのだった。第4回三島由紀夫賞受賞作品で、解説を文芸評論家の池上冬樹氏が特別寄稿。
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-物置小屋で生まれた名私小説9篇。 小田原の魚商の長男として生まれた著者・川崎長太郎は、家督を弟に譲り、文学の世界へ。たびたび東京暮らしを経験するが、30歳になる頃、小田原の海岸にある実家の物置小屋に住み着き、物書きのかたわら私娼窟通いを続ける――。そんな著者の尋常ならざる日常を切り取った、味わい深い私小説集。 「淡雪」「月夜」「浮雲」はうだつの上がらない物書きとのつかず離れずの関係を、若い小田原芸者の視点で描いた佳作。映画監督・小津安二郎(ここでは「大津」として登場)と、「小川」として登場する著者、そして小田原芸者との三角関係を描いた、いわゆる「小津もの」のひとつ。 そのほか、実家で働いていた奉公人を描いた「ある生涯」、著者を批判し続けるが薬物におかされてしまった友人を描く「ある男」など、全9篇を収録。
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-戦争が人々の心に刻んだ傷跡を描く名短編集。 2万人以上の日本兵が亡くなった硫黄島で辛くも生き残り、終戦後も3年以上穴居生活を続けた片桐正俊。「投降時に岩穴に隠した日記を取りに行けることになったので、そのことを記事にしてほしい」と新聞記者である〈私〉に依頼する。 だが、片桐はせっかく再上陸できた硫黄島で、自死してしまう。その原因を探るべく奔走する〈私〉は、やがて戦争が片桐の心に刻みつけた傷の深さを知ることになる――。 第37回芥川賞を受賞した「硫黄島」のほか、海軍兵学校に通う若者の葛藤を描き、映画化もされた青春群像「あゝ江田島」など、戦争文学の名作短編6篇を収録。
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-三人の女性の緊迫した“心理劇”。 「あんたの中に、怒りの子が見える……人のうちに、潜んでる、外から見えんけど、何処かにいる、人の奥のほうに。」 自分自身のやりたいこと、望んでいることなどが定まらず、ビジネス学校に通いつつ悶々とした日々を送る主人公・美央子。美央子が姉のように慕う、どこか浮き世離れした雰囲気を持つ初子。そして美央子と同じアパートに住み、親しくするそぶりを見せながら、いちいち美央子の感情を逆撫でしていくますみ――。3人の感情は、初子の義弟・松男の存在を触媒として、大きく揺れ動いていく。 人間の心情を、平易な言葉を使いつつ、豊かな描写力で見事に描ききった、第37回読売文学賞受賞作。
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-ストリップ小屋を舞台にした人情噺集。 浅草六区の映画街で、ストリップ小屋の隣にバラックを建てて住み着いていた廃品回収業のイサム。関東大震災時に頭を打った影響で、言動は少しおかしいが、生真面目な性格から楽屋番のおばさんをはじめ周囲の人からかわいがられていた。 毎年春になると、踊子の一人を好きになり、線のつながっていない電話機で電話をかける。やがて妄想の相手と恋人同士になり、熱い日々が続くが、踊子に本当の恋人ができると……。 イサムのユーモラスだが悲しい恋を描いた表題作のほか、厳しい刑事とストリッパーのほのかな恋を綴る「入歯の谷に灯ともす頃」、重要文化財の天狗の面を、あらぬことに使ってしまう「天狗の鼻」など、いずれ劣らぬ名調子6篇を収録。
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3.0高倉健主演作原作、居酒屋に集う人間愛憎劇。 国立で広さ5坪の縄のれんのモツ焼き屋「兆治」を営む藤野英治。輝くような青春を送り、挫折と再生を経て現在に至っている。かつての恋人で、今は資産家と一緒になった、さよの転落を耳にするが、現在の妻との生活の中で何もできない自分と、振り払えない思いに挟まれていく。 周囲の人間はそんな彼に同情し苛立ち、さざ波のような波紋が周囲に広がる。「煮えきらねえ野郎だな。てめえんとこの煮込みと同じだ」と学校の先輩・河原に挑発されても、頭を下げるだけの英治。 そんな夫を見ながら妻・茂子は、人が人を思うことは誰にも止められないと呟いていた……。 同作品を原作に、高倉健主演の映画「居酒屋兆治」は、舞台を国立から函館に移して、1983年秋に公開された。
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-30歳差の道ならぬ恋を淡々と描いた名作。 「先生が憎い。――こんなに、わたし好きになってゐるのに、本当に解つてくれないッ。」 と、花枝は、髪の乱れた額で、先方の胸倉をこづくようであつた。 「そんなことがあるものか。重々、ありがたいと思つてゐる。」―― 小田原の物置部屋で作家活動をする竹七と、夫が書いた作品を見てもらうため、ときおり竹七の元を訪れていた花枝。うだつの上がらない初老の作家と、2人の子を持つ25歳の人妻が、いつしか互いに離れられない関係になり――。 前後して発表された『抹香町』とともに著者の出世作となった、これぞ私小説といえる逸作。
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-全共闘運動の記念碑作品。 肺病病みのピアノ弾きが、献身的な恋人や死んだ両親を思い起こしつつ、騒動に巻き込まれていく。地下室での演奏。電気は消え、反対セクトとの乱闘の中、楽器同士が火花を散らし競演し、脳中にイメージが錯綜していく……。仲間たちと脱出したピアノ弾きは、最後は穏やかな気持ちで自分の吐いた血を見つめる……。 「JAZZによる問いかけ、自己を武器化せよ! 自己の感性の無限の解放! 」。バリケードの中の投石と怒号渦巻くジャズ・コンサートを描き、全共闘運動の記念碑的作品となった「今も時だ」は、テレビ・ディレクターだった田原総一朗が、1969年に企画した山下洋輔がバリケードの中でピアノを演奏したイベントを題材に小説化。新潮新人賞候補となり、商業誌デビューした作者の記念すべき作品。 ほか、自身の3ヶ月に及ぶインド旅行経験を元に、立松文学の原点を示す「ブリキの北回帰線」と、「部屋の中の部屋」を収録。いずれの作品も若い日の立松の青春の彷徨が描かれている。
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4.0食えない作家志望の青年との同棲生活を描く。 「こう世間が不景気じや、あなたの勤口もあぶないもんだし、筆の方でちやんとやつて行ける自信だつて、ないんでしよう。――ね、家を持てないなら私と死んで頂戴! 家を持つか、心中するか、どつちかにして頂戴よう!」 いつまでたってもうだつの上がらない作家志望の青年・捨六と、浮気癖のある若い女給・時子。食い扶持を求めて小田原、名古屋、東京と転々とするものの、なかなかお金をお稼げない捨六に、業を煮やした時子は心中してくれと懇願するが――。 時子の独白で綴られる表題作に、久しぶりに再会した二人の一夜を描く後日談「別れた女」を併録。
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-輜重兵にスポットを当てた異色の戦争文学。 「どうせ、向うが闇の世を生きるのやったら、今日まで仲よかった馬と一しょに、あしたから暮したかて……かめへんやないか。わしは、この馬が好きなんや」 終戦直前に軍馬の世話をする輜重特務兵として徴集された肥田善六。馬を忌避する習慣のある地に生まれた善六だが、担当する馬・敷島と暮らすうちに絆が生まれ、復員時には全財産をなげうって買い取ることに。敷島は大荷物の運搬や農耕などに活躍し、善六はそれなりに蓄えもできたが、映画の撮影に協力したとき、敷島が大事な蹄に致命的なけがを負ってしまって……。戦争の爪痕と時代の変遷、差別したがる日本人の特質、他者への愛情など、多くの要素が盛り込まれた名篇。 併録の『兵卒のたてがみ』は、『馬よ花野に眠るべし』の1年前に書かれたもので、輜重隊時代のみにスポットを当てた吉川英治文学賞受賞作。 いずれも輜重特務兵であった著者の実体験をもとに描かれており、思い入れの強い作品である。
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4.0人間の欲を浮き彫りにする社会派ミステリー。 「工場はおそろしい水銀の水を流している。魚は獲ってはいけない。獲った魚を喰えば死の病いにとりつかれる。 そうだ、この海……この暗い海の底から、目に見えない何ものかが牙をむいて迫っている」 不知火海沿岸で発生した奇病“猫踊り”。魚や貝を食べると、猫はもちろん、人間までも前後不覚になり死んでしまう恐ろしい病気だ。その実態を調べるために東京の保健所から来た男が行方不明になる。警察医・木田民平は勢良警部補とともに、工場や投宿した旅館などを探るが、男はやがて鴉についばまれた死体で発見される。 男はなぜ殺されなければならなかったのか。そこには、さまざまな“欲”が、複雑に絡み合っていた――。 日本中を震撼させた水俣病を題材にし、直木賞候補にもなった衝撃作。
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-現実世界と小説世界が交錯する斬新な異色作。 家賃代わりに差し出される短篇小説と、それに対して辛辣コメントを浴びせ続ける家主。やがてコメントは作家の精神を抉るような質問状となり、青春をともに過ごした2人の中年女性の愛憎が垣間見えてくる。 小説を書くのは鳴かず飛ばずの作家・昌子で、その読み手は昌子が居候する家主で20年来の友人・鈴子。小説を介して、お互いの感情をぶつけ合う2人の切なさとおかしさを、現実世界と小説世界が入り交じる奇抜な手法で描いた著者の異色作。 ※この作品は底本に忠実にゴシック体の部分につきまして画像にしております。
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-芥川賞候補作3篇を含む珠玉の作品集。 ――あの、二年前の別れたあと、私は毎日、新聞の社会面をみるたびにびくびくした。女の自殺ばかりが目につき、不安は半年以上もつづいた。……彼女の死、それが、それまでは新しく生きることも死ぬこともゆるされない、ひとつの刑の期限のように思えたのだ。―― ある女優の自死をきっかけに、冷たく別れたかつての恋人・小田富子のことをあらためて思い起こす〈私〉。突然、消息不明だった富子から「会いたい」という手紙がきて……。 表題作「演技の果て」のほか、米兵に媚びを売る日本人女性に複雑な思いを抱く日本人少年を描いた「その一年」、乳飲み子を船から海に投げ込んだ女の心理を綴る「海の告発」という芥川賞候補作3作品と、「煙突」「猿」「遠い青空」「頭上の海」といういずれ劣らぬ4篇の短篇からなる作品集。
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4.5恋と政治に揺れる東大生を活写した青春小説。 昭和20年代後半、文学への志を抱えながらも東大・経済学部に進んだ倉沢明史は検事である父の呪縛に抗いながら、己が人生を模索していた。 朝鮮戦争、血のメーデー事件、米国によるMSA援助の見返りとしての日本の再軍備問題と、時代は熱い政治の季節――。 その一方で家庭教師先の人妻・麻子に胸を焦がし、自らの欲望に悶々とする。そして、失ったはずのかつての恋人・棗との再会。 “内向の世代”を代表する作家・黒井千次が「春の道標」の後日譚として、彷徨する生真面目な青年の内面を繊細に描いた自伝的青春小説の完結編。復刻記念に著者のあとがきを特別収録。
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-待望の合本版!! 恩師・井伏鱒二の紹介による妻・美知子との出逢いから、作家としての絶頂期と玉川上水心中までの、太宰治の後半生を活写した作品。美知子夫人が創作活動に果たした役割、女性一人称で綴られた「女生徒」での新境地、井伏鱒二との師弟関係、後に『斜陽』を書くきっかけとなった太田静代との劇的な出逢い、そして山崎富栄との“地上の別れ”に至るまでの晩年を克明に描く。 同じ津軽地方出身で直木賞作家である長部日出雄が、太宰への特別な愛情と深い理解を両輪にして描いた力作で、第29回大佛次郎賞、第15回和辻哲郎文化賞を受賞した長編評伝の上下合本版。
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3.8純なナポレオンの末裔が珍事を巻き起こす。 春のある日、銀行員隆盛の妹、巴絵に一通の手紙がシンガポールから届く。姿を現したのは、フランス人、ガストン・ボナパルト。ナポレオンの末裔と称する見事に馬面の青年は、臆病で無類のお人好し。一見ただのうすら“おバカ”だが、犬と子どもに寄せる関心は只事ではない。 変質者か? だが、すれっからしの売春婦をたちまち懐柔したり、ピストルの弾丸を相手の知らぬ間に抜き取るなど、はかりしれない能力も垣間見える。 そして行く先々でその生真面目さから珍事を巻き起こしていく。日本に来た目的は?その正体は?そんな“おバカ”な一方で、彼は出会った人々の心を不思議な温かさで満たしていく。 遠藤周作、得意の明朗軽快なタッチながら、内に「キリスト受難」の現代的再現を意図した心優しき野心作。
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-早世した天才作家の珠玉の作品集。 ミステリアスなショーショートから哲学的な匂いのする短中篇まで、精力的に作品を発表し高い評価を得ていたものの、34歳の若さで亡くなった山川方夫の短篇集。 地方勤務から4年ぶりに本社に戻った妻帯者で事なかれ主義の男が、同期の女性に翻弄される「帰任」。憧れだった団地に入居したものの、その画一性に疲れ果て、極端な行動を取ろうとする「お守り」。相手の顔をまともに見ることができない内気な女性の大胆な行動を描く「箱の中のあなた」。下宿の外から聞こえてくる女性の軍歌に二人の男が惑わされてしまう「軍国歌謡集」など11作品を収録。
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-待望の合本版!! 出征と敗走、捕虜生活を経験した兄と、終戦の年に生まれた異母弟。歩んできた道も、価値観も異なる二人の男の半生を描いた大作の上下合本版。 復員後、大学在学中から商売を始めていた兄・忠一郎は、卒業して商社のアメリカ駐在員となり、そこで出会った日系米国人との出会いから、新しいビジネス――サンドイッチ店のヒントをつかむ。片や新聞社に入った弟・良也は、妻がありながら、かつての恋人・茜への想いが断ちがたく、取材旅行の傍ら茜の痕跡を訪ね歩く……。 実業家でもある著者らしく、戦後の経済成長や、企業間の争いを交えつつ、戦中・戦後派が引きずる戦争の暗い影を描いた名作。
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-私小説作家と女たちとの交情を綴った短篇集。 「相手変れど主変らずで、作者の分身である人物がどこにも登場しており、相手方の女性は作品ごとに一人一人違っているのである。が、私がそれぞれ大なり小なり親しくした人達であり――」(まえがきより) 小田原の私娼街「抹香町」の芸者とのつかず離れずの関係を描いた「捨猫」、著者のファンとして訪ねてきた人妻との淫靡な駆け引きを綴った「火遊び」など、著者が交情を重ねた相手とのエピソード8篇に、師と仰ぐ徳田秋声にまつわる女性の話「小説 徳田秋声」など全10篇を収録。私小説作家・川崎長太郎、愁眉の短篇集。
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4.0老夫婦の穏やかでかけがえのない日々を描く。 「もうすぐ結婚五〇年の年を迎えようとしている夫婦がどんな日常生活を送っているかを書いてみたい」(あとがきより)――。庭に咲く四季折々の花々、かわいい孫たちの成長、ご近所さんが届けてくれる季節の風物など、作者の身のまわりの何気ない日常を、まるで花を育てるように丹念に描く。 「棚からものが落ちてきても、すぐには反応できない」「歩くスピードが明らかに落ちた」などという老いの兆候も、戸惑いながらも受け入れ、日常の一コマとして消化していく。事件らしい事件は何も起こらないが、些細な驚きの積み重ねで読み応えある文学作品にしてしまう、まさに庄野潤三の世界。
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-真珠湾攻撃をテーマにした青春小説。 薩摩人・谷真人と牟田口隆夫は、同い年で幼なじみ。ふたりは旧制中学に入ると、ともに海軍に強いあこがれを抱く。真人は首尾よく兵学校に合格し、どん亀と呼ばれながらも着実に力をつけていく。しかし、隆夫は軍人になれず、やがて画家の弟子に。 別々の道に進んだかと思われたふたりだったが、何かに導かれたように再会し、真人の口利きで隆夫は軍属として軍艦を描く仕事を得る。そして昭和16年12月8日、真人たちは真珠湾で勝利を収め、隆夫はその光景を描くが――。 モデルは真珠湾攻撃で殉死した横山正治少佐。戦時中の1942年に「朝日新聞」に連載され、第14回朝日文化賞を受賞した、“青春小説”というべき傑作に、単行本未収録の「戦時随筆」9篇と、『海軍』の後日談「軍神」を収録。
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3.8
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-町の名士と日蔭者の子の愛と葛藤を描く。 ――自分のいう血のこわさとは、日蔭者の子とその父、というこの血の関係のこわさなのだ。この血ゆえに、かつては全力をあげて拒否しようとした存在を、いまはかえってその血ゆえに、“父なるもの”としてわがふところに受容しようとしている。―― 医者であり町の名士である高峰好之と、その愛人のあいだに生まれた伊作。好之の死後、伊作たちは高峰家とは疎遠な状態だったが、85歳になる母が、父のさみしそうな様子を夢に見るというので、父の墓に参り、その足跡を調べることに。その作業は、恨みに思っていた父と、あらためて向き合うことも意味していた……。 第28回読売文学賞に輝いた傑作私小説。
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3.0
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-現実と幻想の間を彷徨する若き小説家の懊悩。 「僕が故郷に漠然と期待したのは避難港だった。ところが、それどころではなかった」――。 東京から郷里の静岡県藤枝市に居を移した三十手前の小説家・及川晃一の日常的思索を描いた著者の自伝的小説の前編。 1994年、発刊時の単行本の帯には[自分はすでに難破船か、骸骨か。それでもなお試練の故郷で文学者が探し求める自我の新しい船出。現実と想像のあわいに明晰な幻視者・小川国夫が眼をそそぐ]とある。 日本人とは、市民とは、そして小説家とは何かを考え続けた、「内向の世代」の作家・小川国夫の深い懊悩が滲む秀作。朝日新聞に連載され、第5回伊藤整文学賞を受賞。
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-待望の上・下巻合本版!! 現実と幻想の間を彷徨する若き小説家の懊悩。 「僕が故郷に漠然と期待したのは避難港だった。ところが、それどころではなかった」――。 東京から郷里の静岡県藤枝市に居を移した三十手前の小説家・及川晃一の日常的思索を描いた著者の自伝的小説の前編。 1994年、発刊時の単行本の帯には[自分はすでに難破船か、骸骨か。それでもなお試練の故郷で文学者が探し求める自我の新しい船出。現実と想像のあわいに明晰な幻視者・小川国夫が眼をそそぐ]とある。 日本人とは、市民とは、そして小説家とは何かを考え続けた、「内向の世代」の作家・小川国夫の深い懊悩が滲む秀作。朝日新聞に連載され、第5回伊藤整文学賞を受賞。
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4.5旧家に生まれた“暗い宿命”を描く私小説集。 名作「富嶽百景」を含む、太宰の私小説で構成したアンソロジー集。 明治42(1909)年6月、太宰治こと津島修治は青森県北津軽郡に誕生、のちに遠く東京にあって望郷の念を募らせていた。 津軽での幼・少年期を“遺書”のつもりで書き綴った処女作「思い出」で文壇デビューを果たし、その後、兄との不和から十年ぶりとなった帰郷を描いた「帰去来」や、母危篤の報を受けての帰郷を描く「故郷」、そして、時局差し迫る中での津軽旅行をまとめた「津軽」と、旧家に生まれた者の暗い宿命を描いている。 解説を同じ東北出身の作家・佐伯一麦氏が特別寄稿。
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5.0昭和ホームドラマの金字塔、その原作小説。 1977年夏にTBS系列で放送され、「辛口ホームドラマ」として放送史に燦然と輝く名作。その原作小説は1976~77年にかけて東京新聞ほかで連載された。 高度成長期の大企業に勤めるモーレツサラリーマンの夫・田島謙作。傍目には恵まれた貞淑な妻・則子。才気煥発な女子大生の娘・律子と気弱な高校三年生の息子・繁。一見すると、郊外の戸建て住宅に暮らす幸福そうな一家が、ある1本の電話から破綻に向かって走り出す。主婦の浮気、レイプなど当時は斬新なテーマを意欲的に描いた、脚本家・山田太一の代表作。
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4.0戦争ですべてを失った母の絶望と孤独。 昭和20年、すでに夫を喪い、家も戦火に焼かれてしまった母子が、遠縁を頼って東北の寒村に身を寄せる。だが、そこは安住の地ではなかった。 頼るべき知己もおらず、終戦後は都会に戻るという希望も断ち切られ、迫りくる厳しい冬を前に、母は自ら死を選ぶ……。ノンフィクション作品のような感情を抑えた筆致が、かえって読む人の想像を掻き立てる。 第54回芥川賞に輝いた表題作のほか、やはり身近な人の死をテーマにした「夏の日の影」「霧の湧く谷」、大学の二部に通う学生たちの葛藤を描いた「浅い眠りの夜」の三篇を収録。
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-戦争が生み出したさまざまな矛盾に切り込む。 東京で学生をしていた仲代庫男は空襲で焼け出され、列車で佐世保の実家へ向かう途上、同年輩の芹沢治子と出会う。長崎の浦上に住むという治子と庫男は文通を始めるが、“新型爆弾”により治子の消息は不明に――。 一瞬にして未来を断たれた原爆被害者、日本人であることを強いながら差別される朝鮮人炭鉱労働者、敗戦前から英語の辞書を買い漁っていた抜け目ない同級生……戦争によって生まれたさまざまな矛盾や理不尽を、富国強兵の象徴であった旧佐世保海軍工廠250トン起重機(クレーン)になぞらえてあぶり出した名作。
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-現実と歌舞伎の物語が交錯する二重構造悲劇。 綾野姚子という無名で、しかも故人による新作歌舞伎『大内御所花闇菱』が上演される。妹で新劇女優である綾野曙子は、その当日、劇場内で死んだはずの姉の姚子とよく似た女性を見かけるが、彼女は何者かに刺されてしまう。 曙子は何者かがその女性を刺す時、「死んだんじゃなかったのか」とつぶやくのを聞く。見えない何かに導かれるように姉の秘密を探るうち、曙子は京都『早蕨』の門前で四つの風鈴に出会う。物語に出て来る風鈴……。 山科の山中の窯で風鈴を焼く青年を訪ねる曙子を、妖しい運命が待ち受ける。現実と併行して展開する新作歌舞伎の物語という、著者面目躍如の妖艶にして耽美的な直木賞候補作。
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-人気の大寺さんもの2篇を含む秀作短篇集。 〈――へえ、空襲だと云ふのに、暢気な奴もゐるものだ……。 一平叔父の指す方を見ると、土堤の下の石の上に立つて釣をしてゐる男がゐる。大寺さんは苦笑した。大寺さんもだが、一平叔父も着流しの儘で土堤の上に立つてゐる。 ――われわれも、暢気ぢやないとは云へませんね。〉 戦時中、疎開先でののんきな代用教員生活を描いた「古い編上靴」と、戦後、妻が亡くなってから、再婚と娘の結婚までを淡々とつづった「銀色の鈴」という、ファンのあいだで評価の高い「大寺さんもの」2篇に加え、子どものころによく訪ねた伯母の家のあれこれを記した「小径」、戦争で亡くなってしまった友人をしのぶ「昔の仲間」など、7篇の秀作を収録。
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