<あらすじ>
作家業のかたわらゲイバーを経営する義明は、長年のパートナーがいながら、二十歳の美少年ユアンと関係をもつ。義明はユアンの純粋な愛情を狡猾に受け流しながら自らの渇きをいやすが、関係は少しずつ破綻してゆく。
<感想>
野村佐紀子さんによる表紙写真のまっすぐな瞳の少年が、ユアンのイメージに重
...続きを読むなる。ゲイの恋愛が描かれている本作だが、生々しい描写は一切なく、恬淡としていて的を射た心理描写でさらりと読める。
恋愛の機微を知り尽くした中年の暗い情欲と、すべてを欲しがる少年の純粋な愛情。どちらにも共感できる。しかし自分は後者寄りの性格なのもあって、義明の老獪さはやっぱり汚いと思える。最後に形勢逆転したとき義明ははじめて恋に落ちたのか、それともようやく恋だと気付いたのか見極めがたいが、恋のまえに無力と化す人間の憐れさと愛おしさに胸がつまった。
タイトルの「百年」は、ゲイコミュニティの先駆者・松川老人が生きた百年でもあろうし、半世紀かけて培った理性が粉砕されて新たな半世紀を迎えようとする義明の百年かもしれない。再読すれば新たな発見がありそうだ。
ところで、本書の奥付には書誌情報に加えて、装丁や組版の情報が記されている。書影はご自由にお使いください、と記載してあるのもうれしい配慮だと思う。