伏見憲明のレビュー一覧
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ネタバレ<あらすじ>
作家業のかたわらゲイバーを経営する義明は、長年のパートナーがいながら、二十歳の美少年ユアンと関係をもつ。義明はユアンの純粋な愛情を狡猾に受け流しながら自らの渇きをいやすが、関係は少しずつ破綻してゆく。
<感想>
野村佐紀子さんによる表紙写真のまっすぐな瞳の少年が、ユアンのイメージに重なる。ゲイの恋愛が描かれている本作だが、生々しい描写は一切なく、恬淡としていて的を射た心理描写でさらりと読める。
恋愛の機微を知り尽くした中年の暗い情欲と、すべてを欲しがる少年の純粋な愛情。どちらにも共感できる。しかし自分は後者寄りの性格なのもあって、義明の老獪さはやっぱり汚いと思える。最後に形勢 -
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新宿二丁目の成り立ちを、関係者への取材や過去に出された研究書を元に明らかにしていく。新宿二丁目について「ある程度知っている人」に取っては面白い内容だけれど、二丁目に関して全く知らない人に取ってはやや難解な部分があるかもしれない。
個人的に興味深かったのは二点。
一つは、後書き的な文章の中で書くに当たって取材協力している方々の名前を列挙して礼を述べているのだが、その取材協力者の中に「神名龍子」という顔見知りの人物の名があったこと。そうか、二丁目については龍子さんに直接聞くことが出来るのかと言う思い。
もう一点は、作中に東郷健の名があったこと。
東郷と関わりのある街として、新宿ゴールデン街がある。 -
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会社に献本されていて何気なく手に取ったのだけど、知らないことだらけだった。三島由紀夫やら美輪明宏やらガンガン出てきて、文豪の集うバーからゲイバーが生まれ、さらに吉祥寺のジャズ文化の起源となるのもここだという。
雑誌文化を学生時代に追っていた身としては、平凡パンチがなぜかある年代にLGBT総合誌のようになっている、という指摘も面白い。
学生時代を思い出した頃に、当然新宿二丁目の話なので唐十郎(私の大学で教鞭をとっていたのだ)の名前も出てきて、さらに突如ロラン・バルトの「表徴の帝国」に二丁目ゲイバーマップが載ってる、という衝撃の話題が出てくる。記号論をまがりなりにも学んだ人間として彼の名前もこの著 -
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作者は中村うさぎとの対談でこんなことを言っている。
「主体的で、対等なジェンダー間での恋愛は果たしてうまくいくのか、自我と自我がジェンダーの差異を挟まずに剥き出しでぶつかり合ったときに、果たしてどういう関係性が可能なのか、というのが一つのテーマでした」
この本で描かれるのは、中年のゲイ・義明と、彼よりも遥かに若いハーフの男・ユアンとの同性同士の恋愛だ。ユアンよりも遥かに多く人生経験を積んだ義明は、ユアンとの恋愛において圧倒的に"優位"だ。加えて彼には忠士という実質的なパートナーがいて、20年の歳月の間に少しずつ積み重ねてきた彼との関係性をユアンにちらつかせる。ユアンは始めはそれに耐えられな -
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ネタバレ40代を目前としたフリーライターでホモの和紀と、父の死後に抑えられていた感情を爆発させるかのように積極的に外出をする高齢の母。
寂しさを酒と暴力で紛らわしてあっけなく死んでいった父。
ボーイフレンドのあちらさんの進行する痴呆を見守る母。
編集者のかおりの未来のない恋愛ごっこ。
元ソープ嬢で女性実業家の滝ノ川銀子。
理想的な家族を演じる兄。
夜な夜なハッテン場に通い詰めて肉体の快楽だけを求め続ける僕。
ハッテン場に行った時点でエイズに感染する確率は高いだろうに、いざ感染しているかもしれないと恐怖に怯えるとは、矛盾、、、、
活発な母とあちらさんの老人カップルのおぼつかない旅先での雰囲気とかが -
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ネタバレ40前のゲイのフリーライター和紀が、老母の恋愛、亡父との確執、ハッテン旅館でのある男との出会いなどを通して、いろんなものに向き合おうとするお話。
第40回文芸賞受賞作。
ゲイのライターが主人公であって、ハッテン行為や同性を好きになったり、HIVが身近な問題であったりと、ゲイ独特の世界・生活が描かれている。男性同士の性描写は男性読者の中には不快感をもつかもしれないが、私はすんなり読めた。官能的な文章じゃないから、それに慣れていない人でも大丈夫だと思う。
これら以外に関しては、性的指向にかかわらず自分自身に置き換えられる物語になっている。
ジョン・レノンの“イマジン”が露骨すぎるか -
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<目次>
序章
第1章 ”ゲイバー”はいつ日本にできたのか
第2章 伝説のゲイバー・ブランスウィックの二つの顔
第3章 「二丁目」のきっかけとなったイプセン
第4章 淫風の街
第5章 よそ者たちの系譜
第6章 零落の時代
第7章 「要町」と呼ばれたエリア~分断された街
第8章 ゲイバー街の成立条件
第9章 ハッテン場の持つ磁力
第10章 アングラ文化の渦中で花開く
第11章 平凡パンチの時代
終章
<内容>
日本のゲイ文化について、新宿二丁目を核としながら紐解いていく。大変まじめな分析で、著者もそちらの人。資料の読み解きやインタビューをくりかえし、丁寧に説いていく(解い -
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中学だか高校かに読んだのは覚えていたので再読。ちなみに前回読んだときは、ゲイのセックス描写がけっこう詳細だったこともあり、「ゲイのセックスが書いてある作品」という記憶しかなかったが、今改めて読んでみると、主人公のゲイ関係だけではなく、主人公の老いた母親、上司の恋愛関係の変化が書かれている作品だった。ゲイのフリーセックスにおける関係の希薄さ。老年の母親の恋人関係、キャリアウーマンと中年男の煮え切らない関係・・。それら関係のいろんな形の終わり。主人公、暗闇の中の顔も分からない相手とのその場その場のゲイ特有な希薄な関係の終わり、老年の母親の彼氏の年齢に抗えない障害による終わり、そして上司の先の見えな
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概要
本書は,「差別問題」を「欲望問題」と捉えることが適切であると至った過程を,著者の経験にもとづいて語る『第1章「差別問題」から「欲望問題」へ』,著者自ら提出した<性別二元制>という図式や,ジェンダーフリー論に対する批判的(再)検討を加えた「第2章 ジェンダーフリーの不可解」,X-MENを題材にある特定の共同性やアイデンティティについて論じた「アイデンティティからの自由 アイデンティティへの自由」の3章構成。
2010年6月11日発行の.book版 Ver.1.1
感想
ジェンダーやセクシュアリティ,差別の問題は,私自身にとって「痛み」を伴うような切実な問題ではないので,著者があとがきで