古典部3作目に予定されていたとは思えないほど異国の政治情勢に踏み込んでいる作品。元は古典部シリーズということで一応キャラクターを(個人的に)当てはめてみるなら、守屋≒折木、福原≒文原といったところだろうか?千反田の要素は分散しており太刀洗万智とマーヤに少しづつあると思う。マーヤの「それは哲学的意味ですか?」は千反田の「私気になります」であるだろうし、太刀洗の方が高身長かつ大人びた雰囲気をしているものの、彼女の容姿は千反田に近いと思う。白河いずるが当てはまりそうな人は居ないが、強いて言うなら千反田だろうか。伊原要素もまた、あまり感じることは無かったが、頑固で面倒くさい所は文原と共通していると感じた。そういえば酒を飲んだ太刀洗の言い回しは福部里志そのものだったので古典部メンバーは分解されそれぞれのキャラクターに少しづつ宿っているのだろう。
冒頭で「古典部3作目に予定されていたとは思えないほど異国の政治情勢に踏み込んでいる作品」と書いたがこの作品は古典部シリーズではないので当たり前といえば当たり前である。ではもし仮に雰囲気を古典部に合わせて書き換えたら?と考えるとなかなか面白い話になりそうだと思った。なぜかというと異国の未知の存在が折木の成長を促しそうだからだ。折木の信条からして能動的にマーヤのような存在に触れて異国に思いを巡らせる事はないであろう(姉ならありそうだが)そしてそれが戦争という命のやり取りが行われるとあれば日本のいち高校生には大変な刺激となる。そういった未知の刺激に触れた折木奉太郎がどんな選択をするのか、摩耶花や福部との関係性にどんな変化があるのか見てみたいものだ。(個人的にユーゴの件について話し合ったら摩耶花や福部と折木は意見が割れそうだと思う)
とここまで妄想してみたところでインターネットで検索してみた。するとどうやら古典部とさよなら妖精のキャラクターについて公演で米澤穂信さん自ら言及していたそうで、折木→守屋、福部→文原、千反田→いづる、伊原→文原と白川に分散、太刀洗万智→新規キャラということだった。いづるに千反田は感じなかったが主に実家が広い設定とお人好しの設定を引き継いだのであろう。千反田の実家は豪農でいづるは民宿、どちらもマーヤが泊まる理由になるだろうし、送迎会で酒を飲むシーンなどいかにも千反田家でやっていそうだ。
古典部の話が長くなってしまった。「さよなら妖精」に話を戻そうと思う。この作品が面白かったかというと★が表している通り正直微妙であった。1つは謎が微妙かつ少ないという点。この作品はミステリにカテゴライズされているのだが、物語を通して謎解きをするシーンは少ない。あったとしてもサブクエスト的な推理が多くあまり惹きつけられない。唯一墓場の謎に興味を惹かれたが、あれはこの作品の世界観から逸脱していたように感じる。
もう1つは登場人物を好きになりきれないということ。例えば探偵役は守屋なのだが(能力で言えば太刀洗なのだが積極的に参加しないので守屋が推理するシーンが多い)太刀洗の力を借りずに最後まで解ききったのはユーゴスラヴィアの下りくらいなものだった。一方守屋が投げ出した謎を太刀洗が推理するのかと思えばとある事情でそれをしないので全体的に推理パートが不完全燃焼に感じる。物語の序盤イメージしていたのは守屋が推理を始める→太刀洗に投げ出す→太刀洗が守屋に投げ返す→守屋推理披露→太刀洗が補完というものだったのだが小さいスケールでは披露されたものの大きいスケールでは披露されなかった。では、ユニットで見てはどうか?始めは守屋・文原ペア、私は米澤穂信の男性ペアが好きなのでこの2人も例に漏れず好きではある。ただ、文原の性格によりあまり物語に深く絡んでくる事がなかったので好きになる要素は自体が少なかった。守屋・太刀洗ペアはかなり好きなペアだ。もし継続的にこのコンビが描かれるなら1番好きになるかもしれない。ただ今作だけで判断するならあまり良いコンビネーションは発揮していないと思う。それは守屋が太刀洗を見誤っているからであり、推理を投げ出すからであり、太刀洗が積極的にマーヤの事情に踏み込まないからである。
ツラツラと不満を書いてきたがこの作品がつまらなかったかと言うとまたそうでもない。上で書いた不満はこの作品を推理小説として、古典部に多少なりとも関連する小説として読んでいるから出るものであって、これを未知の国から来た少女と高校生の話だと思って読めばそれなりに面白い。(もちろんミステリとして出来てるのでその読み方で良いのかは分からないが…)
最後に余談だが、私の異国の友人の話をしたい。彼の出身を仮にA国としよう。その友人に何の気なしに「A国にも行ってみたいな〜」と言った事がある。すると友人は「いまはXX中(これも伏せさせて欲しい。要するに武力を伴う国のゴタゴタだ)だから危ない。落ち着いたら来てよ」と言われた。国にも帰れないと言われた。正直かなりカルチャーショックを受けた。仕事の合間の他愛もない会話のつもりだったが、異国では国の内外で衝突があり、それによって人が死に、家に帰れなくなるといった事情が身近にあるということを初めて感じた経験であり、まだまだ自分の視野は狭いなと実感した。