とにかく分厚い力作!
有栖川有栖は、個人的には話もしたことのない大作家・影浦浪子(かげうら なみこ)から、警察が自殺と断定しようとしているある男の死の真相を、火村とともに究明してほしいとの依頼を受ける。
火村は、勤務する大学の入試の監督業務に当たるため、有栖が先行して調査に当たることになった。
前
...続きを読む半は有栖の地道な聞き込み調査、後半は火村が登場して怒涛の解決編!
梨田稔(なしだ みのる)は、大阪中之島の「銀星ホテル」に5年前から滞在していた。
ホテルで一番良いスイートを利用し、死後に二億円入った預金通帳が発見される。
クレジットカードも携帯電話も持たず、身寄りもなかった。
これだけで、何か身を隠すような訳ありの人物なのだろうと思う。
梨田が自殺でなく他殺であるとすれば、支配人夫妻を含む当日宿泊していた人物たちと従業員が容疑者となる。
すでに警察の聞き込みは済んでいるのだが・・・
常連たちが語る梨田の印象は、生活のほとんどをボランティア活動に費やし、節度を持った人付き合いをする穏やかな人物。
彼らは梨田の自殺の原因を、寂しかったのだろう、孤独だったのだろうと口を揃えて言う。
有栖が話を聞いている間は「家族的なホテルのスタッフと常連さんたち」に思えていた人々が、火村が登場した途端に「容疑者」の顔に見えてくるのが不思議。
しかし、この流れでは他殺なんだろうなと思っても、誰が怪しいのかということさえ全く分からなかった。
ミステリ物の小説やドラマにおいては、こいつはまあ殺されても仕方ないな、むしろ死んでよかったじゃないのなどと思うこともある。
しかし、なんでそんなくだらない理由で殺すの?と思う時、犯人は刑務所から出てまた生きていくのだということがたまらなく理不尽に思えてくるのだ。
梨田稔は、「事故多発型」の人生だった。
その挙げ句の最後には、石ころに蹴つまずいた程度の犯人のくだらない理由で殺されてしまう。
しかし、死後には、救いがあったのだろうか。
少なくとも報いはあったと信じたい。