もう一気食い、あ、しまった、タイトルに引っ張られてしまった、一気読みでした。
面白い。なんと巧みな構造。
あ、以下、ネタバレしますので、未読の方はご遠慮ください。
恋愛関係にも依存関係にもないけれど、互恵関係にある小鳩君と小山内さんの高校二年生の夏の出来事。
二人は今日も今日とてこの不可思議な関係を維持して、小市民を目指すべく日々を穏便に送っていく・・・はずだった。
なのに、はじめっから違和感が。
第一章の「シャルロットだけはぼくのもの」は二人の腕試しのような可愛らしいエピソードでしたが、違和感。
・なぜ小山内さんは急に行けなくなったと連絡してきて小鳩くんにおつかいを頼んだのか
・なぜ小山内さんは二人で食べるのにシャルロットを4つも頼んだのか
・なぜ小山内さんは着信があったからといって、長時間小鳩君を一人にしたのか
ここらへんが伏線になるだろうと踏んで読みましたが、結果、そんな重要な伏線ではありませんでした~。ズコーーーー!!私の知恵がいかに回らないかがわかりました(笑)。
特にふたつめの「なぜシャルロットを4つも」なんていうのは、ただ単に小山内さんのスイーツ好きによるものだったようです。3つめの「着信」相手は、川俣さんだった可能性大ですよね?え、違う?(←どこまでも自信がない)
本作は、前作より一層、短編それぞれで謎・事象が完結するように見せかけて、ひとつの長編になっていました。前述の「シャルロットだけはぼくのもの」や「シェイク・ハーフ」は軽めの謎解きで、思わず小市民への志を忘れて、イキイキと謎解きをする小鳩君に対してニヤニヤしながら読んでいたのですが、「シェイク・ハーフ」から伏線が太くなっていきます。
そしてついに、「薬物乱用」や「誘拐」といった穏やかならぬ言葉が出てきます。こんなもの、小市民の周囲で起こることではありません!
無事に被害者を解放し、犯人グループも逮捕、というところに至ったところで、小鳩君が真相を考えます。事件は解決しても、小鳩君の中では事件は終わってはいません。(ちょっと脱線しますが、小鳩君が考える中で私の当初からの違和感が何だったかもはっきりしました。二人は互恵関係であり、恋愛関係ではないはずなのに、夏休みにスイーツ巡りをするとは・・・という小さな違和感。これも重要な伏線だったと、ちょっとうれしくなりました。)最終的には、小山内さんがヒントを出す形になりましたが、本当のことがわかったとき、小山内さんのことを「狼」と表現する理由がよくわかりました。小山内ゆきがちょっとというか、かなり怖くなりました。嘘はいけないと諭す小鳩君ですが、話の流れは「二人でいる必要性」へと舵をきっていきます。
そして、ついに互恵関係を解消するという結論に至った二人。続きはいかに・・・!というところでございます。
私が女だからか、ちょっと最後の小山内さんの涙があまりいい感じに受け取れませんでしたし、なんとなく小鳩君サイドに寄ったものの見方をしてしまうのですが、ペア解消には心穏やかではいられません。続きが気になるところです。
ミステリー物を読み慣れないので、そういう方向からのレビューができないのですが、人が死んだり、すっごく痛めつけられたりしない、この手のミステリー物の面白さを改めて認識しました。これだったら、ミステリー好きも、怖くない小説好きも、青春もの好きも、幅広い範囲の人が楽しめます。日常の謎解きから、「誘拐」というれっきとした犯罪までが、うまくひとつの物語に、巧みに伏線をはりながら仕上げられていて、著者の力量を見せつけられました。米澤穂信、すごい。怖いのは読みませんが、大変に気になる作家さんとなりました。