Posted by ブクログ
2021年10月19日
ネパールに訪れた日本人のフリーライターによる、王族殺害事件と軍人の殺害事件の取材のお話
「ジャーナリズムとは?」を問う社会派ミステリ
「さよなら妖精」の太刀洗万智さんが主人公
新聞社を5年で辞めてフリーランスになって初の仕事
そしてマーヤとの出会いから10年
旅行記事の取材のためにネパールの首都...続きを読むカトマンズを訪れたところ
皇太子の銃乱射による王族の殺害事件が発生し、その取材の途中で殺人事件の遺体に出くわす
殺人事件と王族の事件の関係は?自分に接触したが故なのか?ジャーナリストとして報道すべき事とは何なのか?を考えさせられる万智さんの行動とは
王族の殺害事件とその後の王位継承のあれこれは実際の事件のようだ
そしてその真相は未だに不明と
現実の事件を元にしているのはさよなら妖精と同じですか……
殺人事件の真相に関しては二重三重の真相があって、終盤の怒涛の展開に驚かされっぱなし
しかしまぁ、登場人物がそんなに多くないので、ある程度の予想はつくけど、そこに至る理由や真相を語る会話の鋭さがすごい
そしてジャーナリズムとは何なのかという命題
「知る権利」や「知られるメリット」はあるかもしれないけど
結局は、自分の身に降りかからない刺激的な悲劇という娯楽を提供しているだけなのでは?という指摘
もし、自分が戦禍にまみれたとして、諸外国に情報が伝わり好転するというのであれば報道の意義はあるだろうけど
全ての報道がそんな目的のために行われているわけではない
「お前の信念の中身はなんだ。お前が真実を伝える者だというのなら、なんのために伝えようとしているのか教えてくれ」
「悲劇は楽しまれるという宿命」にあり、「自分の身に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ」
という主張にちゃんと答えられるジャーナリストっているのだろうか?
作中でも、報道写真家ケビン・カーターの「ハゲワシと少女」の件が挙がっているように
ジャーナリズムの前に、は当事者としてできることはあったのではないかという疑問
「この国をサーカス(見世物)にするつもりはないのだ。もう二度と」
と当事者に言われて、それを説得できる人がいるとは思えないな
解説でも書かれてあるけど、素人の探偵が何の権限も持たずに訳知り顔で勝手に捜査して無責任に犯人を推理する行為
ミステリではそのへんをわきまえている探偵役もいると言えばいる
なので、自分もリスクを背負った探偵役の物語は好感が持てる
「彼は誇り高い男でした」と評さえるような
そして、大人な自分を叱ってくれる存在はすごいと思うけれども
だからといってその人物が清廉潔白とは限らない
誇り高い言葉を口にしながら、手はいくらでも裏切れるし
手を汚してきた男が、譲れない一点では驚くほど清廉になる
というのは鬼平犯科帳で言われている事にもつながるなぁ
一番ドキッとしたのは、八津田からの「お前が言うか案件」
さよなら妖精でもそうだけど、この物語でも万智さんのスタンスと言うか、何を重視するかという冷酷さと、現実的にできることの冷静な判断がよく現れていると思う
だからこそ、ジャーナリストという立場になったんだろうか?