桐野夏生のレビュー一覧
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江國香織さんの「夕涼み」と綿谷りささんの「青春リグレット」が読みたくて手に取った。夕涼みは、夫の行動にゾッとしたし、私だったらそんなズレた夫とは一緒にいられないと思った。「逃げたかったわけではない、が、逃げられないと思わされることは恐怖だった。竦むような、恐怖だった。」という言葉に共感。誰かに自分の選択肢を奪われたり、縛られたり、自分で自分を決められないことを、人は恐怖と感じるんだなと思った。そして誰にもその出来事は話せないことも、夫を含む周りにはいつまでも愛し合っている夫婦だと思われていることも、自分だけがこのザワザワした気持ちに気づかないふりをしていればいいんだと感じるのもわかる。老女たちの夕涼みを今になって理解できるようになってしまったことも、それを見て単に奇妙だと思うだけだった過去を無敵だったと表現したことも、妹にはそんな日が来ないでずっと幸せでいてほしいと思う姉の気持ちも、切なかった。
「青春リグレット」は、自分の何がそんなに好きかわからないくらいに愛してくれた人を、自分は愛せなかったことを夫に離婚を切り出された時に思い出す。愛される恋愛がどれだけ幸せだったか、それはその時には理解できなかったのだから仕方ないし、後悔しないでほしいなと思った。後になって気づくものってある、もう取り返しはつかないけれど。彼との時間を俯瞰で冷めた目でみてしまうところ、古傷が痛んだ。愛の重さは同じくらいがいい。 -
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7つの短編小説が収められた短編小説集。雑誌掲載の作品を集めたものであるが、発表時期は2006年から2014年の間でばらついている。何かに物理的に捉われていたり、あるいは、支配されている状況を描いた小説ばかりである。「奴隷小説」という短編小説集全体の題名も、そこから来ているのだろう。
どれも、やり切れなさ、あるいは、自分が実際に同じ状況に置かれたらどうなるだろうという怖さを感じる小説ばかりである。どの小説が最も印象的かというのは、人によって異なるだろうが、私は「告白」という短編小説が最も印象的で、最も怖かった。他の小説も、絶望的な状況に置かれた人たちを主人公にしているが、それでも、場面が展開する可能性のある終わり方をしている。しかし、この「告白」は、終わり方こそが救いようがない。
【引用】
「ヤジロー様、これは私たちが如何にして、少しずつ希望を失ったかという物語でございます。言うなれば、希望の瓶が底を突く、というお話。次は私の番でございます」
【引用終わり】
主人公のヤジローは、薩摩から逃げ続け、インドのゴアに到着する。そこで、ある老人と知り合うが、気がつくと、暗闇の中で縛られ身動きが出来ない状態のまま、その老人の「如何に希望を失ってきたか」という話を聞かされる。そして、その老人の話だけでは終わらず、「次は私の番でございます」と「絶望、希望を失う話」をしようと手ぐすねをひいている多くの人たちが待ち構えていることに気がついたところで小説は終わっている。身動きのとれない状態のまま、人が希望を失っていく話を延々と、あるいは、もしかしたら永遠に聞かされるというのは、人が思いつける最も絶望的な状況に近いのではないかと思う。それが、とても怖かった。 -
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この本の文庫版の解説は、井上荒野が書いているが、井上荒野は、本書の前書の「ハピネス」について、斎藤美奈子が文庫版に書いている解説を引用している。孫引きになるが、引用する。
【引用】
「桐野夏生はつまりプチセレブのバイブルである"VERY"の読者に向けて、読者層と重なる女性たちを徹底的に皮肉り、批評した小説をぶつけたのである」
【引用終わり】
本書「ロンリネス」も、「ハピネス」と同じく初出は「VERY」連載であり、登場人物も前書から継続しているので、この斎藤美奈子の解説は、この「ロンリネス」にも当てはまるはずだ。
「VERY」という雑誌を知らなかったので、ネットで調べてみた。いくつかのソースから引用・整理すると、下記の通りである。
■30代女性をターゲットとする光文社発行の月刊誌
■1995年に30代主婦向けファッション雑誌として創刊。1998年には本誌から、東京都白金にちなむ造語「シロガネーゼ」という新語が生まれた
■女性の社会進出に伴い、主に30代から40代前半の、結婚、出産、育児、復職など子育て世代の女性を対象としてファッション、ライフスタイルの情報を中心に掲載している
■雑誌ベリーのターゲットは、共働きである事が前提ですのでそれだけで世帯年収も必然的に上がります。実際に、VERY妻の世帯年収は1500万円以上というのが条件となります。セレブな生活を送るという事も条件の一つですので、やはりそれなりの年収がなければセレブ生活は送れませんよね
■雑誌ベリーの読者層の主な居住区域は、「世田谷区、江東区、目黒区、中央区」というのが一番多いようです
■VERY妻というのは、妻であり母である前に、「女性」なんです。そこを楽しめるか楽しめないかという事もVERY妻にとっては死活問題です
なるほど。それで、本書内の色々なエピソードの背景が少し分かった気がした。キーワード的に言えば、「タワマン-分譲棟と賃貸棟」「子供のお受験」「不倫」「青山のセレクトショップ」等である。他にも色々とある。
そういう読み方をすると、主人公の有紗の設定は面白い。
タワマンの賃貸棟の方に住んでおり、地方(新潟)出身で短大卒。共働きではあるが、パート勤務であり、上記のVERY妻の設定とは明らかに異なった設定を桐野夏生は選択している。また、有紗の一番の友人、洋子も駅前の賃貸マンション住まいで「セレブ」とは言えない生活水準。確かに、この2人がVERY妻たち、および、その夫の生活を引っ掻き回すという斎藤美奈子が言った「読書層と重なる女性たちを徹底的に皮肉り、批評した小説」と読めなくはない。
ただ、そんなこと(VERY連載であること/VERYとはどういう雑誌か)を知らなければ、この小説は、有紗と洋子の不倫恋愛に関する小説であり、読者は、2人の不倫恋愛の持つ、潜在的・顕在的破壊力に驚くばかりである。私は「そんなこと」は、小説を読んだ後に知ったので、破壊的恋愛小説として、この物語を面白く読んだ。 -
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ネタバレ夫や息子にないがしろにされた中年女が突発的に家出して車で(東京から長崎へ)一人旅に出る、っていう話。
途中被DV女と知り合って「テルマ&ルイーズ」的な展開になるのかと思いきや、そういう初期作みたいな破天荒な方向へは突っ走らず、最後の最後は何だか気の抜けたようなトホホなオチ(帰宅)に。
旦那息子をはじめ、登場人物の8割がたが中途半端なクズっぷりを披露。ママ恋しくて長崎までやってくる次男が特に情けなかった (T_T)
長崎の思想的なボケ老人はスゴかったな(゚д゚)!。「極端な正義は悪魔と見分けがつかない」とか何とか偉い先生が言ってたような気がするけど、まさにそれを体現した感じの御仁。てっきりその後、主人公が彼に感化されて危ない方向へ堕ちていく展開になるのかと思ったんだけどなあ......少なくとも初期の桐野先生だったらたぶんそうしていたんじゃないかと......(´ε`;)ウーン…
まあ、平成版「くれない族の反乱」っていうかオバハン版「スタンド・バイ・ミー」っていうか、ほんの一時の気の迷いで短い家出をしたら(本人含め)みんなの気持ちがちょっと変わったんで、それだけでもうじゅうぶん満足、元の鞘に収まってめでたしめでたしという、現実的なオチ。小説としてはかなり物足りない感じだったけど。
2023/12/18
#4757 -
Posted by ブクログ
バブルと金融業界、未知の世界。自分が生きる福岡と地続きのはずなのに最早ファンタジーである。
望月が動き始めてからが面白いが、思考行動すべてが場当たり的でハラハラする。「マジか望月…」と心の中で3回は呟いた。博打が当たり続ける望月くん。誠実さが欠片もないので友達にしたくないタイプだが、成り上がって他を見下してやる、という人間臭い欲望を純粋に追い求める姿はなんか羨ましい。緩やかな諦観がずっと流れている現代を生きていると、良くも悪くも熱量がある人間って眩しい。
稼いだ奴がエライんじゃひれ伏せ!という価値観はシンプルで楽だけど、そこから落ちてしまった時、絶望するのか、笑い飛ばせるのか。でもこんな時代に生きてみたかったなあ、なんて思う。
素敵な名前の水矢子は報われてほしいのだけど、プロローグ…。身の丈でいいんですと対照的なことを言っていたのに、下巻でどうなっちゃうの。