【感想・ネタバレ】デンジャラスのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年07月17日

「細雪」のモデルとなった谷崎潤一郎の妻、松子とその妹、重子、松子の前の夫との間にできた息子(重子の養子)の嫁・千萬子が小説家谷崎の家庭生活と創造生活を全てを司る様子が、重子の1人語りとてもリアルに表現されていて、これは重子の肉声なんじゃないかとさえ思ってしまった。
人気作家のわがままに翻弄されている...続きを読むのは結局のところ誰なのかわからない。最後、老い始めた谷崎を平伏させてしまうような重子なのか、それとも実は谷崎が重子に自分を足蹴にするように仕向けているのか。小説が現実を模しているのか、現実が小説を真似ているのか。

女たちの自分の存在意義を賭けた駆け引きや嫉妬などが繰り広げられるのだが、そこで生まれる不安やちょっとした哀しみは、小説家である男の庇護のもとで生活すること代償だ。創作意欲を与え続けることで、男を生きながらえさせる。それこそが自分の存在を証明するものなのだし、彼の働きがないと生活も苦しくなるのだから、舞台で踊り続けるだけだ。それでも、そんなに「支配されて抑圧された」感がないのは、何かそこにしたたかな生命力、図太さやしぶとさのようなものがあるからかな、と思う。桐野夏生が女を描くとこうなる。

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Posted by ブクログ 2021年01月01日

私の大好きな桐野夏生が、私の大好きな谷崎潤一郎の生涯を描く。これは読んでみなければ。細雪のモデルとなった妻とその姉妹、そして谷崎本人を、まるでNHKの朝ドラのように描く本作。谷崎の残した文章や周囲の人の記憶といった点を、桐野なりのストーリーとして線にしていく。線はフィクションだが、谷崎自身や彼の作品...続きを読むを理解する補助となり、今すぐ彼の作品を再読したくなる欲望に駆られる。作家としての姿勢を谷崎に語らせて、実は桐野そのものを語らせている手法も面白く、桐野、谷崎両者をより深く堪能することができる。とにかく物語が面白く、久々にページを早くめくりたい気分になった。年末年始に楽しい読書ができた。

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Posted by ブクログ 2020年12月08日

読みだした途端に感じる不穏な空気に夢中になった。谷崎潤一郎と妻の松子、松子の妹の重子をめぐる関係。あからさまな肉体関係はないようなのだけれど、もっと複雑で不穏で水面下でうごめいているからこそ、妙に生々しく、スリリング。
そこに松子の連れ子の青一(戸籍上は重子の息子)の嫁の千萬子が現れて、物語はまさに...続きを読むタイトル通りのデンジャラスなすごみを帯びていく。
千萬子の賢さ、したたかさと若さ。松子と重子の自負と嫉妬。谷崎に迫る老いと焦燥感。
この絶妙なブレンドをなせるのも桐野さんならではだと思う。
今度は谷崎の往復書簡集を読んでみたい。

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Posted by ブクログ 2024年01月27日

君臨する男。寵愛される女たち。文豪・谷崎潤一郎が築き上げた理想の〈家族帝国〉と、そこで繰り広げられる妖しい四角関係-。桐野夏生が、燃えさかる作家の「業」を描く。

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Posted by ブクログ 2023年01月04日

谷崎潤一郎没後50年・中央公論新社130周年を記念して書かれた、オマージュの内の一冊。
2017年は本当に豪華な作家達が谷崎へ傑作を寄せていた。

本書は『細雪』に登場する姉妹の中でも主要人物であった「雪子」のモデルとなりながら、手記や書簡と言った声を残さなかった「重子」に語らせる。
重子(あくまで...続きを読む本書に登場する彼女の意で)は義兄の芸術に自らが採用された事を生涯、精神の拠り所としていた。
しかし、その愉悦と義兄に守られた平穏はある日、突然に破られてしまう。
義理の娘・千萬子の登場である。

浮世と一線を引く様な姉妹にとって千萬子は新時代の象徴であるのみでなく、芸術のミューズの座を奪う脅威と捉えられていた。
画家の祖父を持つ千萬子は文学にも造詣が深く、谷崎と同等に渡り合う。
更には離れて暮らす谷崎と一日に何通もの速達を送り合う事で、周囲に憚る様子も次第に無くなっていった。

本書には谷崎晩年の隆盛と芸術の源泉、それに翻弄される人間模様をねっとりと描く。
谷崎と桐野氏の共通点は正に、この粘度と言えようか。

谷崎が作中で発する言葉は極めて少ないながら、逆に存在感が強調される様でもある。
幾ら虚実綯い交ぜの創作と言え、最愛の妻・松子さんさえ脅かした(可能性の高い)人物が居た。
それに驚く読者も多い事だろう。

彼女は平成13年に、何を思って200通を超える往復書簡を公開したか。
谷崎の死後に出版された松子さんの随筆『倚松庵の夢』とは恐らく意味合いも、思惑も違っているだろう。

一冊の本がまた次の本を呼ぶ、読書の佳味である。

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Posted by ブクログ 2022年06月16日

谷崎潤一郎を細雪の雪子の視点で書いたフィクション。
細雪を読んでいないと何の話しかはわからない
だろうと思う
フィクションとは言っても概ね事実に近いのか
実在する人物を描いているので
なるほどデンジャラスなのだな
不可触の領域に踏み込んでいる

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年10月25日

桐野さんが好きで、本屋に立ち寄ったら半ば無意識に一冊買う癖がついています。この本も何か月も積読した後ほぼ無意識に読み始めたら、大谷崎の話でした。

私は桐野さんのグロさも好きですが、大谷崎の耽美沼も好きです。10代の頃細雪を読んでうっとりして、映画も舞台も美しく、大好きです。偉大なる谷崎潤一郎の晩年...続きを読むを、敬愛する桐野さんが描いているなんて、終始わくわくドキドキしながら読破しました。

読みながら、大谷崎は女が働くこととか嫌っていたこととか、わかってはいたけど私は受け入れられない価値観だとつくづく感じました。姉の夫に喰わせてもらう重子だって、物語の語り手としておもしろく頼りにしながらも、ただの寄生虫だと軽蔑する気持ちさえあります。それでも、それはそれと思わせる小説の世界があるのです。クリエイティビティとかそういうことなのだけど、横文字で言ってしまうには惜しいその深い関心。谷崎作品をもっとちゃんと読みたいと思いました。

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Posted by ブクログ 2021年03月13日

谷崎潤一郎の生涯と女性について、谷崎潤一郎を殺した女性の一人称で描かれていた。
主に4人の女性が登場したが、それぞれが彼を中心に生きていて、翻弄されていてでも結局誰を中心に回っていたのかわからないような不思議な気持ちになった

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Posted by ブクログ 2021年02月13日

 谷崎の三番目の妻・松子の妹である重子が語り手となって進む。『春琴抄』や『盲目物語』に影響を与えた妻の松子、『細雪』の雪子のモデルとなった重子、そして『鍵』や『瘋癲老人日記』を創作するきっかけとなった谷崎の息子の妻・千萬子。作家谷崎と三人の女の関係はただの家族、親戚とは言い難く濃密で、かといって簡単...続きを読むな愛憎劇でもない複雑さ。
 文豪谷崎にモデルにされる、谷崎へインスピレーションを与えることのできるということの誇りと優越感。また自分の生活、周りのもの全てを芸の肥やしにして芸術に昇華させる作家の業の深さ。そうした凄みに迫った一作だった。

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Posted by ブクログ 2020年09月04日

桐野夏生的ドロドロがいつくるかと思って読んでたけど、いつのまにか沼にどっぷりハマってる感じで終盤怖くなった。日常をずっと書いてるけど面白い。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年08月18日

こういう小説、なんていうジャンルになるんだろう?(最後の解説によると、「モデル小説」というらしい。へぇ。)実在の人物を取材し、膨大な資料を分析した上で、当人たちの気持ちなどはあくまでも作家の想像によって書き、その人生の物語を描きだす。林芙美子をモデルにした「ナニカアル」もとても面白かった。沢木耕太郎...続きを読むさんの「壇」とか、すごく面白かったけど、あれもモデル小説というのかな?
本書「デンジャラス」は、谷崎潤一郎を題材にした物語。谷崎は妻・松子とその妹”重子”と暮らす。重子は義理の兄である谷崎を慕い、谷崎も自分を特別に思ってくれているはずだと感じている。そこに妻の連れ子や、重子の養子の妻(つまり嫁)、数多くの女中たちなど、様々な女性が入り乱れ、愛憎渦巻く物語が生まれる。
終戦前後のお金持ちの風俗を描いているという点でも、いろいろと興味深い。谷崎潤一郎は「痴人の愛」くらいしか読んだ覚えがないけど、本書で取り上げられている「細雪」や「鍵」、「夢の浮橋」も読んでみたいと思った。
この時代の作家って、自分の周りの人たちを踏み台っていうか、食い物っていうか、犠牲にしながら書いていたのかなぁ…。書かれる方は書かれる方で、それを誇りに思ったり、純粋に芸術作品として分析したりする。松子と重子が、「夢の浮橋」を読んで、「あの人は橋を渡って向こう側に行ってしまった」っていうところ、とても切なく感じた。
最後の、重子と谷崎の対決(?)のシーンは恐ろしくて、でもなんとなく、重子の妄想のような感じもして深い。重子の目線で書かれているのだから、他の誰にも確かめようのないことを重子が本当らしく主張しても誰も否定できない。女の業というか、私は勝ったのよ、と主張しているところがエグい。

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Posted by ブクログ 2020年07月06日

谷崎潤一郎と彼の作品に影響を与えた女たち。妻に始まりお手伝いさんまで、作品に使えるかどうかの一点で対応に変化がある。冷徹なのかたまたまなのか、想像が追いつかない。
重子の語りが本人を含め彼らをずっと凝視していて少し怖かった。

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Posted by ブクログ 2020年06月28日

谷崎潤一郎の半フィクションバイオグラフィ、という宣伝が目に入ったので読んでみた。私も例にもれず、10代の頃に谷崎・三島の耽美沼にハマったので、それこそ作品はもちろんありとあらゆる書簡集やら論文やらを読み漁った。若かりし頃のあの滾るものを思い出した。本作、非常に真面目に史実と史実の間を”ええ感じ”に盛...続きを読むってあり、読みやすくわかりやすい。ただ、わかりやすすぎて、すこし寂しさが募る。寂の文字が大谷崎にはよく似合うのでそれはそれでええかとも思う。自分の中で構築している谷崎及び家族像とは少々違うところも目立つが、ギャップも面白く感じた。
 視点人物はマスターピース『細雪』の雪子のモデルになった重子。細雪の雪子のキャラクターイメージから外れることなく、外れていないが故に、サプライズはないものの、ストレスもなく読めた。ヘビロテで時折再読し続けているが、大谷崎の描く女性にはシンパサイズしたことがないので、本作でもどうしても”兄さん”(谷崎)の方に気持ちが寄ってしまう。ラストシーンの重子と光源氏谷崎の一騎打ち(一騎打ちではないが)は圧巻。もうちょっと込み入った叙述が欲しいぐらいだが、さらっと描かれていながらも、画像が頭の中に強制投影されるような良いシーンだった。良いバランス。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年07月25日

谷崎潤一郎の私生活がよくわかった。
作家に対する理解が進むことと、作品世界への憧れや没頭の深さは反比例するのだということもわかってしまった。

著作から谷崎潤一郎は女性の感覚が分かる男性だと思っていたのだけれど、そうではないのだな、女を利用する根っからのワガママな男性なのだなと痛感した。さみしくなっ...続きを読むた。

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Posted by ブクログ 2021年07月06日

谷崎潤一郎がいかにめちゃくちゃなヤツかということがわかる本。そして、モテる男は本当に苦労なく楽しい人生送るんだなと実感できる本。

女同士のドロドロとした争いも見ものです。

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Posted by ブクログ 2021年02月07日

谷崎潤一郎の「細雪」を久しぶりに読みたくなりました。雪子の結婚が決まったのに下痢が続く、という中途半端な終わりと言えなくもないラストでしたが、まるでその続きを読んでいるような気分になりました。ところどころに桐野調を感じさせながら、結構谷崎潤一郎に寄せている作品だなと思います。あくまでもフィクションと...続きを読むいう位置付けで読みましたが、実際彼とその周りが物語の通りなら、谷崎も含めみんな生きにくい人生だったんじゃないかなと思います。
あと「細雪」の登場人物である貞之助兄さんがやたら良い人だったのはこういうことかと納得しました。自分がモデルだからなのね。基本的に小説はそこにある物語が全てで、筆者の背景とか人物のモデルとかに興味がないので、「細雪」がどういう経緯で書かれたものか知りませんでした。おかげで新鮮な気持ちで読めて楽しかったです。
三章目のラストでばしっと谷崎に物申した重子さんかっこよかったですね。若い千萬子に溺れるのはまぁいいとして、そこに金をつぎ込んでいく様が本当に見苦しかったのですっきりしました。

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