あらすじ
美しい妻は絶対的な存在。楚々とした義妹は代表作の原点。そして義息の若い嫁は、新たな刺激を与えてくれる……。大作家をとりまく魅惑的な三人の女たち。嫉妬と葛藤が渦巻くなか、翻弄される男の目に映っているものは――。文豪「谷崎潤一郎」を題材に、桐野夏生が織りなす物語世界から炙り出される人間たちの「業」と「欲」。<解説>千葉俊二
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Posted by ブクログ
桐野さんが好きで、本屋に立ち寄ったら半ば無意識に一冊買う癖がついています。この本も何か月も積読した後ほぼ無意識に読み始めたら、大谷崎の話でした。
私は桐野さんのグロさも好きですが、大谷崎の耽美沼も好きです。10代の頃細雪を読んでうっとりして、映画も舞台も美しく、大好きです。偉大なる谷崎潤一郎の晩年を、敬愛する桐野さんが描いているなんて、終始わくわくドキドキしながら読破しました。
読みながら、大谷崎は女が働くこととか嫌っていたこととか、わかってはいたけど私は受け入れられない価値観だとつくづく感じました。姉の夫に喰わせてもらう重子だって、物語の語り手としておもしろく頼りにしながらも、ただの寄生虫だと軽蔑する気持ちさえあります。それでも、それはそれと思わせる小説の世界があるのです。クリエイティビティとかそういうことなのだけど、横文字で言ってしまうには惜しいその深い関心。谷崎作品をもっとちゃんと読みたいと思いました。
Posted by ブクログ
こういう小説、なんていうジャンルになるんだろう?(最後の解説によると、「モデル小説」というらしい。へぇ。)実在の人物を取材し、膨大な資料を分析した上で、当人たちの気持ちなどはあくまでも作家の想像によって書き、その人生の物語を描きだす。林芙美子をモデルにした「ナニカアル」もとても面白かった。沢木耕太郎さんの「壇」とか、すごく面白かったけど、あれもモデル小説というのかな?
本書「デンジャラス」は、谷崎潤一郎を題材にした物語。谷崎は妻・松子とその妹”重子”と暮らす。重子は義理の兄である谷崎を慕い、谷崎も自分を特別に思ってくれているはずだと感じている。そこに妻の連れ子や、重子の養子の妻(つまり嫁)、数多くの女中たちなど、様々な女性が入り乱れ、愛憎渦巻く物語が生まれる。
終戦前後のお金持ちの風俗を描いているという点でも、いろいろと興味深い。谷崎潤一郎は「痴人の愛」くらいしか読んだ覚えがないけど、本書で取り上げられている「細雪」や「鍵」、「夢の浮橋」も読んでみたいと思った。
この時代の作家って、自分の周りの人たちを踏み台っていうか、食い物っていうか、犠牲にしながら書いていたのかなぁ…。書かれる方は書かれる方で、それを誇りに思ったり、純粋に芸術作品として分析したりする。松子と重子が、「夢の浮橋」を読んで、「あの人は橋を渡って向こう側に行ってしまった」っていうところ、とても切なく感じた。
最後の、重子と谷崎の対決(?)のシーンは恐ろしくて、でもなんとなく、重子の妄想のような感じもして深い。重子の目線で書かれているのだから、他の誰にも確かめようのないことを重子が本当らしく主張しても誰も否定できない。女の業というか、私は勝ったのよ、と主張しているところがエグい。