桐野夏生のレビュー一覧
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ネタバレ『OUT』の2年後の1999年に刊行され、直木賞を受賞した桐野夏生さんの初期長編である。
5歳の娘が北海道支笏湖付近で失踪する。見失われた長女を捜し求める母親・カスミと、癌を患い退職し、死期を間近に迎えつつある男性の元刑事・内海との、奇妙なランデブーがストーリー中メインの骨格となっている。この両者は「現実と折り合いを付けることが出来ない」点で共通点を持つとされている。
一般的な写実的描写に基づく小説ではリアリティが大切であり、描かれゆく人物・心理・光景・出来事などが、いかにあり得るものであるか・ありそうであるか・ありがちであるか、といった尺度で現実解と比較し計測され、総合的に見てリアルな感 -
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ネタバレ目次
・ローズガーデン
・漂う魂
・独りにしないで
・愛のトンネル
表題作以外は、ミロが探偵になってからの事件。
長編では気になるミロの性癖が、短編だと気にならないので読みやすかった。
ただ、ミロの調査って、詰めが甘い。
100%の調査をしていないまま報告書を書いているのが、プロとしてどうなのか。
また、一度断った仕事を、個人的興味で勝手に調査しているのもプロではない。
そして問題の表題作。
ずっと気になっていたミロと自殺した夫の関係が、これですっきりと分かるのかと思いきや、余計にもやもやが募る。
知り合った高校生のころからミロはエキセントリックだった。
ならなぜ、結婚した挙句に自殺する -
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ネタバレ東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年の東京が舞台。
今までのイメージでは、高度経済成長の波に乗って、イケイケの時代。
古いしがらみを切り捨てて、明るい未来に向けて社会が一丸となっていたのだと思っていた。
高校生が昼間っから薬でラリッているという日常。
もちろん世間の全てがそうではないにしても、これは多分特殊な事例というわけでもないのだろう。
戦後出回っていた覚せい剤は、このころには表ルートでは入手できなくなっていたと思うけど、今よりはるかに睡眠薬は手に入りやすかった時代。
ストーリーとは関係なく、当時薬に溺れていた若者たちがその後どういう人生を生きていったのかが気になってしょうがなかった -
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ネタバレ村野ミロシリーズの第一作。
先に二作目を読んで、彼女の夫の自殺理由などいろいろ不明でもやもやしたので第一作に遡って読んでみたのですが、もやもやは晴れず。
村野ミロって、亡くなった人のことをうじうじ考えている割に、今現在の人間関係を大切にしているように見えない。
頭は切れるけれど行動は衝動的で、他人の不幸にいっさい心を痛めた様子がない不気味。
登場人物みんなに言えるのだけど、セリフや肩書で人となりが語られるだけで、互いの人間関係をあらわす様なエピソードがないので、非常につながりが薄っぺらく感じられる。
二作目を読んだうえでの今作の感想としては、精神的な安心感を与えてくれる男、性的な満足を与 -
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ネタバレ失敗した!
またシリーズ物を途中から読んでしまった。
シリーズ物は刊行分をとりあえず全部読む、という縛りを課していたのだけど、さすがに一向に減らない読みたい本リストの残を考えると、もう、おすすめされた一冊だけでいいかなという気がしてきていたこの頃。
でも、主人公・村野ミロの壮絶そうな過去が気になるので、やっぱり全部読むとするか。
失踪したAV女優を捜すという依頼のため、最初の方がちょっとエグくて読み通せるか不安だったけど、意外と読みやすく思えたのは作者の力量なのだろうと思う。
女流ハードボイルドと言えば、若竹七海の葉村晶シリーズがあるが、痛い目に遭ったり怖い思いをしても、葉村晶よりも生々し -
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桐野夏生さんの短編小説集。
はじめ把握していないまま読み始めたのだが、収録作は作者デビュー翌年の1994年から1997年で、大ブレイクする『OUT』(1998年)より前の、初期の作品群だ。
これらは多彩で、どれも面白く読める豊かな短編小説である。なるほど、松本清張の作品のように、それぞれに心理的な劇の物語時間が推進されていて、それが確かな人間観察に基づいているからこそ、リアルな感触を持ち、読者の心を引きずり込んでいくのだろう。
ただし、結末は
「あれ? これで終わり?」
と驚かせるような、少々肩すかしを食わせるようなものが多く、一般的な多くの読者をいくらか失望させるのではないだろうか。
古典的 -
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ネタバレこういう小説、なんていうジャンルになるんだろう?(最後の解説によると、「モデル小説」というらしい。へぇ。)実在の人物を取材し、膨大な資料を分析した上で、当人たちの気持ちなどはあくまでも作家の想像によって書き、その人生の物語を描きだす。林芙美子をモデルにした「ナニカアル」もとても面白かった。沢木耕太郎さんの「壇」とか、すごく面白かったけど、あれもモデル小説というのかな?
本書「デンジャラス」は、谷崎潤一郎を題材にした物語。谷崎は妻・松子とその妹”重子”と暮らす。重子は義理の兄である谷崎を慕い、谷崎も自分を特別に思ってくれているはずだと感じている。そこに妻の連れ子や、重子の養子の妻(つまり嫁)、数