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どこにも、逃げられないよ──。
長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう、という掟のある村で、ある少女が結婚相手として選ばれる「雀」。
ある日突然、武装集団によって、泥に囲まれた島に拉致された女子高生たちを描いた「泥」。
アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿とは?(「神様男」)。
管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事し、時に動物より躊躇なく殺される。死と紙一重の鐘突き番にさせられた少年の運命は?(「山羊の目は空を青く映すか」)……など。
時代や場所にかかわらず、人間社会に現れる、さまざまな抑圧と奴隷状態。
それは「かつて」の「遠い場所」ではなく、「いま」「ここ」で起きている。
あなたもすでに、現代というディストピアの奴隷なのかもしれない――。
様々な囚われの姿を容赦なく描いた七つの物語。
桐野夏生の想像力と感応力が炸裂した異色短編集。
カバーイラストは、かわいさと残酷性を併せ持った作風で物議を醸すLA在住の画家、Luke ChuehのRough Waters。
解説・白井聡
※この電子書籍は2017年12月刊行の文春文庫を底本としています。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
7つの短編小説が収められた短編小説集。雑誌掲載の作品を集めたものであるが、発表時期は2006年から2014年の間でばらついている。何かに物理的に捉われていたり、あるいは、支配されている状況を描いた小説ばかりである。「奴隷小説」という短編小説集全体の題名も、そこから来ているのだろう。
どれも、やり切れなさ、あるいは、自分が実際に同じ状況に置かれたらどうなるだろうという怖さを感じる小説ばかりである。どの小説が最も印象的かというのは、人によって異なるだろうが、私は「告白」という短編小説が最も印象的で、最も怖かった。他の小説も、絶望的な状況に置かれた人たちを主人公にしているが、それでも、場面が展開する可能性のある終わり方をしている。しかし、この「告白」は、終わり方こそが救いようがない。
【引用】
「ヤジロー様、これは私たちが如何にして、少しずつ希望を失ったかという物語でございます。言うなれば、希望の瓶が底を突く、というお話。次は私の番でございます」
【引用終わり】
主人公のヤジローは、薩摩から逃げ続け、インドのゴアに到着する。そこで、ある老人と知り合うが、気がつくと、暗闇の中で縛られ身動きが出来ない状態のまま、その老人の「如何に希望を失ってきたか」という話を聞かされる。そして、その老人の話だけでは終わらず、「次は私の番でございます」と「絶望、希望を失う話」をしようと手ぐすねをひいている多くの人たちが待ち構えていることに気がついたところで小説は終わっている。身動きのとれない状態のまま、人が希望を失っていく話を延々と、あるいは、もしかしたら永遠に聞かされるというのは、人が思いつける最も絶望的な状況に近いのではないかと思う。それが、とても怖かった。
Posted by ブクログ
文庫本になってから読む利点は解説があるから、それがいいのか、邪魔なのか。
この文庫版の政治学者白井聡の解説は、なるほどなあと思う。桐野夏生さんの作品が現代の(平成の)新しいプロレタリア文学ではないか、というところはおもしろい。
ここに集められている7短編は、何かに隷属させられて藻掻くか、打ち破れる人間たちだ。現代見聞きするありがちな事情あり、昔の時代にさかのぼったのや、もっとおとぎ話的なのもあるが、それぞれが救われないどうしようもない状態なのは一緒で、作者は怒りに満ちて描いている。
デストピアの世界といっても、人間たちが構成している世界だから、そこに矛盾が生じるのは当たり前、前向きに、個人の努力で、なんて言うのんきさからくる希望のかけらもないのである。
作者の小説はいつも「放っぽりぱなし」の結びなのだが、ことさらこの短編たちは途切れて、漂ってしまうようだ、令和の世に。
Posted by ブクログ
肉体的あるいは精神的に隷属状態に置かれた人々を描いた短篇集。
とにかくぞくぞくしました。
面白いと言うのは不謹慎かもしれないけど、こんな気持ちにさせてくれる桐野夏生という作家はやっぱり稀有な存在だと思います。
さまざまな時代や設定の中で、奴隷として抑圧状態に置かれた人やその周囲の人を描いていますが、自分の抑圧状態に無自覚な人もいれば、脱出しようと戦おうという人もいます。
暴力によって肉体的・直接的に支配される女性を描いた話はとんでもなく苛烈で、過去だけではなく現在でもこのような扱いを受ける女性がいるのだろうと想像するのもおぞましく、反吐が出そうになりました。
精神的に搾取され続ける女性の地下アイドルの話も痛々しかった…。
作中ではアイドルが「キモオタ」に消費されいつかは見向きもされないであろう未来を暗示しており、人間の尊厳を削り取っていく歪んだ構造に寒気がしました。
よく考えたら、人間が二人以上いたら支配と隷属は必ず存在し、それは人間社会の構造上当たり前のことなのかもしれません。
現代日本でも精神的な抑圧は至るところにあって、今の隷属状態から抜け出してもまた別の何かに支配されるかもしれないし、生き続けてるだけで「地獄巡り」みたいなものなのかも。
世界に搾取され続ける人がいることに目を背けず、小説で描くことで絶えず訴え、現代社会を照射し続ける桐野さん。
多分、自分が社会に受けた怒りが小説を描く原動力になっているのかな。
私はデビュー以来桐野作品の登場人物にずっと共感してるし、自分の気持ちを代弁してくれてると思ってます。
桐野さん、大好き…いつまでも作品を追って読んでいきたいです!
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小説・文芸
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