小説・文芸の高評価レビュー
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Posted by ブクログ
広告代理店営業部長の佐伯は五十歳にして“若年性アルツハイマー”と診断される。仕事では重要な案件を抱え一人娘の梨恵は結婚を間近に控えていた。
同世代といっても五十代のシッポの方の私と佐伯とでは少し違うかもしれない。ましてや妻の枝実子は四十代だ。
でも やっぱり自分自身とおきかえて読んでしまう。
佐伯になったり枝実子になったり…。
失っていく記憶を補う為にとったメモでスーツのポケットを大きくふくらませ、人の表情に神経を尖らせ、それでも娘の結婚式まではと職場に居続けようとする佐伯。
病に良いといわれる魚や緑黄色野菜や発芽玄米を夕食に並べ 帰りの遅い佐伯をずっと待っている枝実子。
恐かったよ -
Posted by ブクログ
わあ、虚弱について書く人が現れた、というのが本のタイトルを見た第一印象。
私も著者と同じ自認体力がない人間だと思っており、小中高大学ずっと普通に学校を行ってるだけで家帰ったら疲れて動けなくなるし、運動も苦手だし、友達と長期的な関係を築く体力すらないので、ほぼ友達はいない。
一時期自分は怠惰な人間だとずっと思っていたが、人よりも不安と緊張を感じやすいため、虚弱であることを認識した。
周りやSNSを見るとみんな友達いっぱい出し、様々な場所に旅行してる子とのことで、よく自身の体力のなさを責めてきたが、著者の本をみて安心することができた。私と同程度または以下?虚弱で、健康維持に時間をかけている。同じ -
Posted by ブクログ
この物語は、将棋小説だと思って読み始めたはずなのに、最後にはまったく別の層まで連れていかれてしまった。盤上の勝ち負けや才能の優劣よりも、人が何かを追いかけるときに抱える痛みや祈りのような感情がじわじわと浮かび上がってくる。将棋という競技は相手の心を読み、理解しようとする行為に近いけれど、この作品はその“理解する”という営みを極限まで押し広げて、ほとんど愛の形として描いている。
特にラストで訪れる転換は、物語全体の色を一気に変えてしまうほど強烈だった。勝負小説の熱さから、静かで深いヒューマンドラマへと姿を変える瞬間に、胸の奥がぎゅっと掴まれる。棋譜の向こうに相手や師の影を感じ取るような、将棋の -
Posted by ブクログ
お手本のようなSFモダンホラーだ。間違いない。未読の方は幸せだ。情報など欠片も仕入れずにこの本を手に取り、頁を開け。夢か現かわからない悪夢にうなされる事は間違いない。保証する。
20年振りに再読してもなお、本書は新鮮だ。奇妙な出来事に直面した登場人物たち、彼らが追っていく事件の一つ一つ、そして明らかになっていく真実と事件の姿……この様に静かに悲鳴をあげたくなった。大口を開けて悲鳴をあげるのではない。息を押し殺して心の中で叫ぶのだ。このねっとりとした、まとわりつくような恐怖は詩的で、郷愁を誘い、魅力的だからタチが悪い。一度取り込まれたら最期だ。もう引き返せない。 -
Posted by ブクログ
すごい物語を読んでしまった。王城夕紀さん、未チェックだったんだけど、すごい作家さんじゃないですか?
私自身のタイミングも良かった。『プロパガンダ戦争(前出)』を読んで難民・移民の現状を垣間見た後での同書だったので、現在の現実が透かして見えるようだった。
”複製”やアプリなど、技術的なことはイメージでついていくしかないけど、想像し得る描き方だったので問題なし。
後ろの参考文献も興味深い。不勉強なため私は1冊もよんでなかったけど。
王城さんが寡作らしいことが、唯一残念な点です。もっと読みたいし、出版元の中央公論新社さん、こんな大作眠らせておくなんて以ての外ですよ!