小説・文芸の高評価レビュー
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染井為人『芸能界』光文社文庫。
元芸能マネージャーだったと言う染井為人による芸能界を舞台にした7編の短編を収録した短編集。
昭和から平成までは芸能人のスキャンダルも話題作りや芸の肥やしとばかりに何時までも問題視されることはなかった。しかし、今や芸能人がスキャンダルを起こせば、一部の例外を除いて、再び檜舞台に立つことは難しいようだ。昔なら事務所が揉み消したような不倫や性スキャンダル、暴力などが発覚すれば芸能人としては死刑判決を受けたに等しい。ちょっとした偏った発言や軽はずみの行動もネットで大炎上し、仕事を干されることもあるのだ。
この短編集では、そんな怖い芸能界の生々しいスキャンダルや事件を題材に7編全てが全く違う味付けのストーリーが描かれており、非常に面白かった。
『クランクアップ』。ありがちな設定と先の読めるストーリーだなと思いながら読み進んでみれば、見事に騙された。なかなか面白い。
黒い交際が問題になり、落ち目になった43歳の俳優の相原恭二は事務所を退所し、五十嵐という映画監督の誘いで、『リアルフェイク』という映画に主演することを承諾した。事務所の女社長の河村洋子とマネージャーの鈴木達雄は恭二を引き留めようとするが、恭二は事務所を退所してしまう。映画の撮影が進み、クランクアップの日、いよいよ映画はクライマックスを迎える。★★★★
『ファン』。まさかの真相に戦慄を覚えた。全てを語らず、ギリギリを攻めて、真相を悟らせるところが非常に巧い。
長い間、俳優の蒼生ちづるのマネージャーを務めていた坂田純一は若手の二葉にちづるのマネージャーを任せ、自らはピン芸人の古島和哉とアイドルグループの夢色キャンバスを務めることになった。しかし、古島が不倫スキャンダルを起こし、仕事を干されてしまう。そんな中、夢色キャンバスが念願の単独ライブを成功させるが、リーダーのアイノがファンから贈られた大きなぬいぐるみに仕掛けられた盗聴器によりスキャンダルが発覚し、僅か1週間で解散に追い込まれる。★★★★★
『いいね』。芸能人のSNSが炎上することは頻繁にあるようだ。また、一般人も含めて、SNS依存症に陥ることも多いようだ。たまに東京などで電車に乗れば、皆がスマホを凝視している姿を目にして、背筋が寒くなる。何時の間にか人間がスマホに支配されているのだ。将来、人間はAIに支配されるとか騒いでいる以前の話だ。この短編では、といった世相を背景にSNS依存症になったベテラン女優の運命を描いており、面白い。
若者たちから認知されていないことに気付き、危機感を覚えて、インスタグラムを始めたベテラン女優の石川恵子。コロナ禍の中、恵子が友人とレストランで食事する様子をインスタグラムに投稿するとたちまち炎上してしまう。それを知った芸能界のゴッドファーザーとの異名を持つ事務所の会長の桑原一騎は、恵子にSNSの使用を禁じるが、恵子は構わずにインスタグラムに投稿を続ける。★★★★★
『終幕』。中年女性が容姿端麗な若い男性を侍らせて、と言えば、あの某大手芸能事務所を思い出す。この短編のストーリーは大方予想がついていたのだが、その予想を覆す驚愕の結末が待ち受けていた。してやられたという感じが心地良い。
若い頃から苦労を重ね、多くの男性を騙して資金を集めて来た47歳の叶野花江は、7年前に容姿端麗な俳優の卵を集めたミュージカル『ボーイズランド』を立ち上げ、大成功させる。今では若手男性俳優の登竜門となった『ボーイズランド』のオーディションには多くの容姿端麗な若手俳優が殺到するまでになった。『ボーイズランド』に採用された俳優の中に少し背が低く線の細い22歳の中町壮太という俳優が居り、花江のことが好きだと言って、求婚する。突然の幸運に舞い上がった花江は壮太に『ボーイズランド』の主役の座を提供する。★★★★★
『相方』。ここに来ていきなりの人情噺に、思わず涙がこぼれた。コンプライアンスが叫ばれる昨今、お笑い芸人も容姿では笑いが取れず、苦しんでいるようだ。この短編にも書かれている通り、ネットが普及し、一般人が言いたいことを自由に発言出来るようになったこともあるのだろう。昭和から平成にかけての言いたい放題の毒舌漫才が懐かしい。
芸歴30年のミチオとノリオのベテラン漫才コンビ『ミチノリ』はコロナ対策で無観客の中、漫才を披露しながら虚しさを覚える。さらには、ハゲ、ブス、デブといった容姿で笑いを取るなとディレクターに注意される。以降、『ミチノリ』は漫才でもバラエティでもスベりまくる。特にネタを書き、『ミチノリ』を支えているのは自分だと自負しているミチオの落ち込み方は酷く、まるでそれを見ていたかのように30年間途絶えたことの無い励ましのファンレターが届く。★★★★★
『ほんの気の迷い』。まさか、そう来るとは思わなかった。アイドル俳優も第一線で活躍し続けるためには相当な無理をしているのだろう。
25歳の田中勇太は本来の自分を偽り、アイドル俳優の栗原翔真を演じていた。ある日、結婚を間近に控える姉から電話があり、新興宗教にのめり込んだ母親がいよいよおかしいと伝えられる。勇太には年子の弟がおり、兄の栗原翔真を利用し、女性を誑かすなど問題を起こしていた。★★★★
『娘は女優』。芸能人になるには実力よりも大きな運と努力が必要なのだろう。震災の被災地を舞台にするのは少々卑怯な感じもするが、心温まる短編だった。
三陸沿岸の小さな町で細々と村田サイクルを営む村田幹一は津波で妻を失い、11年の間、娘の皆愛と暮らしていた。2ヶ月前、皆愛が中学校の修学旅行で東京に行った時、芸能事務所の柊木にスカウトされる。少しずつメディアにも露出が増える皆愛だったが、幹一は娘を奪われるような複雑な気持ちを抱えていた。★★★★
本体価格820円
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ネタバレお久しぶりの佐方さん。
女性の立場で考えた時、どんなに憎い相手でも、貶める手段として自分の体を使うかな、とは思ったけど、それすら厭わないほどの恨みと憎しみがあったのかな、ともとれるなぁと思った。
ただ、相手をSNSで晒すことでもって制裁とするのなら、痴漢とか盗撮とか、そういうものでもよかったのかな、とは感じた。
あと、佐方さんが、被告人と既知の仲で、「こいつはそんなことするはずがない」から入ってるからこの流れになるんだろうけど、「こいつならやりかねないよなぁ」という気持ちが少しでもあったら、この展開は望めなかったのかもしれない。被告人はそこも分かってて佐方さんに依頼したのかな。佐方さんと一緒にいた時期の時分はそんなことしない人に見えたはずだ、と。
そのくせ色々言い淀んでたしな。言いたくない、みたいなこというし。ひどい立ち居振る舞いをしてたのも事実だったし。
とにかく被告人は悪いのはたしか。それは間違いない。……
と、読んで色々考えさせられるストーリー展開でした。佐方さん、次回作も待ってます。 -
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ネタバレ【再読】
「だって彼は殺されたんでしょ?」
葬儀の後、遺言の公開の場で一族の一人コーラが口走る。そして翌日、コーラは何者かに惨殺された。遺言執行人のエントウィッスルは事件に不吉なものを感じ、一族の者たちを訪ねていく。すると、誰もが経済的な苦境に立たされており、アバネシー家の当主だったリチャードの死を歓迎していたことがわかった。そこでエントウィッスルは、旧い知り合いであるポアロに協力を要請した。
調べを進めると、リチャードは死の直前にコーラのもとを訪れており、そこで何かを仄めかした可能性が浮上する。だがコーラの同居人ミス・ギルクリストは二人の断片的な会話しか耳にしていなかった。すると今度はギルクリストが命を狙われたため、ポアロはますます二人の会話に何かヒントがあるということを確信する。
ポアロは一族を屋敷に集めて観察をする中で、ようやく真相に辿り着く。
犯人はミス・ギルクリストだったのだ。コーラのコレクションの中にフェルメールの作品を見つけた彼女は、それを奪うためにコーラを殺害することを決意する。ちょうどそのタイミングでリチャードが死んだため、ギルクリストはコーラに変装して葬儀に参加、リチャードの死が殺人であったことを仄めかす。それは全て、その後のコーラの死をリチャードの死と関連づけるものだったのだ。
印象に残るフレーズの多いクリスティー作品の中でも、間違いなく上位に入る作品。外国人である利点をいつも以上にフル活用する抜け目のないポアロ。犯人であるミス・ギルクリストの動機とその豹変ぶりが恐ろしい。
唐突に登場する情報屋の存在がやや反則な気がしないでもない。
●名言
「過去はあなたのすぐそばにいて、『こっちはまだ片づいていないよ』と言う」
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シリーズ第6弾。
今回は、家業を継いだペットショップ店員、推しの炎上に悩む社員、飼い猫に前のように接することができない主婦、そしてとうとう心先生の回ですごく良かった!
千歳さんがいなくなった中京こころのびょういんではニケ先生が1人で頑張っている。
どこにも悪人がいなくてただひたすら猫といい人に癒され励まされるので好き。
心先生が奥さんを亡くし飼い猫のモコとの距離感も微妙な中、何を悩んでるのかと思ったら…それか!
それでも、前に進めて良かった。
千歳さんとニケ先生の言葉には飼い主たちへの愛があって切なくなる。
まだ続くようで嬉しい。
できたらニケの終わりの時なんて見たくないしこのまま続いて欲しいような。
ニケ、たくさんの猫たちが幸せであるといい。 -
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子どもの頃に不幸に見舞われた二人。その二人の人生を他者の視点から、まるで縁取りをするように物語がゆっっっくり進んでいく。
ブラックホールは、本体自体は小さいが、周りの物体や光をすべて闇に取り込んでしまい、側から見ると巨大な黒い球体に見える。まさに白夜行に出てくる二人が、もっと言うとこの本自体がブラックホールみたいだなと思った。
読み終わったあと、物語の重さもさることながら、本そのものの重さも体感としてのしかかってきた。850ページ。決して元気が出るわけでも、気持ちが軽くなるわけでもない。ただこの暗さを、黒さを、重さを、他の人たちにも体感してほしい。 -
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作中作品の女性が、みんなから随分遅れて携帯を手に入れ、ネットサーフィンして世間に慣れていく姿が、驚くほどリアリティーがある。怖すぎる。
個人的に作中作品その1の段階で気持ち悪すぎて読書をやめてしまいそうになった。作中作品だと最初から言ってくれたら良かったのに。(幸い頑張れたけど!)
梨帆はPMSの頭痛に悩まされている。梨帆は以前第二編集部に所属していたが、再編されて消滅した。だから今更小説を送ってこられても困る。それは数年前に担当した犬を飼うという作品の作者からで、どうやら別の作品を完成させたようだ。
作品の内容は、電車に飛び込もうと最後のオシャレをして家を出たター坊(50歳女性)が、道で25年ぶりの女子校時代の同級生に会う。携帯を持ってないと言ったら、一緒に買いに行ってあげるとついてこられ、買う。まだ小説を書いているのか訊かれる。
なぜ今になって送ってきたのだろう。7年も経っている。年末休みに入っていた。苦手な作家からランチに呼び出される。断ろうとすると死んじゃおうかなと言われる。仕方ない。
ター坊の夫は定年後嘱託で働いている。高圧的で家事は何もやらず、ほとんど会話もない。亡くなった義母は脳梗塞になるまでは良かったが、介護していたらどんどん不満が出てきたようだ。唐突に誤嚥性肺炎で亡くなった。
ター坊は毎日ネットサーフィンして過ごすようになった。夫のような元偉かったタダの人が世の中でみっともないマネをしているのがアルアルだと知る。結婚が失敗だったと思うようになった。小説を書く。
梨帆は子供を妊娠しようとしないことで離婚になった。3年前。そしてその後パニック発作が出るようになった。童話作家と結婚して双子を授かったニュースを聞く。
ター坊の書いた小説は最終選考まで残ったらしい。おかげで夫が何を言ってきても心折れず過ごすことができた。そして自分が夫の怒気を挫くことができることを知る。だけど賞に落ちたら元の木阿弥だった。
梨帆は出版したいと上に掛け合ったら、拍子抜けするほどあっさり通った。 -
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フィレンツェで起きた画家殺人事件。
ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の壁画。裸体を描くのが卑猥だとして、後から別の画家によって布の部分が描き足された。そんな時代の話。
書簡体歴史ミステリということで、本書はすべて個人的な手紙のやり取りからなる。読者は登場人物たちが交わすすべての手紙を見ることができ、神の視点から少しずつ情報を得ていく。
文書のやり取りで話が進んでいくからこそ、同じものを見て違う感想を抱くのとは逆に、同じ感想を抱いているのに、実は違うものを見ていたという行き違いが生まれるのが面白かった。
宗教観や画家としての信条によって、同じ言葉や出来事に異なる意味を見出してしまう。その思い込みが、すれ違いを生むのも興味深い。
「遠近法以上に確実なものはなく、本質的なもの、永遠なものはない」
写真の技術などもなかった時代。遠近法を発明することで、神と対等であるかのように現実を創造できる。「地上の無限」。
芸術家の苦悩や狂気、権力者たちの思惑。
過去に書かれたはずの手紙の中に生々しく残る痕跡を辿っていく、刺激的な読書体験だった。 -
Posted by ブクログ
2000年代、もしかしたらもう少し前、1990年代。子どもほしさに新生児を誘拐する事件が立て続けに起きた、気がする。よっぽど周囲の圧がすごくて耐えきれなかったんだろうなと若き私は思った。新生児が無事保護されて、その子がちゃんとケアされていた、という新聞記事を読んで悲しかった気がする。最近は、生殖医療が発達したし、人の生き方も家族の在り方も、夫婦の方針もいろいろだからそういう話は耳にしない、気がする。
きっとそんなのもモチーフになっているんだろうなと思いながら読んだ。
障碍者について語るべき知見も経験もないので、偉そうに語れない。だけど胸に来る作品でした。
どこだったか覚えていないけれど、そして明確な表現は覚えていないけれど、聡子が民恵に子どもを引き取るように説得したと説明する場面で、かんたんに言えないことだから、その後のことも引き受けるつもりで説得した。的な表現があって、そこは深く共感した。
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