【感想・ネタバレ】YABUNONAKAーヤブノナカーのレビュー

あらすじ

文芸業界の性、権力、暴力、愛。戦慄の長篇
性加害の告発が開けたパンドラの箱――

MeToo運動、マッチングアプリ、SNS……世界の急激な変化の中で溺れもがく人間たち。対立の果てに救いは訪れるのか?
「わかりあえないこと」のその先を描く、日本文学の最高到達点。

「変わりゆく世界を、共にサバイブしよう。」――金原ひとみ

文芸誌「叢雲(むらくも)」元編集長の木戸悠介、その息子で高校生の越山恵斗、編集部員の五松、五松が担当する小説家の長岡友梨奈、その恋人、別居中の夫、引きこもりの娘。ある女性がかつて木戸から性的搾取をされていたとネットで告発したことをきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の日常が絡みあい、うねり、予想もつかないクライマックスへ――。

性、権力、暴力、愛が渦巻く現代社会を描ききる、著者史上最長、圧巻の1000枚。
『蛇にピアス』から22年、金原ひとみの集大成にして最高傑作!

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

同じ事でも、人や視点が変われば違って見えてくる。
章ごとに、それぞれの悪行、言い分、正義感を語っているのがおもしろい。後味は微妙な感じだが、とても良かったです。

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2026年10月08日

Posted by ブクログ

同じ出来事でも、誰の目を通すかでこんなにも見え方が変わる。

似た考えを持っているように見えても、少しずつ違う思考や価値観。
それぞれが現代的な思想の中で絡まりながら、「藪の中」でもがいている感じが面白かった。

文学は着地がすっきりしなくて苦手なジャンルだけど、本が分厚いから内容も濃くて面白くて、読んでるだけでカロリー消費するので読み応えに大満足。

読み終わったあともふと思い出して、「この出来事がこの本の中で起きたら、みんなどう考えるんだろう」と想像してしまう。
しばらく頭に残りそうな一冊。

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2026年09月30日

Posted by ブクログ

金原ひとみさん、どうしてこんな文章を書けるのだろう。ただ圧倒された。自分の中の複雑な感情が言語化されて浄化されていく感じがした。私は友梨奈のように行動はできない。でも少しでも彼女のような強さを持てたらなと思った。

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2026年09月23日

Posted by ブクログ

著者本人がこの作品について紹介している映像を見て興味を持った作品。相変わらずの内面描写の濃さよ。よくこんなにたくさんの登場人物の関係性を管理し内面を描き分けられるなと、感嘆しながら読んだ。人間心理の解像度が高い。おそらく著者自身とはかけ離れた登場人物もいるだろうに。凄まじい観察眼と解釈・分析力だ。

本作は出版業界における性加害を巡る物語(と括って良いかいささか迷う)。出版社の社員、作家、その子どもたち、恋人、作家になれなかった作家志望の者、など、様々な人物が出てくる。一章ごとに違う人物が語り部になり、その人物の生活や心の内が描かれ、ある事件があぶり出されてゆく。

この事件とはなにかというと、編集者が作家志望の女子大生に対して過去に働いたセクハラを、何年も経って本人(元女子大生)に暴露され、世間を巻き込み大炎上するというものだ。表に見えるのは言葉にするとそういうことになるのだが、立場や思想の異なる登場人物を通して様々なことが見える。読者としては事象には反吐が出るものの、悪がなんなのかがわからなくなる。

女性である自分は、社会における性加害にはかなり関心がある。社会が成熟し、自身の認識も成熟し、それに伴いある日ふと過去に自身が受けた行いが性被害だったのではないか?ということに思い当たり、時を経て初めて傷つき悲しみ怒りが湧くという経験は、多かれ少なかれ女性は共感するのではないか。

一方で、SNSを使うことで人はすぐ訴え・訴えられることができ、それにより人はいとも簡単に社会的に抹殺される。自身の過激な思想には見知らぬ無責任な応援者がつき、ますます思想と正義感はよりシャープになり、自身は非寛容になる。

ラスト、加害者とされていた編集長の男と、この物語の狂言回しの役割だった著名女性作家は、それぞれショッキングなラストを迎える。章を重ねて様々な登場人物の内面描写を夢中で渡り歩くなかで、一瞬でもこんなラストを迎えるとは果たして予想していたか。否。

否?いや、していたかもしれない。

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2026年09月22日

Posted by ブクログ

凄まじい小説体験で、本屋大賞は「イン・ザ・メガチャーチ」がとったけれど、
金原さんの書くものには気迫がある。迫ってくる。
正義とは何か? こんなふうに書ける人ほかにいない。
大好きな作家のひとり。

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2026年09月14日

Posted by ブクログ

いやー、だいぶしんどかった。。というのが一言でまとめた感想。長岡友梨奈のシーンが特に息が詰まる感じがした。生きることがしんどそう。でも、自分のアンテナに引っかかる事に目を逸らす事なく、むしろ面倒な事に自ら突っ込んでいくその精神は尊敬する。しかし、自分は一哉に限りなく近い人種だと感じたし、それで幸せだと思っている。終始、とにかく息苦しいししんどかった

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2026年09月12日

Posted by ブクログ

自分が一生かかっても分かり合えないであろう人の気持ちを多少なりとも理解できたような気がする。
この作者は人生何周かしてるんじゃないかと思わせるほど、どうしてこんなにも人の気持ちが分かるのだろうかと、ただただ脱帽した。
この作品には人間に対する厳しさと優しさを感じた。

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2026年09月07日

Posted by ブクログ

481ページの長岡さんに助けられていたに鳥肌立つ。
腐っても文学の世界に浸かったプロフェッショナルだからこそわかる伏線回収。

大型の人は

おじさんの苦しみを書いていた。

息子に送ったメッセージは届かなくていい。
送ったことに意味があった

腹を空かせた猛者たち
やエッセイを読んできたから長岡さんは金原ひとみの投影で、娘との関係も度々出てきたものだった。

五松や、山横は主観の文が怖かった。
視点を変えると立体的に見えて面白い。

しごできの乃木さん
乃木さんの部分が1番読んでて気持ちよかった。

長岡口調、文章は読んでて長くて辛かった。

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2026年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

金原ひとみがインタビューで怒りの矛先と熱量と強度に共感できる人と出会ったときのうれしさ?みたいなことを言ってて、それだ〜〜〜となった
読もうと思うには気負いするようなテーマと強烈な装丁と厚みで尻込みしていたけど本当に素晴らしかった。圧巻だった。
わたしは完全に伽耶に割と共感することが多かったが、友梨奈のようや怒りを持つこともあるし一哉のように保身、結局身の回りの人間が幸せならいいと思ってしまうこともあるし、のように仕事も惰性でこなすようなところがあるから少しずつわかることが多い。だけはマジでわからんけどな笑
恵斗が友梨奈に共感するのを危ういなと思っている自分がいて、怒りや思想への共感ってなんなんだろうと思ったり。共感って感情にしか発生しないんだっけ?
読み終わったときおなかの中がぐわぁぁぁ〜って沸々と熱くなるのを感じた。こんなのはじめてだった。

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2026年08月30日

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この変化の激しい時代において、読まなければいけないという義務感すら感じた一冊だった。
年齢、性別を超えて同じものを見ているのに受け取り方が違っていて、それぞれに共感できる部分があるくらい描き方が細かかった。過激な正義感を持つ人物や時代の波に飲まれて静かな自殺をする人物、それらを支えようとする人貶めようとする人々色々な人がいて読みやすかった。それぞれの視点が上手く描かれていて、読み応えもありこの先も定期的に読みたいと思った。

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2026年08月21日

Posted by ブクログ

ニュースなどを見るにつけ、実社会でも性欲がかなりのドライバーになっている人(で、制御に失敗する人)がなんと多いことか。
その性欲基準、性暴力ありきの世界で、女が危険な目に遭わずにすむよう肩身狭く生きているのは、今も昔も大して変わらないように思う。本当に腹立たしいし、悔しいが。
「日本文学の最高到達点」とは思わないが、読ませる推進力がすさまじかった。
誰に自分を重ねて読むかは、人それぞれ。
2つの家庭の問題について、到達点からの振り返りが断片的だったように思うので、もう少し情報がほしいなとも思ったが、語り手の視点から考えると、それぞれのパートナーの深い感情は「藪の中」ということなのだろう。

このあと、『イン・ザ・メガチャーチ』と、立て続けに、ある程度の社会的地位を得て稼ぎはあるが人生にしくじった自覚のある孤独な中年男が出てくる小説を読んだ。いずれも少し下の世代の作家による、残念な中年男たちの描写は、まあまあ容赦ない。
中年は人生の成果が出揃ってくる時期なので、お金以外何も残っていない自覚がある人が「そういうあんただから、そうなってるんだよ」と突きつけられて、ゾッとする話にゾッとする。中年たちは、ただただ凍りつく以外に、しなやかに、血の通った人生を取り戻していくことができるのだろうか。

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2026年08月19日

Posted by ブクログ

面白かった。けれど、他人事でなさすぎて抉られるから二度と読みたくない。
尊厳をふみにじられた経験は当たり前にあって、けれど若い女性なら誰しもが経験することだからと、傷付かないために受け流して生きてきたけれど、それっておかしいよなと気付かされてしまう。気付いてしまうと気持ち悪さと過去を変えられない事実に発狂したくなる。
同時に自分の加害性も自覚した。
こういう小説が生まれてくれたことに感謝する。

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2026年09月19日

Posted by ブクログ

ちょっと、いやだいぶ怖い。ディストピアじゃないかと思ったけどもはや誇張でもなく現実に起きてることでもあり、ストーリーを見つめるとこういう要因があるんだろうな、とリアル性がある。

ハラスメント、ジェネレーションギャップ、男女(夫婦)関係、親子関係、、、現代社会の縮図がこれでもかとタブーのスクープのように描かれていて、なんだか自分にも思い当たるところが、現代社会において不適合な因果があるのではと考え慄きながら読み終えた。

この本は現代、未来への警鐘なようで救われない世界観でもあり、社会的暴力に加担しているような気もする。
人は個で苦しみ戦い、結果に抗えず可能性に期待できず、でもふとした時に前が見えてくる。誰も何もコントロールなんてできない。

時間が経てば時代が変わって社会が変わり、相互作用的にも人も「あたりまえ」も変わってくるわけで。
もっともっとAIが台頭してくることも関連するだろう未来の社会を見たいなと思った。
今よりもっとディストピアなのか、それは人間によって作り出された生きやすさの先にある息苦しさなのか。

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2026年10月11日

Posted by ブクログ

読んでいる間中、ずっと張り詰めた緊張があった。
長岡友梨奈は自分の中の正義に苦しめられていて生きづらそう、、って思った。
これを読破するにはエネルギーが必要!

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2026年10月11日

Posted by ブクログ

Twitterでよくみる諍いだけでも消耗するのに、これはそれを煮詰めて凝縮した濃い何かに感じた。
とにかく読むのが大変でしんどかったけれど、2026年の今よめて本当によかったともおもう。
世界もっと良くなるといいな、となんだかそう思った

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2026年10月11日

Posted by ブクログ

中盤まではなんだよ、どんな作家も揃いも揃ってジェンダーかよ、ポリコレかよと思いながら読み進めてしまったが、最後は圧倒されてしまった。やっぱりこの人作家として信頼できるよなーと。改めて。

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2026年09月26日

Posted by ブクログ

セクハラスキャンダルとか加害者の意図全く理解できず糾弾されるべき!と思ってたけど、そのサイドだとそんな見方になってるんやとか正義すぎてしんどい人がいるのもわかるし事なかれ主義になっちゃうのもわかるし、でも考えると憂鬱になってくる社会の問題について向き合い続けるのもしんどいし大勢が諦めちゃうから社会は動かないのかなと思ったりもするし自分の中にはこの物語にでてくるひとの気持ちがちょっとずつ入ってるなて思った

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2026年09月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

どの女の子も、男という存在に直接的か比喩的かはさておき、性的暴力を受けたことがあると思う。
過去の馬鹿にされるように、恋人に演技をしていた自分を思い出すと、いかに自分を蔑ろにしていたか。
友梨奈の怒りがリアルなぐらいにわかって、ひとりの女として、自身も友梨奈に盲目的に連帯していた。

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2026年09月14日

Posted by ブクログ

登場人物への嫌悪・哀れみ・同情・共感と色んな感情になった。どんどん面白くなって途中から一気読み

綺麗で高度な文章と、他者の洞察力と、天才だなと思った

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2026年09月11日

Posted by ブクログ

まさにヤブの中って感じで、一つの事件をきっかけにそれに関わる人たち、それぞれの主観を順に描いている。読み進めるうちに、同じ出来事を共感しているはずなのに、まったく違う見解を持っていることがあり、現実もこうなのかと愕然とした。
特に男女差で考えていることと感じていることの温度差がすごい。
これを読んでると本音と建前も出てきて、橋山の告発したわけも結局は自己保身、自己弁明じゃないかと感じた。
長岡がだんだん狂気を帯びて、自己破壊的になっていったのもなんとなく理解できるし、五松の頭ではわかっているつもりなのに、結局堕ちるとこまで堕ちないと止まらない、むしろ終わらないという悲惨さもすごかった。
それぞれの感情に没入できて、まさに藪の中状態だった。
最後にリコのエピソードでなんか救われた。これ木戸悠介でこのまま終わったら真っ暗だなと思いながら読んでいた。伽耶がどうなったのかが気になったけど、結局自分で乗り越えていくしかないよね。

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2026年09月10日

Posted by ブクログ

おそらく“me,too”に触発されて書かれた小説なのだろう。芥川龍之介の「藪の中」のように登場人物が複数人登場して、主に女性に対する性加害について、いろんな立場から語られていく。赤裸々な性描写もあり、予想しない展開となって、どきどきしながら最後まで読ませる小説だ。借りるのに半年以上待った甲斐があった。

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2026年09月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

出版社の性加害問題。女子大生の頃、作家志望美津は編集長木戸に、立場を利用して性的な関係を強要されていたと言う。
勇気を出して過去の苦しい経験を告発するが…

年齢、立場、考え方が違う様々な人々の視点で性加害問題を掘り下げていく。聞いていくとそれぞれに理由、事情があり納得させられてしまう。
告発者の意見を聞いていると確かに木戸は加害者だが、木戸の独白を聞くとこちらにはこちらの事情があり、単に搾取だけで行ったのでは無く、止むない事情のゆえボタンの掛け違いもあったのでは?と思う。

真実は何なのか?文字通り「薮の中」だ。

セクハラを目の当たりにした時、どうするのが正解なんだろうか。会社組織や人間関係において、事を荒立てたくない。だからと言って長岡友梨奈ほどにグイグイ行くのも果たしてどうなのか。
長岡友梨奈には長岡友梨奈の正義があり、たしかに正論なのだが、他の意見を聞く耳を持たず、相手を論破してしまうのが、見ててしんどい。娘伽耶をズタズタに傷つけても治まらない彼女の言動には恐怖感すら抱く。娘よりも大事な思想って何だ?身近な人すら幸せにできないのに、社会を良くする理想を訴えるなんて…。病んでいる。

正しさとは何か。正しくても、人を追い詰めても良いのか。それが自分を追い詰めていく事に気づかずに。
告発者も告発された者も誰も報われない。
ラスト、死によってさも理想のように長岡友梨奈が祭り上げられていく流れには危うさを感じる。本当の彼女、真実とは違うのに、こうして勝手に論調が作りあげられていくのか。恐ろしい。

こんなにも難しいテーマを芥川龍之介の「藪の中」の手法でもって、掘り下げている金原ひとみさんは、凄い作家さんだと改めて認識した。
片方の言い分だけでなく、両方の意見を聞き、総合的に判断する。多くの方の事情や状況を理解し、考えを聞く事が大事である、と学ばせていただいた。

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2026年08月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なるほど、まさに「藪の中」ですね。同じ出来事でも、語り手が変わればまったく異なる姿を示します。しかし、芥川の『藪の中』と異なるのは、「何が起こったか(真実)」ではなく、「それをどう評するか」が問われている点です。本作で扱われる出来事も、語り手ごとに評価が大きく異なっています。

特筆すべきは、過去の出来事が現在の価値観・基準で裁かれている点です。橋山美津に告発された木戸悠介の性加害は約10年前の出来事であり、橋山自身も当時は「被害者である」という意識を持っていなかったと述べています。自分が搾取されたという概念は、その後の10年間で形成されたものだといえます。

法の世界では「法の不遡及」により事後法で裁かれることは原則ありませんが、SNSの世界ではこの原則は通用しません。木戸悠介はSNS上で断罪され、すべてを失ってしまいます。非常に容赦がない世界です。

しかし、作中で長岡友梨奈が指摘するように、価値観や基準は常にアップデートされており、そのサイクルもどんどん短くなっています。現在の視点だけで誰が悪か、誰が加害者かと決めつける行為は、どこか空虚なのかもしれません。

とは言え、年齢層が近いからか、僕は木戸祐介には同情的。息子の越山恵斗は苦手です。そして、よく考えるとリコもとっても恐い気が、、、以下は、気になった登場人物についての考察です。

長岡友梨奈
間違ったものを徹底的に排除しようとする正義感は苛烈で、目についた者を次々と刺していく狂人のようにも見えます。当初は「言葉」を武器にしていましたが、後半では「暴力」そのものを武器とするようになります。敵と見なした相手には徹底的に不寛容である一方、木戸悠介への追及だけはどこか生ぬるい印象があります。それは長岡と横山一哉の関係が影響しているのかもしれません。男女が入れ替われば、長岡と一哉の関係も木戸と橋山の関係と同様、完全に黒だといえるでしょう。長岡友梨奈の正義は、個人の思惑が混入したダブルスタンダードな正義なのではないかと感じました。

木戸は長岡を「この女は世界平和を望みながら世界が滅亡する小説を嬉々として執筆する女だ」と、ある意味高く評価していますが、実際の長岡の言動を見る限り、それは木戸の買い被りであったように思えます。木戸は長岡に「俗世を俯瞰する冷徹な表現者」であってほしいと願っていましたが、現実の彼女はもっと泥臭く、狭量で、感情的でした。「言葉」で世界を変えるはずの作家が「暴力」を行使し始めた時点で、その歪みは限界に達していたように思います。

木戸悠介
現在の価値観で見ても、彼はそこまで悪人とは思えません。アップデートが追いついていないものの、そのことに自覚的である分、五松武夫よりも善良だといえるかもしれません。自らが裁かれる中で、長岡だけは「本物の表現者」であってほしいと願う文学的ロマンを捨てきれない姿は、哀れみすら誘います。

加害者と断じられる一方で、木戸は離婚した妻や妹夫婦に金銭的に搾取され続ける被害者でもあります。しかし寄生者たちは、木戸が性加害者と告発された途端、容赦なく非難し切り捨てます。「過去の恩恵」を簡単に忘れる妹夫婦、「薄っぺらな正義感」の息子。木戸は家族に恵まれず、やはり哀れだと感じます。

五松武夫
徹底した小市民であり、性欲と利己主義だけで動いています。スケールの小ささゆえに悪人というより「ただの愚者」。哀れというより滑稽な存在です。

越山恵斗
自分の感性を根拠なく信じられるのは若者の特権ですが、底の浅い正義感と処罰意識で行動しており、父親である木戸への言動は非常に冷酷です。現在はいかにも正義側の越山恵斗も、10年後には断罪される側に立たされている可能性があります。

長岡や木戸には人間的な弱みや痛みが見えます。長岡の「狂った思想」、木戸の「古いロマン」、妹夫婦の「世俗的な欲」も、良くも悪くも人間的です。しかし越山恵斗だけは、中身がスカスカのモンスターのように見えます。SNS世代のクリーチャーといえる存在です。

リコ
エピローグともいえる短い最終章の語り手であるリコは、つかみどころのない人物です。ラストの「自分を責めないで塞がないで口を閉じないでもっと自分を信じて立ち上がらなくてもいいでも崩れ落ちないで」という言葉は、現代を生きる人への応援歌のようにも聞こえます。しかし、その直前でリコが長岡と同じ「無敵メンタル」を自認していることを踏まえると、どこかモヤモヤします。「無敵メンタル」から発されるエールは、一種の「正義の押し付け」にも見えます。長岡友梨奈という怪物が死んだあと、リコという「次の怪物」が誕生したのかもしれません。

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2026年07月26日

Posted by ブクログ

2026/6/14
ボリュームもすごいし、内容もとても重い。
それぞれの登場人物の心理がとても細やかに表現されていて、共感したり、嫌悪を感じたりして読んだ。
特に、悪を絶対に許さない作家の友梨奈の、読点を打たずに一気にまくしたてる文章には、勢いが凄すぎて笑ってしまった。

私は友梨奈の彼氏の一哉が、一番自分の考え方に近いと感じたけれど、世のおじさんたちは木戸の章に共感する人が多かったんじゃないかと思う。
全くそんなつもりはないのにハラスメントだ、搾取だ、とある日言われてしまう恐怖。

誰が悪くて、何がダメなのか…
タイトル通り、答えは藪の中だ。

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2026年08月20日

Posted by ブクログ

「蛇にピアス」は2008年か。あの小説は衝撃だった。金原ひとみの著作を手にするのはあれ以来。キャラクターの視線から見える世界の復元力、すごく強いイメージを喚起する筆力は流石。ただ、読んでてずっとヒリヒリと痛い感覚があった。登場人物の誰も好きになれない。最後の最後に少しホッとした気もしたが、その頃には気持ちは疲れ果ててた。

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2026年10月10日

Posted by ブクログ

語り手が変わると見え方が変わりどれが真実なのかわからなくなる、よもや一つの真実なんてないのではないか…。そんな芥川龍之介「藪の中」を意識した構成ではあるが、いやしかし生易しい謎解き物語ではなかった。書き手も読み手も登場人物も、ズタズタになりながらイバラの道を最後までたどり着く。なかなかにしんどい読後感。金原さんの、怒りがベースにあるのだろう強く澱みなく逃げ場のない文体一つ一つが圧巻であり、受け手にもパワーがないと倒れてしまいそう。クズ人間も多く、性描写を含むさまざまなシーンに絶望的な気分にもなる。そんな中で、私は友梨奈と一哉の甘やかな日常の描写にホッとしていた。「あ、とスマホの通知に反応して溢れた言葉に一哉がうん?と反応する。彼は私の感情や意思を取りこぼさない。取りこぼされ続けてきた感情と意思が彼によって掬われるたび、私は胸の中でポップコーンのように小さな何かが爆ぜるのを感じてきた。私は自分が隅々まで感知され、正確に回収されることに歓喜する」。こんな幸せを守る生きようもあったろう。けれど友梨奈は友梨奈らしい結末へ向かっていく。

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2026年10月08日

Posted by ブクログ

こんなに読むのがしんどかった本久しぶりだった。
誰かがばったばった殺されるとか、グロいとかそういうことではなく、ずっと心臓を握り潰されている感じ。
呼吸が上手くできなくなりそうな。
でも読むのをやめたいとはならなくて、
休み休み読みました。
こんなにもハッピーエンドから遠くてじっとり湿ってる気分になる作品なのに、最後まで読めてよかった……うん……よかった…と噛みしめた作品でした。

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2026年09月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み進めるたびにどんどん心がざわついて嫌な気持ちになっていくのに、これからどうなるのか、最後はどう終わるのかが気になって一気に読んでしまいました。

最後のリコちゃん視点が1番フラットな目線で世界を見てて、将来が明るくて周りと一緒に幸せになっていけると感じて終わりは穏やかな気持ちでした。
ただリコちゃんの思考回路も結局は今の社会に求められている故の気もして、混沌とした世界のままならなさ、キャラクターたちの様々な感情に心を動かされました。

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2026年09月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

感想むずい。
文体が回りくどくて読むのしんどかった。
登場人物たちが代わる代わる一人称で語られていくけど、どれもちょっとずつ分かるなって思ったのと、正義すぎてしんどい人とか、結局諦めることしかできないよねっていう虚無感とか、理解はできるよ

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2026年09月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ある女性による男性編集者の性加害の告発を発端に、色々な立場から語られるストーリー。
加害者と言われる人にもその人なりの見え方があり、それが別の視点からだとまた違って見えてくる。
個人と社会、過去と現在、時代によっても正しさが違ってくるということがはっきり突きつけられる。
また、SNSによる拡散も今の社会ではよくあることだが、それも物事の一部だったり捻じ曲げられていたり…というのも実感した。

色んな視点があり、それぞれの考え方があるというのは理解した上で、中心人物である作家の長岡のパートを読むのがめちゃくちゃしんどかった…。
あんなに叩きつけるような攻撃的な話し方するの、本当無理…。
本人はそれが正しいと思い込んでいるから救いようがなくて。
一哉や周りの人間がどこに惹かれ、なぜ一緒にいられるのか不思議。
私なら即距離置くなー、と。

金原ひとみさんの小説ってすごくエネルギッシュなんだけど、その分読むのに気力が削がれるというか。
ボリュームもあったので、読み切ったときは「疲れた…」がまず最初にきてしまった。
ストーリー自体は面白かったが、登場人物が多くあちこちで繋がっていくから、読んでいるうちに個々のエピソードが薄まってしまった印象。

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2026年09月25日

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