お笑いをやったことのない人間が到底書けるフィクションではない。読み始めた時は、この作品が「文学」の賞を取っていることに疑問だったが、読んでいくとその理由がわかる。自分の文学に対する視野がまた広がったと感心させられる。
語り手の思考回路を見れる我々読者からすれば、語り手がなぜ漫才をやっているのか、お
...続きを読む笑い、お笑い芸人が好きなのかが不思議なくらい、徳永は考え事が多い。
先輩の神谷さんは、そうそう見かけない異常な人間だ。けれど理解できる。むしろ人間らしい。我々が偶然身につけられた「常識」を偶然身につけられなかっただけ。そんな純粋な神谷さんが歳と共に狂ってしまっただけ。
真城さんの存在は、言葉にするのが難しいが、非常に良い隠し味のようなものだった。遠回しな例えをすると、「もしこの人が自分と同年代で未婚なら真っ先にナンパしていただろうな」と思えるくらい好みの40、50代の女性に対して感じる哀しさに近い。届かない場所にいるはずなのに、もしかしたら自分にも勝機があったかも、と言う世界線を妄想して哀しくなるのだ。