【感想・ネタバレ】細雪(上)のレビュー

あらすじ

大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。

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人間模様
 久しぶりに面白い小説だったと云っては何だけれど、さう感じたのは正直な感想で、実際すぐ『細雪』が気に入ったのだった。
 上巻は、雪子の縁談を軸に様々な出来事が起る。本家の鶴子を除けば、幸子、雪子、妙子の三姉妹の行動と心情がそばから目に見えてくるやうで、また大変愛ほしく、多幸感がしてくる。そしてこれは決して架空事ではなく八割方ほんとうの事であるのを知ってからは、佐伯一麦の『ノルゲ』を読んだ時と同じく、現実世界の柔和や人間模様が身に沁みた。こう御膳立てするのも今更可笑しいやうだけれども、名作の名に似つかはしいと思った。

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2025年10月07日

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面白い。三女・雪子の縁談を軸に蒔岡家の人々の会話と心情がつらつらと描かれている。旧家ゆえか相手側の下調べは怠らず、及第点かと思いきや雪子と反りが合わずに破談。逆も然り。

これでは結婚など遠いぞと呆れるのだが、四姉妹(主に幸子・雪子・妙子の三人)の互いを思いやる故の躊躇いや気遣いを思うと、憎めない。この辺りは谷崎潤一郎一流の筆致ゆえか。

第二次世界大戦開戦の気配を漂わせながら上巻は終わり、雪子は東京に向かう。旧家の娘として、現代女性として、雪子は如何に自分の身を立てるのか。中・下巻が楽しみである。

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2025年09月26日

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時代が違うとはいえ、人生について考えさせられる。雪子のお見合いでは、本人よりも家が重要視され、周りの配慮がすごいので、この時代に生きていたら生きにくかっただろうなと思う。兄弟姉妹は上から順に結婚していかないと、下が結婚できないという何とも言い難い境遇である。
阪神間を舞台に美しい関西弁でのやり取りは、情景がはっきりと浮かんでくる。

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2025年08月27日

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ネタバレ

控えめに言ってこれは日本文学の最高傑作です。谷崎は痴人の愛から入り、春琴抄、鍵、刺青、秘密等の短編など、学生時代に読み漁ってきましたが、この細雪は長いことを理由にずっと見て見ぬ振りをしていました。が、幸いにも仕事上の都合で余暇時間が少しできたので、せっかくなら集中して谷崎の大長編に浸ろうとしたのであります。
上巻の半分ほどページを捲ったところでしょうか、その頃にはもう谷崎の世界にどっぷりと浸かっており、肝心の仕事が手につかないほど頭を支配されてしまっているのでした。これは文学作品を嗜んでいるとよくあることで、頭が作品世界に引き込まれてしまい、ひどく現実が生きづらいよう感じてしまう、そういう悪魔的な作品がたまにあるものです。この細雪も例に漏れず、ページを捲る手が止まらん、ふとした時には残りのページ数が少なくなっていることに気づき寂しさを覚える、そんな体験を通勤の電車に揺られながらしていたのであります。

ここからは少々話の中身にも触れてしまうのですが、上巻の半分ほど行ったところのシーンでしたでしょうか、本家の庭の描写をするところがあります。複雑な庭の構成物の細部の描写、隣家との関係等を、登場人物の雪子、幸子と絡めて説明するシーンですが、そこに谷崎の真骨頂を感じ、技術の素晴らしさに胸が締め付けられる思いをいたしました。
さて、まだ上巻しか読み終わっていないだけの感想文ですが、これからの中、下巻も谷崎の真骨頂であるストーリーの面白さを期待して読み進めていこうと思います。

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2023年01月28日

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蒔岡家の四姉妹が生きた戦前の関西での日々。
なかなかまとまらない三女の縁談など、静穏な暮らしの中での出来事が流麗な文体で綴られる。

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2022年11月03日

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文庫版、上中下合わせて1000p超
ドラマの脚本の様な淡々とした筆致でここまで読ませられるのかと驚愕。
描写が美しい、言葉が美しい作家は巷に溢れているが、なにより本作は、というより谷崎は日本語が美しい。
特にこの『細雪』は谷崎の到達点だと感じる。

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2022年10月19日

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四姉妹の日常を覗き見ているようで面白かった。
姉妹とは今も昔もその在り方は変わらないのだろうか。自分たちと重なる場面も見受けられ、懐かしさを覚えた。

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2022年02月22日

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あらすじ
1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)
春までの大阪の旧家を舞台に、4姉妹の日常生活の悲喜こもごもを綴った作品。阪神間モダニズム時代の阪神間の生活文化を描いた作品としても知られ、全編の会話が船場言葉で書かれている。上流の大阪人の生活を描き絢爛でありながら、それゆえに第二次世界大戦前の崩壊寸前の滅びの美を内包し、挽歌的な切なさをも醸し出している。作品の主な舞台は職住分離が進んだため住居のある阪神間(職場は船場)であるが、大阪(船場)文化の崩壊過程を描いている。
感想
没落商家の四姉妹、ある人からフランス語で発行された本をよんで描写が良かったと言われ日本語版を読んでみた。時代背景が違いすぎるが今も昔も
姉妹は変わらないかなって思う。

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2021年08月27日

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随分前から積読してあった本です。
何度も途中で挫折してこれは大人になったら面白さがわかる本なのか(十分大人なんですが)と思ったら『世界は文学でできている』で楊逸さんが中高生にお薦めしていたので、慌てて読んでみました。
読んでいるうちに、だんだん面白くなってきて、読むスピードが上がっていきました。


『細雪』というタイトルですが、雪の降る場面はどこにもないそうです。
昭和十年代の大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子、そして幸子の娘の悦子の五人の女性の物語です。
大変雅やかな文章です。
三女の雪子は姉妹のうちで一番美人ですが、縁談がまとまらず、三十歳を過ぎ独身で、幸子夫婦の世話になって見合いを繰り返しています。
妙子も独身ですが、妙子は奔放で、若い頃駆け落ちのようなことをしたことがあります。
鶴子だけは東京に住んでいます。


京都での春のお花見の場面が美しくなんとも印象的でした。
p149より
「それはこの桜の樹の下に、幸子と悦子とがたたずみながら池の面に見入っている後姿を、さざ波立った水を背景に撮ったもので、何気なく眺めている母子の恍惚とした様子、悦子の友禅の袂の模様に散りかかる花の風情までが、逝く春を詠歎する心持を工まずに現わしていた。以来彼女たちは、花時になるときっとこの池のほとりへ来、この桜の樹の下に立って水の面をみつめることを忘れず、且つその姿を写真に撮ることを怠らないのであった」
P150より
「忽ち夕空にひろがっている紅の雲を仰ぎ見ると、皆が一様に、「あー」と、感歎の声を放った。この一瞬こそ、二日間の行事の頂点であり、この一瞬の喜びこそ、去年の春が暮れて以来一年に亘って待ちつづけていたものなのである。彼女たちは、ああ、これでよかった、これで今年もこの花の満開に行き合わせたと思って、何がなしにほっとすると同時に、来年の春も亦この花を見られますようにと願うのであるが、幸子一人は、来年自分が再びこの花の下に立つ頃には、恐らく雪子はもう嫁に行っているのではあるまいか。花の盛りは廻って来るけれども、雪子の盛りは今年が最後であるまいかと思い、自分としては淋しいけれども、雪子のためには何卒そうあってくれますようにと願う。正直のところ、彼女は去年の春も、去々年の春もこの花の下に立った時にそう云う感慨に浸ったのであり、そのつど、もう今度こそはこの妹と行を共にする最後であると思ったのに」
以下中巻に続く。

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2021年02月23日

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上流の家系に生まれた4姉妹の物語。
上から鶴子、幸子、雪子、妙子で、主に次女の幸子視点で語られる。
三女の雪子が齢30にしていまだ未婚であり、家族のつてで縁談(お見合い?)を組んではいるものの、なかなかまとまらずにいる。
雪子は無事に嫁げるのか?が物語の主軸でしょうか?

雪子は家族や姪っ子とは快活に話せるのだが、一歩外へ出てしまうと、他人と話す時に必ずしどろもどろになってしまう。本文には買いてないけどコミュ障である。
自分の意見を積極的に言うタイプではなく本当はいやなのに我慢して何も言わない、と言うシーンが多かった(そのせいで家族との意思疎通にたまに齟齬がでる。)

自分は性別は違いますが、雪子のこのはっきりしない性格に近いものを感じ、危機感を覚えました。中巻、下巻も楽しみです。

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2021年01月06日

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鶴子、幸子、雪子、妙子
の4姉妹の話

格式高い家柄だった蒔岡家が衰退していく中でのドタバタ劇
みたいな
雪子の子どもの頃まではある程度豪華な暮らしができていたけど妙子はその暮らしを知らないという背景がある

題名から雪子メインかなと思いきや、案外妙子が1番話題になっていたような
あと、幸子の夫の貞之助視点で語られる場面が意外と多かった

印象に残る場面はたくさんあった
・ロシア人との食事で、ロシア人に呼ばれて行ったのに、家族全員で待っていないし、料理も出てこないのを蒔岡家の人達は日にちを間違えたと思う場面
・幸子が流産して、その日を思い出して涙する場面
・幸子と貞之助が2人で旅行に行った際のとてもロマンチックな描写

あと、最後は下痢で終わるんかいってツッコミたくなりました

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2020年11月15日

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ネタバレ

谷崎は敬遠しがちなんですが、みんな細雪面白いって言うから(?)、朝ドラみたいだよと言われたのを契機に手に取りました。朝ドラみたい…!面白い…!全然クセがなくて、これは好きかも笑。元祖「あの子は貴族」だと思った。
太平洋戦争中に執筆して批判されるのもわかるが、これは在りし日への懐古と、精一杯の軍国主義への抵抗だよなあとおもいつつ読みました。途中途中不穏な形で入る情勢も、実際にこんな感じでみんなおそるおそる、だったのだろうし。

自分はずっと関東にいて、親も標準語しか喋らないので、言葉がどれだけ古い感じ・お上品な感じがするのか肌感がなくて、悔しい〜〜〜
雪子の「ふん」という返答どういう感じか分からなくて、どういうかんじ?!てのが一番気になったこと笑。
京都出身の人に、どんなどんな?て聞いて実演してもらって笑、確かに彼が「うん」というとき、「うん」と「ふん」を足して2で割ったような感じだと思った。私はうん!って力強くう・ん、なんだけど、もっと柔らかい感じ。もっとこれから耳を澄ませて、「うん」というのを聞こう。

あと聞き忘れたので聞きたいのは、娘さん(とうさん)、こいさんの肌感!

雪子の目元のシミも気になる。。生理周期に合わせて色が濃くなったり薄くなったりするシミ。チャッピー曰く、「「結婚=妊娠・出産」によってホルモン環境が安定すれば症状が軽減するというのが、当時の医学的な考え方でした。」、「昭和初期の社会では、未婚女性の不調は「未婚のままでいること自体が身体や精神に悪い」とみなされることが多く、医者もその価値観を共有していました。」というのも納得。

京都にお花見行くシーン好きだった。着物も決めて、どこで何して、、ってまさに上流階級〜という感じで。

あとお花を描写するシーンも好きだったなあ。
「おや、何処かで丁子が匂うてる。ー」(p162)
沈丁花、いい匂いするよね…おりしも今は金木犀が良い匂いする季節に。

蘆屋の描写も素敵
…南側の方には、芝生と花壇があり、その向うにささやかな築山があって、白い細かい花をつけた小手毬が、岩組の間から懸崖になって水のない池に垂れかかり、右の方の汀には桜とライラックが咲いていた。…ライラックは今雪のように咲き満ちて、芳香を放っていた。そのライラックの木の西に、まだ目を出さない栴檀と青桐があり、栴檀の南に、仏蘭西語で「セレンガ」と云う灌木の一種があった。(p.170)

「悦子それ見てたら、その花の中に吸い込まれそうな気イするねん」「ほんに。ー」…
ーいかにも、そう云われてみれば、この床の間の罌粟の花のせいが確かにある。…取り敢えずその花を下げたあとへ、水盤に燕子花と姫百合とを配して持って来たが…少し季節には早いけれども、香川景樹の嶺夕立、ー夕立は愛宕の峰にかかりけり清滝河ぞ今濁るらん、の懐紙を床に掛けて貰った(p.190)

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2025年10月10日

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名作の再読を始めようと思う。
「ふん」は「うん…」と読み替えなければいけないことくらいしか覚えていない笑
ものすごく新鮮。

あまりに前近代的で、インドのベンガル地方の話を読んでるような気がして眩暈がする。昔はそんなこと思わなかったから、受け入れてだんだろうなと思う。
大人になって読む戦前戦中の文豪の小説、クセになりそう。

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2024年11月03日

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さて、次は谷崎潤一郎!
ということで有名な細雪から。
なんと上中下巻の長篇だ。
読み続けられるかと思いきや、面白く読めてるよ。
こいさん、あんちゃんや大阪弁か船場言葉か分からんが良い感じだ。周りにいる関西人が話す言葉とは異質で品が良い。
次はどんな展開に成るのか楽しみ〜

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2024年10月09日

Posted by ブクログ

昭和初期の婚活事情を面白く読ませてもらいました!
谷崎潤一郎の他の作品に比べても非常に読みやすかったです!

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2024年08月25日

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題名は知っているが、読んだことがない名作の代表。
だが、読まないのは勿体無い。

谷崎潤一郎が、「源氏物語」全現代語訳という大作業を行わなければ、決して生まれなかった作品。
現代に「源氏物語」の「もののあはれ」を甦らせる試みだ。
この大作に取り組んでいた最中に、太平洋戦争が勃発、谷崎は発表の場を失う
しかし、彼は、発表する可能性があるかどうかもわからない作品を、戦時中、描き続けたのだ。
本作には、戦争の影は全く無い。
そこに、谷崎の矜持がある。

読んだ、という人に、本当に読んだかどうか確認する方法がある。
結末はどうだったかを尋ねることだ。
女主人公の一人、雪子が、華族と見合いをするために東京に向かうところで終わる、というのが普通の回答だ。
だが、それだけでは、あらすじを読んだだけという可能性もある。
確認すべきなのは、見合いを行うために、東京に向かう雪子の汽車の中での様子だ。
この大作の最後の一文は何だったか、ということだ。
現代に蘇った「源氏物語」ともいうべき、絢爛たる絵巻の最後は次の一文で終わっている。
「下痢は、とうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからも未だ続いていた」!

なんと、スカトロジー(糞尿譚)で終わっているのだ。
ここに、大谷崎の不適な笑いと、揺るぎない自信を感じざるを得ない。
その笑みに稲垣足穂の面影を思ってしまうのは気のせいだろうか。

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2024年07月11日

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「若草物語」を読み終わったところで、そういやこれも四姉妹の話だったなと、本棚の奥にいたのを引っ張り出してきた。
意外にもさらさら読める。
何より東京生まれの谷崎が、ここまで関西人の、特に若い女性の趣味や性格を詳細に把握できていたことに驚いた。
松子夫人というモデルがあるにしても、まるで神の視点を持っているかのようにありありと描き出すのだから不思議だ。
新潮版は注釈も素晴らしく、昭和初期の感じをこまかく想像できて楽しい。

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2023年06月09日

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初めての谷崎潤一郎。
昭和初期から第二次世界大戦勃発前まで、明治時代より続く上流階級の一族が衰退を辿りながらも、その生活様式や価値観を失わず生活する四姉妹の様子が、優雅で実に美しい。
四姉妹が京都で花見をする場面は、目の前に満開の桜が咲き誇る景色が見えるようで、その文章の美しさに浸ってしまい、文庫の紹介文に書かれていた小説絵巻とは良く言ったものだと感心してしまう。
結婚話がなかなか決まらない大和撫子を絵に描いたような三女雪子、自由奔放な四女妙子の行方が気になる中巻下巻。

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2023年04月30日

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大阪の旧名家だった、四姉妹の日常を描いた始まりの本。 鶴子(長女、本家、既婚)、幸子(次女、既婚)、雪子(三女、未婚)、妙子(四女、未婚)で、主に出てくるのは、次女〜四女。 事件といえば、雪子の縁談が破談になるくらいで、あとはお金持ちの旧家らしく、優雅な京阪神ライフが描かれてるのだけど、人情味ある話なので、飽きなく読ませてくれます。 文章が綺麗で、いつの間にか自分も四姉妹と一緒に昔の京阪神にいる気持ちになってしまう。

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2022年12月01日

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ネタバレ

大阪の商家・蒔岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子の人間模様を描いた小説。日中戦争勃発前後の時代ながら、時局の影もほとんど感じさせず、幸子は二人の妹の結婚に頭を悩ませつつも、のんびりとした日々を送っている。

長い小説ではあるが、なにかと事件が起きるので飽きずに読める。ときに可笑しく、ときに感傷的なホームドラマ。

また、(上流社会のものではあるが)当時の風習や価値観などがうかがえるのが興味深い。昔の人はのんびりしていたらしい。見合いの前に興信所に頼んでかなり詳しく相手方の身元を調べていたり、引っ越しの見送りに百人近く人が来ているのに驚いた。新潮文庫の注釈が詳しいのも良い。

「何しろ本家の連中は昔風で悠長だものですから。」(p.79)

上巻は雪子の見合いを中心に、妙子の弟子のロシア人家での食事会、京都への花見旅行、鶴子一家の東京転勤、幸子の流産など。

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2022年09月03日

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 上巻では物語にこれといった刺激がなく、ダラダラと話が進んでいく。しかし会話文に船場言葉を入れることで、間伸びした展開を優雅な落ち着きのあるものへと昇華させている。また、会話文以外の文体も明解かつリズミカルな、情緒的な構造となっており、読むにつれてどんどんと引き込まれていく。
 上級国民のはんなりとした生活美に、期末レポートを書くことを忘れさせる、そんな作品。

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2022年01月15日

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昭和天皇に献上され読まれたという大衆小説。

現代であれば芥川賞を受賞するタイプの作品。
そっくり百年間時計の針を戻したような、市中のとある旧家を描いた物語。

もったいつけたような表現が多いが、それが余計に登場人物の心情をようよう描いている。面白い。

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2023年02月23日

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『刺青』、『痴人の愛』と並ぶ谷崎潤一郎の代表作にして、近代の日本文学史上の代表作としても上げられる長編小説。
本書は、上中下巻の3巻構成の上巻です。
1900年前半の大阪、神戸、いわゆる阪神間モダニズム時代、大阪の旧家を舞台に、四姉妹の日々が綴られた作品となっています。
大阪の上流階級の生活様式と、終盤には太平洋戦争開戦によりその文化が滅びゆく様が描かれます。

本作は『中央公論』に掲載されましたが、第一回、第二回掲載時、軍部から"内容が戦時にそぐわない"との理由により、以降の掲載をストップさせられます。
徳田秋声の『縮図』同様、戦時下の思想・言論統制の対象となってしまった作品です。
ただ、執筆は続けられ、上巻は私家版として書き上げられ、友人や知人に配られます。
正式には戦後、1946年に中央公論社から出版されますが、GHQによる検問の結果、改変された版になりました。
ただ、本作は出版後ベストセラーとなり、世界各国で翻訳され、谷崎潤一郎は数多くの賞を受賞、ノーベル文学賞の候補にも何度も名前を連ねることとなります。

大阪の上流階級の家"蒔岡家"が舞台です。
本家が大阪にあって、蒔岡家の長女「鶴子」は、婿養子で蒔岡家に入った夫の辰雄とその子どもたちと住んでいます。
分家が蘆屋にあり、次女の「幸子」と、こちらも婿養子で蒔岡姓である夫の貞之助、娘の悦子が住んでいます。
また、三女の「雪子」、四女の「妙子」がいて、この二人は未婚で、本家と分家を行き来しています。
上巻では、雪子のお見合いの話が主な縦軸として展開されているように読めました。
妙子の恋人であったり、本家の引っ越しであったり、蒔岡家に起きるドタバタが書かれていて、時にはユーモラスに感じる場面もありました。
色々なことがドラマティックに展開され、テンポが良く、昭和初期に書かれた文学ですが、一般文芸のように楽しんで読める作品だと思います。
大阪の上流階級の斜陽が描かれますが、深く考えずに娯楽作品として読んで問題ない内容だと思います。
また、谷崎潤一郎といえば、耽美的な作風の印象もあるのですが、本作は今の所そういった感じはなく、四姉妹の連続ドラマが繰り広げられる作品でした。
クセが無く、世界中で一般的に愛読されているというのもうなずける内容でした。

上巻ラストは元の木阿弥という感じで終わります。
中巻も引き続き楽しみです。

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2021年10月06日

Posted by ブクログ

俄然、おもしろい、うまい。ま、当たり前なんだけど。大作家谷崎潤一郎なればこその名作。

のっけから船場言葉「こいさん」だの「とうさん」だの「ふん、ふん」が頻発なのだが、そこは江戸っ子作家からみた関西なのでくみし易い。谷崎潤一郎は上方の生活文化を愛情込めて書き込んだ。

さて、あらすじ、没落はしたが船場育ち四人姉妹の三女雪子が30歳なのにお嫁にゆき遅れている。
昔よ(昭和12、3年ころ)、びっくり!だから最初から最後までお見合いの連続。
あいまに、物見遊山、観桜、蛍狩り、年中行事、食べ歩き。そして、大洪水の恐さ、大病、などの事件、大阪神戸と東京を行ったりきたりの変化、ほんとあきさせない。

でも、観桜のきらびやかさとか着物の派手さだけでは終わらないのがこの物語。

いろいろな読み方はあるだろうが、私は物語が進むにつれ明確になる四姉妹、鶴子(長女)幸子(次女)雪子(三女)妙子(四女)のキャラクターをことさら楽しんだ。特に主人公雪子のキャラは想像力を掻きたてられる。何を聞いても自分を出さずに「ふん、ふん」といっていてとらえどころがないようだが、芯が強い性格、でなければあの行動力はなんなんだということになる。意見だってことさら言わなくても通すしぶとさを持っているのだ。

阪神の土地勘を知るのもよし、意外や(といっては悪いが)当時の第二次世界大戦前夜のきな臭い感じ、庶民のせつなさも書き込まれているのでを味わうもよし。終わりまで完璧に引っ張っていかれる。

勿論、構築がきちんとした格調高い耽美派の名作ではある。堪能した。

うーん、山崎豊子の「女系家族」[華麗なる一族」の世界はきっとここから来たのね、とちょっとひらめいた。「女系家族」[華麗なる一族」も格別おもしろかったから。

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2021年09月11日

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昭和初期大阪上流階級の4姉妹がテンポの良い関西弁で淀みなく喋る、喋る。読んでいて気持ち良くなるくらいよく喋る。

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2021年07月04日

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 まことさんのレビューを見て、読んでみました。
 大阪船場の旧家、薪岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。両親は何年か前に亡くなり、長女鶴子夫妻が本家として一家を仕切っている。本家の旦那(婿養子)は、三女の雪子や四女の妙子に疎ましがられているので、雪子、妙子は本家よりも、芦屋の幸子夫婦の家に居着いている。
 時代は昭和の初め、戦争前。雪子(30歳くらい)と妙子(25歳くらい?)はまだ独身。妙子には結婚を約束している恋人がいるが、姉の雪子を追い抜いて先に嫁ぐ訳にはいかない。雪子は美しく、年齢よりもかなり若く見えるが、何故か縁遠く、結婚がなかなか決まらない。良家のお嬢様であるので、条件が難しく、良い話があっても、本家の綿密な調査により何か相手に問題が見つかり、断ることになってしまうのだ。上流階級のお嬢様も大変だ。羨ましくもならないが、戦争前の喧騒を他所に、おっとりした優雅な美しい世界。長女は「姉ちゃん」、次女は「仲姉ちゃん(なかあんちゃん)」、三女は「雪姉ちゃん(きあんちゃん)」、末の娘は「こいさん」と呼ばれている。
 毎年、幸子一家と雪子、妙子で京都へ花見へ行く恒例行事がある。その日のために彼女たちは選りすぐりの着物を用意して、平安神宮、嵐山、御室など、京都の桜の名所を巡る。桜は勿論美しいが彼女たちの姿も目を見張るくらい美しく、「写真を撮らせて下さい」という人が必ずいる。幸子は思う。来年もここでこうして、三姉妹で桜を見られるか?と。雪子と妙子が娘さん(とうさん)でいてくれる間はこのように三人揃って桜を見られるが、二人が嫁いだらこの行事はなくなってしまうと。二人の行く末(特に雪子の)を案じながらも、二人が娘さんでいてくれる時を惜しんでいる。
 下巻の解説を読んでみたら、三島由紀夫が「谷崎潤一郎は戦争の影響を受けていない唯一の作家で、源氏物語の世界を現代に蘇らせた人」というようなことを言ったとか書いてあったが、なるほど、源氏物語の世界と同じで、滅びゆく上流社会の美しい世界を文学という形で残して下さったのだと思う。
 感情が揺さぶられる類の小説でもないし、続きが気になるタイプの小説でもないと思いながら読んできたが、終盤になって少し続きが気になり出した。本家の旦那さんが東京に転勤になり、大阪の本拠地がなくなったのだ。東京に引っ越した本家。慌ただしく見つけた借家は手狭で、呼び寄せられた雪子の部屋もないほどであるが、丁度親の財産も尽きてきて、「蒔岡家」の名前も通っていない東京で上流家庭のプライドを通して暮らす必要もなく、世間並に節約し、中流家庭のような暮らしを始めるようになり、雪子たちのことにもうるさく言ってこなくなった。
 雪子の縁談がまた破談になった。見合いを口実に神戸に帰ってこれた雪子もまた、東京本家に戻らねばならなくなった。時代の変わり目、この先、雪子は?蒔野家は?どうなるのだろう。
中巻に続く。

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2021年05月03日

Posted by ブクログ

海街diaryを読んで、姉妹の話ということでずっと気になってたこの本を手に取りました。
大学が休みの間、時間をかけて全巻読もうと思います。
雪子はPerfume のかしゆかでイメージしてます。

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2021年02月07日

Posted by ブクログ

かつて富貴を誇っており、今は没落しつつある槙岡一家の美人三姉妹の生活を描いたもの。
本家にはもう一人長姉がいるけれど、今のところ影は薄い。
分家の長であり、槙岡家の次女の夫である貞之助が考えている通り、三姉妹には時間の感覚が希薄。
そのせいで周りがやきもきすることもあるけれど、その緩やかさによって雪子のお見合いという現実的な主題にも関わらず、平安文学を読んでいるような気にさせられる。
一文一文が長く、しかも優雅な言葉が遣われているのも、その感覚に寄与しているかも。
花見の描写は、近現代のものとは思えない美しさ。

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2021年01月03日

Posted by ブクログ

1948年(昭和23年)。
しっとりとした日本情緒と、瀟洒な昭和モダンの雰囲気、双方が味わえる風雅な風俗小説。前者の象徴として雪子が、後者の象徴として妙子が配置されていて、その対比も面白い。それもステレオタイプに美化されているのではなく、内気な雪子が実は強情で口論となると舌鋒鋭かったり、怖いもの知らずにみえる妙子が案外意気地がなかったりと、人物造形がリアルで生き生きしている。世間体を気にする所や、金銭的にガッチリしている所も、関西人らしくて楽しい。幸子が桜に思いを馳せるくだりでは、日本人なら誰もが感じ入るところがあるのでは。

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2022年09月06日

Posted by ブクログ

最初は飽食家庭の小さな悩みを読まされて苦痛だった。
時代背景が把握できてからは、戦争に移ろう生活感の変化に興味が湧いた。
最後の10ページからは、雪子の縁談がどうなるのか気になり勢いで読んだ。

医療、結婚、文化、生活、土地、全てが今とは異なるが、いつの時代も万人が雪子に情を持たずにはいられない。

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2024年09月20日

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