あらすじ
大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。
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Posted by ブクログ
控えめに言ってこれは日本文学の最高傑作です。谷崎は痴人の愛から入り、春琴抄、鍵、刺青、秘密等の短編など、学生時代に読み漁ってきましたが、この細雪は長いことを理由にずっと見て見ぬ振りをしていました。が、幸いにも仕事上の都合で余暇時間が少しできたので、せっかくなら集中して谷崎の大長編に浸ろうとしたのであります。
上巻の半分ほどページを捲ったところでしょうか、その頃にはもう谷崎の世界にどっぷりと浸かっており、肝心の仕事が手につかないほど頭を支配されてしまっているのでした。これは文学作品を嗜んでいるとよくあることで、頭が作品世界に引き込まれてしまい、ひどく現実が生きづらいよう感じてしまう、そういう悪魔的な作品がたまにあるものです。この細雪も例に漏れず、ページを捲る手が止まらん、ふとした時には残りのページ数が少なくなっていることに気づき寂しさを覚える、そんな体験を通勤の電車に揺られながらしていたのであります。
ここからは少々話の中身にも触れてしまうのですが、上巻の半分ほど行ったところのシーンでしたでしょうか、本家の庭の描写をするところがあります。複雑な庭の構成物の細部の描写、隣家との関係等を、登場人物の雪子、幸子と絡めて説明するシーンですが、そこに谷崎の真骨頂を感じ、技術の素晴らしさに胸が締め付けられる思いをいたしました。
さて、まだ上巻しか読み終わっていないだけの感想文ですが、これからの中、下巻も谷崎の真骨頂であるストーリーの面白さを期待して読み進めていこうと思います。
Posted by ブクログ
谷崎は敬遠しがちなんですが、みんな細雪面白いって言うから(?)、朝ドラみたいだよと言われたのを契機に手に取りました。朝ドラみたい…!面白い…!全然クセがなくて、これは好きかも笑。元祖「あの子は貴族」だと思った。
太平洋戦争中に執筆して批判されるのもわかるが、これは在りし日への懐古と、精一杯の軍国主義への抵抗だよなあとおもいつつ読みました。途中途中不穏な形で入る情勢も、実際にこんな感じでみんなおそるおそる、だったのだろうし。
自分はずっと関東にいて、親も標準語しか喋らないので、言葉がどれだけ古い感じ・お上品な感じがするのか肌感がなくて、悔しい〜〜〜
雪子の「ふん」という返答どういう感じか分からなくて、どういうかんじ?!てのが一番気になったこと笑。
京都出身の人に、どんなどんな?て聞いて実演してもらって笑、確かに彼が「うん」というとき、「うん」と「ふん」を足して2で割ったような感じだと思った。私はうん!って力強くう・ん、なんだけど、もっと柔らかい感じ。もっとこれから耳を澄ませて、「うん」というのを聞こう。
あと聞き忘れたので聞きたいのは、娘さん(とうさん)、こいさんの肌感!
雪子の目元のシミも気になる。。生理周期に合わせて色が濃くなったり薄くなったりするシミ。チャッピー曰く、「「結婚=妊娠・出産」によってホルモン環境が安定すれば症状が軽減するというのが、当時の医学的な考え方でした。」、「昭和初期の社会では、未婚女性の不調は「未婚のままでいること自体が身体や精神に悪い」とみなされることが多く、医者もその価値観を共有していました。」というのも納得。
京都にお花見行くシーン好きだった。着物も決めて、どこで何して、、ってまさに上流階級〜という感じで。
あとお花を描写するシーンも好きだったなあ。
「おや、何処かで丁子が匂うてる。ー」(p162)
沈丁花、いい匂いするよね…おりしも今は金木犀が良い匂いする季節に。
蘆屋の描写も素敵
…南側の方には、芝生と花壇があり、その向うにささやかな築山があって、白い細かい花をつけた小手毬が、岩組の間から懸崖になって水のない池に垂れかかり、右の方の汀には桜とライラックが咲いていた。…ライラックは今雪のように咲き満ちて、芳香を放っていた。そのライラックの木の西に、まだ目を出さない栴檀と青桐があり、栴檀の南に、仏蘭西語で「セレンガ」と云う灌木の一種があった。(p.170)
「悦子それ見てたら、その花の中に吸い込まれそうな気イするねん」「ほんに。ー」…
ーいかにも、そう云われてみれば、この床の間の罌粟の花のせいが確かにある。…取り敢えずその花を下げたあとへ、水盤に燕子花と姫百合とを配して持って来たが…少し季節には早いけれども、香川景樹の嶺夕立、ー夕立は愛宕の峰にかかりけり清滝河ぞ今濁るらん、の懐紙を床に掛けて貰った(p.190)
Posted by ブクログ
大阪の商家・蒔岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子の人間模様を描いた小説。日中戦争勃発前後の時代ながら、時局の影もほとんど感じさせず、幸子は二人の妹の結婚に頭を悩ませつつも、のんびりとした日々を送っている。
長い小説ではあるが、なにかと事件が起きるので飽きずに読める。ときに可笑しく、ときに感傷的なホームドラマ。
また、(上流社会のものではあるが)当時の風習や価値観などがうかがえるのが興味深い。昔の人はのんびりしていたらしい。見合いの前に興信所に頼んでかなり詳しく相手方の身元を調べていたり、引っ越しの見送りに百人近く人が来ているのに驚いた。新潮文庫の注釈が詳しいのも良い。
「何しろ本家の連中は昔風で悠長だものですから。」(p.79)
上巻は雪子の見合いを中心に、妙子の弟子のロシア人家での食事会、京都への花見旅行、鶴子一家の東京転勤、幸子の流産など。