【感想・ネタバレ】細雪(下)のレビュー

あらすじ

昭和十六年、三十五歳になった雪子は、やっと貴族出の男との縁談がまとまり、結婚式に上京する。他方、バーテンと同棲した妙子は子供を死産してしまい、明暗二様の対比のうちに物語が終る。『源氏物語』の現代語訳をなしとげた著者が、現代の上方文化のなかにその伝統を再現しようと、戦争中の言論統制によって雑誌掲載を禁止されながらも、えいえいとして書き続けた記念碑的大作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

巻末の解説に、私の感想を濃縮し洗練させた一文があった。

p.497より抜粋
「ヨーロッパの近代小説が個人主義をその思想として内包しているのにたいして、『細雪』が作者の"主観を消す"ことによって、まれに見る物語文学たりえている」

この小説を読んでいるとき、登場人物の思考や行動から著者の価値観や美意識の投影を感じなかった。これは中々できることではないと思う。どうしても、誰かに自分の意見を託したくなるからだ。言葉や駆け引きそのものが鑑賞に足る、まさに絵巻という表現が相応しい作品である。

幸子の苦労が報われた、と言って良い結末だったと思う。本当に良かった。また、貞之助の彼女に対する愛情と優しさには、私も家長としてかくの如くありたいと見習う所が多かった。紆余曲折を経て、それぞれの収まるべきところに収まった蒔岡家の四姉妹がまたいつの日か、みんな揃って歌舞伎や花見に出かけるような日々を願いながら、本を閉じる。

素晴らしい読書体験であった。

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2025年11月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

え〜〜〜〜〜〜〜ん、読み終わってしまいました涙、、、めちゃくちゃ面白かった、、全然読む手を止められず、そしてこのMakioka Sistersの行く末をまだまだ読んでいられるという気持ち。。似たような本とか読みたい、、ロス!!!

何が好きだったかって、色々な要素があるんだけど、蒔岡姉妹(と言いつつ、下の3人がメインだけど)のお嬢さん育ちな暮らしぶりとか、お着物や習い事の様子を見るだけで華やかで楽しいし、船場言葉も柔らかくて素敵だし、なんやかんやで仲良し姉妹・時々緊張感、のやり取りも目を離せないし、なんだかんだ全員の気持ちがそれぞれわかるからキャラクターとしても魅力的で、姉妹全員好きだなとなるわけです。あと悦子も可愛かった。男性キャラだと、貞之助が一番出ずっぱりで印象深いし、常識人感あって安心していました。笑

妙子こと、こいさん、最後の方は彼女の描写が減ってしまったので、どんな心中だったのかと思うのだけど、結構言動共に理解できるところもあった。
啓坊のばあやから、実は、、って聞かされた時はもちろん衝撃だったんだけれど、ダメ男とはわかりつつ肉体関係もある幼馴染兼古馴染みな相手とはそう簡単に切れられない気もするし、尚且つお金が絡んできたらさらに離れられないのもわかる。周りから見たら「ひどい!」なのかもしれないけど、妙子からしたら、いやいや自分だってこんな形で尽くしてきたんだから当然の対価である、と思っている可能性もあるだろうなと勝手に想像して、最終手段で?妊娠したのも、周りの心痛を考えれば身勝手と詰られても仕方ないけど、でもやっぱり相談できなかったんだろうとか思い出すと、同情してしまう。。板倉が死んだのだってショックだったろうし。。結局最後、死産というのも可哀想だった。

妙子が赤痢にかかって、啓坊の家から出たいと言った時に、「こいさんは昨夜板倉の亡霊に魘されてから、啓坊の家で臥ていることを気にしているのではあるまいか」(p227)や、「その蝋色に透き徹った、なまかしい迄に美しい顔を視詰めていると、板倉だの奥畑だのの恨みが取り憑いているようにも思て、…」(p.429)などを見ると、自然と夕顔や葵やらを思い出した。
あとは一番最後、雪子が下痢したままです!で終わった一文も、えここで終わり?こんな終わり方?というのも夢浮橋のような雰囲気があって、直前に源氏を訳していたというのに引っ張られすぎかもしれないが、そんなことを思っていた。

以下、好きだったところ
…通路の反対側の席に後ろ向きに掛けていた陸軍士官が、シューベルトのセレナーデを唄い出した。…唄ってしまうと、一層羞しそうにさし俯向いていたが、暫くしてから、又シューベルトの「野薔薇」を唄い出した。(p.56-7)
シューベルトのセレナーデってどうせSwan song(Schwanengesang)でしょと思いつつ、日本語歌詞こんな感じなのか!と聞いてみたりした。そのあと野薔薇が登場するのも、なんというか時代感もあって、すごく好きだったな。
というか音楽の話はここだけな気がする?

音楽に関連して好きだった表現
…白露が消えるように死んで行く母の、いかにもしずかな、雑念のない顔を見ると、恐いことも忘れられて、すうっとした、洗い浄められたような感情に惹き入れられた。それは悲しみには違いなかったが、一つの美しいものが地上から去って行くのを惜しむような、云わば個人的関係を離れた、一方に音楽的な快さを伴う悲しみであった。…(p.81)

そういえばこの音楽の話を聞くことになったお見合いでの蛍狩において、
…あの小川のほとりではあれらの魂が一と晩じゅう音もなく明滅し、数限りもなく飛び交うているのだと思おうと、云いようもない浪漫的な心地に誘い込まれるのであった。何か、自分の魂があくがれ出して、あの蛍の群に交って、水野麺を高く低く、揺られて行くような、…(p.35)というところは、和泉式部の「物思へば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」を引いているのだろうし、気づかない表現いっぱいあるんだろうなと思ったりした。

隣人の外国人たちが帰国し、時々の規制や戦争関連の話も差し込まれ、徐々に日本全体に立ちこめる暗雲が増す感じがあって緊張感があったし、雪子の縁談も最後ああいう形で御牧とまとまってよかったが、彼女の体調崩しがマリッジブルーとも、結婚したところで訪れる本格的な戦時下での暮らしを思うと幸先が良くない感じも不穏だった。

他に好きだったところでいうと、上流階級の生活が垣間見えるところ!関西という土地もあって全然肌感ないところも多かったけど、飲食店の名前とかわかったらかっこいいし、そういうところに電話をひょいっとして予約を取るのもかっこいい、、、笑。現存のお店がどれだけあるのかはわからないけど、残ってるお店で堪能ツアーしてみたいなあ
…柿伝あたりの仕出しであろうと、京都の食味のことに委しい幸子は推した(p.403)
…別に御木本で真珠入りの鼈甲のブローチ兼用のクリップを買って…(p.337) ーミキモトって御木本!!

あとは言葉遣いがもちろん引き続き素敵だし、イントネーション想像し切れてないところがあると思うと、悔しいですけど笑、悦子の口調はどういうニュアンスなのか気になった。
…こいちゃん今夜は泊って行きなさい、と悦子が云い出し…(p.294)
「姉ちゃん、東京へ行って来なさい」と、悦子が大人めいた口調で云った。(p.325)

それにしてもこれで谷崎、東京生まれ・育ちなのかいいいっていうのが面白かった笑。てっきり関西の人かと思っていたけど、よくよく詳しいなあ。

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2025年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新潮文庫のカバー裏に盛大にネタバレが書いてあって、ここまで読んできたのになんてことをしてくれんねん!と少しだけ怒ってたんだけど、そのこいさんの子は結局死んでしまうし、雪子ちゃんも結婚決まったけどお腹ピーピーになって、だ、大丈夫かな…ってなるまさかのドタバタエンディングだった。この先もこの姉妹には色んなことが起きる暮らしが続いていくんだろうな〜っていうのが想像できて、はい、とにかく雪子ちゃんは結婚できてめでたしめでたし。の感じじゃないのが逆にリアルで個人的には良かったけど、こういう最後を望まない人もいそうだなとは思った。賛否が分かれそうというか。
それにしても、谷崎潤一郎の作品は痴人の愛とこの細雪しか読んだことがないけれど、いつも物語に引き込まれて、早く続きが読みたい!ってなる。細雪に関しては気になりすぎて夢にまで登場人物が出てくるくらいだった。個人的に苦手な長編をここまで早く読み進めることが出来たのも、谷崎潤一郎の物語の作り込みがうまさがそうさせたんだろうなと思う。

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2025年08月17日

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最後まで読んだ人のみ味わえる美しい文章、世界観の極地。

読むたびに感情移入する人物がかわって、そのたびに世知辛さに苦悶したり、綺麗事ばかりじゃないよなと思ったり。

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2025年04月30日

Posted by ブクログ

上・中・下、一気読み。大作。四姉妹の次女幸子の繊細な思惑を中心に描かれ、姉妹だけでなくその他の登場人物のキャラクターがそれぞれ面白い。ずーっと読んでいられる。もう終わってしまったという感じ。家の中の描写も近所やその周辺の有り様もはっきりと思い浮かべることができる。全てにおいて細かな描写がすごい。

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2024年08月01日

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すごく長かった分、読み終わると姉妹たちと別れるみたいで寂しかった。出てくる登場人物みんながどうか戦争を生き抜いてますように。

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2023年07月06日

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絵巻の最終巻。
三女雪子と四女妙子のその後の顛末はもちろんの事、雪子の結婚の世話と妙子の奔放な生き方の始末に翻弄し、本家の姉夫婦と板挟みになりながらその間を取り持つ次女幸子とその夫の苦労や尽力も見どころ。
開戦となる直前でこの絵巻を終わらせているのも、この美しき世界が間もなく一つのピリオドを打つ事を文字なき文字で伝えている気がして物哀しい。
読み終える頃には、谷崎潤一郎の流麗な文章の世界にどっぷり浸かっていた。とても良かった。日本文学って素晴らしい。

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2023年04月30日

Posted by ブクログ

いわれてみれば源氏物語のような詫び・さび・いとをかしの世界を感じさせるような、登場人物のきめ細やかな心情描写がすばらしい。最後の30頁くらいで事態が一気に急展開した。少し衝撃だった。

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2023年02月25日

Posted by ブクログ

三巻本の最終巻。
良家の男との縁談が決まった三女、バーテンと暮らす四女。
それぞれの人生模様が繊細な筆致のもとに描き出される。
そして、すっと息を吐くように小説は幕を閉じる。

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2022年11月03日

Posted by ブクログ

細雪。読んでよかった。

最後まで読んで、ただ仲の良い姉妹というだけでなく、小さなことから事件に至るまで様々な場面での会話や行動を通じて、良いところもそうでないところも知って、イヤだなと思うこともあったけれど、それも全部ひっくるめて彼女たちが好きで、鶴子、幸子、雪子、妙子、みんな幸せになってほしいなぁと心から思う。まるで、古くからの友人みたいな感覚。まだまだ読んでいたいし、時代としてはこれから戦争で大変なことになっていくはずだから彼女たちがとても心配。小説だからこれで終わりなんだけれど、ずっと彼女たちがコロンバンでお茶をしたり、手紙のやりとりをしたり、お花見をしたり、変わらずいきいきと生き続けているような気がしてならない。ラストは悲しい出来事もあったし、良かったと思えることもあったけど、結末ありきの小説ではないから、それは大きなことではない気もする。

幸子は谷崎純一郎の奥さまがモデルになっているのだとか。
それにしても、ここまで女性を描けるのはスゴイと思う。

この四姉妹が好きなのはすでにレビューした通りだけど、細雪の文章もとても好き。
読み終わってしまうのがとても惜しい。
退屈だなぁと思って読んだ上巻。今改めて読むととても楽しく読めそう。

下巻単体でいうと☆4かなぁと思うけど、トータルでは文句なしの☆5です。

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2022年07月01日

Posted by ブクログ

4姉妹が話す言葉は関西弁の中でも船場言葉と呼ばれるものらしい。品があって優雅で本当に素敵な言葉だ〜憧れる〜

身近な人が死んだり被災したり、かなり辛い出来事が立て続けに起きるのだけど、それに対して登場人物たちが悲しみ苦しむ様子がやけにあっさり書かれているのが印象的だった。花見に着て行く着物を選ぶシーンには3.4ページ使うのに笑
上流階級とはいえ当時の庶民たちの、何が起きても生活の営みを停滞させない覚悟のようなものが感ぜられて良かった。
個人の意思よりも家の繁栄と存続が優先されて、何かと窮屈なことも多かっただろう時代を、明るく朗らかに、かつ強かに生きた4姉妹の姿には勇気づけられるものがあった。 

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2022年06月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「細雪」回顧によりますと、谷崎潤一郎はこの作品を書き始めたのは太平洋戦争の勃発した翌年、昭和十七年であり、書き終わるまで六年かかったそうです。
また「細雪」には源氏物語の影響があるのではと人に聞かれたそうです。
最初の三年は熱海で書き、次に岡山県、平和になってから京都と熱海で書かれたそうです。
長かったから肉体的に疲れたそうです。

三十三歳になる三女の雪子の姿かたちの描写が美しいと思いました。映画では吉永小百合さんが演じられたそうです。
でも、今の時代なら、お姉さんやお嬢さんでも、まだ通る年齢ですがこの作品の時代では年増とよばれるのですね。
雪子の左の眼の縁にあるシミが何度も問題にされますが、そんなことで縁談がまとまったりこわれたりの時に問題にされるのですね。

この物語で一番現代的なのは人形作家をやめて、洋裁で自立して奥畑という男性を養ってやろうと言っている四女の妙子であると思いました。
でも、段々に妙子の言っていることが全て嘘であり、貯金はほとんどなくなり、奥畑の坊の実家から宝石やお金を引き出させて贅沢にふけり奥畑を利用して、あとはバーテンの三好を誘惑して、子供を身ごもり、奥畑とけりをつけようとしていたのには、驚きました。がっかりしましたが、リアルな生きた人間の人物像をも感じました。妙子の自立した女性像は嘘でした。

そして、雪子は御牧という貴族出の男性と縁談がとうとうまとまりそうになったとき、妙子は妊娠中の姿を数か月の間、見せないように身を隠すようにうながされますが、死産してしまいます。
雪子の花嫁支度は大変豪華で立派な式が挙げられることになりましたが、なんともやりきれない終わりでした。

二女の幸子は二人の妹の縁談に始終、翻弄されていますが、幸子は他に何かないのだろうかと思いました。気苦労が絶えないでしょうね。昔の上流中流家庭というものは贅沢はしますが、大変なものだと思いました。
最後の最後に四人の姉妹の本当の人物像がはっきりとみえたように思います。

文章は本当に美しく、文豪のみやびやかな世界を堪能しました。

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2021年02月27日

Posted by ブクログ

上巻の雪子のお見合い、中巻の妙子の恋愛、その二つがより大きく激しいものとなって描き出された最終巻。
これまで家格が下の者とばかりお見合いし、断ってばかりいた雪子側が、冒頭で格上の家との顔合わせで初めて逆の立場に。
当の雪子よりも、姉妹の内で主だってそれを差配した次女幸子が落ち込む。
それから間を置かず、進歩的な末妹妙子が破滅的な恋愛と病とに陥る。
その嵐を蒔岡一家一族で乗り越えてゆく様に深い人情味が見えた。
最後の最後でやっと纏まりそうな雪子の縁談が、また妙子のせいで壊されそうになるのがもどかしかったけれど、その妙子も小さくはない報いを受け、長くも短く感じられた三姉妹の物語は結ばれる。
血の繋がり、土地との繋がり、また末尾にある独逸からの手紙によって国との繋がりを自覚させられる作品として読み取った。
美しい一面の裏に、それが儚くもあるとの和の世界観が本作の魅力ではないかと。
三姉妹の上の長姉が、お芝居を見たくて泣いた場面が印象的。
もしかしたら、一番しっかり者であったはずの彼女が、一番可憐な感覚を持っていたのでは?彼女のことをもっと書いて欲しかったような気も。

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2021年01月08日

Posted by ブクログ

奔放でいろいろ事件に遭う四女、内向的で見合いをしても煮え切らない三女、2人と仲良しだが苛々させられもする次女、なんとなく厭われて出番も少ない長女。
関西の上流家庭が花見や芝居見物に行ったり。話の起伏は少ないが、日常の中で姉妹を好きになったり嫌いになったりする描写は、共感してしまうところが多い。

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2025年10月19日

Posted by ブクログ

谷崎潤一郎の代表作にして、日本の近代文学を代表する作品のひとつ。
1942-48年に書かれた。

文庫版にして三巻にまたがる長篇小説。

舞台は1936-41年の兵庫・蘆屋(芦屋)。

旧幕時代からの豪商としてならした名家・蒔岡家の四姉妹を中心に、第二次世界大戦前夜の阪神生活文化が描かれる。

長女の鶴子は、本家の奥様として、早逝した父母の代わりに入婿の辰雄と一緒に蒔岡家を切り盛りする。

二女の幸子は分家の奥様。辰雄と折りの合わない二人の妹を宥め、監督する。

三女の雪子は、美人として阪神間に名が轟く姉妹の中でも1番の美人でありながら、複雑な事情と不運によって三十を超えても嫁に行き遅れていた。

四女の妙子は、器用かつ前衛的で、故に数多くの災難を引き起こすトラブルメーカー。

物語は、雪子の見合いの話と、妙子が起こす騒動を軸に、主に幸子の視点から描かれる。

四姉妹の性格はそれぞれ異なり、個性がある。

長女の鶴子は保守的かつ前時代的なので、前衛的で行動力のある妙子とはよく衝突する。

雪子は典型的な箱入り娘で、電話にすらまともに出れないほど引っ込み思案な性格だが、頑固なところもあり、辰雄を毛嫌いしている。

そんなわけで、本来は本家が管理するべき二人の妹を預かり、監督しているのが幸子である。
本家と妹の板挟みになり、気苦労の多い人であるが、彼女自身も気が弱く世間知らずなので、主にトラブルを解決していくのは、幸子の旦那の貞之助になる。

本書は全編を通して船場言葉(近世から近代にかけて使われていた格式高い大阪商人のことば。らしい)で会話が書かれており、現在の関西弁とは異なり、優美な印象を与える。

また、蒔岡家は大阪に名を馳せる豪商の名家であり、家の格式の違いを理由に雪子の嫁入りの話を断ったりしていたが、幸子たちの父が亡くなってからは衰退の途を辿っていた。

とはいえ、幼少期から名家のお嬢様として育てられた彼女たちがそうそう変わることはできず、逞しさとはまったく無縁の、世間知らずで甘い、しかし有閑的で優美な存在として描かれる。
そんな彼女たちが激動する世間に呑まれ、苦しみ、傷ついていく。

この蒔岡家の凋落の様子と、第二次世界大戦に突入していく当時の日本の描写から、読者はノスタルジックを感じる。
これが本書のひとつの魅力である。

現代の忙しないリベラルな社会に生きる私たちとすれば、精神的にも肉体的にも甘い彼女たちに苛つきながら読むことになる(神戸から東京に列車で移動するだけで疲労困憊になるとか、30を過ぎて猶も満足に他人と口を利けない雪子とか、それを結婚できない原因だとは思いもしない家族とか)。

しかし、これが彼女たちの常識であり、生き方なのだ。
いかに家の格を大事にし、外聞にこだわるか。
旧き上流階級社会と、家父長制というものを、本作を読むことで本当の意味で腹落ちできた。

長い小説でありながら、多彩な表現と一貫して丁寧な心景描写によって読ませられる、美しい作品。

関西ネイティブな私としては、かつて大阪に根付いていた高貴かつ華麗な文化を味わうことができた心地良い小説だった。

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2025年07月11日

Posted by ブクログ

結婚は墓場と言うけれど、それを女性で具現化した様な本だ。
特に最後はそれを象徴したような表現になっている。

慣習や人間関係に縛られ読者を「もどかしさ」という感情によって、家族関係の内に引きずり込んだ。
沢山の子が居る人も、分家の人も、独り身も、放蕩も、皆幸せを獲ていない。
女性の人生における、母体という「呪い」を私は感じました。

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2025年02月03日

Posted by ブクログ

下巻になり、雪子と妙子の運命がそれぞれの方向に極まってくるスピード感と盛り上がりはさすが。
どこか突き放した描き方になっていくところが面白くもあった。

貞之助の手紙が何度も出てくるが、(当然作者の谷崎が書いたものであるのだが)縁談を断るのも、お願いするのも、待ってもらうのも、相手を気遣い、その上で、複雑な自分の立場をうまく相手に伝える、最上のお手本のような仕上がり。
おお、うまい書き方だなあと何度も感心した。

この小説の蘆屋の家の空気にすっぽり入ってしまっていたらしく、読み終わってみると、ああ、もうこの人たちと会えないのか、とさみしくなった。
長編小説の良さはこういうところにある。

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2024年11月04日

Posted by ブクログ

上中下一気に読んだ。

人の矛盾を孕んだ細やかな思考の流れを
心地よいリズムで悠長に書きつけてあって
日記を読んでいるような
それでいて全て主語は三人称(主に次女の幸子)
独特な中毒性のある、素敵な文章で読み始めたら止まらなかった

雪子の見合いに始まり、
雪子の結婚で終わる
およそ五年?ほどの歳月を描いたストーリー

人を着ているもの、体型肌艶、話し方雰囲気などで色々と考察する視点は
SNSなどないし情報も少ない上で、
結婚はもちろん人付き合いが生きる術となる時代に
どれだけ重要視されていたのか思い知ったし
その視点に今も学ぶことが多いと感じた
板倉のことを若くて丈夫なのにどこか幸薄い相のある男だと思うから助からない気がすると言った幸子とそれに僕もそう思うと言った貞之助には、
そういう直感でみてOKなんだと驚いた笑
だけど、そういった幸子の勘は稀に外れることもあって
それがまたリアルで好ましいなと思った。(妙子の死など)
でもそれ自体は外れていても、その時感じた感覚のような
事象ではない何かは的を得ていたりするのかもしれないけど。それもすごい。

四姉妹のこと
鶴子は一生懸命だし素直だしとても好感が持てる
実は子供らしい一面や他の姉妹を恨めしがっている筋があるところなど
主に幸子の視点から全て暴かれていて愛おしい
(実際はこんなもんではないかもしれないが雪子があんまり慕っていない
ところからも感性はそんなに豊かでないのだろうと思う)
だけど一番蒔岡全盛期の恩恵を受けて育っているのに没落してゆくという
悲劇的な局面にあって、柔軟に生きていけて時にはプライドも捨てられるという
同じ女として立派な人だと思う

幸子は四姉妹の中で一番平和で幸運なんではないかと思えるけれども
この繊細さと優しさでもって生きていくのが実は一番しんどい人だと思う
当たり前だけどこの姉妹にこの人がいなければ成り立たないなあ

雪子、小さくて儚くてそれでいて芯が強くて潔白
あとがきでは聖母として描かれているような記述があったけれど
個人的にはなんと肝が据わって図太いというか、すごいなと思っていた
私だったら誰でもいいからとにかくもらってもらわなければと焦る
自己肯定感でいったら姉妹中で一等賞と思われる
でもそこがすごく素敵だと思った
雪子を見習わないといけない
飄々としていて格好いい友達になりたい女性

妙子、本当の本当はどういうことを考えていたのか最後までわからない
でも私はこの人が一番可哀想だと思った
薪岡といっても栄華は一度も味わっていないし母の記憶もほぼないし
上の三人は一般の中にあれば「世間知らずのお人形さん」で、
綺麗でお金持ちで悩みとかないやろうと思われる存在だと思うが
妙子もそういう目を持って姉妹を眺めることができる人だと思う
谷崎潤一郎の設定の秀逸さがすごい
奥畑との関係性もすごくリアルというか複雑で良かった
一点、妙子がみんなの前で舞を踊った発表会のとき、
近くの舞妓も踊りに来ていてその一人と
稽古というか降りの確認をしたいといって二人きりになっていたところ
あれは絶対に奥畑の女で一騎打ちしたんだと思っている
ゾクゾクした
戦後の方が生きやすい人なんだと思う
きっと幸せになってほしい

全体にみて、
この第二次世界大戦目前の空気感が、
現代の空気感と似ているという生き証人方の意見を
実感するところが多くてゾッとして憂鬱になった
とても参考になった

個人的には、
日常生活において現実的なこととは別に
目に見えない直感のようなものを大切にした生活ぶりが
すごく腑におちたし、こうあっていいんだと安心した
私も人に対する直感とか、出来事に対する香りのようなもの
そんなものをもっと現実に作用する一つの事象として
生活に織り交ぜて生きていきたい
人に対する返事のし方など、
気を使いすぎるくらいでちょうど良く
矛盾する気持ちだってきちんと人に伝えられるということ
文章の大切さなどを改めて知らされた
今思えば、そんな中にも現代的にテキパキした人(井谷とか)もいて
本当に多彩で面白いキャラクターばかりの小説だなあと思う

永遠に読んでいられそうだし読んでいたけど
そこから何を得るのかといえば何なのかわからない
サザエさんとかちびまる子のような
谷崎潤一郎もしんどいやろうしこの辺で。

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2024年05月12日

Posted by ブクログ

上中下通じて上方の上流階級の家族の日常が美しい絵巻物のように描かれている。
その舞台の中で繰り広げられるゆっくりとした栄華の没落。そしてこいさんの破天荒ぶり。といったところが読みどころか。

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2024年04月09日

Posted by ブクログ

昔ほど羽振りは良くないものの旧家としての誇りを持つ姉妹を巡る物語。身分や財産が伴侶を決める第一条件で、人柄や相性が二の次なことに驚かされるが、昔はこれが当たり前だったのかしら。就職のようなものと思えば何とかなりそうな気もする。

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2022年12月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

よく言われる源氏物語感は感じなかったが、当時の家庭のリアルが書かれているなぁと。
順序、体裁、社会、環境変化に戸惑いながらも必死で生きることの素晴らしさと難しさが良かった。
結果的に見れば、雪子は婚約、妙子の子供も亡くなってはしまったが、これをきっかけに新たな道に進んでいる。現代の我々は縛られて、不自由だと感じているかもしれないが、個人として意思や意見が言いやすくなり、戦争をきっかけにアメリカ的な自由が入り込んできたのだなと改めて思った

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2022年12月08日

Posted by ブクログ

4姉妹の日常物語の終結。 下巻は中巻以上に様々な事件が起こり、また4姉妹の人間関係が浮き上がってきます。 雪子の見合い話にやきもきする幸子。 妙子の天真爛漫(と、言っていいのかはさて置いて)な振る舞いに、不満を募らせる幸子。 東京からなかなか姿を現さない鶴子。 物語は突然に終わってしまい物足りなさもあるけど、そこはタイトルの細雪"の通り、4姉妹の儚い日常を描いたものだと感じました。 もっと色々書きたいですが、何を書いてもネタバレになりそうなので自重します。 また数年後に改めて読み直したい作品でした。"

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2022年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

下巻は、雪子の二度の見合いと、妙子の赤痢と妊娠と死産が中心。控えめな雪子と行動的な妙子が対照的に描かれ、幸子はそれぞれに頭を悩ませる。子爵の一族に嫁いでいく雪子と、バーテンダーと夫婦生活を始める妙子の結末も対照的。

大垣の親戚家族との蛍狩りのシーンが幻想的。

見合いの世話をする井谷、丹生の両夫人の会話がテンポよく、見合い相手の橋寺、御牧との掛け合いも面白い。

巻末の回顧では、刻々と変わる時勢のなか、自動車や列車の料金や芝居の場所や演目、映画のタイトル、大水害の様子などを調査し、あらかじめ時系列にあらすじをまとめ、だいたい予定どおりにいったと書いている。また、頽廃的な面が書ききれなかったが、戦争と平和のあいだで書かれたのでやむを得ないとも。

源氏物語の影響については、昔から読んでいるし、現代語訳をやったあとでもあるので、無意識のうちに影響を受けているかもしれないとのこと。たしかに切れ目なくつらつらと続く『細雪』の文体は古文を思わせる。

裏表紙のあらすじに物語の結末が書いてあるのはよくない。

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2022年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

雪子ちゃんの身が固まったようでよかった〜
こいさんの出産シーン、短いけど最後に本当に悲しい気持ちになった

蘆屋の3人姉妹の周りで起こるヒューマンドラマが楽しい3巻でした。

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2022年08月19日

Posted by ブクログ

初めてまともに純文学というものを読み、その魅力に気づけた一冊。
上中下と読むのは大変だったし、話自体も起承転結とかがあるわけじゃなく、蒔岡四姉妹の日常をつらつら描く、という感じなのだけど、読んでいて全然退屈しなかった。
日本人、特に関西に住んでいる方はぜひ読んでみるべき。そして谷崎潤一郎の文体、何だかとても好き。男の人なのに何処か文に女性のようなたおやかさがあるからなのかな。他の作品もぜひ読んでみたいと思った。

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2022年03月31日

Posted by ブクログ

長い長い小説だった。
しかし、読み終えてしまった。面白い。

関西弁の盛り込まれた会話文や、繊細な心理描写に加え、洗練された背景説明が特徴的だと感じた。
それらのため、読者は監督不在の、メッセージ性のないあるいは限りなく薄い、映画を見るような感覚で物語を楽しめるのではないか。

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2022年02月01日

Posted by ブクログ

長女が東京で子育てに追われ、
次女が家の体面を保ちつつ生活をし、
三女が幾多の縁談を避けながらも変化を過ごし、
四女が我を通して望まれない恋愛をする

そんな蒔岡家の日々は、最後のページをめくった後にも続いているような、巡る人の世に終わりなど無いと思わせるような、不思議な読後感。

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2022年01月25日

Posted by ブクログ

谷崎潤一郎の代表作『細雪』下巻。
戦時の思想・言論統制により掲載が止められた上巻、中巻と異なり、下巻の本作は、GHQの検問化にあったものの1947年雑誌掲載され、1948年に刊行されました。
その後、1950年代に世界各国で翻訳され、日本を代表する文学作品となります。

上、中巻に続き、大阪の旧家の四姉妹の日々が綴られます。
話の中心は、縁談がまとまらないまま年月が過ぎていく三女の雪子と、自由な思想で動き回る四女の妙子で、二人に頭を抱える次女・幸子の苦労が耐えない様子が引き続き描かれます。
東京に移り住む事となった長女の鶴子は、元々存在感は薄かったのですが本作ではますます希薄になったと感じました。
ただ、全く出てこなくなったわけではなく、遠方にいながらにして幸子を労り、ときに叱責します。
そういったシーンを読むと、細雪は、"三姉妹の"ではなく、"四姉妹の"物語だなと感じました。

妙子は、中巻で大水害に巻き込まれ、さらに想い人である「板倉」を病気で亡くし、その酷い苦しみ様を目の当たりにするなど酷い目に逢い続けましたが、本作ではさらに酷い目にあいます。
家から絶縁され、赤痢で死にかけ、公とはなりませんでしたが、恐らく、少なくとも3人の男性と深い関係性があり、病気は仕方ないとはいえ、中巻で述べていた洋裁の技術を学ぶためパリ留学するするなどの話はどうなったのか、読んでいるとどうもフラフラしているだけのように感じました。
ただ、最終的な決着点は、悲劇的すぎるのではと思いました。
心身ともに疲弊しきった上で、一応落ち着くことになりましたが、もう少し救いがあっても良いのではと思います。

雪子についても、最後は着地点を見つけるのですが、その着地点が本当に良いのかについては、雪子自身が疑問を持っているような終わり方となります。
細雪という作品が全体を通して暗く、苦労の絶えない日々が書かれた作品と感じました。
下巻の本作で完結となりますが、最後は雪子の"下痢が止まらない"旨の文章で終わっていて、どうにもスッキリしない終わり方です。
雪子はまた破談になるのではないか、妙子の身に不幸が重なるのではないか、本家の商売は順調に進むのだろうか、など、個人的には不吉な予感が感じられ、四姉妹の物語はまだ完結したわけではないのではないかと思わせられました。

ただ、物語が暗いからダメというわけではなく、特に下巻の本作はテンポが良く、長編ですがページがどんどん進みました。
シンプルに読み物として面白く、日本文学史上の名作ですが、文学慣れしていない方にもおすすめです。

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2021年10月29日

Posted by ブクログ

特に起承転結はなく淡々と進むお話
但し、終わった後の余韻と喪失感は、所謂名作の印何だと思う

相変わらず「文」が素晴らしく、文学というものは文でも魅せられることを改めて認識させる本

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2021年03月10日

Posted by ブクログ

4ヶ月かかって、ようやく読み終わりました。
両極端な妹たちに振り回される幸子さん、がんばれって応援したくなりますね。

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2024年12月18日

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