あらすじ
昭和十六年、三十五歳になった雪子は、やっと貴族出の男との縁談がまとまり、結婚式に上京する。他方、バーテンと同棲した妙子は子供を死産してしまい、明暗二様の対比のうちに物語が終る。『源氏物語』の現代語訳をなしとげた著者が、現代の上方文化のなかにその伝統を再現しようと、戦争中の言論統制によって雑誌掲載を禁止されながらも、えいえいとして書き続けた記念碑的大作。
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Posted by ブクログ
巻末の解説に、私の感想を濃縮し洗練させた一文があった。
p.497より抜粋
「ヨーロッパの近代小説が個人主義をその思想として内包しているのにたいして、『細雪』が作者の"主観を消す"ことによって、まれに見る物語文学たりえている」
この小説を読んでいるとき、登場人物の思考や行動から著者の価値観や美意識の投影を感じなかった。これは中々できることではないと思う。どうしても、誰かに自分の意見を託したくなるからだ。言葉や駆け引きそのものが鑑賞に足る、まさに絵巻という表現が相応しい作品である。
幸子の苦労が報われた、と言って良い結末だったと思う。本当に良かった。また、貞之助の彼女に対する愛情と優しさには、私も家長としてかくの如くありたいと見習う所が多かった。紆余曲折を経て、それぞれの収まるべきところに収まった蒔岡家の四姉妹がまたいつの日か、みんな揃って歌舞伎や花見に出かけるような日々を願いながら、本を閉じる。
素晴らしい読書体験であった。
Posted by ブクログ
え〜〜〜〜〜〜〜ん、読み終わってしまいました涙、、、めちゃくちゃ面白かった、、全然読む手を止められず、そしてこのMakioka Sistersの行く末をまだまだ読んでいられるという気持ち。。似たような本とか読みたい、、ロス!!!
何が好きだったかって、色々な要素があるんだけど、蒔岡姉妹(と言いつつ、下の3人がメインだけど)のお嬢さん育ちな暮らしぶりとか、お着物や習い事の様子を見るだけで華やかで楽しいし、船場言葉も柔らかくて素敵だし、なんやかんやで仲良し姉妹・時々緊張感、のやり取りも目を離せないし、なんだかんだ全員の気持ちがそれぞれわかるからキャラクターとしても魅力的で、姉妹全員好きだなとなるわけです。あと悦子も可愛かった。男性キャラだと、貞之助が一番出ずっぱりで印象深いし、常識人感あって安心していました。笑
妙子こと、こいさん、最後の方は彼女の描写が減ってしまったので、どんな心中だったのかと思うのだけど、結構言動共に理解できるところもあった。
啓坊のばあやから、実は、、って聞かされた時はもちろん衝撃だったんだけれど、ダメ男とはわかりつつ肉体関係もある幼馴染兼古馴染みな相手とはそう簡単に切れられない気もするし、尚且つお金が絡んできたらさらに離れられないのもわかる。周りから見たら「ひどい!」なのかもしれないけど、妙子からしたら、いやいや自分だってこんな形で尽くしてきたんだから当然の対価である、と思っている可能性もあるだろうなと勝手に想像して、最終手段で?妊娠したのも、周りの心痛を考えれば身勝手と詰られても仕方ないけど、でもやっぱり相談できなかったんだろうとか思い出すと、同情してしまう。。板倉が死んだのだってショックだったろうし。。結局最後、死産というのも可哀想だった。
妙子が赤痢にかかって、啓坊の家から出たいと言った時に、「こいさんは昨夜板倉の亡霊に魘されてから、啓坊の家で臥ていることを気にしているのではあるまいか」(p227)や、「その蝋色に透き徹った、なまかしい迄に美しい顔を視詰めていると、板倉だの奥畑だのの恨みが取り憑いているようにも思て、…」(p.429)などを見ると、自然と夕顔や葵やらを思い出した。
あとは一番最後、雪子が下痢したままです!で終わった一文も、えここで終わり?こんな終わり方?というのも夢浮橋のような雰囲気があって、直前に源氏を訳していたというのに引っ張られすぎかもしれないが、そんなことを思っていた。
以下、好きだったところ
…通路の反対側の席に後ろ向きに掛けていた陸軍士官が、シューベルトのセレナーデを唄い出した。…唄ってしまうと、一層羞しそうにさし俯向いていたが、暫くしてから、又シューベルトの「野薔薇」を唄い出した。(p.56-7)
シューベルトのセレナーデってどうせSwan song(Schwanengesang)でしょと思いつつ、日本語歌詞こんな感じなのか!と聞いてみたりした。そのあと野薔薇が登場するのも、なんというか時代感もあって、すごく好きだったな。
というか音楽の話はここだけな気がする?
音楽に関連して好きだった表現
…白露が消えるように死んで行く母の、いかにもしずかな、雑念のない顔を見ると、恐いことも忘れられて、すうっとした、洗い浄められたような感情に惹き入れられた。それは悲しみには違いなかったが、一つの美しいものが地上から去って行くのを惜しむような、云わば個人的関係を離れた、一方に音楽的な快さを伴う悲しみであった。…(p.81)
そういえばこの音楽の話を聞くことになったお見合いでの蛍狩において、
…あの小川のほとりではあれらの魂が一と晩じゅう音もなく明滅し、数限りもなく飛び交うているのだと思おうと、云いようもない浪漫的な心地に誘い込まれるのであった。何か、自分の魂があくがれ出して、あの蛍の群に交って、水野麺を高く低く、揺られて行くような、…(p.35)というところは、和泉式部の「物思へば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」を引いているのだろうし、気づかない表現いっぱいあるんだろうなと思ったりした。
隣人の外国人たちが帰国し、時々の規制や戦争関連の話も差し込まれ、徐々に日本全体に立ちこめる暗雲が増す感じがあって緊張感があったし、雪子の縁談も最後ああいう形で御牧とまとまってよかったが、彼女の体調崩しがマリッジブルーとも、結婚したところで訪れる本格的な戦時下での暮らしを思うと幸先が良くない感じも不穏だった。
他に好きだったところでいうと、上流階級の生活が垣間見えるところ!関西という土地もあって全然肌感ないところも多かったけど、飲食店の名前とかわかったらかっこいいし、そういうところに電話をひょいっとして予約を取るのもかっこいい、、、笑。現存のお店がどれだけあるのかはわからないけど、残ってるお店で堪能ツアーしてみたいなあ
…柿伝あたりの仕出しであろうと、京都の食味のことに委しい幸子は推した(p.403)
…別に御木本で真珠入りの鼈甲のブローチ兼用のクリップを買って…(p.337) ーミキモトって御木本!!
あとは言葉遣いがもちろん引き続き素敵だし、イントネーション想像し切れてないところがあると思うと、悔しいですけど笑、悦子の口調はどういうニュアンスなのか気になった。
…こいちゃん今夜は泊って行きなさい、と悦子が云い出し…(p.294)
「姉ちゃん、東京へ行って来なさい」と、悦子が大人めいた口調で云った。(p.325)
それにしてもこれで谷崎、東京生まれ・育ちなのかいいいっていうのが面白かった笑。てっきり関西の人かと思っていたけど、よくよく詳しいなあ。
Posted by ブクログ
新潮文庫のカバー裏に盛大にネタバレが書いてあって、ここまで読んできたのになんてことをしてくれんねん!と少しだけ怒ってたんだけど、そのこいさんの子は結局死んでしまうし、雪子ちゃんも結婚決まったけどお腹ピーピーになって、だ、大丈夫かな…ってなるまさかのドタバタエンディングだった。この先もこの姉妹には色んなことが起きる暮らしが続いていくんだろうな〜っていうのが想像できて、はい、とにかく雪子ちゃんは結婚できてめでたしめでたし。の感じじゃないのが逆にリアルで個人的には良かったけど、こういう最後を望まない人もいそうだなとは思った。賛否が分かれそうというか。
それにしても、谷崎潤一郎の作品は痴人の愛とこの細雪しか読んだことがないけれど、いつも物語に引き込まれて、早く続きが読みたい!ってなる。細雪に関しては気になりすぎて夢にまで登場人物が出てくるくらいだった。個人的に苦手な長編をここまで早く読み進めることが出来たのも、谷崎潤一郎の物語の作り込みがうまさがそうさせたんだろうなと思う。
Posted by ブクログ
「細雪」回顧によりますと、谷崎潤一郎はこの作品を書き始めたのは太平洋戦争の勃発した翌年、昭和十七年であり、書き終わるまで六年かかったそうです。
また「細雪」には源氏物語の影響があるのではと人に聞かれたそうです。
最初の三年は熱海で書き、次に岡山県、平和になってから京都と熱海で書かれたそうです。
長かったから肉体的に疲れたそうです。
三十三歳になる三女の雪子の姿かたちの描写が美しいと思いました。映画では吉永小百合さんが演じられたそうです。
でも、今の時代なら、お姉さんやお嬢さんでも、まだ通る年齢ですがこの作品の時代では年増とよばれるのですね。
雪子の左の眼の縁にあるシミが何度も問題にされますが、そんなことで縁談がまとまったりこわれたりの時に問題にされるのですね。
この物語で一番現代的なのは人形作家をやめて、洋裁で自立して奥畑という男性を養ってやろうと言っている四女の妙子であると思いました。
でも、段々に妙子の言っていることが全て嘘であり、貯金はほとんどなくなり、奥畑の坊の実家から宝石やお金を引き出させて贅沢にふけり奥畑を利用して、あとはバーテンの三好を誘惑して、子供を身ごもり、奥畑とけりをつけようとしていたのには、驚きました。がっかりしましたが、リアルな生きた人間の人物像をも感じました。妙子の自立した女性像は嘘でした。
そして、雪子は御牧という貴族出の男性と縁談がとうとうまとまりそうになったとき、妙子は妊娠中の姿を数か月の間、見せないように身を隠すようにうながされますが、死産してしまいます。
雪子の花嫁支度は大変豪華で立派な式が挙げられることになりましたが、なんともやりきれない終わりでした。
二女の幸子は二人の妹の縁談に始終、翻弄されていますが、幸子は他に何かないのだろうかと思いました。気苦労が絶えないでしょうね。昔の上流中流家庭というものは贅沢はしますが、大変なものだと思いました。
最後の最後に四人の姉妹の本当の人物像がはっきりとみえたように思います。
文章は本当に美しく、文豪のみやびやかな世界を堪能しました。
Posted by ブクログ
よく言われる源氏物語感は感じなかったが、当時の家庭のリアルが書かれているなぁと。
順序、体裁、社会、環境変化に戸惑いながらも必死で生きることの素晴らしさと難しさが良かった。
結果的に見れば、雪子は婚約、妙子の子供も亡くなってはしまったが、これをきっかけに新たな道に進んでいる。現代の我々は縛られて、不自由だと感じているかもしれないが、個人として意思や意見が言いやすくなり、戦争をきっかけにアメリカ的な自由が入り込んできたのだなと改めて思った
Posted by ブクログ
下巻は、雪子の二度の見合いと、妙子の赤痢と妊娠と死産が中心。控えめな雪子と行動的な妙子が対照的に描かれ、幸子はそれぞれに頭を悩ませる。子爵の一族に嫁いでいく雪子と、バーテンダーと夫婦生活を始める妙子の結末も対照的。
大垣の親戚家族との蛍狩りのシーンが幻想的。
見合いの世話をする井谷、丹生の両夫人の会話がテンポよく、見合い相手の橋寺、御牧との掛け合いも面白い。
巻末の回顧では、刻々と変わる時勢のなか、自動車や列車の料金や芝居の場所や演目、映画のタイトル、大水害の様子などを調査し、あらかじめ時系列にあらすじをまとめ、だいたい予定どおりにいったと書いている。また、頽廃的な面が書ききれなかったが、戦争と平和のあいだで書かれたのでやむを得ないとも。
源氏物語の影響については、昔から読んでいるし、現代語訳をやったあとでもあるので、無意識のうちに影響を受けているかもしれないとのこと。たしかに切れ目なくつらつらと続く『細雪』の文体は古文を思わせる。
裏表紙のあらすじに物語の結末が書いてあるのはよくない。