小説・文芸の高評価レビュー
-
Posted by ブクログ
ネタバレ初読と再読で、印象がまるで変わる作品だった。
ルームシェアをする若者たちの生活が、それぞれの視点から描かれていく。初読では、何気ない日常を追っているうちに、少しずつ空気が濁っていくような不穏さを感じた。
しかし、結末を知ったうえで再読すると、見え方が一変する。
最初から人間関係には歪みがあり、それぞれに焦燥や秘密がある。そして、その秘密は本当に「隠されていた」のだろうかと思えてくる。むしろ住人たちは、互いのことをかなり分かっていながら、あえて触れずに生活を続けていたのではないか。
「知らない」のではなく、「知っているけれど変わらず過ごしている」。
そう考えると、彼らの共同生活は一気に -
Posted by ブクログ
辞書を作る人たちをめぐる物語。
普段、何気なく手にする一冊の辞書。その一冊が完成するまでには、想像もつかないほど長い時間と、作り手たちのたゆまぬ労力が積み重なっていることを知った。
言葉を集め、意味を考え、用例を探し、一つ一つの語と向き合っていく。完成がいつになるのかも分からないほど長い仕事に、それでも情熱を注ぎ続ける登場人物たちの姿が印象的だった。
そして、辞書づくりそのものだけでなく、その仕事を通して生まれていく人と人との関係がとても素敵だった。それぞれ性格も得意なことも違う人たちが、一冊の辞書を作るという目的のもとにつながり、自分にできることを積み重ねていく。
読みながら、自分は -
Posted by ブクログ
「ある一文に驚かされる」ということは、読む前から知っていた。つまり、どこかに大きなどんでん返しが待っていることを承知したうえで読み始めたことになる。
それでも、その一文を実際に目にした瞬間、ページをめくる手が止まった。
しかし、この作品の凄さは、その一文が持つインパクトだけではないと思う。
真相を知ったあとでそれまでの叙述を振り返ると、必要な情報はきちんと提示されている。それでいて、読み手の思い込みや文章の受け取り方を巧みに利用し、自然に別の景色を見せている。その構造に気づくほど、「これは実にフェアなトリックだ」と感じた。
騙されたというより、こちらが勝手にそう読んでいたのだと納得させ -
Posted by ブクログ
上巻で驚かされた「音楽を文章で表現する力」は、下巻に入ってさらに熱を帯びていく。
とりわけ演奏シーンは圧巻だった。
奏でられる音の中に、その人がこれまで生きてきた時間、出会った人、失ったもの、抱えてきた感情までが凝縮されているように感じる。一回の演奏が、その人物の人生そのものとして立ち上がってくる。
だからこそ、これは単にコンクールの結果を追う物語ではないのだと思う。それぞれの音楽家が他者の演奏に触れ、自分自身の音楽と向き合い、互いに影響を与えながら変化していく。その過程そのものが豊かだった。
読みながら音が聴こえ、音が観える。
最後までその感覚は失われなかった。
音楽という、形のな -
Posted by ブクログ
音楽を文章で描くということが、ここまで成立するのかと驚いた。
当然ながら本から実際に音が鳴るわけではない。それでも、演奏が始まると音が聴こえるように感じる。時には、音の色や形、広がりまで見えてくるような感覚さえあった。
ピアノの響きを直接説明するだけではなく、風景や記憶、感情、空気の動きにまで変換しながら音楽を描いていく。その表現の豊かさに何度も引き込まれた。
また、同じ曲であっても、演奏する人物によってまったく違う音楽として立ち上がってくる。それぞれが歩んできた人生や、音楽との距離、抱えているものが演奏に滲み出ているからなのだと思う。
「読む」のに「聴こえる」。
「文字」なのに「観え -
Posted by ブクログ
誰にも届かない声を上げ続ける「52ヘルツのクジラ」。その存在が、傷を抱えながら生きる登場人物たちと重なっていく。
助けを求める声は、必ずしも「助けて」という言葉になるわけではない。言葉にできないこともあるし、そもそも声を上げる方法さえ知らないこともある。それでも、その小さなサインに誰かが気づくことで、人は救われることがあるのだと思った。
一方で、この物語は単純に「誰かが誰かを救う」話ではない。傷ついた人が別の誰かの声に気づき、手を差し伸べることで、自分自身も少しずつ救われていく。人と人とのつながりは、一方向ではないのだと感じた。
読んでいて苦しくなる場面も多い。それでも、誰にも届かないと -
Posted by ブクログ
弟の突然の死、離婚、不妊治療。いくつもの喪失を抱え、人生の底にいるような主人公・薫子が、弟の元恋人であるせつなと出会い、少しずつ人や暮らしとのつながりを取り戻していく物語。
本書を読んでいて印象的だったのは、「食べること」や「暮らすこと」が持つ力だった。
どれほど心が打ちのめされていても、おいしいものを食べれば身体は反応する。部屋が整えば、少しだけ呼吸がしやすくなる。誰かの役に立つことで、自分自身の存在をもう一度確かめることができる。
人生を立て直すというと、大きな決断や劇的な出来事を想像してしまう。しかし実際には、食べること、片づけること、人と言葉を交わすこと。そうした小さな営みを積み -
Posted by ブクログ
凛とした空気と静かな緊張感。京都特有の雰囲気の中の軽妙なやりとり。癖は強いが確かな技術を持つ原田病院の面々に、マチ先生に粋な計らいをする大学病院のドクター。花垣先生との強い信頼関係や南先生の成長がとても微笑ましい。人間は無力。医療も完全ではない。関わった様々な患者さんを通して感じさせられる。その中でも努力することが大事だとマチ先生は言う。スピノザの哲学と人間模様が絡み合い、京都の街のように深く深く心に染み込んでくる感覚になった。難症例でのスーパードクターぶりや、辻さんの「先生おおきに」では号泣してしまった。静かなタイトルや風景描写とは対照的に心が激しく揺さぶられる素晴らしい本でした。大好き度❤
-
Posted by ブクログ
友人に勧められて手に取った一冊。ホラーというジャンルの小説をこれまであまり読んでこなかったが、文章の力に導かれるように、最後まで楽しく読むことができた。
章ごとに視点が切り替わる構成だが、話の筋を見失うことはなく、むしろ視点が変わるたびに怪異の輪郭が少しずつ明確になっていく。そのつくりがとても面白かった。
一方で、本当に怖いのは怪異だけではない。人間そのものの弱さや脆さ、他者への見方の偏りなども浮かび上がり、怪異の恐ろしさと人間の怖さが並行して描かれているように感じた。
伝承や文化的な背景が物語に織り込まれていることで、完全なフィクションでありながら「もしかすると、どこかにあるのではない -
Posted by ブクログ
主人公は側から見れば順風満帆な生活を送っている。しかしその生活は自分の努力によるものではないと考えており、生活に満足していない。
そんな時に小学生時代に心を通わせた女性と再会して、恋に落ちる。何の不満もない妻と娘2人がいて4LDKに住んでいる生活を捨ててもいいと思うほど、恋に落ちる。
妻と島本さん(恋に落ちた女性)の性格、外見が入れ替わっても、主人公は恋に落ちていたと思う。主人公は状況に惹かれているのだ。順風満帆で不満はないのに、なぜか物足りないと感じる。そんなときに自分の思い通りにならない(急に長期間会えなくなる)女性が現れる。その人のことしか考えられなくなる。
私にはまだ経験はないが、今後 -
Posted by ブクログ
最後、というのがキーワードなのかなと思う短編集。森絵都らしい。
第1話 夏になると僕ら5人のいとこは再会する。ぼく、智明、じゃがまる、章くん。章くんの別荘は辺鄙な海辺にある。元料理人の小野寺さんが管理人。午後11時から僕らは章くんにクラシックを聞かされるのだが寝てしまう。僕は章くんにいろいろ押し付けられるのが嫌になってきた。章くんへのモヤモヤがどんどん大きくなる。
第2話 中学の卒業式の日、机にごめんねと書かれた手紙が入っていた。9月の球技大会の時に不眠症だった。元音楽室に避難したら、藤谷がピアノを弾いていた。藤谷も眠れないという。母が愛人のアパートに行ってしまったのがキッカケらしい。藤谷 -
Posted by ブクログ
ネタバレスピラリンクスの最終選考に残った六人の就活生。グループディスカッションのため互いを知ろうと仲良くなる六人だったが、急遽最終選考の内容が変更され、六人で話し合い、たった一人の内定者を選ばなくてはならなくなる。
二時間半、話し合いをする六人だが、会議室の中に封筒を見つける。開けてみると中には六人それぞれの誰にも知られてはならない秘密が書かれた紙が入っていた。
波多野祥吾、久賀蒼太、袴田亮、八代つばさ、嶌伊織、森久保公彦の六人、全員を好きになり、嫌いになり、好きになって終わった!
特に袴田がかっこよかった。
まさかの主人公だと思ってた波多野は病死し、後半は嶌が主人公になるとは驚きだった。
パス -
Posted by ブクログ
『GOAT』第2号(特集は「悪」)です。前回の特集「愛」との対比がいいです。前回から引き続きの作家さんや初掲載の作家さんなど今回も盛り沢山で、また1ヶ月かけてチマチマ読み、完読しました。
「悪」ならではのエンタメ・ミステリー色強め傾向で、様々な視点の「悪」へ真正面から向き合って本領発揮する作家さんの作品に、読み手も吸い込まれます。加えて、様々な視点の「悪」とは言え、最近の社会情勢を反映した「悪」が多い気がしました。
明確な悪意がないにも関わらず、知らぬうちに「悪」に加担してしまっているケースなど…。これは他人事ではなく、改めて歪な社会構造と我が身の振りを省みざるをえません。日常に潜む -
Posted by ブクログ
50冊目の本でした。
心理描写に使う言葉が多種多様であり、語彙量が本当に多く圧倒された。したがって、自分とは境遇が違う主人公に感情移入することができた。貴志さんは天才を書くのが本当に上手い。論理的で、勉強ができる人間を主人公にした作品は読みがいがあり、また読みたくなる。
特に印象的だったシーンは、紀子がキャンバスに書いたメッセージを発見したシーンである。どのように嘘をつくかを一瞬で考える秀一の視座の高さに感服した。
また今作は面白い表現が多い。「アイデアを産むための、苗床を拵えたに過ぎないのだ」、「性急に抜本的な解決策を望むのは、頑是ない子供と同じ態度だ」など。例えを用いて、または聞いた
表示されていない作品があります
セーフサーチが「中・強」になっているため、一部の作品が表示されていません。お探しの作品がない場合は、セーフサーチをOFFに変更してください。