【感想・ネタバレ】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年のレビュー

あらすじ

多崎つくる、鉄道の駅をつくるのが仕事。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。
何の理由も告げられずに――。
死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時なにが起きたのか探り始めるのだった。全米第一位にも輝いたベストセラー!

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大学時代、一方的に親友4人に絶縁を宣言された多崎つくる。過去を乗り越えるため、36歳になった彼は絶縁の理由を求め元親友たちを訪ねます。次々と明かされる絶縁の真相と深まる謎。衝撃の結末に読み返さずにはいられない作品です。
恥かしながら村上春樹作品をきちんと読んだのはこの作品が初めてでした、好き嫌いが分かれると聞いていましたが、面白さのあまり止まることなく一気に最後まで読み切りました。
私がこの作品をおススメしたいポイントは、解釈が無限に存在するというところです。私は読み終えたとき興奮が冷めやまず、勧めてくれた友人に連絡しそのあと2人で結末について長らく議論を交わしました(笑)
読めばその回数だけ新しい発見があるはずです。あなたもぜひ新しい解釈を見つけてみては^^

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読後感が優しい気持ちになる。
フィンランドの湖畔でのシーンが特に印象的で、つくるが過去を乗り越え自分を取り戻す、色彩を取り戻す象徴的な場面かと感じた。
とは言え、日本に戻り沙羅を強く求めハッピーエンドかと思いきや、沙羅は別の男性の存在を匂わせ雲行きは怪しくなります。そして結末は語られないまま。
再生の物語のようであり、再生しようとする姿が美しく再生をしたかどうかはそんなに問題ではない物語のようでもあり。
でも、本を閉じるときには「つくる、よかったね」と静かに寄り添いたくなる物語でした

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2025年11月11日

Posted by ブクログ

「中身のある人生とは何か」30代が目前に迫り、漠然とした悩みを抱える自分に深く刺さった一冊でした。

僕にはたぶん自分というものがないからだよ。これという個性もなければ、鮮やかな色彩もない。こちらから差し出せるものを何ひとつ持ち合わせていない。そのことがずっと昔から僕の抱えていた問題だった。

平凡で実直に生きてきたが故に、自分の取り柄の無さに悩み、卑下しがちな主人公•つくる。信じていた仲間からの唐突な絶縁宣告が彼の運命を変える。故郷•名古屋から一人離れ、絶望の淵に追いやられながらも、東京の工科大学に学び、夢だった鉄道関係の職を得る。

十六年の時を超え、仲間との再会で解かれた誤解と生きる意味。

たとえ空っぽの容器だったとしても、それでいい。自分自身が何であるか、そんなこと本当は誰にもわかりはしない。それなら君は、どこまでも美しいかたちの入れ物になればいいんだ。誰かが思わず中に何か入れたくなるような、しっかり好感の持てる容器に。

異国•フィンランドの地でエリと語り明かす場面は、ノルウェイの森で描き切れなかった「その後の人生」なのではないでしょうか。
夢を強く信じて前に進んだからこそ、得ることができた今の生活。苦しみ抜いた末にひとつの解を手に入れたつくるの姿に共感しました。

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2025年11月03日

Posted by ブクログ

僕が読むべき時、それは高校三年の夏、秋ごろだった。まさに間違いのない時期に本作を読めた思い出はいつになっても心にずっしり残る読書体験だった。何度読み直しても、心が正しく刺激される。

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2025年08月20日

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すらすらと物語に引き込まれていった。小説を読むのが久しぶりだったがまったく苦ではなく、早く次の展開を知りたいと思える作品だった。最後は結末を描かない手法、もったいぶらせる展開が村上春樹なのか。他の作品も読みたいと思った。

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2025年08月19日

Posted by ブクログ

素晴らしい なぜあれほどまでに完璧であった5人の結束がある日くずれ、4人から絶縁されるまでになったのか。その真相から紐解かれる、色彩を持たない田崎つくるの死と回生の物語。
自分はどのような価値を持っているのか、鋭い内省と著者の言葉を失った死人への洞察から得る喪失感がひしひしと伝わってくる、また、さらにそれに対して私たちは、どう抗い生きていかなければいけないかを表現した至高の傑作。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

描写が素晴らしくて、情景が鮮やかに伝わってくる。音楽もスマホで探して聴きながら読んだりして、それも新鮮で、すご〜く楽しめた。うーん、たぶん沙羅とは結ばれなかったかなーって思う。

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2025年06月10日

Posted by ブクログ

言わずと知れた大御所の作品だ。
こう表現するのは烏滸がましいけれども、僕自身の断片みたいな内省的で瞑想的な人物が次々に出てきて、妙に居心地が良い。

はるか昔はこの絶え間なく続く省察が堪らないものだったが、今や僕自身がそのような人間になったせいだろう、穏やかな気持ちでスラスラと受け止めることができた
歳を重ねていくとはそういうことなんだろう。分からなくなることはあるが、分かるようになることもあるのだ。

終盤ではクロに共感した。多崎つくるとクロ。長い紆余曲折の果てに、それぞれが失ってきたものはきわめて多い。
特にクロの言葉には限りなく切ないものがあり、彼女の悲しくも優しい喪失感は読者の胸を強く搏たずにはいられない。
物語の閉じ方もただただ美しい。余韻という線路の上、喪失の闇を希望で照らしながら、力強く走り往く列車が見えるようだった。

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2025年06月08日

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考えても知りようのないことは、また知っても確かめようのないことは、考えるだけ無駄というものだ。そんなものは所詮、君の言う仮説のあぶなっかしい延長にすぎない。

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2025年05月30日

Posted by ブクログ

めちゃくちゃ前に読んで、面白かったなあという気持ちだけしか残っていなかったので、改めて読んだ。
村上春樹さんの本は、10年前くらいにこの本も含めていくつか読んだのだけど、全て(面白いと思ったのだけど、どんな話なのか理解できていない。説明できない。)と感じたのを覚えている。
今回も、そうかもしれない笑
全部、理解しきらんというか、自分の感覚の中にはまだない感情とか表現がわりと多い気がする。
でもその一方で、この気持ちは自分の中のこの感覚や、みたいな共感もそれなりに多くある。
それこそ、多崎つくるの(自分には色がない、空っぽ)みたいな気持ちは、自分にもあるなあと思う。

で、自分なりに今回読んでみて、今回の解釈としては一旦、
自分に自信がなくて人と心から交わるのを避けてきた人間が、痛みを覚悟でもう一度心から交わろうとする話(自分の人生を生き直してみようとする話)
なんかなと
んーでも、言葉にするとちょっと違う感もあるかも

今回も、前回読んだ時よりかは、自分に置き換えて読めた気もするし、わからんことが多かった気もする。

あ、あともう一つ思ったのは
ミステリー小説みたいに、含みを持たせて読ませる割に、伏線回収全然されへん話やなあとも思いました笑
その部分も含めて、良さなんやろうけれど

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2025年05月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「たとえ君が空っぽの容器だったとしてもそれでいいじゃない。もしそうだとしても、君はとても素敵な、心を惹かれる容器だよ。自分自身が何であるかなんて、そんなこと本当には誰にもわかりはしない。それなら君はどこまでも美しい形の入れ物になればいいんだ。誰かが思わず中に何かを入れたくなるようなしっかり好感の持てる容器に。」というセリフが自分の心に奥深く安心感をもたらしてくれた。
高校生の頃に初めて読んだ時、人生で1番好きな小説だと思った。
改めて、7〜8年ぶりに読んでも、やはり1番に変わりがないことを実感した。
心温まるストーリーではないのに、モヤモヤが晴れていくような爽快感も含んだ作品。
わたしはこの小説がこの世で最もすきな小説だと思う。

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2025年05月22日

Posted by ブクログ

10年前に読み、今回再読。
前回は読後の印象(余韻)が薄かったが、今回はガツンときた。
自分が歳(読書経験)を経たからか。。

結果どうなったか気になるが、分からなくても、この作品の心地よさを味わえたので大変満足です。

また、10年後に再々読したい。

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2025年05月05日

匿名

購入済み

 リストのピアノ曲「巡礼の年」。IQ84の「シンフォ二エッタ」と同様に小説を通して常に流れている象徴的な曲である。ピアノ演奏をネットからダウンロードして聴いた。リストはあまり聞いたことがなかったけど、その特徴的な旋律に感銘を受けた。
 村上春樹は多崎つくるを通して何を表現しようとしたのか?彼は村上春樹の長編小説の主人公の性格を踏襲している。
 主人公は三人の高校時代の元友人を訪ねるが、クロの場面が最も印象深く描かれている。

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2019年11月27日

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ネタバレ

初めて村上春樹の長編最後まで読めて、これがハルキ構文か〜というのを存分に感じることができた。笑

つくるが過去の因縁の原因を探っていく過程がミステリっぽい要素で楽しめたのかも。
ただラストはやはり純文学なのでふわっとした終わり方で物足りないところはある…

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

高校時代にとても仲良かった人たちから
急にハブられて、ずっと立ち直れず、
10数年後にハブられた理由を尋ねに、
友達に会いに行く話。

私にもすごい仲良かったのに、だんだん価値観の違いを強く感じるようになり、
会わなくなった友達や元彼がいる。
長い時間が経てば、仲良かった時のことや
すれ違いについて正直に話せるようになるのかな。
時間が経てば、また会って話したいと思うのかな。時間を経つことで、違いがより鮮明になる気がして、今のところ会いたいと感じられない。

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一言で言うなら、「もっと洗練されたノルウェイの森」感。より無駄なものを削ぎ落とし、1Q84的要素も取り入れつつ、しかし主題の問いかけが更に美しく、切なくて淋しい風が頬を掠めるような、それでいて、胸の中にことっと大事なものを傾けて落としていくような、そんな作品。いい意味で胸がきゅっと締め付けられます。

人生は複雑な楽譜だと例えるところが好き。(きちんとやっていても評価されるとは限らない…)

今まで読んだ氏の作品の長編では一番繊細で綺麗で美しいかもしれない。それは、個人の胸の内に誰しもが抱えるふとした不安に対し、それを突き詰め問題提起することが目的なのではなく、寄り添うことを軸に書かれているなのではないかと。(他の長編は、突き詰め、問いかけていくが故に生死や世情に対する泥臭さがもっと感じられる。)


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2025年10月01日

Posted by ブクログ

初めての村上春樹作品だった。
すごく言葉の量(?)が多く独特な文体なのに読みやすくて引き込まれた。
どの人物とも、白とも黒ともつかない結果だったけれど、読み終わったときなんとなく穏やかな気持ちになれる。
こういう物語こそ、より本物の人生に近いのかなと感じた。

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

無印の古本でたまたま目について購入。
村上春樹の本は初めて読んだ。
村上春樹の特徴など知らずに読んだので新鮮だった。

冒頭の暗さに引きつつも読み進めた。
多崎つくるという男の人生が少しずつ前に進んでいく巡礼の物語。

色彩がキャラクターの立ち位置を表現している点や自分から見た自分と他者から見た自分の印象の差を物語を通じて理解していくのが面白かった。

私自身がつくるのように問題を抱えていたタイミングでこの本に出会い、読んでいるうちに少し心が救われたような気がした。

村上春樹の細かい面白さまで分析できなかったかも知れないけど、つくるの人生が少しずつ変化していく様は読んでいて共に心が晴れていった。

最後は、早く水曜日になってほしいというつくるの気持ちと重なりどんどんとページをめくって進めていった。

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2025年08月14日

Posted by ブクログ

大学生になり、急に高校時代からの仲良しグループからハブられた主人公がその理由を求めて昔の友人を訪ねる話。

高校から大学にあがるとき、いろんな変化があると思い出す。
特に地方から東京に出てきたひとはなおさらそう感じると思う。
何気ない生活をしていても、住む場所が違えば、経験も変わる。考えにも影響する。自分では何も変わらないと思っていても。
新たな環境で、新たな自分を発見するに連れて、他者からは異なる人物に見られる。
そうして前のままでは居られなくなる。
読みながらそんなことを感じた。
気づけば地元には、なんだか居場所がないような気もしてくる。(もう長く地元に住んでないから当たり前かw)

村上春樹ワールドでは一番読みやすいので、おすすめ!




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2025年07月27日

Posted by ブクログ

学生時代とかの、初めておこる感情のピュアさや激しさ痛みとかは、確かにあの時だけのもので2度とない感覚がある
どこかの初恋の描写を見て、当時の恋心を思い出した
村上春樹の文章はそういう懐かしさがそっと現れる時がある

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2025年07月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

美しさとは、形そのものだけではなくて、溌剌としていることだ。溌剌とするには、そうなれる場所を見つけることが必要で、その場所が分からない、そこに行く筋力がないとどんどん生気がなくなっていく。

頭も体も働かない。何にも心惹かれず、自分が好きなものも分からない。そうすると、かつてあった美しさもなくなり、自分がわからなくなり、人と会っても何を話すことがなく、1人になり、ますます生きる道が分からなくなる。とりあえず生命活動を維持している身体を引き摺っていて歩いている、悪霊に取り憑かれた日々を送っている。このまま、こうして生きているとどんどん死に近づいている感覚がある。このままでいいわけがない。でも、どうにかしようとする気力がない。
シロは死ぬ間際、そういう状態だったんじゃないかなと思った。
死の際は、気づいたら足元にある。死ぬのも、生きるのも恐ろしい。生きるって、どうしたらいいんだ。

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2025年06月07日

Posted by ブクログ

村上春樹はいつだってパラレルワールドに連れて行ってくれる。それも鮮明に。
色彩をもたないつくるくんと共に巡礼を行ったような、濃密な時間を過ごしたような感覚が残る。そして、この物語からそれぞれの自分なりのパラレルワールドが展開されていく余白がそこかしこに残されているのもまたいい。

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2025年05月19日

購入済み

引き込まれて

出だしから作者の世界観に引き込まれ、色々な事を解明する過程の主人公の思いに心を掴まれました。
出てくる登場人物は多くはないが、それぞれの立場での感情が見てるかのような錯覚に陥りました。

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2018年01月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上さんの本はだいたい読む前の印象を裏切られるところが好き。
ミスターグレイと年上の彼女との決着、オチが付かなかったのだけが心残りかなぁ。
主人公の幸せを祈りたい。

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2025年05月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全ての表現がとても美しい。特に音楽について。音楽を専門に学んでない若者がここまでクラッシック音楽を聴くとは。評価3にしたのは、モヤモヤした部分があるから。1つ目は、シロが誰に襲われて命を落としたのか。2つ目は灰田はなぜいなくなったのか、どうなったのか。3つめは、沙羅はつくるを選ぶのか?その後。ラストは「え?終わり。」という感覚になってしまった。

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

オーディブルで。思いのほか人生讃歌に着陸しておもしろかったが、それはそうと灰田はいったいなんだったんだ。灰田の消息を教えてくれ…。

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2025年10月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

シロがけっこう残酷。
追い詰められたとはいえどうして多崎つくるを陥れたのか。そういうものだった、仕方ないのだ、本人は納得してるけどよくわかりません。
フィンランドのシーンは落ち着いていて好き。

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2025年10月10日

Posted by ブクログ

自分のアイデンティティは存在するのか、いつまで経っても不安なまま。他人の自分への態度で自分の存在を観察するしかない。他人に自分の存在を委ねず、絶対的に自分の存在を肯定したいものだ。
自分の強い感情に出会った時に、自分ってこう言う人なんだ、って気づくよね。人を愛したり、本気で傷ついたり、こうはなりたくないと思ったり。

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2025年09月22日

Posted by ブクログ

割とわかりやすい物語でした。
もう村上春樹作品を読むときはきちんと終わるかどうかというよりもこの設定についていけるかどうかになっている。
現代の話であるから突拍子もないことはあまりなかったけれど、シロの身に何が起きたのかははっきりせぬまま終わってしまったし、つくると紗羅がこの後どうなったのかが気になる。

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2025年08月31日

Posted by ブクログ

自分だけ色がない時点でアイデンティティとして確立してる。それをわかった上で卑下してるかんじ

限定された目的は人生を簡潔にする

大きな意味を持つ物事であるなら、ちょっとした過ちで駄目になったり、宙に消えたりすることはない

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2025年08月26日

Posted by ブクログ

村上春樹作品初めてで、割と読みやすかった。
読んでる途中から、これはそうかなかばミステリーな感じの作品なのか、と勝手に思ったので最後色々?のままになってしまってるとこもあり、自分の中でどう着地すればいいのかわからない。
面白かったかと聞かれたらそうではあるんだけど、あと性描写がなんかすごく生々しいと感じたのは私だけ?

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2025年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

高校時代の仲の良かった5人組から縁を切られた外崎つくるが縁を切られた理由を探す旅に出る物語。
途中に大学時代に仲の良かった灰田との物語や灰田の父親のミステリアスの物語もでてきて読みやすかったと思うが伏線などはあまり回収されずに終わってしまった。

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2025年05月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

数年ぶりに再読。過去の作品と比べると、主人公がはじめから自立?している(厳しい時期があれど、彼は「夜の海を一人で泳ぎ切ることもできた」)ようにも思え、そのせいか幾らか物語の展開がスムーズに感じられた。他の村上作品と同様、多くは語られず(シロの死因、沙羅との結末等)、多くは読者の想像力に委ねられてはいるが、具体的に何が起こったかではなく、その背後にあるファクター/メカニズムにこそ目を向けるべし、というメッセージだと、個人的には受け取った。
最近他の村上作品と一気読みしている中で、どこか根底に繋がる一つのテーマとして「正しさ」があるのではないかと感じている。正しく傷つく、正しい場所にいる...等。何が正しいかは知る由もないが、要は正しくあるために「労力を払う」ということを著者は重視しているのか(著者の言葉で言うとコミットメント)、などと考えたりする。結果が正しいか、思わぬ方向に逸れるかに限らず、少なくとも「正しくあろうとするために自身の労力を差し出す」ことを怠っては、自分にはどうしようもない悪や闇に自分の人生を支配されてしまう。幾つもの村上作品を通読する中で、そのように感じるに至った。

特に印象に残った箇所は以下
・「淋しいとは思わなかったの?」と沙羅は尋ねた。「孤独だとは思ったよ。でもとくに淋しくはなかったな。というか、そのときの僕にはむしろそういうのが当たり前の状態に思えたんだ」(p.32)
・「どんなことにも必ず枠というものがあります。思考についても同じです。枠をいちいち恐れることはないけど、枠を壊すことを恐れてもならない。人が自由になるためには、それが何より大事になります。枠に対する敬意と憎悪。人生における重要なものごとというのは常に二義的なものです」(p.78)
・しかし才能というのはな、灰田くん、肉体と精神の強靭な集中に支えられて、初めて機能を発揮するものだ。脳味噌のどこかのネジがひとつ外れ落ちてしまえば、あるいは肉体のどこかの結線がぷつんと切れちまえば、集中なんぞ夜明けの露のように消えちまう。たとえば奥歯が疼くだけで、ひどい肩こりがあるだけで、ピアノはまともに弾けなくなる。本当だよ(p.96)
・「なあ、こういうのって大いなるパラドックスだと思わないか?おれたちは人生の過程で真の自分を少しずつ発見していく。そして発見すればするほど自分を喪失していく」(p.235)
・それは日本で彼がいつも感じているのとはまた違った種類の孤立感だった。なかなか悪くない、とつくるは思った。二重の意味で一人であることは、あるいは孤立の二重否定につながるのかもしれない。つまり異邦人である彼がここで孤立していることは、完全に理にかなっている。そこには何の不思議もない。そう考えると落ち着いた気持ちになれた。自分はまさに正しい場所にいるのだ(p.296)
・「僕のことならもう気にしなくていい」とつくるは言った。「僕はなんとかその一番危ない時期を乗り越えた。夜の海を一人で泳ぎ切ることもできた。僕らはそれぞれ力を尽くして、それぞれの人生を生き延びてきた。そして長い目で見れば、そのときもし違う判断をし、違う行動を選択していたとしても、いくらかの誤差はあるにせよ、僕らは結局今と同じようなところに落ち着いていたんじゃないのかな。そんな気がする」(p.357)

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2025年05月21日

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