小説・文芸の高評価レビュー
-
Posted by ブクログ
登録は新潮文庫だけど、実際は古書店で買った、昭和46年当時に発行されたもの。時代柄、まだ戦後そこまでたっていないこともあって、描写が戦中を経験したことがなければ書けない文章で、公式記録をもとにしたとしても現代の作家にはこういうものは作れないと思った。
これはジャンルは小説ということだが、生存者や遺族への取材、公式記録他生存者の記録、現地への取材をしたうえで書かれている。小説とした理由は直接取材し得なかった、亡くなった隊長、将校や兵卒、従軍記者、村人の心理描写を軸に話を進めたからだとおもう。実際にたどった道、どのように遭難したか、会話、生き残ったかは深く取材をしているので、実際はノンフィクションとしてよいと思ったので、じぶんの中ではノンフィクションジャンルで登録をした。
その時代でなければ・・というのはその心理描写ほか説明書きの中でも~~逆らえるはずがなかった。上官が命じたらそこまで。といった、当時の軍隊や日本の様子を肌で感じていないと書けない生生しい文章だと感じたから。文体は今でも読みやすく、山岳作家の方の文章は結構読みやすいと思っているんだけど、わかりやすい描写、転換もはっきりしていて古典感はまったくなかった。
行軍をした心理描写があったからか、自分もそこにいるかのような感覚をもちながら読んだ。絶対に経験しないことだからなのか、自分も山に行くからか、こういう遭難の話に惹きつけられるものがあるのはなぜだろう。 -
Posted by ブクログ
効率や意味を求める薫の性質が自分に重なる。
趣味や関心事は多くあるが、いずれも私は価値を説明しやすいものを好んでいる気がする。例えばワインだって、教養になったり、テイスティング能力が向上したり、と成長や価値に紐づいている。
一方で、人からの善意だとしても効果的でないときに無駄だと感じてしまっている節もある。
土砂降りの深夜、人の家に向かっている時に、駅まで迎えに行こうかと聞いてくれることは、その人の愛だったと思うし、旅行のパッキングにやけに時間が掛かっているのだって、現地でのことを想像してその時間も含めて楽しんでいるのかもしれない。むしろ、そういった内省や感受性こそが「心の豊かさ」や「他者への想像力」に繋がっているのだと思う。
しかしこれまで積み重ねてきた性格もあり、全く意味があると思えないものも含めて愛したいと素直に思えないかもしれない。ただ、自分には価値が分からないものでも、誰かにとっては意味があることかもしれない。むしろ、自分が価値を理解できていないだけかもしれない。
誰もが同じ基準で価値の有無を判断し、説明できないものを排除していったら、世界は同質化していく。ただ実際の世界ではコントロールできないものだったり違いだったりがある中で生きていくのだ。
ままならないから、私とあなた。なのだ。 -
Posted by ブクログ
大傑作。めちゃくちゃ面白かった。 熊太郎は呆れるほどにどうしようもない男であり、熊次郎に金をかすなや!とかせっかく変われるチャンスなんだから真面目に働けや!とかどうせ負けるのに博打すんなや!とか都度思うのだが、それすらも魅力的で読み進めるほどに面白くなっていった。最後「あかんかった」で茫然自失。悪人ではないが小さい頃から思弁的で鈍臭く要領が悪く世間に馴染めない熊太郎の人生について河内弁で書かれており、時折声に出して笑ってしまうほど面白おかしく書かれているのだが、最後は850ページ読み切った達成感よりもやるせなさ、虚しさに胸がずんと重くなる作品だった。
-
Posted by ブクログ
今度は、御子柴の秘書、洋子の弁護⁈
これまでの作品からすると、洋子は仕事ができ、肝が据わっていて、子どもには優しく、御子柴には欠かせない存在だった。そんな洋子に殺人を犯す要素は感じられないが、御子柴にもつながる過去が、事件にどう絡んでくるのか。同時に、ジャスティスと名乗る人物から御子柴に届いた大量の懲戒請求書との関係は?と、謎が積み重なっていく。
謎の中でも最も気になるのは、やはり洋子の本音や立ち位置だ。過去が過去なだけに、御子柴のことをどう思っているのか、なぜ事務所で働き続けているのか、その意図が知りたい。
今回は、衝撃の結末のようなものはなかったが、どんな状況に置かれても、御子柴の贖罪は粛々と続けられていることが感じられた。そして、洋子や倫子、福岡で出会った人たちなど、御子柴の理解者が増えていることもまた、確かだと思った。
御子柴は、どう思われようと構わないという態度を取る一方で、自分を理解しようとする人の言葉には、意外なほど弱い。理解者を鏡にして、自分でも知らなかった自分を見せられたとき、動揺する。その姿が、このシリーズの面白さの一つだと思う。 -
Posted by ブクログ
第一部に続き、大変面白かった。第一部の子供達が主人公となり、時代は第二次世界大戦から終戦、GHQによる支配へと移っていく。
これまでにもそれなりに戦争小説は読んできたつもりだったが、ここまで多様な視点から、日本やアジア全体の大きな流れを一貫して理解できた作品はなかったと思う。
本当に異常な時代であった。ただ、一人一人の人間性が今と全く異なっていたわけではない。今、現代の感覚を持った私が昭和初期にタイムスリップしたとしても歴史は何も変わらないように、これからも時代の流れが大きく傾けば、個人の思惑など全く無意味に大きな濁流へ呑み込まれてしまうこともあるのだと、少し怖くなった。
もちろん、物語としても最高に面白い。特にヤノタツの息子である四郎が痛快で、登場するたびにワクワクしている。
第三部もすぐに読み始めたい。 -
Posted by ブクログ
辻村深月さんの作品を読むのはこれで三冊目。
傲慢と善良、かがみの孤城
今までに読んだ彼女の作品の中で一番好きだった。
恋編を読んでいるとき、自分が友達にそんな人諦めた方がいいよ、もっと素敵な人いるよと言われたことを思い出し、ああ、自分って相談してる相手からしたらこういうふうに見られて、こんなことを思われているんだろうなっていうのを感じた。
私は蘭花の恋愛は美しいと思った。
もっともこういう恋愛が理想だとも、こんなに嫌悪感を抱く恋愛なんて絶対にしたくないだろうとも思い、複雑な感情になった。
友情編では留利絵に対して、すごいなこの子という感情になった。私は彼女のようにはなれない。
読みながら自分の大好きな二人の女の子の友達のことを思い出していた。
私もその友達が誰かと自分より仲が良さそうにしていたり、自分の知らない話になった時に嫉妬というか喪失感を覚えることはあるが、ここまでの狂気というか深すぎる愛で友達に向き合えないと思うし、どこかで向き合いたいと思っているけど、この感情を向けることで線引きをされて嫌われてしまうんだろうな、と思った。自分なりに友達のことを大事にして、その気持ちを伝えてはいるが、結局行きすぎた愛なんて面倒なだけなんだろうなと思い、勝手に悲しくなった。
解説も読んでいてすごく納得したし、面白かった。
この物語は自分に重ねることもできるし、ものすごく俯瞰視して、色々な考えを持ちながら読むことができるとても奥深い話だなと思った。
読書好きの友達に勧めようと思う!
素敵な本に出会うことができてよかった。
機会があればファイヤドームも是非読みたい。 -
Posted by ブクログ
最初は冷徹無比な主人公だったけど、いろんな人物に会うにつれて人間味が出てきて、最後にはまるっきり変わっていて。
そんな王道なお話の展開だけど、山田朝右衛門や服部半蔵、中盤にはまた新たな歴史上の人物が出てくるし、歴史好きにはたまらないストーリーでした。
この本を選んだのは、表紙のインパクト!!
いわゆるジャケ借りです。レビューみたらめちゃくちゃ高くて、読んでみるとめちゃくちゃおもしろい!!
みんな評価が高い理由がわかりました。
時代小説はあまり慣れてなくて、聞き慣れない言葉も何回か出てきて調べながら読みました。
そのおかげで知識も増えたし、時代小説っておもしろい。 -
Posted by ブクログ
染井為人さんの『正体』は、ページをめくる手が止まらない極上のサスペンスでした。
逃亡犯を追う物語でありながら、本当に描かれているのは「人は肩書きや過去だけで判断できるのか」という問いです。主人公が出会う人々との交流を通して、ニュースや世間のイメージだけでは見えない人間の姿が少しずつ浮かび上がり、善悪の境界について何度も考えさせられました。
章ごとに異なる視点で物語が進む構成も秀逸で、真実が少しずつ明らかになるたびに緊張感が高まります。ただの逃亡劇では終わらず、社会の偏見や司法のあり方、人を信じることの難しさまで描き切った読み応えのある一冊でした。
ラストは切なさと希望が入り混じり、読後もしばらく余韻が残ります。エンターテインメントとして面白いだけでなく、「正義とは何か」「正体とは何か」を静かに問いかけてくる、心に深く残る作品でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレずっと気になっていた本書。
私自身働いてから本を読めなくなっていて、理由を考えた時に一番最初に出てくるのは疲れているからだった。
思えば、本を読もうと思えばちょくちょく時間はある。通勤中や家で一息つく時間。
ただ、本を読み始めるには一踏ん張りいるのだ。
スマホは手軽に見れるのに…
ただ、はたして本当にそれだけなのだろうか。
本書では、明治期からの日本人の読書の歴史を振り返りながら、現在の日本でなぜ働きながら読書ができないのかの答えを提示している。
実は、労働時間だけを見てみれば昔の方が長かったりする。
ただ、その時代時代により読書の位置付けは変わっているのだ。
読書をすることが修養や教養となり、仕事の評価に直結していた時代。
娯楽として楽しまれた時代。
そして、ノイズとして手が出されにくくなってしまった現在。
読書はノイズという言葉になるほどと思った。
情報は自ら取捨選択することが求められる現在、溢れた情報の中で、いかに自分の求める情報のみを仕入れるかが重要となっている。
それ自体は便利なことではあるが、自分が知りたい情報以外の情報はノイズとなってしまうのだ。
ただ、三宅さんも言っている通り、ノイズの中にこそ、自分とは遠い他者と繋がる情報があったりする。
自分の知りたい情報のみを摂取し始めると、視野が狭くなってしまったり、それが差別や偏見に繋がっていく恐れもある。
全身全霊が求められる時代、誰もが疲れ、ノイズを受け入れる余裕がなくなっている。
私もものすごく思い当たるところがある。
だけど、やはりノイズを受け取る余裕を持ち続けたい。
だから読書を続けていきたい。
本書では、そんな現代の日本で働きながら本を読む方法として「半身」の働き方を推奨している。
なかなか難しいことではあるけど、全身全霊で働かなければという自分自身への追い込みをやめるところから始めてみたいと思う。
-
Posted by ブクログ
タイトルからして、もう不穏。
「鬼門の村」という名前だけで、何か普通ではないものが待ち受けていそうな感じがする。
単純に「何か怖いものが出てくる」という恐怖だけじゃなくて、
村という閉ざされた場所そのものが持つ不気味さ。
外から見れば明らかにおかしいことなのに、そこに暮らす人たちにとっては、それが当たり前。
そんな“村の常識”が少しずつ見えてくるたびに、じわじわ嫌な気持ちにさせられる。
どこかに逃げれば助かる、という単純な話ではなく、
その場所にいる人たちが長い時間をかけて作り上げてきたものだからこそ、簡単には外から壊せない。
そして怖いのは、そこにいる人たちが必ずしも「怖いことをしている」という自覚を持っているわけではないところ。
「昔からこうだから」
「みんなそうしているから」
そんな言葉で異常なものが日常になってしまうことの怖さ。
読み進めるほど、村に漂う空気が重くなっていくようで、ページをめくる手が止まらなかった。
派手な恐怖というより、じわじわと精神を削ってくるタイプの怖さ。
「閉ざされた村」
「奇妙な風習」
「村に隠された秘密」
こういう要素が好きな人には刺さると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ掻き乱された。
エラリィはジムヘイトの事件、フォックス家の事件においても、自己解釈で結末を決めている危うい点があった。
彼は探偵ではなく作家で、かつ犯人が裁かれても誰も救われないという状況ではあったが、その危うさが今回取り返しのつかない自体になってしまった。
探偵が、犯人に自殺を進めるなんてことがあっていいのだろうか。
探偵に、失敗は許されるのだろうか。
後期クイーン問題と言われるジレンマが刺さり過ぎてなかなかしんどかった。
あと今回、太字でエラリィの心の声が入っているのがすごく好きなポイントだったんだが、かき乱されてしまったから気づけなかったのかな。ハワードたちに対する怒りがなければ脅迫者が誰だったのかなんてとんでもなく大切なポイントを無視して推理するなんて考えられないよね。
表示されていない作品があります
セーフサーチが「中・強」になっているため、一部の作品が表示されていません。お探しの作品がない場合は、セーフサーチをOFFに変更してください。