青山美智子さん、なんでこんなに納得感のある柔らかな希望を書くのが上手いんだろう。
設定が自分と似てるわけでは全然ないのに、読みながら主人公たちに感情移入して、なぜか自分が今悩んでることとかが自然と思い浮かぶ。
だからか読んでると、涙が喉の奥で留まってるような、少し泣きそうな気持ちになるんだけど、読んだ後は自然と現状の自分や環境を受け入れて肯定できるようになってる。
もちろんフィクションとして上手くできすぎてる感はあるんだけど、一つ一つの物語が無理に前を向かそうとするんじゃなくて寄り添ってくれるような言葉選びなんだよなぁ。
登場人物たちの年齢が比較的幅広いのもあるかもしれない。
仕事や人間関係に悩んだり夢を追いかけることに疲れたりする登場人物って若い年齢であることが多いけど、青山美智子作品の主人公たちはわりと中年寄り。
だからこそ現実味を帯びるし、誰もが漠然と抱く「歳をとることへの不安」を前向きにしてくれる。
最近、現代文の試験で青山美智子さんの本が題材によく選ばれているって記事を見たんだけど、めちゃくちゃ納得。
景色や物事の描写が登場人物の感情の比喩となっていることが多いから、いわゆる選択問題に適してそう。
『あの針金のような光は、これから確かに、ゆっくりと膨らんでいくのだ』
新月はまったく新しい天体になるのでなく、再生の繰り返しの1番初めの姿。その姿は見えないけれどたしかにそこにある。
タイトル回収もここにかかっているところが気持ちいい。(旧暦では新月が一ヶ月の始まり→月が始まる=月が立つ→つきたち→月始まりの日を「ついたち」というようになった。)
その姿に準えて、登場人物たち(本人も含め)の「リセット」のきっかけをつくるタケトリオキナの話を膨らませる技術がすごい。自分も好きなものをほかのことに関連付けて喋れるようになりたいなぁ。
なにかの本で「本の価値は新しい知見を得られるかどうかにある」という解説を見たことがある。
本書の読者の中にはきっと毎月の新月を意識して、新しいことを始めたり気持ちを入れ替えたりするきっかけにする人も多いと思うから、その意味でも素晴らしい読書体験を得られる小説だと思った。
「リスタート」って言うと大仰に感じるけど、「リセット」って思えば新しいことも始められる気がしてくるし、こういう背中の押し方をしてくれるところが青山さんの好きなところだ…!
終わりの章でこれまで出てきた登場人物の行く末を見られるのも青山作品の醍醐味!
この仕掛け?は人と人の繋がりを感じられるだけじゃなくて、今私と繋がっているあの人にも私と同じように悩んで葛藤していることがあるんだ、と想像力を働かせてお互いへを思いやるきっかけにもなる。
作者のインタビューとかは読んだことないけどこういうことを伝えたいんじゃないかなぁと勝手に思いました。
あと、本当にあるある共感ポイントが多い!
ポンの「なにかやり遂げてからじゃないと地元に帰れない」感覚とか。
怜花のように、杉浦さんみたいな立場の人の頑張りに気づけなかったことが自分にも絶対あるし、『管理職として必要なマネジメント能力も眼識も思いやりも』いったいどこで手に入るんだろうって何度悩んだことか、、、そういう能力元々身についてる人いるよね、、、なんでだろう、、
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【各章の感想】
▼誰かの朔
『私がいるよというのは、あなたがいるよと伝えること』
別作者の「居るのはつらいよ」という福祉系の本でも同じようなこと書かれてたんだけど、人と生きていくために、「居る」ことが一番大切で難しいのかもしれない。
怜花は看護師として必死で生きてきたから、事務の仕事に就いてたら本人にとっても「看護の仕事から逃げた」っていう気持ちになっちゃってたかもな。
不採用だったのはきっとそういうことだし、事務で採用されて「ほかの生き方もあるよね」みたいなよくある?結末じゃないのはとくに好みだった。
「距離感」は人間同士だけに使える言葉じゃない、仕事にも使える。その分野の第一人者=近い距離で働くのが至高ではなく、経験を活かしながら自分にとって心地いい距離間で関わることもまた、自分のキャリア、生き方だと思えた。
▼レゴリス
『たとえば靴擦れひとつで、人はあっというまに絶望できる』
日々ぎりぎり保っていた気力みたいなものが些細なことで崩れ去る感覚を、こんなにわかりやすく簡潔に伝えられる技術、すごい。
▼お天道様
『自分とはタイプが違う、気が合わないって、頭から拒絶してばかりで。俺のシナリオ通りじゃないって、不服ばかりで』
私も自分で勝手に作った理想通りに相手が動いてくれることを期待して、期待と反していたら勝手に不満に思う癖があることを改めて自覚した。年齢を重ねる前に直していかなきゃな〜
義息子と『月=奥さんのキャッチボール』をしていた、っていう最後のまとめ方はちょっと上手すぎて笑っちゃった
▼ウミガメ
『水滴がくっつくみたいにさっと自然に融合してひとつのグループを作る』交友関係、学生時代のあるあるだわ。
学生たちの『自分と同じ成分を持つもの同士を一瞬で判断して動く(中略)能力や技術』は凄まじい。自然と備わっているものなのだろうか、これは同じ性質のものを見分ける能力のようで、その実自分とは「別物」を分断する能力でもあると思う。
ほんで那智えらいなあ〜!!!自分がしたいことを実現するために、自分にできることを見つけて進めて…!しかも世の中のルールをきちんと守ったうえで、清廉潔白な自立を目指してる。かっこいいわ。
▼針金の先
『いちばんそばにいてくれる存在が私には見えていなかった。周囲の称賛が…太陽が、明るすぎて』
自分が上手くいってる時に、身近な恋人や家族の存在が疎ましくなって、自分が辛い時や上手くいってない時にはその存在に感謝する。自分もそういう生き方だってことを忘れずに生きたい。
演目『月の立つ林で』で、主人公を演じる佑樹はどんな役柄なんだろう。この本自体が演目という二重構造的な感じもするけど…もし映像化されるとしたら、佑樹主人公でラストシーンは舞台開演シーン〜タケトリオキナのラジオで締めくくられる映像まで想像しました( ‥)''