あらすじ
からだは傷みを忘れない――たとえ肌がなめらかさを取り戻そうとも。
「傷」をめぐる10の物語を通して「癒える」とは何かを問いかける、切々とした疼きとふくよかな余韻に満ちた短編小説集。
「みんな、皮膚の下に流れている赤を忘れて暮らしている」。ある日を境に、「私」は高校のクラスメイト全員から「存在しない者」とされてしまい――「竜舌蘭」
「傷が、いつの日かよみがえってあなたを壊してしまわないよう、わたしはずっと祈り続けます」。公園で「わたし」が「あなた」を見守る理由は――「グリフィスの傷」
「瞬きを、する。このまぶたに傷をつけてくれたひとのことをおもう」。「あたし」は「さやちゃん先生」をめがけて、渋谷の街を駆け抜ける――「まぶたの光」
……ほか、からだに刻まれた傷を精緻にとらえた短編10作を収録。
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Posted by ブクログ
また千早茜さん。これは短篇集です。すべて、心や体に傷を負った人を描いている。高校でクラスメイトから完全に無視されていたけど、ある日ケガをして血を流しながら登校したところ、みんながぎょっとして、さわぎになった…心にいくら傷を負っても誰も気づかず、黙殺され続けていたのに、ちょっと(ちょっとではないんだけど)体に傷を負って少々血が流れているだけで無視されなくなるなんて変なの…という話や、
初めてのセックスで相手の女の子を傷つけてしまったかも…というカップルの話や、
かつて犬にやられて体や顔に傷を負っており、とにかく犬が嫌いな男と、かつて集団レイプされて心に深い傷を負っており、とにかく男が嫌いな女の子の話や、
かつて工場でのバイト中に指が全部ちぎれた男の子の話や。
↑この話切なかったな。このときに指を拾ってくれた社員さんとの、その後のやりとりが語られるんだけど、たぶんその社員さんはうだつの上がら、誰からも敬意を払われていない男なのだろう。でも事故のとき、自分の適切な処置で若い男の子の手をもとに戻すことができた!という想いが、その後の彼の人生を支えている。しかし男の子はもうそれがうっとうしくなってくる。それでも一応、礼を尽くしていはいる。最後に、身寄りのない男が孤独死した部屋を訪れる…。
これまで親しんだ千早茜さんらしい、「女性の目に見えない傷」を描いたものだけでなく、男性の生きづらさや、女性の男性に対する誤解なんかもさらりと描かれていて良かった。男性にも、女性にもあったかい小説。
Posted by ブクログ
傷ー痛みを伴う。身体に刻まれるものもあれば、魂に刻まれるものもある。傷のない人間なんていない。でも他人から見たら、その傷は分からない。そんなお話を10個集めた短編集。
艶やかで、それでいて澄んでいる。境界線がくっきりと浮かぶ話が多かった。
その中での「この世のすべての」の話は特徴的だった。でも、他者から見たお爺さんの傷と主人公の傷なんて、どっちも分からない。結末には驚かされたけど、理にはかなっている。読んだ後にモヤモヤっとしたけれど、納得はできてしまう。
「林檎のしるし」可愛い話だった。丸くツヤツヤした林檎色が浮かぶ。ちょっと切ないけど、湯たんぽを用意すること、そこに込められた想いが"興味ない"訳がない。切ないけど、キラキラしていた。
女性に対する"傷モノ"の意味を、今まで考えたこともなかった気がする。改めて認識した。そういった経験がないけど、痛いのかな…
千早茜さんのお話は色がよく思い浮かびます。
Posted by ブクログ
グリフィスの傷とは…
見えない傷のこと。
p115
ガラスは仕方がないからって言った。
ガラスは本当はとても頑丈だけど、目に見えない傷がたくさんついていって、何か衝撃を受けた時に割れてしまうものだって。あなたが割ったように見えるけど、いままでの傷が積み重なった結果だから気にしなくていいのって。そういう目に見えない傷のことをグリフィスの傷っていうんだって教えてくれた
傷に関するお話。
どれも
身体の傷や心の傷、他人には、自分の痛みは正確には伝わらない。計り知れない痛さを想像できればいいけれど、文中にもあるように、人は他人の痛みには鈍感だ。
竜舌蘭のお話は、印象的。
国語の教科書にのらないかな?そしたら、平気な顔をしてるからって傷ついていないとは限らない。みんなそれぞれ大小のみえない傷を抱えて生きているってこと、10代のうちから知れたらいいのにな。
Posted by ブクログ
「傷」がテーマの短編集。
短編でも更に短い短編だった。
けれど、それぞれの中に、重くて深い長編が綴られていた。
竜舌蘭の棘だったり、リスカだったり、不慮の事故、犯罪被害などなど、体に付いた様々な傷。
刺青のように、自ら傷をつける人もいる。
見た目は分からなくなった傷跡も、心の中に小さな、あるいは深い傷を残しながらいつまでも引きずるだろう。
一度、傷をつけたら、そのことはなかったことにはならない。
「竜舌蘭」「この世のすべての」「からたちの」
は、胸がチリチリ痛んで、読んでいて辛かった。
「結露」「林檎のしるし」「慈雨」「まぶたの光」
は、読み終えて、何だか温かい気持ちになった。
「指の記憶」「グリフィスの傷」「あおたん」
は、ラストがぞっとして、背筋が寒くなった。
10編の中には、ひょっとして読者自身と重なる傷があるかもしれない。
メンタルの弱っている場合は、読むのを控えたほうが良いのでは・・・・
そのくらい、人の心にグサッと刺さる本だった。
Posted by ブクログ
目を背けたくなるような傷。誰かの傷だったり、私自身の傷だったり。無垢で傷のない人間なんていない。もちろんそれは身体に付く見える傷だけではなく、心無い言葉なんかで心が傷ついてしまうこともある。
忘れて前に進むことだけが"治癒"じゃない。
いつかは消えて無くなって忘れてしまうこともあれば、どこまでも(もしかすると一生)この傷と付き合うかもしれない。
傷と向き合い、折り合いをつけることはその傷の持ち主だけが決めることができる。
本人だけが癒すことができて、付き合う覚悟を持つことができる。
ただ、誰もが持っている傷、その癒し方を指南するわけではなく、官能チックで艶やか。
傷があることを恥ずかしくない、美しいものだと言ってくれた気がした物語たち。
物語があまりに美しく繊細で、個人的には読むだけで癒される。
勝手に、こうした物語たちは"女性"が傷ついてきた話が題材にされることが多いと思っていたんだけど、男性も、女性もどちらも描くのがすごく面白い。
年齢も性別も関係なく傷つくし、傷つけてしまう。十人十色の傷を巡る短編集。
Posted by ブクログ
2025.5.7〜2025.5.10
メンタルが不安定で、とにかく優しい本が読みたいと思った時に、本棚にあった中で1番最初に目に入った本をチョイス。
内容はあらゆる「傷」がテーマの短編集。登場人物に沢山愛着を持ちたいタイプなので短編集って実は苦手なのですが、最初の作品を読んだ瞬間「この作家さん、めちゃくちゃ好きだ…!」と何と言うわけでもなく感じて、読めば読むほどするすると心と頭に入ってくる感じがしました。タイトルがあえて短編集の中の「グリフィスの傷」を持ってきたのも、意味を知ると本当に素敵だなと思います。
面白いだけじゃなくて考えさせられる部分や、思わずポロッと涙が出てしまうところもあるとってもとっても良い作品でした!個人的に今のところ今年の三本指の一つです。
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表題を含む、【傷】をテーマにした短編集。千早さんの書く感情、情景がより好きになった1冊。最後の『まぶたの光』が1番印象に残った。ストーリー全体がキラキラしていて、瑞々しくどこか切なくてよかった。
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傷をめぐる短編集。体の傷だったり心の傷だったり。
幼い頃の額の傷にまつわる『慈雨』がとても良かった。気づいたら涙が出ていた。
千早茜さんの本で、主人公が最初から母親って今まで読んだ中ではほぼなくて新鮮な感じがした。
『あおたん』の刺青の話では『桜の首飾り』を思い出した。
千早さんの本全部読みたいキャンペーン中なのでこれからもどんどん読む。
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傷跡にまつわる短編集。
傷はほぼ確実に身体的な痛みを伴うし、傷跡はそれを忘れさせてくれない。
登場人物たちは、日々の暮らしの中で傷跡にいつまでも翻弄されたり、逆に希望に気づかされたり、その様子がとてもリアルで生々しかった。
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じんじんと重くしみ込んでくるような痛みの傷をめぐる短編集。傷を抱えて生きていく、なんて言うのは簡単だけど、悲しみ、怒り、憎しみ、愛おしさなど、傷に伴う感情によっては胸を抉られるような向き合い方を選ぶ場合もある。なかなかしんどい気持ちになる一冊だった…
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【人は驚くほど、人の痛みに無自覚なのだ】
傷にまつわる10篇の短編集。見えている傷と見えない傷をめぐる物語ということでさぞ重苦しい内容かと思いきや、意外や意外、優しさや温かさに包まれる作品もあり読後感は心地よい。1つ目の『竜舌蘭』が一番好みで、一度抱えた心の傷は癒えることはなく一生抱えたまま生きていくしかない…でも見えている傷痕が自分をそっと守ってくれる時もあるのだということが描かれていて、読後色んな解釈の余地があってとても良かった。『結露』『林檎のしるし』『指の記憶』『慈雨』『あおたん』も好きだなぁ。
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目に見える傷、見えない傷、単純に、そんな物語の本だろうと思って、読んでみたが、なんだか、もっともっと奥深い部分をえぐられるような、物語だった
他人を傷つける人、自分を傷つける人、
どちらも、どこに感情をぶつけていいのか、わからないのだろうと思うが、人の世には、どうしようもないことなのだろうな
Posted by ブクログ
傷ついた過去を乗り越え、生きた証として傷跡は残るのだと思った。
無数についた傷がきっかけで突然砕け散ることがあるから、痛みに鈍感になることがいいわけではない。
傷ついてないふりなんてしなくていいから、痛みにも自分にも素直になれたらいいなと思った。
Posted by ブクログ
いろんな"傷"にまつわる短編集。
どれも身体の傷にまつわるお話だけど、それと同時に心の傷みたいなもの含まれているよな。身体の傷と心の傷は表裏一体なんだよなぁと思う。人体切断系が本当に苦手なので"指の記憶"はなかなかしんどかった…8作目の"慈雨"が好きでした。泣いた。
Posted by ブクログ
傷跡をテーマにした10篇からなる短編小説集!どのお話も良かったけど「慈雨」が予想外に刺さってぽろぽろ泣いてしまった。どのお話にどんなふうに気持ちが動かされるかで、自分の心の傷跡がどこにあるのかがわかるような短編小説集だと思う。千早茜さんの文章、好きすぎてずっと読んでられる。
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傷にまつわる十遍からなるお話。
『傷』がテーマなのでほぼ暗い重い話ばかりだけれど、不思議と読後感が悪くない。
ああ、そうか。
全ての作品、希望があるラストだからか。上手いなあ、と思う。読み終わった後、じんわり心が暖かくなる。
特に印象に残ったのは『指の記憶』『慈雨』
『指の記憶』は決して一言では言い表せない人間関係の感情を上手く表現してて、結末に驚いた。
『慈雨』は父娘の不器用な愛情表現に、人間味を感じた。
Posted by ブクログ
精神的に弱っている時のよすがにしたいような、傷痕を撫でてもらいたいような、そんな短編集。
(厨二病に罹患した時に得た)オタクの知識でタイトルの意味は知っていた。古傷を撫でて回顧する話もあれば、癒えない傷痕を守るために必死な話もあり、テイストの違う傷にまつわる話を読んだ後は頭が熱に浮かされるようなくらくらする読み終わりだった。
一番好きな「竜舌蘭」は現代人には共感できる話だと思う。相手が平気そうだから傷ついてないと思った、実際に血を流していないと傷ついていないことに気が付かない、というどこかで見たことのある光景・体験したことのある痛みがじくじくと心に疼いてくるようだった。
千早さんの文章は読みやすいのもあるけど、文章と纏う雰囲気が好きで読みたくなる。
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身体や心に残る傷にまつわる短編集。
血が流れなくなっても傷はずっと残り続けてなかったことにはならない。傷つけられた側は忘れても傷つけた側はずっと忘れられない。
中でも「慈雨」ってお話がよかった。
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傷痕を見ると、それができたストーリーを人は想像する。傷=ネガティブなもの、あってはならないもの、から発展させて、可哀想な人、自業自得、罰とか。
それから発せられる心の痛みも想像する。傷をつける悪意、つけられた遺恨、寂しさ、虚しさ。傷が生まれた意味を知ろうとする。
傷をもちつつ日々を送っていく、とても静かだけど深い話がどっしり詰まってた。さらっと読めるけど読み応えのある本。
『グリフィスの傷』が、特に面白かった。
Posted by ブクログ
ちょっと久しぶりの千早茜さん。好きな作品の多い作家さんですが、こちらもかなりタイプのお話でした。
10章の短編集で各章20ページくらいの短さですが、濃密な世界観なのでもっとボリュームを感じました。
全話に共通したテーマが「傷痕」。テーマのイメージ通りの悲しい話・怖い話もありますが、優しくて温かいお話も。『慈雨』が一番好きかな。「自分が忘れてしまった傷を覚えている人がいる。そんな安心感がこの世にはあるのだーーー」(147P)
Posted by ブクログ
それぞれが持つ目に見える傷、人に言えない、知られたくない傷も、他人に話すことで癒されることもある。見えるもの、見えないもの、振り帰れば自分にも幾つも傷があり、人を傷つけてきた。
この作品でも千早茜さんは、深いところに刺さってきた。
装丁の色、中表紙の色も惹かれる。
Posted by ブクログ
傷をテーマとした短編集
生々しい傷というより、けがの傷が多い。
痛みがあり治そうとするものなのにどこかに傷ができたことで、自分を保つようなお話が多い印象。
千早さんの空気感や温度感に浸された作品で読んでいて心地よかった。
竜舌蘭、結露が好きだった
Posted by ブクログ
皆、身体や心のどこかに大小問わず深浅問わず傷を負い生きているかと思います。それが目に見えるのか見えないのか、見えないようにしているのか 本当に様々だろうとも思います。
様々なキズの短編小説。
中でも、『慈雨』が好きでした。
愛するがゆえ 想うがゆえ。
私も知らず知らずに、誰かに見えないキズを 消えないキズを負わせてないか?と振り返りました。
誰かの存在が 言葉が 笑顔が 態度が 私のキズを浅くも 小さくもしてくれたとも思い返しました。
Posted by ブクログ
傷をめぐる10の短編集。短編ながら千早茜さんの物語は、静かに進み今回も深くて良かった。
「グリフィスの傷」はガラスにつく目に見えないような傷、と文中にありました。
色んな傷があるけれど、生きてる証なのかな、と思います。補って傷を癒しているのかと。
Posted by ブクログ
傷をテーマにした短編集。
甘苦いもの、はっとするもの、痛々しいもの色々あり。
竜舌蘭、結露
この2つは好きだったな。
指ちょんぎれとか痛いのはほんとやだったー
2025.4.12
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Posted by ブクログ
傷に関する短編集。好きな話は圧倒的に慈雨。千早茜っぽいなと思うのは林檎のしるし。
一般論で、いじめや嫌なことってした方は覚えてないけどされた側は一生覚えてるっていうのはよくある話。でも慈雨は、傷をつけられた側はすっかり忘れていて、傷をつけた人は一生忘れられず、ずっと後悔しているという話。不器用だが愛情深い父親が好き。
自分の痛みに敏感すぎる人こそ、他人の痛みに鈍感になってしまうことがあると思うので、自分はそうならないように気をつけたい。