小説・文芸の高評価レビュー
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Posted by ブクログ
ネタバレ太宰治の第一創作集。
太宰治をして「私はこの本一冊を創るためにのみ生まれた」と言わしめる一冊で、初期の作品が並び、その後の太宰治の色々な作品の種になるような短編が15入っている。
この『晩年』は太宰治が27歳のときに刊行され、それぞれの短編が書かれたのは太宰治が22〜23歳頃。
そんな若者が書いたとは思えないような、人生や人間の生々しい部分がえげつなく書かれている。
でも、どこかちょっと爽やかさもある。
短編の多くは、創作の苦しみ、世間の冷たさ、無常感のようなものが描かれている。
太宰治がそれまでの人生の中で感じていたことだろう。
この本の中に「私は散りかけている花弁であった。す -
Posted by ブクログ
上巻で人々の波乱万丈な人生にハラハラしっぱなしで、「こんな勢いのまま下巻はどうなるのだろう」と思っていた。若いころの勢いを失って少し感傷的にでもなるのではないかと危惧したからだ。ところが下巻では物語のスピードがまた一段上がって、読み始めたら一気に読んでしまった。上巻はまだ余裕がある話だったな、と思うくらい。目まぐるしくて、桜吹雪に巻かれていたかのようだった。
子供の頃と大人になってからというものは、時間の経ち方にはかなりの違いを感じるのだけれど、その感覚がそのままこの下巻に詰まっているように感じた。上巻の青春期には芸を磨くことに急いでいた日々だったけれど、年を重ねれば今度は「時間」そのものが -
Posted by ブクログ
「多様性」とは結局のところ社会が包摂(角を削って丸くして社会に溶け込ませるようなイメージ)できる限りの多様性でしかない。包摂しきれない多様性は社会から排除され、なかったものとされる。「多様性」という耳触りの良い言葉が孕む欺瞞を鋭く描いた作品。
特殊性癖とは違うが、私はアロマンティック(他者に恋愛的に惹かれない)を自認しており、恋愛とは無縁でありたいと思っている。なんでも恋愛に結びつけられ、なぜ恋愛しないのかと問い詰められ、恋愛していない者は劣等であるとジャッジされる異性愛至上主義社会にほとほと疲れている。そのような私にとって、この作品は「多様性」批判でありつつ異性愛至上主義批判でもあると感じ