小説・文芸の高評価レビュー
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第169回直木三十五賞
垣根涼介さんの歴史小説を初めて読んで圧倒された。
史実を元に緻密に練り上げられた壮大な物語で、武士一人一人が丁寧に描かれていた。
極楽殿と呼ばれた足利尊氏は、御家人たちから毒気を抜いてしまう愛嬌ある人柄で、読者もきっと好きになってしまうと思う。
前半は優秀な直義と師直の力によって、意図せず活躍してしまうところがおもしろい。
普段は周囲が道理を説いて導けば従う盛り立てやすい当主だけど、直義に危機が迫れば誰の声も聞かずに駆け出す兄弟愛に胸が熱くなった。
尊氏が髷を切ってしまった為に、敵兵から守るために周りもそれにならい、ざんばら髪の騎兵集団で直義の援護に駆けた場面は笑って -
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ネタバレ慟哭、という題名からだいたいの内容は予想できていた。連続幼女誘拐殺人事件を巡り、捜査本部パートと、犯人である『彼』のパートが交互に書かれる。
文章がとても重厚で漢字の使い方がとても上手い。作者の貫井さん渾身のデビュー作だけど、早稲田大学出身なのですね。さすがです。
物語が進むにつれて、「ひょっとしたらこうなんじゃないか?」という考えは頭を過ったが、「いやでも違うかー」と考えを消させてしまう文章の組み立ての旨さ。新興宗教の闇や、警察内部のキャリア対ノンキャリアなど複雑な背景もある、とても重厚な物語。
でてくる人物の心情はとても良くわかる。自分自身が父親を知らずに育ったという背景もあり、不器用で娘 -
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イヤミスの決定版に出会った、というのが素直な感想。
読書好きな令嬢子息が集うサークル「バベルの会」をめぐる、“意味がわかると怖い”短編集。
じわじわと微かな違和感を積み上げて、最後の一文でしっかりとどめを刺してくる。
出会ったことのない言葉や、漢詩・絵画・古典文学の知識がないとピンとこない場面も多く、スマホ検索はほぼ必須。
そのたびに筆者の教養の深さがうかがえる一方で、自分の教養のなさも思い知らされた!笑
それでも全編、誰かの語り口調で進んでいくので非常に読みやすい。
湊かなえの『告白』のような、“語り”の心地よさと、何か起こりそうな嫌な予感が同居している感じ。
ラストに襲いかかる気味 -
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ネタバレ岡田繁幸さんのことを「凄い人」だと思っている競馬ファン、マスコミ含め、競馬の生産、血統絡みの仕事をしている人には必読の本だと思います。
「マイネル軍団の総帥」としてだけでなく、地方競馬、HBAなど、競馬界全体を良くしようと尽力されていたことが改めてわかります。
仕事で成し遂げたことだけでなく、自ら率先して草むしりをするところなど、仕事への意識などは参考になる点が多々ありました。
これほどのホースマンが、ダービーも勝てず、悲しい最後になってしまったのは辛いですね。
グループからダービー馬を出すことが、岡田さんへの最大の供養となると思うので、残された人には頑張って欲しいです。 -
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青山美智子さん作品は初。
タイトルと装丁がきれいで手に取りました。
本の紙質も厚めでなんだかいい感じです。
5章からなる連作短編小説。
人の役に立ちたいと生きてきた看護師。
夢を追う売れない芸人。
娘の相手に腹を立てながらも温かく見守る整備士。
親から自立したい女子高生。
仕事と家庭の両立に悩むアクセサリー作家。
みな、身近にある日常の悩みを抱えながらも
しっかりと人生を送っている。
それぞれの登場人物が
皆つながっていて相関図が頭の中でぐるぐる…。
そしてみな温かくて良い。
彼らはみな、ちょっとしたきっかけで
ポッドキャスト「ツキない話」を聞くようになる。
月の話を聞いていくことで -
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二名を殺害して逃走している真柴亮(22)が、時を同じくして起こった東日本大震災の避難所の体育館で人質をとって立て籠っている、そしてSATに射殺されそうになっているシーンが冒頭。そこから、なぜ真柴がそんな状況になったかが語られていく。
真柴の暗転していく様と、随所に描かれている震災後の身内を亡くした人がそこら中にいて、それでも仕事をしたり、相手を思いやったり、行方不明者を必死で探したりする様子が追体験させられる、その二つが軸になった小説です。はっきりいって楽しいお話ではないです。でも、すごく読ませてくれます。深夜に一気読みしてしまったくらい。読み終わって眠れなくなるくらい、重たい何かを残していき -
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たぶん、千早さんの小説をちゃんと読むのは初めて。
読み始めた瞬間から、文章に呑まれる感覚。文章というか、文章が漂わせる空気に。
夏の烈しい彩度、青空と入道雲の、目を刺すほどのコントラスト。けれども視線は上を向かず、灼熱のアスファルトに張り付いた、黒々とした影に落ちる。途方もない絶望と痛み。
そんな小説だと思った。
ものを食べるシーンが多い。藤子がずっとお腹をすかせていたことを示唆しているように思えた。飢えて、求めていた。
山で桃を食べた時の藤子の欲求は官能的に描写されていて、むきだしの本能を垣間見た気がした。
ふたりとも、生を渇望していたのだと思う。
里見がとても良い存在だと思った -
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若手作家エリオット•クレイスが書き継ぐ『アティカス•ピュント』の新作は、彼自身の暗い過去を投影していることに気づいた編集者のスーザン。クレイス家の人々に会い話を聴くうちに抜き差しならぬ状況に陥っていくのですが…。
結末は、いつものように納得の終末となります。すごい。よくこんなこんがらがった状況を考えたもんだと感心します。
それと、毎回思うことは、ホロヴィッツの著作は創元推理文庫のこの作りじゃないと読み通すのは無理じゃない?ってこと。
巻頭にご丁寧に登場人物紹介がつくけど、作品が入れ子なので人物紹介が2種類付いてる。更に本作では系図まで。読む方もいちいち照らし合わせないと混乱する。ありがたい -
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『カササギ殺人事件』『ヨルガオ殺人事件』の完全な続編。前2作を読んでいないと全く内容は理解できません。逆を言えば、前2作を読んでいる人には無茶苦茶面白い!
クレタ島のホテル経営から足を洗ったスーザン•ライランド。ロンドンに戻ってフリーの編集者として再出発を図る。そこで依頼されたのは、かつて担当した『アティカス•ピュント』シリーズの新作を出版すること。だが、旧知の作家エリオットが書き始めた続編には隠された秘密があることに気づいてしまい…。
相変わらずの“入れ子型”の作品。すごい。しかも、今回は新作として現在進行形で書かれている小説が、20年前の事件を投影しているという手法。非常に面白い。お薦