小説 - 新潮文庫作品一覧

  • ピンチランナー調書
    3.8
    地球の危機を救うべく「宇宙?」から派遣されたピンチランナー二人組! 「ブリキマン」の核ジャックによる民衆の核武装?……。内ゲバ殺人から右翼大物パトロンの暗躍までを、何もかもを笑いのめし、価値を転倒させる道化の手法を用いて描き、読者に再生への希望と大笑いをもたらす。死を押しつけてくる巨大なものに立向い、核時代の《終末》を拒絶する諷刺と哄笑の痛快純文学長編である。※あとがきのカットは当電子版では掲載しておりません。ご了承ください。
  • 同時代ゲーム
    4.3
    海に向って追放された武士の集団が、川を遡って、四国の山奥に《村=国=家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入した!? 壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、シリメ、「木から降りん人」等々、奇体な人物を操り出しながら、父=神主の息子〈僕〉が双生児の妹に向けて語る、一族の神話と歴史。得意な作家的想像力が構築した、現代文学の収穫1000枚。
  • 美っつい庵主さん
    -
    五人の尼がひっそりと暮す尼寺に、突然舞いこんだ女子学生とそのボーイフレンドが巻きおこす珍騒動の中に、新旧世代の自由のありかたを対照させた表題作。丸ノ内の近代的なオフィスに勤務する国際電話オペレーターの日常に潜む鬱屈感を探った『線と空間』など六短編を収録する。厳しい現実に揉まれ男女や親子の確執に悩みながらもささやかな幸せを求めて生きる人々を描く初期作品集。
  • 三婆
    -
    敗戦の混乱のさなかに金満家の老人が急死し、残された彼の宏大な邸に本妻・妾・小姑の三人の老女が同居する。二人を追い出そうとする本妻、居すわろうとする芸者上りの妾、血縁を主張する妹――三者入り乱れての虚実のかけひき。嫉妬と猜疑の渦巻くすさまじい葛藤を赤裸に描き、笑いの中に〈老い〉の恐怖を見据えた表題作。ほかに、『役者廃業』『亀遊の死』『なま酔い』など全7編。
  • 私は忘れない
    4.0
    日本のめざましい経済成長の陰に、電信電話もなく台風の被害も報道されない僻地。海の荒れる時は定期便の船さえ近づけない閉ざされた南の離島、黒島。スターの座を夢みながらチャンスを逃した門万里子は単身黒島へ旅立ち、自然との闘いの中でたくましく運命を切り開く人々の純朴な姿に心を打たれる――。明るい筆致で、厳しい日常生活の中に人間らしさの恢復を試みた問題作。
  • 針女
    4.0
    死にに行く男が、愛を打ちあけたら、銃後に残される女はどんなに困るだろう――出征した帝大生の弘一が残した〈青春の遺書〉を胸に、針仕事に打ちこむ孤児の清子。やがて戦争は終り、弘一は復員するが、彼の性格は一変していた。二人の愛の結末は? 愛も哀しみも針一本にこめて激動の時代を生きたひとりの女性の姿を通して、日本人が忘れてはならない戦争の傷跡を描く。
  • 鬼怒川
    -
    鬼怒川のほとりにある絹の里・結城。貧農の娘チヨは、紬織りの腕を見込まれて、16歳で日露戦争生き残りの勇士のもとに嫁いだ。気のいい婚家の人々の中で、彼女は幸せになれるかに思われた。しかし、夫も、太平洋戦争から復員した息子も、そして孫までも“黄金埋蔵伝説”にとり憑かれ、悲惨な運命を辿る……。戦争の傷跡を背負いながら精一杯たくましく生きたひとりの女の生涯を描く。
  • 海暗
    -
    若者は次々と島を捨て、社会の動きからも隔絶された伊豆七島の御蔵島に、ある日「米軍射爆場に内定した」というニュースが伝わる。戦争中でさえ爆弾が落ちたことはなかったのに、なぜ? あまりのことに呆然とする島民たち――別名を海暗とよばれる黒潮に、断崖絶壁を洗われる平和でのどかな御蔵島を舞台に、射爆場設置に反対し、離島問題に取組む島民の苦悩と哀歓を描く問題作。
  • 地唄
    5.0
    琴に命を賭ける盲目の父と、父に背き日系二世の米国人と結婚した娘――父娘の愛憎の絆を妙なる調べに映す「地唄」、女流舞踊家と老墨絵職人の心の交わりを唐墨の逸品に凝縮させた「墨」、翻訳劇の端役を演ずることになった黒衣の悲喜劇を軽妙に綴る「黒衣」、文楽座の分裂を素材にして芸人の世界の厳しさをえぐった「人形浄瑠璃」。日本の伝統的な芸の世界を追究した珠玉四編を収める。
  • 恍惚の人
    4.3
    文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。老いて永生きすることは果して幸福か? 日本の老人福祉政策はこれでよいのか? 老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない《老い》の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。
  • 一の糸
    4.3
    造り酒屋の箱入娘として育った茜は、十七歳の頃、文楽の三味線弾き、露沢清太郎が弾く一の糸の響に心を奪われた。その感動は恋情へと昂っていくが、彼には所帯があった。二十年が過ぎた。清太郎は徳兵衛を襲名し、妻を亡くしていた。独身を通した茜は、偶然再会した男の求婚を受入れ、後添えとなるのだった。大正から戦後にかけて、芸道一筋に生きる男と愛に生きる女を描く波瀾万丈の一代記。
  • 木瓜の花
    -
    花柳界から足を洗い、老いを意識しながらも壮年の学者に少女のような憧れを抱く正子。豪華なバーや料亭を一人できりもりし、男なしではいられないという蔦代。幾度か衝突し、行き来のとだえていた二人だが、恍惚の人と化した蔦代の母が正子の許に飛び込んできたことから、再び愛憎の葛藤が始まる。――戦後を生きる『芝桜』の主人公たちの対照的な老境を本瓜の花の色どりの中に描く。
  • 私説博物誌
    -
    珍獣、妙鳥、奇魚、怪草、あらゆる種類の生物の知られざる生態を紹介しながら、人間社会に視点を移し入れ、筒井康隆一流の人間批評を試みたユニークエッセー。(新潮文庫版に掲載しておりましたカットは電子版には収録しておりません。)
  • チッチと子
    4.3
    息子のカケルと二人暮らしの“チッチ”こと青田耕平は、デビュー以来10年「次にくる小説家」と言われてきた。だが、作品は売れず、次第にスランプに陥ってしまう。進まない執筆、妻の死の謎、複数の女性との恋愛……。ひとつの文学賞を巡る転機が、やがてカケルや恋人達との関係を劇的に変化させていく。物語を紡ぐ者の苦悩、恋、そして家族を描いた、切なく、でも温かい感動長篇。
  • 猟銃・闘牛
    4.0
    1巻528円 (税込)
    ひとりの男の十三年間にわたる不倫の恋を、妻・愛人・愛人の娘の三通の手紙によって浮彫りにした恋愛心理小説『猟銃』。社運を賭した闘牛大会の実現に奔走する中年の新聞記者の情熱と、その行動の裏側にひそむ孤独な心情を、敗戦直後の混乱した世相のなかに描く芥川賞受賞作の『闘牛』。無名だった著者の名を一躍高からしめた初期の代表作2編の他『比良のシャクナゲ』を収録。
  • 華岡青洲の妻
    4.2
    世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。
  • あすなろ物語
    3.9
    1巻572円 (税込)
    天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人、土蔵で暮らした少年・鮎太。北国の高校で青春時代を過ごした彼が、長い大学生活を経て新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの道程を、六人の女性との交流を軸に描く。明日は檜になろうと願いながら、永遠になりえない「あすなろ」の木の説話に託し、何者かになろうと夢を見、もがく人間の運命を活写した作者の自伝的小説。
  • 北の海(上)
    4.0
    1~2巻649~737円 (税込)
    幼少期から祖母に預けられ、家庭の雰囲気というものを知らずに育った洪作は、高校受験に失敗し、ひとり沼津で過ごす。両親がいる台北に行くべきだという周囲の意見をかわし、暇つぶしに母校へ柔道の練習に通ううちに、〈練習量がすべてを決定する柔道〉という四高柔道部員の言葉に魅了され、まだ入学もしていない金沢へ向かう。──『しろばんば』『夏草冬濤』につづく自伝的長編。
  • 楼蘭
    3.8
    1巻649円 (税込)
    大国の漢と匈奴とにはさまれた弱小国楼蘭は、匈奴の劫掠から逃れるために住み慣れたロブ湖畔の城邑から新しい都城に移り、漢の庇護下に入った。新しい国家はぜん善と呼ばれたが、人々は自分たちの故地を忘れたことはなかった。それから数百年を経て、若い武将が祖先の地を奪回しようと計ったが……。西域の一オアシス国家の苛烈な運命を描く表題作など、歴史作品を中心に12編を収録。
  • 紀ノ川
    4.2
    小さな川の流れを呑みこんでしだいに大きくなっていく紀ノ川のように、男のいのちを吸収しながらたくましく生きる女たち。――家霊的で絶対の存在である祖母・花。男のような侠気があり、独立自尊の気持の強い母・文緒。そして、大学を卒業して出版社に就職した戦後世代の娘・華子。紀州和歌山の素封家を舞台に、明治・大正・昭和三代の女たちの系譜をたどった年代記的長編。
  • 蒼き狼
    4.0
    1巻781円 (税込)
    風の如く蹂躙せよ。嵐の如く略奪せよ。世界史上未曾有の英雄、成吉思汗即位八百年! 遊牧民の一部族の首長の子として生れた鉄木真=成吉思汗(テムジン=チンギスカン)は、他民族と激しい闘争をくり返しながら、やがて全蒙古を統一し、ヨーロッパにまで及ぶ遠征を企てる。六十五歳で没するまで、ひたすら敵を求め、侵略と掠奪を続けた彼のあくなき征服欲はどこから来るのか?――アジアの生んだ一代の英雄が史上空前の大帝国を築き上げるまでの波瀾に満ちた生涯を描く雄編。
  • 悪女について
    3.7
    《自殺か、他殺か、虚飾の女王、謎の死》――醜聞(スキャンダル)にまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家富小路公子。彼女に関わった二十七人の男女へのインタビューで浮び上がってきたのは、騙された男たちにもそれと気付かれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だった。男社会を逆手にとり、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄しながら、豪奢に悪を愉しんだ女の一生を綴る長編小説。
  • 芝桜(上)
    4.4
    1~2巻869~913円 (税込)
    津川家の正子と蔦代は将来の看板芸者と目されていた。しかし、二人の性格は全く対照的だった。実直で健気、芸者の通信簿でも総牡丹(全甲)をもらうほど頭のいい正子。美しく信心深いところがありながら、水揚げ前に不見転(みずてん)で客をとり、嘘を本当と言いくるめて次々に男をかえていく蔦代。――二人の芸者の織りなす人生模様、女同士の哀歓を絢爛たる花柳界を舞台に描く。
  • 香華
    4.1
    女としてのたしなみや慎みを持たず、自分の色情のままに男性遍歴を重ね、淫女とも言えるような奔放な生き方をする母の郁代。そんな母親に悩まされ、憎みさえしながらも、彼女を許し、心の支えとして絶えずかばい続ける娘の朋子。――古風な花柳界の中に生きた母娘の肉親としての愛憎の絆と女体の哀しさを、明治末から第二次大戦後までの四十年の歳月のうちに描く。
  • ニシノユキヒコの恋と冒険
    3.9
    ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ……。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。
  • せんせい。
    4.3
    1巻539円 (税込)
    先生、あのときは、すみませんでした──。授業そっちのけで夢を追いかけた先生。一人の生徒を好きになれなかった先生。厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった先生。そして、そんな彼らに反発した生徒たち。けれど、オトナになればきっとわかる、あのとき、先生が教えてくれたこと。ほろ苦さとともに深く胸に染みいる、教師と生徒をめぐる六つの物語。『気をつけ、礼。』改題。
  • 見張り塔から ずっと
    3.6
    1巻539円 (税込)
    発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる……。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に侵食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる、僕たちの物語――。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」。
  • きよしこ
    4.2
    1巻594円 (税込)
    少年は、ひとりぼっちだった。名前はきよし。どこにでもいる少年。転校生。言いたいことがいつも言えずに、悔しかった。思ったことを何でも話せる友だちが欲しかった。そんな友だちは夢の中の世界にしかいないことを知っていたけど。ある年の聖夜に出会ったふしぎな「きよしこ」は少年に言った。伝わるよ、きっと──。大切なことを言えなかったすべての人に捧げたい珠玉の少年小説。
  • あの歌がきこえる
    3.9
    1巻605円 (税込)
    意地っ張りだけどマジメなシュウ、お調子者で優しいヤスオ、クールで苦労人のコウジは、中学からの友だち同士。コウジの母親が家出したときも、シュウがカノジョに振られたときも、互いの道を歩き始めた卒業の日にも、三人の胸にはいつも、同じメロディーが響いていた。サザン、RC、かぐや姫、ジョン・レノン……色あせない名曲たちに託し、カッコ悪くも懐かしい日々を描く青春小説。
  • 舞姫通信
    3.5
    1巻649円 (税込)
    ラストシーンは、もう始まっているのかもしれない。人は、誰でも、気づかないうちに人生のラストシーンを始めている。17歳で死んだ〈自殺 志願〉のタレント城真吾にとっては、16歳は晩年だった。城真吾は教えてくれた。人は死ねる。いつ。いつか。いつでも――。でも、僕は思う。僕の教え子の君たちの「いつか」が、ずっとずっと、遠い日でありますように。教師と、生徒と、生と死の物語。
  • 卒業
    4.3
    1巻737円 (税込)
    「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。著者の新たなる原点。
  • ナイフ
    3.9
    1巻737円 (税込)
    「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか! ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。
  • 野火
    4.1
    敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。
  • 不信のとき(上)
    3.9
    1~2巻671~715円 (税込)
    大手商社の宣伝部に勤める浅井義雄は結婚して15年。だが、妻・道子との間に子供はなかった。過去二度も、浅井に浮気された経験を持つ道子は、夫の愛情をつなぎとめようと必死だった。そんな折、取引業者の小柳と銀座で飲み歩くうち、浅井はマチ子というホステスに誘われるまま一夜を共にした。それが自滅へ至る第一歩だとも知らずに――。男の浮気に対する女の非情な復讐を描いた問題作。
  • 異端の大義(上)
    3.8
    1~2巻814~858円 (税込)
    シリコンバレーからの帰還──。世界有数の大手電機メーカー・東洋電器産業の高見龍平は、米国の半導体開発部門撤退という大任を果たして帰国した。長い海外勤務から戻った彼の目を驚かせたのは、創業者一族とその取り巻きによる恣意と保身の横行。入社同期で一族に連なる人事本部長へ直言するが、それが仇となる。高見は、工場閉鎖という過酷なリストラ業務を命じられてしまった。
  • 技巧的生活
    -
    恋に酔う少女であった葉子は、酒場に勤めてゆみ子と名を変えた時から変貌しはじめた。男を商品として、あたかも無機物であるかのごとく見ようとする酒場の女たちの、言わば技巧的な生き方。――自分もそれに徹しようとするのだが、どうしてもロマンティックな感情を捨てきれない、ゆみ子の眼を通して、酒場の女たちのさまざまな生態、微妙な心理、孤独な姿を見事に活写した長編。
  • 黙阿彌オペラ
    4.0
    江戸も末の師走。狂言作者の河竹新七は、我が身を嘆き入水を試みるが果たせず、柳橋のそば屋で不遇を託つ仲間たちと偶然出会う。意気投合した五人は、捨て子のおせんを育てるため、株仲間を始める――。やがて御一新。文明開化に五人の命運が変転する。株仲間は国立銀行に、おせんはオペラ歌手に、新七は新作狂言で一世を風靡する……。時代に翻弄される黙阿彌と仲間たちを描く評伝劇。
  • 私家版 日本語文法
    4.1
    文部省も国語の先生も真っ青!あの退屈だった文法がこんなに興味津々たるものだったとは。もはや教科書ではつかみきれない日本語の多様なる現実がここにある。一家に一冊話題は無限。古今の文学作品は言うに及ばず、法律文書、恋文、歌謡曲、新聞広告、野球場の野次まで、豊富かつ意表を突く実例から爆笑と驚愕のうちに日本語の豊かな魅力を知らされる空前絶後の言葉の教室。
  • イーハトーボの劇列車
    5.0
    父との深刻な対立、妹への運命的な愛、信仰と農民運動、エスペラントと詩、そして科学と童話……。短い生涯を懸命に生きた岩手花巻の天才・宮沢賢治の半生。近代日本の夢と苦悩、愛と絶望を乗せ夜汽車は理想郷目指してひた走る――。長年にわたる熱い思いをこめ、爆笑と感動の中に新たな賢治像を描き出した、戯曲文学の傑作。架空インタヴュー「賢治と啄木に聞く」を併せて収録する。
  • 浅草鳥越あずま床
    -
    下町浅草鳥越に、生れ育って六十年、幼なじみの六人の、いずれ劣らぬ老悪童、寄ればたちまち持ち上がる、思いもかけぬ珍事件。色と欲には目もくらみ、甘い話に乗せられて、いつも騙されコケにされ、それでも懲りないくじけない。恥も喜びも分ちあい、清く正しく生きて……いるかどうかは知らないが、情あふれるこの男たち、笑ってやって下さい、しめて八編連作滑稽譚。
  • 道元の冒険
    -
    お互いの夢の中の存在である禁欲の仏教者道元と現代の色情狂患者。夢の二重構造をみごとに劇化しつつ、日本の精神風土を痛烈に笑いとばした表題作。人間に頼るよりも自由気ままに生きようと放浪する野良猫たちが、自分たちの楽園を築くまでとその行きつくさきを描く『十一ぴきのネコ』――ことばのもつ生命力を十二分に駆使して、日本語に新しい響きを甦らせた抱腹絶倒の喜劇2編。
  • 表裏源内蛙合戦
    -
    迸る才知と野心を、時代の制約の中で徒らに空転させる江戸の一大奇人平賀源内の夢と挫折の生涯を、色と欲の渦巻く風俗の中に浮び上らせる表題作。ストリッパーの半生記に仕立てた吃音治療劇に仮託して、現代日本の社会と精神を徹頭徹尾、洒落のめした『日本人のへそ』。洒落に地口に語呂合せ、言葉遊びの爆撃で、笑いのうちに時代と人間の核心を衝く井上戯曲の原点を示す二大喜劇集。
  • 雨

    -
    「行方不明の旦那様」にうり二つと、羽前国平畠藩の紅花問屋の当主にまつり上げられた金物拾いの浮浪者徳。莫大な財産と美貌の新妻を目のあたりにして、本物の当主になりおおすべく、色と欲との二股かけた必死のお芝居の始まり。東北弁もマスターし、邪魔者は消して、大願成就と思いきや……。根なし草の主人公を襲うどんでん返しの運命。
  • 禁猟区
    3.5
    ホストにいれあげている中年女・若山直子の資金源は、ホストクラブで借金がかさみ、身動きのとれなくなった少女たちだった。経営者を脅して得た顧客情報から、未成年者の親に当たり、「解決してやる」とカネを要求する。直子の職業は、警察官だった──。犯罪に手を染めた警察官を捜査する組織、警視庁警務部人事一課調査二係。女性監察官沼尻いくみの活躍を描く傑作警察小説四編。
  • オー!ファーザー
    4.1
    父親が四人いる!? 高校生の由紀夫を守る四銃士は、ギャンブル好きに女好き、博学卓識、スポーツ万能。個性溢れる父×4に囲まれ、息子が遭遇するは、事件、事件、事件──。知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体。多声的な会話、思想、行動が一つの像を結ぶとき、思いもよらぬ物語が、あなたの眼前に姿を現す。伊坂ワールド第一期を締め括る、面白さ400%の長篇小説。
  • 父と暮せば
    4.4
    「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」愛する者たちを原爆で失った美津江は、一人だけ生き残った負い目から、恋のときめきからも身を引こうとする。そんな娘を思いやるあまり「恋の応援団長」をかってでて励ます父・竹造は、実はもはやこの世の人ではない――。「わしの分まで生きてちょんだいよォー」父の願いが、ついに底なしの絶望から娘をよみがえらせる、魂の再生の物語。
  • 太鼓たたいて笛ふいて
    4.3
    戦前、中国や南方の戦線に従軍し、「兵隊さんが好きです」と記して戦意高揚に尽した林芙美子は、敗色濃厚になると「キレイに敗けるしかない」と公言し、たちまち非国民扱いされてしまう。国家が求める「物語」に躍らされた芙美子は、戦後、戦争の実相を知り、戦争に打ちのめされた普通の日本人の悲しみを、ただひたすら書きつづけた――。『放浪記』で知られる作家の後半生をたどる評伝戯曲。
  • ブンとフン
    3.7
    「ブンとは何者か。ブンとは時間をこえ、空間をこえ、神出鬼没、やること奇抜、なすこと抜群、なにひとつ不可能はなく……」フン先生が書いた小説の主人公、四次元の大泥棒ブンが小説から飛び出した! たちまち全世界に、奇怪なしかしどこかユーモラスな事件が……。あらゆる権威や常識に挑戦する奔放な空想奇想が生む痛烈な諷刺と哄笑の渦。現代戯作の旗手、井上ひさしの処女作。
  • 泣き虫なまいき石川啄木
    -
    東京・本郷の床屋の二階に間借りをし、貧窮と病気に苦悶する石川啄木。唯一の慰みに創作を続ける啄木を、「実人生の白兵戦の真っ只中」へと追いやる生きる苦しみの数々――。妻と母の確執、禅僧気取りの父、妻の家出と浮気の疑い、親友金田一との訣別……。人生の修羅場で呻吟する啄木の凄絶な晩年を、笑いと感動溢れる戯曲に昇華した表題作の他、「日の浦姫物語」を収録した戯曲集。
  • 四捨五入殺人事件
    -
    講演会をひきうけたのはよかったが、つれていかれたのはテレビもない山の中の温泉旅館、しかも折からの大雨で村に一つしかない橋が流された。陸の孤島で身動きできない二人の作家の前に突然起こる殺人事件。殺された旅館の女主人は、昔苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)をほしいままにした領主の末裔だった。事件の背後には、何世代にもわたる怨念が……。推理小説嫌いも必読の「文庫封切り版ミステリー」
  • 藪原検校
    5.0
    東北の片田舎に生まれた盲人が、根深い差別の中で晴眼者に伍して生きて行こうとした時、彼にとっての武器は何だったか。殺人、脅し、強盗、強姦、数々の悪事を重ねて盲人にとっての最高の権力の座、検校位に登りながら、ついに三段斬りの極刑に処せられた杉の市=二代目藪原検校の非道の生涯を深い慈しみを込めて描く傑作戯曲。ほかに新作文楽「金壺親父恋達引」を収録。
  • 珍訳聖書
    -
    花の浅草ドッグ座の犬芝居、人気ストリッパーのマリアの発作は何と狂犬病。弟の刑事犬も、医学博士犬も真っ青で感染経路の大捜査が始まった。ところが実はこの芝居、南方帰還兵が仕組んだ恐怖の復讐劇だったのでありました。と思ったら、またまた逆転、実は……。エロと笑いと風刺満載の逆転につぐ大逆転劇。この世の真実はどこにある。浅草の救世主はどこにいる。
  • 新釈遠野物語
    4.0
    東京の或る交響楽団の主席トランペット奏者だったという犬伏太吉老人は、現在、岩手県は遠野山中の岩屋に住まっており、入学したばかりの大学を休学して、遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”に、腹の皮がよじれるほど奇天烈な話を語ってきかせた……。“遠野”に限りない愛着を寄せる鬼才が、柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、現代の怪異譚9話。
  • 月なきみそらの天坊一座
    -
    終戦直後の荒廃した時代に生きる田舎廻りの奇術師旭日斎天坊と内妻のお浜、摩訶不思議な世界に魅せられて弟子になった孤児浩志。格は三流でも芸は一流、食っていくためには人を騙しもするが、人のためとあれば自慢の術を惜し気もなく役立てる。その日暮しの根なし草でも、そこは商売、機知とトリックで途を拓いていく三人の、心温まる人情とユーモアと笑いと涙の物語。
  • 國語元年
    -
    明治七年、文部省官吏南郷清之輔は「全国統一話し言葉」の制定を命じられた。織田信長や太閤秀吉の天下統一にも比すべき大事業! しかし彼の家では家族、奉公人など十の方言が入り乱れて大混乱……。戯曲版・井上ひさし日本語連続講座。
  • 一週間
    4.2
    スパイMの奸計により逮捕され共産党から転向した小松修吉は、Mを追って満洲に渡り、終戦後、捕虜となる。昭和21年早春。ハバロフスクの日本新聞社に移送された修吉は、脱走に失敗した軍医の手記を書くよう命じられた。面談した軍医は、レーニンの裏切と革命の堕落を明かす手紙を彼に託した。修吉はこれを切り札にしてたった一人の反乱を始める……。著者の集大成。遺作にして最高傑作。
  • ドン松五郎の生活
    -
    “おれたち犬が仕合せになるには、まず人間が仕合せにならなくてはならぬ”。生れも育ちも葛飾江戸川べり、小説家松沢先生の飼犬ドン松五郎は、仲間と語らって、世直しに立ち上がった。彼らがまき起す珍妙無類な事件の数々……。革命家も神様も手こずった人間の強欲をとことんやっつけ、機知と諷刺で人間社会を翻弄する――漱石先生も脱帽の快作、井上ひさし版「吾輩は犬である」。
  • 螢川・泥の河
    4.4
    1巻440円 (税込)
    土佐堀川に浮かんだ船に母、姉と暮らす不思議な少年喜一と小二の信雄の短い交流を描いて感動を呼んだ太宰治賞受賞の傑作「泥の河」。北陸富山の春から夏への季節の移ろいの中に中三の竜夫の、父の死と淡い初恋を螢の大群の美しい輝きの中に描いた芥川賞受賞の名編「螢川」。
  • 幻の光
    4.0
    1巻440円 (税込)
    人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ――祖母が、そして次に前夫が何故か突然、生への執着を捨てて闇の国へと去っていった悲しい記憶を胸奥に秘めたゆみ子。奥能登の板前の後妻として平穏な日々を過す成熟した女の情念の妖しさと、幸せと不幸せの狭間を生きてゆかねばならぬ人間の危うさとを描いた表題作のほか3編を収録。芥川賞受賞作「螢川」の著者会心の作品集。
  • 道頓堀川
    4.0
    1巻484円 (税込)
    両親を亡くした大学生の邦彦は、生活の糧を求めて道頓堀の喫茶店に住み込んだ。邦彦に優しい目を向ける店主の武内は、かつて玉突きに命をかけ、妻に去られた無頼の過去をもっていた。――夜は華やかなネオンの光に染まり、昼は街の汚濁を川面に浮かべて流れる道頓堀川。その歓楽の街に生きる男と女たちの人情の機微、秘めた情熱と屈折した思いを、青年の真率な視線でとらえた秀作。
  • 五千回の生死
    4.2
    1巻539円 (税込)
    「一日に五千回ぐらい、死にとうなったり、生きとうなったりする」男との束の間の奇妙な友情(表題作)。トマトを欲しながら死んでいった労務者から預った、一通の手紙の行末(「トマトの話」)。癌と知りながら、毎夜寝る前に眉墨を塗る母親の矜持(「眉墨」)。他に「力」「紫頭巾」「バケツの底」等々、日々の現実の背後から、記憶の深みから、生命(いのち)の糸を紡ぎだす、名手宮本輝の犀利な「九つの物語(ナイン・ストーリーズ)」。
  • 夢見通りの人々
    3.8
    1巻539円 (税込)
    その名前とはうらはらに、夢見通りの住人たちは、ひと癖もふた癖もある。ホモと噂されているカメラ屋の若い主人。美男のバーテンしか雇わないスナックのママ。性欲を持て余している肉屋の兄弟……。そんな彼らに詩人志望の春太と彼が思いを寄せる美容師の光子を配し、めいめいの秘められた情熱と、彼らがふと垣間見せる愛と孤独の表情を描いて忘れがたい印象を残すオムニバス長編。
  • 錦繍
    4.3
    1巻572円 (税込)
    「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。
  • ビタミンF
    4.0
    1巻649円 (税込)
    38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか――」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。直木賞受賞作。
  • 私たちが好きだったこと
    3.8
    1巻671円 (税込)
    工業デザイナーを目ざす私、昆虫に魅入られた写真家のロバ、不安神経症を乗り越え、医者を志す愛子、美容師として活躍する曜子。偶然一つのマンションで暮らすことになった四人は、共に夢を語り、励ましあい、二組の愛が生まれる。しかし、互いの幸せを願う優しい心根が苦しさの種をまき、エゴを捨てて得た究極の愛が貌を変えていく……。無償の青春を描く長編小説。
  • 優駿(上)
    4.4
    1~2巻693~737円 (税込)
    生れる仔馬が牡馬でありますように。風の申し子のように速く、嵐みたいに烈しく、名馬の天命をたずさえて生れますように……。若者の祈りに応(こた)えて、北海道の小さな牧場に、一頭のサラブレッドが誕生した。オラシオン(祈り)と名づけられた仔馬は、緑と光の原野のなかで育ち、順調に競走馬への道を歩みはじめるが、それと共に、登場人物ひとりひとりの宿命的な劇(ドラマ)が、幕を開けた――。
  • ドナウの旅人(上)
    3.6
    1~2巻715~770円 (税込)
    夫を捨てて、突如出奔した母・絹子。「ドナウ河に沿って旅をしたい」という母からの手紙を受け取った麻沙子は、かつて五年の歳月を過ごした西ドイツへと飛ぶ。その思い出の地で、彼女は母が若い男と一緒であることを知った。再会したドイツの青年・シギィと共に、麻沙子は二人を追うのだが……。東西ヨーロッパを横切るドナウの流れに沿って、母と娘それぞれの愛と再生の旅が始まる。
  • 青い鳥
    4.6
    1巻737円 (税込)
    村内先生は、中学の非常勤講師。国語の先生なのに、言葉がつっかえてうまく話せない。でも先生には、授業よりももっと、大事な仕事があるんだ。いじめの加害者になってしまった生徒、父親の自殺に苦しむ生徒、気持ちを伝えられずに抱え込む生徒、家庭を知らずに育った生徒──後悔、責任、そして希望。ひとりぼっちの心にそっと寄り添い、本当にたいせつなことは何かを教えてくれる物語。
  • きみの友だち
    4.4
    1巻737円 (税込)
    わたしは「みんな」を信じない、だからあんたと一緒にいる――。足の不自由な恵美ちゃんと病気がちな由香ちゃんは、ある事件がきっかけでクラスのだれとも付き合わなくなった。学校の人気者、ブンちゃんは、デキる転校生、モトくんのことが何となく面白くない……。優等生にひねた奴。弱虫に八方美人。それぞれの物語がちりばめられた、「友だち」のほんとうの意味をさがす連作長編。
  • 月光の東
    3.6
    1巻825円 (税込)
    「月光の東まで追いかけて」。出張先のカラチで自殺を遂げた友人の妻の来訪を機に、男の脳裏に、謎の言葉を残して消えた初恋の女性の記憶が甦る。その名前は塔屋米花。彼女の足跡を辿り始めた男が見たのは、凛冽な一人の女性の半生と、彼女を愛した幾人もの男たちの姿だった。美貌を武器に、極貧と疎外からの脱出を図った女を通し、人間の哀しさ、そして強さを描く傑作長編小説。
  • 安全のカード
    3.9
    1巻539円 (税込)
    休日に青年の部屋におとずれたセールスマン。その男がカバンからとりだしたのは、名刺くらいの大きさの金属製のカードだった。なんとこのカード、絶対的な安全を保障するという不思議なカードだった……。平凡に過ぎてゆく日々。何となくつまらない毎日。そんな時、ショートショートの扉を開いてみませんか。表題作をはじめ、悪夢とロマンの交錯する奇妙な味の16の物語を収録。
  • ご依頼の件
    3.8
    1巻671円 (税込)
    若いころの事件をたねに、金をゆすられているあなた! 殺してもあきたらないほど、憎らしい人がいるきみ! おもいきって、“殺し”はいかがですか? ご依頼の件は必ずやりとげ、絶対安全。あなたには決してご迷惑をおかけいたしません。常識的で、ありふれた世界に安住している人々の意識を痛撃し、人間の心の奥にひそむ願望をユーモアと諷刺で描いたショートショート40編。
  • 月と10セント―マンボウ赤毛布米国旅行記―
    -
    1巻429円 (税込)
    アポロ11号打上げの取材に渡米することになったどくとるマンボウは、《月乞食》と称し、1枚1ドルで自筆の短冊を売ることを思いついた。さて、ニューヨークに着いたマンボウ、打上げ基地での本番の前にリハーサルをと、和服に白足袋のいでたちで繁華街のどまん中に陣取ったのだが……。月の狂気に憑かれたマンボウが二度の米国遊行の体験をもとに描く〈赤毛布(ゲット)アメリカ漫遊記〉。
  • 南太平洋ひるね旅
    -
    1巻429円 (税込)
    南海――この言葉の中にある懐かしい響きといささかの幻想を追って、著者はふらりとジェット機に乗り込んで夜の東京を脱出した。ハワイを振り出しに、タヒチ、フィジー、ニューカレドニア、東西サモアと、風を吸い光を浴びて、訪ね歩く小さな島々。子供らと遊び、素朴なおとなと語らう、アオレレ(飛ぶ雲)のように爽やかで、ひっそりとしたどくとるマンボウの気ままな旅行記。
  • 母の影
    3.5
    1巻484円 (税込)
    青山にある大病院の娘に生れ、斎藤茂吉と結婚した輝子。お嬢様として育ち気丈で破天荒な性格の彼女と、癇癪もちでワンマンな茂吉が、夫婦として折り合うはずもない。家にはいつも嵐が吹き荒れ、四人の子らは右往左往。そんな斎藤家の次男である著者が幼少時代の記憶を辿り、文学にめざめた頃を反芻しつつ、母への愛惜、父への尊敬、そして二人の死を綴る。追慕溢れる自伝的小説。
  • 天井裏の子供たち
    -
    1巻484円 (税込)
    忍者に憧れる少年たちが、服部半蔵と名乗る首領以下、おんぼろアパートの天井裏につくりあげた夢の空間と、その消滅を描く表題作。他に、精神病院内での患者たちの珍妙な映画制作の物語『もぐら』、静かな無為の時間に包まれているようにみえる老女の、心の奥に息づく過去の幻影をあざやかに描き出した『静謐』など、重い現実と飛翔する夢のあわいに生れた作品全5編を収める。
  • あくびノオト
    -
    1巻506円 (税込)
    夢想の世界に遊ぶ主人公の、現実とのくいちがいに生ずる悲哀をユーモラスに描いて苦い笑いを誘う『第三惑星ホラ株式会社』『少年と狼』『活動写真』等の物語。他に、なまけものやホラ吹きへの共感、沖縄紀行、医学生時代の思い出や精神科医としての体験、子供マンガへの愛着と無理解な大人への抗議、等々、あわただしい現代社会への批評の眼を、爽やかな笑いに包んだエッセイを収める。
  • 怪盗ジバコの復活
    -
    1巻517円 (税込)
    あの心優しい大怪盗ジバコが帰ってきた。謎多き男、年齢不詳、国籍不明etc. その正体を誰も知らない。南海のヤシの実10個から大国の金の延棒、宝石の数々を難なく頂戴する。だがジバコの変装をいとも簡単に見破るひとがいる。その名はジバコの愛しい恋人ルネ嬢。今や巨大組織を解散したジバコが彼女のために世界の名探偵=コロンボ、ポアロ、ホームズらを相手に奇抜な挑戦をする。
  • 輝ける碧き空の下で 第一部(上)
    -
    1~4巻517~572円 (税込)
    明治四十一年、第一回ブラジル移民七百九十一名を乗せ笠戸丸がサントスに入港した。夢と希望に満ちた彼らを待ち受けていたのは、苛酷な自然と厳しい労働だった――。大農場で農奴にひとしい生活を送る井原・山口家の人々。色々な職業を転々とする香山六郎。農場主に支配されない日本人入植地を夢みる平野運平。紺碧の空の下、苦闘する初期移民の姿を描いた構想十余年の大作第一部。
  • 白きたおやかな峰
    -
    1巻517円 (税込)
    想像を絶する巨大な山塊、猛々しくも優雅にそそり立つ大伽藍――白雪におおわれた未踏の高峰ディラン。長い準備の末に憧れのヒマラヤにやって来た10人の日本人たちは、病気や悪天候などさまざまな障害を克服しながら、冷酷に人間を拒否しつづける頂上に挑む……。ドクターとして遠征隊に参加した著者が、大自然の魅惑と愛すべき山男たちの素顔を描く書き下ろし長編。
  • 奇病連盟
    -
    1巻517円 (税込)
    歩き始めると4歩目ごとに、ピョコリピョコリとのびあがる奇癖の主・ピョコリ氏こと山高武平。37歳にもなって独身、うるさく古風な母親と二人暮しのさえないサラリーマンの彼が「奇病連盟」にスカウトされた。次々と彼を襲う奇妙きてれつな体験と遅すぎるロマンスを、著者独特のユーモアいっぱいに描く。読者はモタモタした武平を笑う、と同時に、なぜか共感と愛着をも禁じえない。
  • 黄いろい船
    -
    1巻539円 (税込)
    長年つとめた会社を解雇された男の沈鬱な心情は、ゆったりと童話じみて大空を浮游する黄いろい飛行船に幼時の夢の幻影をうつし出した――中年の男の心の中に生きる《少年》への愛惜と訣別を描く表題作。ほかに『霧の中の乾いた髪』『こども』など、幼い遊びや反抗期と問題児、初恋と性の目覚めなどを弾力のある観察でとらえ、少年期の微妙な心を鮮やかに描く中短編全5編を収録。
  • 遙かな国 遠い国
    -
    1巻539円 (税込)
    頭は弱いがとびきり素直で力持ちの正太少年が、オンボロ漁船に雇われて、船員たちにからかわれながらも、飯焚き雑役に大奮闘。あげくに船は沈没、凍える海に放り出され、ソ連に抑留されて……北国の空の下、おおらかな恋人たちに眼を見張る。純朴な少年の眼を通して、遠い魂の故郷への憧憬を物語る表題作ほか、初期の珠玉作『三人の小市民』『埃と燈明』『為助叔父』『友情』を収録する。
  • 夜と霧の隅で
    3.8
    1巻539円 (税込)
    第二次大戦末期、ナチスは不治の精神病者に安死術を施すことを決定した。その指令に抵抗して、不治の宣告から患者を救おうと、あらゆる治療を試み、ついに絶望的な脳手術まで行う精神科医たちの苦悩苦闘を描き、極限状況における人間の不安、矛盾を追究した芥川賞受賞の表題作。他に『岩尾根にて』『羽蟻のいる丘』等、透明な論理と香気を帯びた抒情が美しく融合した初期作品、全5編。
  • 星のない街路
    -
    1巻550円 (税込)
    湿潤な冷気に覆われ灰色に閉ざされたベルリンを舞台に、東独から脱出したドイツ娘との交情を、詩情ゆたかに描く表題作。濃霧で立ち往生する船の中で主人公の現実と夢が交錯する『河口にて』。他にSF的設定の『人工の星』『不倫』など、全7編。人間とそれを包む世界とに共通する一種異様な不安定性を、さまざまな方法とみずみずしい完成で描出し、その多彩な才能を示す初期短編集。
  • 幽霊―或る幼年と青春の物語―
    3.9
    1巻561円 (税込)
    「人はなぜ追憶を語るのだろうか。どの民族にも心の神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ」昆虫採集に興ずる少年の心をふとよぎる幼い日に去った母親のイメージ、美しい少女に寄せる思慕……過去の希望と不安が、敗戦直後の高校生の胸に甦る。過去を見つめ、隠された幼児期の記憶を求めて深層意識の中に溯っていく。これは「心の神話」であり、魂のフィクションである。
  • 怪盗ジバコ
    4.0
    1巻583円 (税込)
    史上最強の怪盗が現れた! 全世界を股にかけ、これまでに盗んだ額は一国の国家予算をはるかに超える。南海の孤島のヤシの実から共産圏の金の延棒まで、盗めるものは何でも盗む。48を越える国語を自由にあやつり、老若男女どんな人間にも姿を変え、その正体を誰も知らない――ジェームズ・ボンドや明智小五郎もお手上げの、「怪盗ジバコ」のユーモアあふれる活躍を描く連作8編。
  • さびしい姫君
    -
    1巻627円 (税込)
    人間てさびしい存在ですね。王様も乞食も、そして姫君もやっぱりさびしいのです。今度は“さびしい王様”ストン国王の妃ローラ姫の物語。三歳で結婚し、子供ができないために離婚させられた姫……。大笑いしながらちょっぴり悲しい“十歳から百歳までの子供のための童話”シリーズ。『さびしい王様』『さびしい乞食』のなつかしい登場人物たちもとび出して、ついに大団円を迎えます。
  • さびしい乞食
    -
    1巻627円 (税込)
    欧州航路の最後の客船でアメリカに留学する御貰固呂利(おもらいころり)とは如何なる人物? デブのストン国王との関係如何? さてまた大悪党らしきデビルファーザー氏の正体如何? 本当にオカネのないとき、ひとに物乞うときのさびしさ、また金持も乞食も共に操られる運命の不思議を笑いと涙のひそかな洪水のうちに描く。『さびしい王王様』につづく、おとなとこどものための童話シリーズ第二作。
  • 酔いどれ船
    -
    1巻627円 (税込)
    天保12年の秋、20歳になったばかりの三太郎の乗った船はシケに会い、果てしのない漂流が始まる……。世界の各地に生き、そして死んだ一族の男女5人の物語を一話ごとに異なる文体をもちいながら、作者の内からほとばしり出る詩的告白と結合させて、日本人に特有な海の彼方への激しい憧れと、その反面にある異国社会での不適応性を鮮やかに描き出した書下ろしオムニバス長編。
  • 楡家の人びと 第一部
    4.4
    1~3巻649~693円 (税込)
    溢れる楽天性と人当たりの良さで患者の信頼を集めるドクトル楡基一郎が、誇大妄想的な着想と明治生まれの破天荒な行動力をもって、一代で築いた楡脳病院。その屋根の下で、ある者は優雅に、ある者は純朴に、ある者は夢見がちに、ある者は漠とした不安にとまどいながら、それぞれの生を紡いでゆく。東京青山の大病院と、そこに集う個性豊かな一族の、にぎやかな年代記の幕が上がる。
  • 木精―或る青年期と追想の物語―
    3.8
    1巻671円 (税込)
    ドイツの神経研究所で学ぶひとりの日本人精神科医。彼が遠い異国へやって来たのは、人妻との情事に終止符を打つためでもあった。ドナウ源流地帯、チロルの山々、北国の町々――ヨーロッパを彷徨う彼の胸に去来する不倫の恋への甘美な追憶、そして、作家としての目覚めと将来への怯え。著者自身の若き日の魂の遍歴をふり返り、虚構のうちに再構成した《心の自伝》。『幽霊』の続編。
  • なりそこない王子
    4.0
    1巻539円 (税込)
    乞食王子、白雪姫と七人の小人、はだかの王さま、赤頭巾ちゃん、シンデレラ、そしてピーターパン……。おとぎ話の主人公たち総出演の愉快なパロディ「なりそこない王子」をはじめ、深夜の道路を走る霊柩車が拾った死体をめぐるてんやわんやの騒動を描く「死体ばんざい」など、時間と空間を超えて、現実と非現実のはざまでくりひろげられる12編の不思議なショートショートを収録。
  • どこかの事件
    4.0
    1巻638円 (税込)
    平凡なサラリーマンが、ねごとで妻にもらした見知らぬ男への殺意。ねごとでの殺人計画はしだいに具体化していく。はたして、夢の中の出来事なのか、それとも本当は……。他人には信じてもらえない、不思議な事件はいつもどこかで起きている。日常的な時間や空間を超えて展開する非現実的現実世界をウイットあふれる語り口で描く、夢とサスペンスにみちたショートショート21編。
  • 写楽 閉じた国の幻(上)
    3.6
    世界三大肖像画家、写楽。彼は江戸時代を生きた。たった10ヵ月だけ。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎──。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学講師が突き止めた写楽の正体とは……。構想20年、美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説。
  • 細雪(上)
    4.3
    1~3巻605~781円 (税込)
    大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。

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  • 春琴抄
    4.3
    盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。幼い頃から春琴に付添い、彼女にとってなくてはならぬ人間になっていた奉公人の佐助は、後年春琴がその美貌を何者かによって傷つけられるや、彼女の面影を脳裡に永遠に保有するため自ら盲目の世界に入る。単なる被虐趣味をつきぬけて、思考と官能が融合した美の陶酔の世界をくりひろげる。

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  • 猫と庄造と二人のおんな
    4.0
    一匹の猫を中心に、猫を溺愛している愚昧な男、猫に嫉妬し、追い出そうとする女、男への未練から猫を引取って男の心をつなぎとめようとする女の、三者三様の痴態を描く。人間の心に宿る“隷属”への希求を反時代的なヴィジョンとして語り続けた著者が、この作品では、その“隷属”が拒否され、人間が猫のために破滅してゆく姿をのびのびと捉え、ほとんど諷刺画に仕立て上げている。

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  • 少将滋幹の母
    4.1
    八十歳になろうとする老大納言は、若い妻を甥の左大臣に奪われるが、妻への恋情が断ちきれず、死んでしまう。残された一人息子の胸にも幼くして別れた母の面影がいつも秘められていた――。平安期の古典に材をとり、母への永遠の慕情、老人の美女への執着を描き、さらに、肉体の妄執が理性を越えて、人間を愛欲の悩みに陥れるという谷崎文学の主要なテーマを深化させた作品。

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  • 思い出トランプ
    4.0
    浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。

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