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ドイツの神経研究所で学ぶひとりの日本人精神科医。彼が遠い異国へやって来たのは、人妻との情事に終止符を打つためでもあった。ドナウ源流地帯、チロルの山々、北国の町々――ヨーロッパを彷徨う彼の胸に去来する不倫の恋への甘美な追憶、そして、作家としての目覚めと将来への怯え。著者自身の若き日の魂の遍歴をふり返り、虚構のうちに再構成した《心の自伝》。『幽霊』の続編。
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Posted by ブクログ
北杜夫のお父さんは歌人の斎藤茂吉です。自伝的要素の強い小説として「楡家の人びと」が代表的ですが、この木精という題名も「はるかなる国とおもふに挟間には木精おこしてゐる童子あり」と詠った茂吉の短歌から採っています。私の父の本棚には茂吉の短歌集と北杜夫の小説が並んでいたのですが、娘の私は短歌にはあまり興味...続きを読むがなく、茂吉の方ではなく北杜夫の本を抜き取りよく読んだという経緯がありました。今回本屋さんで見かけて新たな気持ちで読みました。 副題にあるように、ひとりの精神科医の青年時代の追憶の中に住む人への思慕を中心に自分自身を語る形式を取っています。この小説の前に「幽霊」と題した幼年時代を語る小説がありこれも懐かしい本です。 若いということは悩みも純粋で、体験も瑞々しい。恋愛に関しては尚更のこと盲目的といってもいいのかもしれない。 留学のため異国ドイツにあって反芻する、別れてきた人との切ない回想シーン。そして異国の風景と共によぎるトーマス・マンの小説「トニオ・クレーゲル」の一説。幼少期から青年期にかけての精神形成期にぼくが惹かれるのは、光りとは反対の世界。夜や霧の中、そして霊界を彷徨う死者たちのこと。青年期をはるかに越した今読むと、若い頃の共鳴とは別な角度からこころが震えることに気づくのです。
先日亡くなった北杜夫さんの自伝的小説で、『幽霊~或る幼年と青春の物語~』の続編。ドイツの神経研究所に留学した日本人が主人公。作家としての自覚を深めていく主人公の心の軌跡を、北杜夫自身が尊敬するドイツの作家、トーマス・マンの足取りと重ねながら描いています。 チューリヒ郊外キュスナハトまで旅して、そこに...続きを読む眠るマンの墓に語りかける場面はやや感傷的であることは否めないものの、自身のペンネームをマンの『トニオ・クレーゲル』のトニオから取った作家の信仰告白としてもうけとれる、心を打つ場面です。 ご冥福をお祈りします。 追伸 2011年10月27日付『日本経済新聞』に掲載された加賀乙彦さんの追悼文も、心温まる印象的な内容でした。
★2.5だがおまけで。 虚構に仕立てているんでしょうが、いまいちかな。 要するにあんまりのめり込めなかったということです。
【本書より】ぼくの気質は年と共により内閉的に狷介に、一見人間嫌いといったふうになってゆくことだろう。おそらく自己嫌悪に満ちた、いかがわしくふみ迷える人生を送ることになるかもしれない。にもかかわらず、片側の意識で、ぼくは生涯、人間を愛し、人生を愛してゆくことができるだろう。倫子、それがぼくに君が与えて...続きを読むくれたもの、これからも追憶のなかでずっと与えつづけてくれるはずのものなのだ。君は幼少期からぼくを魅し、恍惚とさせた草や虫たち、或いはひそかな愛慕を寄せた少年や少女の結晶であり綜合であり、その化身なのだから。
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