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ひとりの男の十三年間にわたる不倫の恋を、妻・愛人・愛人の娘の三通の手紙によって浮彫りにした恋愛心理小説『猟銃』。社運を賭した闘牛大会の実現に奔走する中年の新聞記者の情熱と、その行動の裏側にひそむ孤独な心情を、敗戦直後の混乱した世相のなかに描く芥川賞受賞作の『闘牛』。無名だった著者の名を一躍高からしめた初期の代表作2編の他『比良のシャクナゲ』を収録。
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Posted by ブクログ
湊かなえの『告白』を読んだ時のような、書き方の新鮮さに衝撃を受ける。 3人の女の手紙から見える男の実態は、それが真実とは限らない。
井上靖は本当に凄い。短編の鋭い切れ味に、恐れ入るしかない。 日本語の美しさ、その文字から伝わる日本の美しさ、そこに映し出されるあの時代の日本人の男女の孤独感。今も変わらぬ各人の自己中心的な悲哀が、井上靖によって際立つ。
《猟銃》 妻・愛人・愛人の娘、その三通からの手紙から 浮き彫りにされる、恋愛をとりまく さまざまな心もよう。 一つの事実に対して、その人の感情により、 立場により、こんなにも想いが 異なるという事実。 愛すること、愛されることの意味、 そして、そのことによって変わる人生の重み。 短編ではありなが...続きを読むら、読んだあと、 しみじみと考えさせられた。
宮本輝さんが、雑誌の中で「人間同士の言うに言われん相性みたいなものを絶妙な言い方で表現していますね。…本当に名作ですよ」とおっしゃっていたので、手にとりました。本当にそのとおりでした。
蛇であったり、悪人であったり、人の心の奥にあるものを描く。自分の中のそういうものに覚えがあるから理解できる。しかし設定の無理とか不自然さを感じて、三作ともすっきりしないものが残った。
「エンタメ」の夜明け で闘牛が紹介されていたのがきっかけ。 井上靖はあすなろ物語を昔読んだくらいだったが、少し文章は固めに感じた。 猟銃:個人的には一部少しわざとらしくも感じた。 闘牛:この中では一番おもしろい。 比良のシャクナゲ:まぁまぁ。昔のエリート感。
「猟銃」を読みました。 とても面白く、どんどん引き込まれた。 ひとりの男性像が3人の女性の視点から出来上がっていく。 愛されることと、愛すること、どちらが幸せなのか。その答えは・・・
著者の初期作品から、『猟銃』『闘牛』『比良のシャクナゲ』の三編を収録しています。 『猟銃』は、三杉穣介という猟人から著者のもとに送られてきた手紙による、書簡体小説です。著者はある日、「白い川床」を歩くように、「ゆっくりと、静かに、冷たく」山のなかを歩んでいた三杉のすがたを目にし、その記憶に基づいて...続きを読む一つの散文詩を発表します。ところが、彼の詩を目にした三杉から送られてきた手紙には、彼の不倫とそれが引き起こした結末が語られていました。愛人の彩子、妻のみどり、そして彩子の娘の薔子の三人の手紙によって三杉の愛人関係がえがき出されています。 『闘牛』は、大阪の新聞社で編集局長を務める津上という男のもとを、田代捨松という興行師がおとずれ、闘牛大会開催の商談をもちかけるところから、物語がはじまります。田代や、彼を支える会社経営者の岡部弥太、さらに闘牛大会に食い込もうと目論む三浦吉之輔といった人びととの折衝を通して、かくされていた津上の「やくざ」な性分が表に現われるようになります。彼の愛人であるさき子は、そんな津上のすがたにふたたび心を熱くします。しかし一方の津上は、闘牛大会のために奔走を続ける中で、いったん表に現われたかに見えた彼の「やくざ」な性分は、雨に濡れて消されてしまうことになります。 『比良のシャクナゲ』は、解剖学と人類学の研究のために人生をかけてきた78歳の三池俊太郎の回想というかたちの小説です。妻や子どもたちにも理解されず、みずからの信じる学問のために邁進してきた三池の、ユーモアとペーソスにいろどられた独白がつづられています。
表紙から売りという意味では、双方芥川賞候補になった「猟銃」VS「闘牛」という並びに味があるのだろうか。「闘牛」で芥川賞を受賞した時、選考委員の意見も多少別れたという。もう一篇、「比良のシャクナゲ」という作品もあるが、これは例外的で、ある意味無難な評価、皆似たような感想を持つと思う。 「猟銃」は、主人...続きを読む公である語り手(もっと正しい呼び方があるのかもしれない)が、一つの詩を書いたことから始まる。手紙を用い、それぞれの視点を、文章として、そのままに表すというのは、面白い書き方だと思う。そして、物語が、文章が、純粋に面白い。だが、三人目の手紙というのは、蛇足だったように思う。 「闘牛」は今のビジネス小説(あからさまな悪役を立てることによって対決させることや内輪揉めによる問題の発生など)とはまた異なったアプローチをして、これもまた面白い。ある男から商談を持ちかけられ、その企画を立ち上げるところから始まる、博打。仕事は蛮勇でなければならない、という根本的なものを思わせる。その結果を、主人公の心象や情景に溶かす描写は美しい。 技術的には、やはり「闘牛」の方が上に感じられるが、個人的には物語としても「猟銃」が好みだ。 「比良のシャクナゲ」は、老人の研究者を主人公に、残りの人生を研究に費やし、歴史に名前を残すことのみを目的に生き、過去から蔑ろにしてきた家族をより一層に省みずの姿は、それまでにあった過去の出来事を回想し、その事に偏屈者なりの文句が独白に込まれる構造は、亭主関白というものへの尊重と誹謗を意味しているのかと思いつつ、シャクナゲという花について調べる。
『猟銃』の印象は割と薄かったのだが、『闘牛』はさすがの読後感だった。史実をもとにして淡々と進んでいくストーリーの中に、主人公津上と愛人さき子との先の見えぬ不安感を織り交ぜている。前者は物語を円滑に進める働きを持ち、後者は要所で物語に絡んで、ドラマチックな結末を生む大きな要素となっている。 闘牛の結...続きを読む果と二人の関係の終わりを重ねた最後の段落、特に最後の一文は凄まじい。
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