天平の甍

天平の甍

小説・文芸
737円 (税込)

3pt

天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら――在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ……。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。

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天平の甍 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    調子よく進んでいた読書を、一気に停止させるほど恐ろしい本である。
    生半可な軽い気持ちで取り組み、返り討ちにあった。
    学術書並に難しい。専門用語が多い。仏教の予備知識と古い中国地名の予備知識がいる。
    こうした様々な障壁を乗り越えながら読み進めた。

    覚えておいた方が良い名前を書いておく。
    ・普照ふしょう
    ・栄叡ようえい
    ・戒融かいゆう
    ・玄朗げんろう
    この四人の留学僧が中心に話が進む。

    この作者のすごいのが、小説にもかかわらず「登場人物が実際に存在した名前を使っているところ」だ。
    ほんの少しの人となりの記述を参考に小説を進めている。もちろん完全なフィクションではあるが、確実にそれの時代を理解しようとする書かれていない勉強の量の厚みのようなものを文章から感じる。

    船中で苦労した後、三ヶ月以上かけ、蘇州にたどり着く。
    時は玄宗皇帝の時代。都は長安から洛陽へ移されている。四人の留学僧は先ず唐語を覚える必要があり、戒融だけは、堪能だった。こうした状況から話が進んでいく。
    この辺りの時代背景と仏教用語の理解、中国の古い時代の地名。これがないとちんぷんかんぷんである。
    正月に立てた私の志はこの本によって一気に削り取られた。
    ただ興味深いのが、普通であれば、鑑真という歴史に名が残る人物を中心に描かれるものを、あえて、海の藻屑と消えたような名前も残らないような人たちや、志が実らなかった人物をを中心に描かれていると見ると、この小説の真意らしきものが見えてくる。
    もちろん、作者でないので真意であるとは言い切れない。
    しかし、作者の井上靖氏は、あえてその「名のある一人」を作り出すために「数多くの人々が犠牲となりその一人を輝かせている」というような深い人生の洞察を感じた。
    平たく言ってしまえば「縁の下の力持ち」ではあるが、そうした人間存在へのスポットライトを当てているような小説であった。
    それゆえに、鑑真そのものは日本に来てからというもの、恐ろしいほどあっさりと記述がされているため、自分が読み飛ばしてしまったのだろうか?と疑うほどであった。
    一度では意味が分からなかった。
    二回読んで なんとなく流れがわかった。
    三回読んで やっと読んだと言えるような本になった気がする。
    四回目はもう気力がなくなった。
    この作品を通して、自分自身の醜い読書への自己自慢のような心と対決することとなった。
    いつのまにか、自分の感想を書くことが目的になりつつある読書を見破られたような気がして、自分自身の純粋な読書への感動を書き記せなくなっていることに気づかされた一冊であった。
    そんな自慢のための読書やひけらかすための感想などいらない。
    自分が自分として向き合うための、感想を書くことに本当の意味があるのだ。
    ちょっとの「いいね」に、調子に乗っていた自分を戒める意味でも、最高評価にしておきたい。
    そうしないと自分の見栄と格闘した努力が浮かばれない気もする。
    その意味では一つのターニングポイントとなった書籍である。

    0
    2026年03月06日

    Posted by ブクログ

    なぜか無性に井上靖が読みたくなり、40年以上前に読んだ本を手にとった。あの時の感動とまた違った風が心の中を駆け抜ける。

    8世紀の日本。日本と唐の間の航海は、今では想像もできないほどの苦難があった。しかし、その苦難を乗り越え日本の近代国家成立のために生涯を懸けた留学僧の思いが現代人に深い感動を与える。

    圧巻は、業行が、日本に持ち帰るために数十年というか生涯全ての時間をかけ写経した夥しい経典とともに海の藻屑となり沈んでしまう描写だ。業行の人生は一体何だったんだろうか、深く考えさせられる。

    救われるのは、日本に無事帰ることができた普照のもとに届いた一つの甍。これが日本に辿りつくことのできなかった留学僧らの形見に見えたことだ。
    これを託した人物は不明であるが、唐招提寺の金堂の屋根に鎮座した姿を見た普照は何を思ったことだろう。

    この物語のタイトルにある甍。天平時代の甍は、寺院などの隆盛を誇るシンボルを想像する。
    これは、日本に唐の高僧を招聘し戒律を施行するという使命を普照に託し、唐の地で果てた栄叡の姿に重なる。
    また、業行の叫び声とともに夥しい経巻が潮の中へ転がり落ちていくその一巻一巻がまさに一枚一枚の瓦のようにも見える光景にも重なる。
    真に見事なタイトルだと思う。

    文庫本で約200ページの小説。こんなにも心を揺さぶられるとは思ってもみなかった。再読して良かった。この小説を読んだ後、心の深さが変わったような気がする。

    そうだ、唐招提寺に行ってみよう。天平の甍を感じるために。

    0
    2024年09月26日

    Posted by ブクログ

    本書は8世紀の奈良時代に第九次遣唐使として留学する4人の日本人僧侶を中心にして、後半は6度にもわたる挑戦で訪日をはたす鑑真の物語です。当時の日本人にとっては海外に行くことは命がけで、しかも船はそんなに頻繁に出ていない。無事に唐に渡れても帰ることができるのは何十年後の可能性もあって、帰りも無事に帰れる保証はない。そんな中当時の日本人の中でも外国文化を日本に持ち帰る重要な役割を果たしていたのが僧侶でした。

    本書の中では唐に渡る4人の日本人留学僧と、唐で写経をひたすら続けている業行という5人の日本人僧侶が中心になりますが、それぞれの性格が違っていて、自分だったら誰のタイプになるかなと考えさせられました。もちろん訪日を果たした鑑真和上の偉大さはわかるのですが、個人的には無名の日本人留学僧が積み上げてきたもの、あるいは無念となったものが歴史となって日本を形作ってきたと思います。本書は用語が難解なところもかなりありますが、無意識のうちに自分を留学僧の誰かに重ね合わせながら、自分自身が8世紀の奈良および唐にいるような気分になりました。

    0
    2023年04月26日

    Posted by ブクログ

    読みにくかったなぁ。
    言葉使いの難しさ、人名の読みにくさ。
    文学というより記録文ではないかと思うようなデータの記述。
    もう途中で投げ出そうかと一度だけ思った。
    不思議なことに一度きりで、そのあとは読みにくいと感じながらも話が普照と鑑真の日本渡来に絞られてくると、多くの身内からさえも白眼視されるその目的を果たすための彼らの命がけの熱意が私にページをめくらせてくれました。
    そうか、鑑真が日本に渡って仏教の何たるかを教えたからこそ日本における仏教が本物のものになったのか。
    小学校で習ったかなあ?
    視力を失った鑑真和上像の写真が思い出されるだけだ。

    0
    2022年12月16日

    Posted by ブクログ

    井上靖の歴史小説として代表的な作品。
    井上靖は小説家としての自身の想いや情景を描いたもの、自伝的なものと歴史小説の3つに大別される優れた小説を多数書きました。
    歴史小説では、日本を舞台したもの、中国を中心としたものを多く執筆していて、本作は大別するのであれば井上靖の中国歴史モノの代表作であり、氏の作品全体としても代表的な一作です。
    氏が芥川賞を受賞したのが1950年の『闘牛』、『天平の甍』は1957年刊行なので、初中期の作品と言えますが、1907年に生まれたため、遅咲きの作家であったといえると思います。

    『天平の甍』は天平5年(733年)の遣唐使として唐に渡った若い留学僧たち、とりわけ普照と栄叡を中心とした物語となっています。
    仏教はあるにはあるが、課役を逃れるため百姓の出家が流亡しており、法を整備しても歯止めは効かなかった。
    また、僧尼の行儀の堕落も甚だしく、社会現象となっており、国は仏教に帰人した者が守るべき規範を必要としていました。
    そんな折、白羽の矢が立ったのが4人の留学僧で、普照、栄叡もその4人の内の2人です。
    鑒眞(鑑真)の来朝という、古代日本おける歴史的な出来事を実現させるため、荒波に揉まれる僧侶たちの運命を描いた作品となっています。

    普照や栄叡は実在の人物で、鑑真来朝における苦難の日々は史実が元になっています。
    鑑真という人物や、日本の仏教の起こりは中学社会の教科書でもおなじみですが、その舞台裏にこういった壮大なドラマがあったというのは読んでいて興味深かったです。
    東シナ海には激しい海流があり、季節風の知識もない当時、遣唐使の航行は文字通り命がけだったそうです。
    船は度々難破し、多くの人が命を落としました。
    高僧を連れて帰る指名を帯びた普照たちが鑑真と巡り会えたのも長い年月を経た上でしたが、辿り着けるかもわからないような日本へ連れて帰ることを嫌う弟子の密告等があったりして渡日は難航します。
    また、渡日にこぎ着けても、過酷な船旅も何度も死にそうになりながら失敗を繰り返し、体調も崩れてゆく。
    それでも、日本へ向かうという強い意思が感じられる、壮絶な歴史ドラマでした。

    長い作品ではないですが文体は難しく、読むには骨が折れます。
    ただ、登場する僧たちのそれぞれの選択、生き様も多種多様で、楽しんで読み進められました。
    特に「業行」という僧の最後は本当に悲痛で、怨詛の声が聞こえてきそうな迫力を感じます。
    "凄まじい"という形容詞がピッタリくるような、歴史文学小説でした。

    0
    2022年05月17日

    Posted by ブクログ

    我が国の元祖国費留学生達の使命感と壮絶な人生に圧倒された。若い人、特にこれから留学する人達には是非読んでほしい。
    それにしても、鑑真和上の不屈の意志にはただただ頭が下がる。歴史の教科書でサラッと語られている「苦難の渡日」がこれほどのものだったとは。「偉人の偉さ」を改めて感じることができる良著です。

    0
    2022年04月18日

    Posted by ブクログ

    第8回芸術選奨文部科学大臣賞

    鑑真は、6度目の渡航でようやく来日して仏教の発展に貢献した唐の僧、という知識しかなかった。
    鑑真が日本へ渡ることは唐王朝から許可されておらず役人の目を忍んでの出航だったことや、普照をはじめたくさんの留学僧が関わっていることを知らなかったのでとても興味深く読むことができた。
    日本へ仏教を伝えるために何年もかけて写経をしたり、渡航が命懸けだったり、当時だからこその苦労がもどかしく胸が痛んだ。
    漢字や古い表現が多いので細かく意味をつかもうとすると難しいけど、ざっくり理解しながらなら読みやすく、薄いので数時間で読めた。

    0
    2026年07月15日

    Posted by ブクログ

    奈良飛鳥〜平安時代に興味があるのと、井上靖って読んだことないなというチョイスで以前からリストに入れていた本作を読んだ。

    鑑真和上が日本に渡来した出来事を、唐への日本留学僧の視点から描いている。


    主人公の普照は秀才と呼ばれる僧だが、自分ではそう呼ばれるのを嫌い、そう評されるのはただ自分がほぼ机から離れないだけだからだ、と弁えている。そんな彼が留学僧に選ばれ、それなりに不安を覚えながら唐に渡る。
    そこで唐に留学に来て幾ら勉強しても自分は大したことはなかった、ならば経典をひたすら写し日本に持ち帰ることをおのれの使命とするという日本人僧の業行に出会ったり、一緒に留学に来たものの唐で還俗してしまったり、唐や諸外国を見て回りたいと遍路したり、唐の高僧(鑑真)を日本に招来するのが使命とする同期の僧たちの選択と決意を見る。
    普照は当初はっきりした自分の目標はないのだが、結果的にその友人たちの意志を継ぐことを残りの人生をかけて叶えることになる。

    すごいなー。人生を一つのことに掛けて生きる人生。
    アリストテレスが「幸福とは一生かけて実現する一つのこと」みたいなことを論じているようだけど、まさにいつ自分の人生が終わるかわからない昔の時代を生きてきた人々の、せめても何かを成し遂げようとする人生の輝き。
    使命を果たした人も、運命によって果たせなかった人も、双方含めて遠い昔の人たちに尊敬の念を覚えることのできる、まさにそんな歴史小説。

    とはいえ、漫画日本の歴史で鑑真が日本に教えを広めようと渡来するまでに悪天候での難破で漂流など5度くらい日本に来るのに失敗している、という経緯を知っていてもなお、この本は学術本か?というくらい難しい。
    ある程度学術本も好きで、この時代に興味がある私でも、知らない仏教の専門用語(小説なのに巻末に大量にの注釈がある)、当時の中国の地理や、日本と中国の、あまり知られていない歴史上の人物、そして平成、令和の小説では廃れてしまった古くて意味が取れない昭和の言葉遣いに、調べながら読むという、最初手に取ったときは薄いな〜と思ってたのに予想以上にハイカロリー本だった。
    今の時代の歴史小説はエンタメ寄りだったりもっと内面描写が多いけど、昭和の大人はこんな難しい歴史小説を読んでたんですか??
    これと比べると直前に読んだ太宰治は口語体だしめちゃくちゃ読みやすい笑

    また、歴史上の人物や行動の記録と、小説に齟齬が出ないように井上氏が死ぬほど綿密に調べながら本作を書いたことも伝わってくる。
    さらに、事実の羅列だけでなく、記録には残っていない、主人公やその周囲の友人や人々の考えや思惑、努力を最大限小説化して読者に伝えようとしているのもさすが。



    0
    2026年04月27日

    Posted by ブクログ

    鑑真まじですごい。ここまで昔の話だとあんまり記録になくてもおかしくないと思うが、そんなに多くない記録をうまく拾って小説に仕立てたのはさすがの一言。個人的には阿倍仲麻呂がこんなにすごいやつだと思っておらず、ちょっとびっくりした。

    0
    2026年03月29日

    Posted by ブクログ

    唐招提寺に行く予定があるので、予習。

    昔の歴史小説は硬派ですね。
    ドラマチックな場面も淡々と、言い方を変えれば無駄なあおりもなく語られていきます。

    今の作家ならもっとエンタメに寄せるんじゃないかなと思います。そうなると、文庫本3-4冊分くらいはいくんじゃないでしょうか。そんな内容がおよそ200ページに収まっています。エンタメ部分は自分の脳内で膨らませながら読みました。また、中国の人物や地理を調べながらの読書になりました。
    そういうことで、短い小説ですが、結構読むのに時間がかかりました。

    これで唐招提寺参拝を、小説聖地巡礼として行くことができます。

    0
    2025年10月31日

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