【感想・ネタバレ】天平の甍のレビュー

あらすじ

天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら――在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ……。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。

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なぜか無性に井上靖が読みたくなり、40年以上前に読んだ本を手にとった。あの時の感動とまた違った風が心の中を駆け抜ける。

8世紀の日本。日本と唐の間の航海は、今では想像もできないほどの苦難があった。しかし、その苦難を乗り越え日本の近代国家成立のために生涯を懸けた留学僧の思いが現代人に深い感動を与える

圧巻は、業行が、日本に持ち帰るために数十年というか生涯全ての時間をかけ写経した夥しい経典とともに海の藻屑となり沈んでしまう描写だ。業行の人生は一体何だったんだろうか、深く考えさせられる。

救われるのは、日本に無事帰ることができた普照のもとに届いた一つの甍。これが日本に辿りつくことのできなかった留学僧らの形見に見えたことだ。
これを託した人物は不明であるが、唐招提寺の金堂の屋根に鎮座した姿を見た普照は何を思ったことだろう。

この物語のタイトルにある甍。天平時代の甍は、寺院などの隆盛を誇るシンボルを想像する。
これは、日本に唐の高僧を招聘し戒律を施行するという使命を普照に託し、唐の地で果てた栄叡の姿に重なる。
また、業行の叫び声とともに夥しい経巻が潮の中へ転がり落ちていくその一巻一巻がまさに一枚一枚の瓦のようにも見える光景にも重なる。
真に見事なタイトルだと思う。

文庫本で約200ページの小説。こんなにも心を揺さぶられるとは思ってもみなかった。再読して良かった。この小説を読んだ後、心の深さが変わったような気がする。

そうだ、唐招提寺に行ってみよう。天平の甍を感じるために。

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2024年09月26日

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本書は8世紀の奈良時代に第九次遣唐使として留学する4人の日本人僧侶を中心にして、後半は6度にもわたる挑戦で訪日をはたす鑑真の物語です。当時の日本人にとっては海外に行くことは命がけで、しかも船はそんなに頻繁に出ていない。無事に唐に渡れても帰ることができるのは何十年後の可能性もあって、帰りも無事に帰れる保証はない。そんな中当時の日本人の中でも外国文化を日本に持ち帰る重要な役割を果たしていたのが僧侶でした。

本書の中では唐に渡る4人の日本人留学僧と、唐で写経をひたすら続けている業行という5人の日本人僧侶が中心になりますが、それぞれの性格が違っていて、自分だったら誰のタイプになるかなと考えさせられました。もちろん訪日を果たした鑑真和上の偉大さはわかるのですが、個人的には無名の日本人留学僧が積み上げてきたもの、あるいは無念となったものが歴史となって日本を形作ってきたと思います。本書は用語が難解なところもかなりありますが、無意識のうちに自分を留学僧の誰かに重ね合わせながら、自分自身が8世紀の奈良および唐にいるような気分になりました。

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2023年04月26日

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読みにくかったなぁ。
言葉使いの難しさ、人名の読みにくさ。
文学というより記録文ではないかと思うようなデータの記述。
もう途中で投げ出そうかと一度だけ思った。
不思議なことに一度きりで、そのあとは読みにくいと感じながらも話が普照と鑑真の日本渡来に絞られてくると、多くの身内からさえも白眼視されるその目的を果たすための彼らの命がけの熱意が私にページをめくらせてくれました。
そうか、鑑真が日本に渡って仏教の何たるかを教えたからこそ日本における仏教が本物のものになったのか。
小学校で習ったかなあ?
視力を失った鑑真和上像の写真が思い出されるだけだ。

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2022年12月16日

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井上靖の歴史小説として代表的な作品。
井上靖は小説家としての自身の想いや情景を描いたもの、自伝的なものと歴史小説の3つに大別される優れた小説を多数書きました。
歴史小説では、日本を舞台したもの、中国を中心としたものを多く執筆していて、本作は大別するのであれば井上靖の中国歴史モノの代表作であり、氏の作品全体としても代表的な一作です。
氏が芥川賞を受賞したのが1950年の『闘牛』、『天平の甍』は1957年刊行なので、初中期の作品と言えますが、1907年に生まれたため、遅咲きの作家であったといえると思います。

『天平の甍』は天平5年(733年)の遣唐使として唐に渡った若い留学僧たち、とりわけ普照と栄叡を中心とした物語となっています。
仏教はあるにはあるが、課役を逃れるため百姓の出家が流亡しており、法を整備しても歯止めは効かなかった。
また、僧尼の行儀の堕落も甚だしく、社会現象となっており、国は仏教に帰人した者が守るべき規範を必要としていました。
そんな折、白羽の矢が立ったのが4人の留学僧で、普照、栄叡もその4人の内の2人です。
鑒眞(鑑真)の来朝という、古代日本おける歴史的な出来事を実現させるため、荒波に揉まれる僧侶たちの運命を描いた作品となっています。

普照や栄叡は実在の人物で、鑑真来朝における苦難の日々は史実が元になっています。
鑑真という人物や、日本の仏教の起こりは中学社会の教科書でもおなじみですが、その舞台裏にこういった壮大なドラマがあったというのは読んでいて興味深かったです。
東シナ海には激しい海流があり、季節風の知識もない当時、遣唐使の航行は文字通り命がけだったそうです。
船は度々難破し、多くの人が命を落としました。
高僧を連れて帰る指名を帯びた普照たちが鑑真と巡り会えたのも長い年月を経た上でしたが、辿り着けるかもわからないような日本へ連れて帰ることを嫌う弟子の密告等があったりして渡日は難航します。
また、渡日にこぎ着けても、過酷な船旅も何度も死にそうになりながら失敗を繰り返し、体調も崩れてゆく。
それでも、日本へ向かうという強い意思が感じられる、壮絶な歴史ドラマでした。

長い作品ではないですが文体は難しく、読むには骨が折れます。
ただ、登場する僧たちのそれぞれの選択、生き様も多種多様で、楽しんで読み進められました。
特に「業行」という僧の最後は本当に悲痛で、怨詛の声が聞こえてきそうな迫力を感じます。
"凄まじい"という形容詞がピッタリくるような、歴史文学小説でした。

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2022年05月17日

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我が国の元祖国費留学生達の使命感と壮絶な人生に圧倒された。若い人、特にこれから留学する人達には是非読んでほしい。
それにしても、鑑真和上の不屈の意志にはただただ頭が下がる。歴史の教科書でサラッと語られている苦難の渡日がこれほどのものだったとは。「偉人の偉さ」を改めて感じることができる良著です。

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2022年04月18日

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ネタバレ

高僧を日本に連れてくる使命を受け、遣唐船に乗って普照ら若い僧4人は荒れる海を渡り、唐に留学した。無事に帰国できるか、何者かになれるかもわからない。4人僧の、そして写経に没頭する貧相な中年の日本人僧の運命は…

史実の詳細が物語のスケールの大きさを感じさせてくれます。仏教の用語や唐の時代の中国の地名が多く、1ページ目を開いた瞬間くじけそうになりましたが、地図をみながら主人公たちの足取りをたどりながら読み進めました。

くじけそうな人はネタバレを読んでから本を読んだ方がいいかもしれません。

学ぶことって何だろう。自分にできることってなんだろう。人の価値観ってなんだろう。
考えさせてくれます。

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2023年12月06日

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それぞれの信じた道を進んだ結果が人生だが、その結果は自然や時の流れといった抗いようのないことに大きく影響される。はるか昔に起こった出来事だが、海を隔てて命がけで行き来した遣唐使という特殊な環境だからこそ浮かび上がる人生の真相がある。鑑真という人物に興味をもちながら今まで手にしてこなかった天平の甍であったが、読み終わった今、改めてそのことに想いを馳せている。時の流れの中に折り重なって刻まれている幾多の物語の結果として今私はここにいるのであるが、きっとこの本に出て来た人たちと同じように流れに飲み込まれながら自分の物語を紡いて時の流れの彼方に消えて行くのだろう。読む人の年代によって捉え方が変わる小説だと思う。

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2020年08月16日

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鑑真来日に尽力した留学僧や同時に唐へやって来た僧侶たちの小説
漢字だらけな割に読みやすい
人生色々、皆違って皆いいと感じました

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2020年04月01日

Posted by ブクログ

唐招提寺に行く予定があるので、予習。

昔の歴史小説は硬派ですね。
ドラマチックな場面も淡々と、言い方を変えれば無駄なあおりもなく語られていきます。

今の作家ならもっとエンタメに寄せるんじゃないかなと思います。そうなると、文庫本3-4冊分くらいはいくんじゃないでしょうか。そんな内容がおよそ200ページに収まっています。エンタメ部分は自分の脳内で膨らませながら読みました。また、中国の人物や地理を調べながらの読書になりました。
そういうことで、短い小説ですが、結構読むのに時間がかかりました。

これで唐招提寺参拝を、小説聖地巡礼として行くことができます。

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2025年10月31日

Posted by ブクログ

最初が難しくつらかった。中国×歴史×仏教のどの知識もないから。後半鑑真と日本に渡ろうとするあたりからおもしろくなってきた。
この本は光村の中3の国語の教科書に紹介されているのですが、こんな難しい本読む中3いるでしょうか。

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2025年10月21日

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井上靖の作品は、少ししか読んでこなかった。
「しろばんば」が一番最初かな。
歴史ものでは「額田王」と「孔子」。
「孔子」は自分の孔子のイメージの大方を作っている。
それ以来だから、20年近くご無沙汰状態だった。

まず一番印象に残っているのは簡潔な文体。
今の歴史小説を書く作家さんとはどこか違う。
今の作家さんなら、万葉集などの古典籍を引用するにしても、必ず訳を添えたり、人物や語り手に言い換えさせたりと読者に配慮するだろう。
あるいはそもそもそういうものを引用しないとか。
そういう配慮がまるでないというか、読者もある程度そうしたものを読みこなすだろうという期待があるのか。
すがすがしいまでの簡潔さ。

さて、この小説では第九次遣唐使として唐に渡った僧たちが、鑒真を招来するまでが描かれる。
簡単に言ってしまったが、20年近い年月が描かれる。
何しろ当時の唐への旅は、天候次第。
ただ、この作品では唐へ行くより、日本へ帰る海路の方が大変なような印象を受けたが、実際のところはどうなのだろうか?

同時に唐に渡って普照、栄叡、戒融、玄朗の四人の留学僧たち。
最初は群像劇なのかと思い、そんなに覚えられないぞ、と焦ったが、人物もきっかり書き分けられており、それだけにそれぞれの人物のたどる運命も胸に迫る。
彼らより先に唐に滞在していた業行の写経への没頭ぶりも強烈に印象づけられる。
何を考えているかわからないような仲麻呂の人物像も、登場場面は少ないながらも、妙に頭に残る。

人物像といえば鑒真もまた印象深い。
法を伝えるために日本に行くものはいないか、と弟子たちに尋ね、誰も行くものがいないことを見て取ると、お前たちが行かないならば、自分が行く、と渡日を決断する。
その後の困難はよく知られた通り、だが、一体どうしてそこまでできるのか。

日本に仏教を持ち帰るには、いろいろな方法があったのか、とも初めて気づく。
自分が経典を学ぶだけではなく、鑒真のような高僧を招く方法もあれば、業行のように手に入りうる経典を写すことに専念し、それを持ち帰ることも一つ。
物語ではそれぞれの人の資質により、これらが選び取られていくことになるのだが、国を背負って留学した人々の、自分の人生をかけてできることは何かという問いは、今の私たちには想像もつかない重さがあったのだろう。
(一方では何も持ち帰らない、帰ることもしないという人物たちのことも描いているのも面白いが。)

資料の少ない時代を舞台とするだけに、相当な研究を重ねて書かれた作品のようだ。
難解な仏教用語が多いが、郡司勝義さんによる巻末の注解があり、ありがたい。

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2025年09月14日

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大きなものに包まれた小市民の生き方の模索、淡淡とした文体もマッチしている。
現在も同じなんだろうけれども、いかんせん、大きなものが少なくなってしまったのかなぁ。大きなものって凡民の反映でもあると思うから、そうすると現在の世は懐が浅いのかのぅ。

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2025年05月09日

Posted by ブクログ

久しぶりの再読。鑑真和上の来日という歴史的な大事件をベースに、遣唐使の中でも「留学僧」に焦点を当てた名作。解説や感情描写を廃しているところに不満を覚えている読者も多いようだが、むしろ本書はそこが魅力的だ。

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2025年01月19日

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なぜ今これを読もうと思ったのかわからないが、心惹かれて読む。遣唐使、鑑真、唐招提寺…教科書では数行の説明で済まされることだけど、それに載ってない人々の想いがすごいことだなーと。今と距離感の全く異なる異国の地にそもそも往来することが奇跡的なことだしそこで何かをなすことの過酷さ。第1章で脱落しそうになったが、第2章からはサラサラ読めた。唐招提寺に行かねばと思った。

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2024年03月23日

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井上靖(1907~91年)氏は、北海道旭川町(現・旭川市)生まれ、京都帝大文学部哲学科卒の、戦後日本を代表する作家。1950年に『闘牛』で芥川賞を受賞し、社会小説から歴史小説、自伝的小説、風刺小説、心理小説・私小説など、幅広い作品を執筆した。日本芸術院賞、野間文芸賞、菊池寛賞、朝日賞等を受賞。文化勲章受章。
私は基本的に新書や(単行本・文庫でも)ノンフィクションものを好むのだが、最近は新古書店で目にした有名小説を読むことが増え、本書もその中の一冊である。
本作品は、名僧・鑒眞(鑑真)の来朝という、日本古代文化史上の大きな事実の裏に躍った、天平留学僧たちの運命を描いた歴史小説で、1957年に刊行、1964年に文庫化された。また、1980年には、日中国交正常化後初の中国ロケによる映画として公開され話題を呼んだ。
読み終えてまず感じたのは、人間の歴史というのは、無名とも言える人間の(一人ひとりの意志を超えた)無数の捨て石の上に築かれているものだということであった。
本書には、主に、天平5年(733年)の第9次遣唐船で大陸に渡った留学僧4人(普照、栄叡、玄朗、戒融)と、その前から入唐していた業行の、5人の運命が描かれているのだが、彼らの中には、同じ頃に唐に渡った阿倍仲麻呂、吉備真備、僧・玄昉のような文名・学才・政治的才幹を史上に留めた者はいない。
栄叡は、自分ひとりが勉強することは無駄だと考え、鑑真を招くことを自らに課しながら、志半ばで病死し、業行は、同様に自分ひとりが勉強することの限界を感じ、日本へ持ち帰るための経文の書写をひたすら行い、帰朝の船に乗るものの、遭難してしまう。また、玄朗は、還俗して唐の女と結婚し、子供を得、帰国を夢見ながらも、唐土に落ち着く決断をし、戒融は、唐土を知るために出奔して托鉢僧となりながら、最後に日本へ帰ることを試みる。そして、主人公の普照は、栄叡の熱意に引きずられながらも、鑑真を招くことに力を注ぎ、結局、20年後に鑑真を伴って日本に帰ることに、ただ一人成功するのである。
当時の航海は困難を伴うもので、多くの留学僧は、自分たちが吸収したものを日本に持って帰れるのか、日本の国土に生かすことができるのかすらわからない中で、それぞれの道を見つけ、その運命を貫いて一筋に生き、そして、悠久の歴史の流れに消え去ったのだ。
翻って、1,300年を経た現代に生きる我々にとっても、人の一生とは大きく異なるものではないのだろう。無名の人間が毎日を一生懸命に生きる、その上に歴史は築かれていくのだということを教えてくれるような、歴史小説の力作である。
(2023年3月了)

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2023年03月07日

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なんとなく歴史の授業で習った鑑真
教科書ではさらっとしか習わないのだが、唐から日本へ来るのはやっぱり大変なんだなあ。
仏教の知識がないので、半分はよくわからなかった。仏教の知識を増やしてから再読したい。
あと注釈がすごく読みごたえがあります。

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2022年10月31日

Posted by ブクログ

第9次遣唐使に同行する留学僧として渡唐し仏典を学び、日本に戒律を広めるために鑑真大和上と共に何度も難破の苦難を乗り越え、渡日(帰国)を果たした僧普照を主人公とした物語。日本のために反省をささげ、天平時代の幕開けに大きな役割を果たした留学僧たちの苦労の記録。

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2022年06月17日

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ネタバレ

留学僧普照が栄叡らと協力して鑒真招聘に奔走する話。鑒真は無事渡航できたが、一番熱意を持っていた栄叡は先に病死し、業行が一生かけて書き写した経典は海に沈み、そういう文字通り一生懸命なのに報われなかった人もいる、っていうことも描かれている。というより、阿倍仲麻呂や玄朗や、思い通りにいかなかった人の方が多い。
唐招提寺に掲げられる鴟尾を普照に贈ったのは誰だろう?

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2021年08月06日

Posted by ブクログ


733年(天平5年)聖武天皇の時代
第九次遣唐使のお話
船に関連する人材は元より、訳語者、医師、画師、僧侶ら総勢580名くらいが船四艘で出航する
当時の目的として、宗教的、文化的なものであり、政治的意図は少なかったよう
というのもこの時期の日本の大きな目標は、近代国家成立である
外枠だけができて、中身は混沌としていたため、先進国唐から吸収しなければならないものが多くあった
また、課役を免れるために百姓は争って出家、かつ僧尼の行儀も堕落(乱れているなぁ…)
仏教に帰入した者の守るべき師範は定まっていなかった
そのため唐よりすぐれた戒師を迎えて、正式な授戒制度を布きたい
伝戒の師を請して日本は戒律を施行したかったようである
それが留学僧の主な目的でもあったようだ

奈良から日本最後の港まで騎馬で1ヶ月
洛陽に着くまで蘇州から実に8ヶ月である
想像を絶する船旅である

さてその留学僧に選ばれた4人
彼らは選ばれし時から、それぞれの運命に翻弄される
そして20年近い時を経てそれぞれに変化が…

【4人の留学僧】

■普照(ふしょう)
当初戒師を招ぶことに興味を持たず
自分が学び得る経典にだけ魅力を感じていた(マイペースだ)

仲間の僧、栄叡の思いを引き継ぎ、鑒真を日本へ招聘しよう
業行の写した経巻を日本へ持ち込みたいと思うように

■栄叡(ようえい)
当初やる気があったが、「楽」に流される面も

戒師の招聘に使命感を持ち始め、鑒真を日本に招聘する夢に取り憑かれ出す

■戒融(かいゆう)
他の留学僧たちとはつるまず、単独行動
「机に齧り付くことばかりが勉強か?」と普照に物申す(どの時代にもこういう人いますね!)

「この広大な土地で僧衣をまとい布施を受けながら、歩けるだけ歩いてみる」といい
いち早く一人出奔する

■玄朗(げんろう)
頭脳明晰ながら、一つのことに深く入り込めない
帰国したいが、小舟の渡航に不安(僧らしからぬ立ち振る舞いが多い)

皆と別れ長安へ
唐人の妻子を得る
結局20年間留学僧として何も身につけなかったと嘆くが…



【4人の僧以外の重要人物】

■業行(ぎょうこう)
20年以上唐におり、どこも見ないし誰にも会わない日本人
寺を渡り歩いてただ、ただ経論を写している
「いま日本で一番必要なのは、一文字の間違いもなく写された経典だ」といい、写経に没頭
他のことはすべて無関心


■鑒真(がんじん)
留学僧たちの戒師の招聘の依頼に対し、
「他に誰か行く者はないか
法のためである
生命を惜しむべきではあるまい
お前たちが行かないなら私が行くとしよう」
このように決意する

この業行及び鑒真との出会いが留学僧たちの日本への帰国を決心
業行が生涯をかけて写し取った経巻類を運ぶ
鑒真を招聘する
この2つのために普照と栄叡は長時間かけて準備し、遂行努力を重ねる

幾多もの困難が立ちはだかる
秘密裡のため、裏切りに遭い、投獄
海賊の出没で航路が塞がれる
時間をかけ準備した多くの将来品、仏像、仏具、食糧、薬品、香料(他にもよくわからない品々)
途中坐礁し、船に積み込んだものが悉く浪にさらわれる
食糧も飲料水もなくなる(雨水を飲んで渇きをしのぐ)
飢餓と渇きに苦しむ
それでも鑒真は再挙をはかる

鑒真と普照並び栄叡は行を供にする
師を得た気持ちで今までとは全く異なる勉強ができたという

入唐から17年
栄叡が志半ばで病死

普照は高齢の鑒真を無理をしてまで日本へ渡来させることが本当に正しいことなのか迷い始める
そのため、一旦鑒真と別れることを決意
普照は次の船が来るまで業行の写経を手伝う
自分の果すべき仕事に思えたという
自分のことしか考えていなかったような普照が多くの人と出会い成長していく

業行の最後
「私が何十年かかけて写した経典は日本の土を踏むと、自分で歩き出しますよ…
多勢の僧侶があれを読み、あれを写し、あれを学ぶ
仏陀の心が仏陀の教えが正しく弘まって行く…」
こんな会話をした普照は彼の思いをしっかり受け止めることができたであろう

そしてとうとう20年の時を経て、普照は日本の地へ

結局鑒真は
12年間に5回も渡航し失敗
視力を失う
6回目にようやく日本へ上陸
76歳までの10年間のうち、5年間は東大寺、残り5年間は唐招提寺で過ごし、多くの日本人は授戒を施した


733年からおよそ20年間の話だ
今から1200年以上前である
このころ我々の祖先は何をするにも命がけであった
命をかけて何かを成し遂げること…崇高で勇気ある姿
誰もかれもが美しい
普照も当初はなんとなく心が定まらず煮え切らない僧であったが、栄叡の熱意と志を引き継ぎ、はたまた業行の実績も引き継ぐのである
彼は人に対してとても情が厚く、人との和を大切にすることができる人物であった
運命に翻弄されながら、皆それなりの人生を手に入れる
普照は人(誰しも)の素晴らしさを見いだすことを知った
栄叡は信念を持てばそれが実現することを知った
戒融はその目、その肌で感じることができる世界を知った
玄朗は異国で家庭を持ち、生きる世界を知った
業行は将来の日本の仏道を知っていた
良し悪しじゃない「生きる」という姿にまぶしさを感じた
歴史ロマンでもあるが、人間の底力を感じた
命がけの人の行為が歴史を作り、日本という国を発展させたのだ
心が震える書であった





そのころ日本では、仏教の力で国を治めようとして寺や大仏を作りました。その建設のため、農民たちには重い税や労働が課せられ、苦しい生活を強いられていました。一方、その当時、僧(そう)には税がかかりませんでした。そのため、仏教をろくに知らないのに僧になって税をのがれようとする者が急に増え、仏教界はみだれました。そこで朝廷(ちょうてい)は、正しい仏教を教えてくれる僧を日本に招こうと、唐に遣唐使(けんとうし)を送りました。

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2021年07月17日

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歴史の一部として知る遣唐使
若い僧達がそれぞれの思いを持って、唐に渡る。
死と隣り合わせ、命懸けの事業
遣唐使という三文字が、教科書で習った意味と違って感じられるようになった。

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2021年04月17日

Posted by ブクログ

遣唐使の話。
登場人物それぞれにドラマがあってページ数は少ないけど読みごたえあった。
読んで良かった。

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2020年12月07日

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ネタバレ

少ない史書の情報から豊かな想像力を駆使して物語が作られていることに感心する。主要登場人物の留学僧はどの人物も実際の近隣にいそうな人間の姿を描写しているが、鬱屈なタイプが多いため話が頁をめくる手が重くなるところを鑑真上人の漢気あるキャラクター造形により緩和されていると思う。 
歴史が好きな人にはともすると教科書で1、2文で済まされるような出来事をストーリー仕立てで妄想に浸れる楽しみもあるかと思う

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2020年10月01日

Posted by ブクログ

初めて井上靖さんの小説を読みました。
また、天平の時代を舞台にした小説を読むのも初めてです。

会話文や、心情を表す表現が少なく、歴史書を読んでいるかのような印象を受けました。
用語も難しく、ページ数の割には読むのに時間がかかってしまいました。

鑑真が度重なる苦難の末、失明しながらも日本にやって来たことは歴史の授業で習いました。
しかし、その裏で普照のような日本人留学僧の尽力があったことは知りませんでした。

最も印象に残ったのは、ひたすら写経に没頭する業行さん。自身が書き写した経典に執着する彼に、共感を覚える普照。この2人の関係性が良いなと思いました。
それだけに、あの結末は切ないものがあります。

唐招提寺にも、いつかは行ってみたいものです。

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2025年07月07日

Posted by ブクログ

唐で何年もかけて学んだものを命懸けで船で運び、それも確実に届けられるかわからない中、何とか伝えられた戒律と考えると、仏教の教えは価値のあるものに思える。

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2025年04月02日

Posted by ブクログ

ウ~ン。どうなんだろうか? 事実と思われることを積み重ねて書かれているとも言えるが、実際はそうでもない。井上靖の文名を高らしめた作品ではあるが、那辺にその文学的価値があるのだろうか? 普照のどっちつかずのキャラクターはよく描けているとは思えなくもないが、まだ、踏み込みが甘いような気もする。

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2024年12月22日

Posted by ブクログ

奈良時代の最盛期である天平。その頃、唐から高僧・鑑真を日本に連れてきた僧侶・普照の物語。鑑真の渡航は当時では非合法的だった。天平二年、七年と出航するが難破。天平七年の遭難の際には海南島まで流されてしまう。そして天平十二年に渡航に成功。時間的、距離的に想像を絶する話です。

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2023年11月14日

Posted by ブクログ

業行が印象的だった。怖いほどの執念が年々滲み出て、でも結局彼の意志が成し遂げられなかったのが、足元が崩れていくようで怖かった。
普照は渡唐に際して確固たる目的がないように見えたけど、その時その時にとるべき最善を尽くして、結局最後は運も味方して元々の任務だった戒律師を日本に連れ帰ることを果たしたし、日本に帰ってからのモノの感じ方考え方がいいなと思った

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2022年11月23日

Posted by ブクログ

井上靖の流れるような文面が非常に魅力的。かつ、その知識の深さには感服する。

日本史がある程度わかっている人なら、読んでいても疲れないと思うが、知らない人が読むと確実に挫折する。

私は好きだが…

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2020年11月04日

Posted by ブクログ

遣唐使の一員として唐に渡り、鑑真の招聘を実現することに努力した普照という留学僧の視点でえがかれた歴史小説です。

普照は当初、みずからの学問のことにのみ関心を向けており、高僧を日本へ招聘するという計画には、それほど熱心ではない若者として設定されています。そんな彼の冷静な視点から、ことばには出さずとも、日本へわたる決意にほんのすこしの揺るぎもみせない鑑真をはじめ、鑑真の招聘にひときわ熱心な栄叡、唐の国土を歩いて真実の仏教を求める戒融、学問への志を捨てて唐の女性と結婚した玄朗、そして、みずからの才能に見切りをつけ、今は経典を日本に送りとどけることだけに情熱を傾ける業行など、他の登場人物たちの生き方が生き生きとえがかれています。また、彼らとの交流を通して、また長い年月を経ることで、やがて狷介な若者としてえがかれていた普照自身の態度にも、しだいに変化が現われていきます。

物語の語り口は抑制が効いていますが、鑑真渡来という歴史的事実そのものに十分なロマン性があるためか、おもしろく読むことができました。

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2024年11月29日

Posted by ブクログ

時代小説というと、戦国時代や江戸時代のものが多いので、その時代のものには馴染みがあるけれど、この小説の場合、天平時代の出来事を描いているところが新鮮でいい。
阿部仲麻呂や吉備真備のような、教科書以外では見たことのない人々が、物語の中の登場人物としてしゃべっているところも、なんだか奇妙で面白い。

の話しは鑑真が主人公なのかと思っていたら、鑑真についてはあまり詳しく書かれていずに、どういう人だったのかということもよくわからないぐらい、あっさりとした扱われ方だった。
本当の主人公は、それよりも、無名ではありながら人生の大部分をかけて、何十年もひたすらに写経した経典をなんとかして日本に持ち帰るということに異様な執念を燃やした、業行のほうだろう。

物語の配分から言っても、鑑真や普照が日本に戻ってきた後のことについてはほとんど触れられていずに、遣唐使というものがどれほどに命懸けで、日本と唐との間で文化や教義を伝えようとしていたかという部分にほとんどの紙数を費やしている。

五度の失敗の後、失明をした後に60歳を過ぎてようやく鑑真を日本にたどり着かせたものは、運以外の何者でもなく、幸運にも日本に着いたものより何倍も多くの書物や人が海の藻屑と消えていった。

海を超えて異国の地に渡るということが、常に死を賭した決死行だった時代には、たった一巻の書物や一人の人間を運ぶということだけでも、ものすごい覚悟が必要だったのだということがよくわかる。その、先人たちの執念のすさまじさが伝わってくる物語だった。

こうしたことを、いままで多勢の日本人が経験して来たということを考えている。そして何百、何千人の人間が海の底に沈んで行ったのだ。無事に生きて国の土を踏んだ者の方が少ないかも知れぬ。一国の宗教でも学問でも、いつの時代でもこうして育ってきたのだ。たくさんの犠牲に依って育まれて来たのだ。(栄叡)(p.25)

俺はこの国はいまが一番絶頂だなと思った。これが一番強いこの国の印象だ。花が今を盛りと咲き盛っている感じだ。学問も、政治も、文化も、何もかもこれから降り坂になって行くのではないか。いまのうちに、俺たちは貰えるだけのものを貰ってしまうんだな。たくさんの蜂が花の蜜にたかっているように、各国からの夥しい留学生たちが、いまこの国の二つの都にたかって蜜を吸っている。(戒融)(p.34)

われわれの場合だって、無事に帰国できるとは決まっていないんだ。帰国できるかも知れないし、できないかも知れない。われわれはいま海の底へ沈めてしまうだけのために、いたずらに知識を掻き集めているのかも知れない。(玄朗)(p.52)

併し、普照にも、鑑真の渡来と、業行が一字一句もゆるがせにせずに写したあの厖大な経典の山と、果たして故国にとってどちらが価値のあるものであるかは、正確には判断がつかなかった。一つは一人の人間の生涯から全く人間らしい生活を取り上げることに依って生み出されたものであり、一つは二人の人間の死と何人かの人間の多年に亘る流離の生活の果てに始めて齎されたものであった。それだけが判っていた。(p.179)

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2020年07月15日

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