Posted by ブクログ
2016年02月27日
キーワードは「貧しさ」でしょうか。
本書の舞台は大阪道頓堀川。鈍く光る川面で生活する登場人物は、その誰しもが何かしらの「貧しさ」を抱えています。もちろん「貧しさ」とは、金銭的なそれに限りません。離散する宿命を抱えた武内は金銭的には余裕があるのに、とても貧しくみえる人物ではないでしょうか。そんな「貧し...続きを読むさ」を抱えた道頓堀川の住人のなかで、ヌードダンサーのさとみが邦彦の前で一心不乱に踊る姿がやけに印象に残っています。「私なんか、毎日、頭が変になってるわ」というさとみの言葉。この「貧しさ」が小説内に留まるものではなく、普遍的なものとして、いたく心に染み入ります。
ところで、まったく悲哀に満ちた作品なのかというと、決してそうではなく、「貧しさ」を抱えたなかでも必死に生きていく、そんな住人の姿に活力をもらうのです。
宮本輝の描く普遍性と前向きな姿勢に心打たれた作品でした。