• ルームメイト

    チョー突っ込みたくなるミステリ

    ⚫️冒頭から結末まで中だるみがなく疾走感が凄い。一昔前のTVサスペンスドラマを文芸ミステリ小説に仕立てた趣がある。⚫️さて、最終モノローグ前にあとがきが差し込まれ「ラストは、ハッキリ言って後味がチョー悪い」から「ここで読むのをやめる事」をおすすめされる。そうは言っても「ここまで読んで最後まで読まねぇ奴いねーよ」と1人でチョー突っ込んだ。⚫️余談だが、北川景子と深田恭子共演の映画版は、ミステリの核心部分において小説版を堅持しつつ、全く異なる展開に肝を奪われる見事な原作改変であった。

    #怖い

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  • 満願
    購入済み

    米澤穂信の同名短編小説を想起

    ⚫️米澤穂信の同名短編小説と同じく女性の願望成就にまつわる掌編小説。⚫️とかく品性に欠きがちな性欲の発露を端正清楚に表現し、善悪二元論に魅せられがちな人の単純な心の内を諧謔を交えて柔く批判し、女の持つ優しさや賢さをさりげなく入れ込む。⚫️ところで、文中の「簡単服」とは、どんな服のことか分からなかった。どうやらワンピースらしい。⚫️話は逸れるが、昔はランニングとかズボンと呼んでいたものを、今はタンクトップとかスラックス・ジーンズと言う。そう言わないと、どこか恥ずかしくさえ感じる。言葉のうつろいを想う。

    #ハッピー

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  • 52ヘルツのクジラたち【特典付き】

    善心&カネとコネどちらも大事

    ●児童虐待といった深刻な問題を、暗く沈むことなく軽やかに描きなら、淀みなく大団円に突き進む。心穏やかに読み耽った。●さて、誰かが助けを求めて声を上げた時、誰かに優しく受け止めて貰えるのか。個人的体験では、職場のパワハラも介護のトラブルも、声を上げたところで、かえって傷つくことばかり多かった気がするのだが。●大方の見方は、自分を救うにも、他人を救うにも、カネとコネが不可欠というものではないか。おとぎ話に触れて心を豊かにし善心を高めることも大事だが、カネとコネの獲得に向けた日々の辛い努力も重要だ。要自戒。

    #エモい

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  • 処刑台広場の女

    ラスボスで驚愕

    ⚫️善悪定かならぬ名探偵レイチェルの謎めいた人物像で興味を惹きつつ、ある事件からは展開が急加速し、ラスボスで一驚するミステリ。⚫️ストーリーテリングが絶妙で映画鑑賞のような没入感に浸かることができる。ただし、登場人物が多いうえ全員毛唐だから名前が覚えきれない。このため人物相関の把握に苦慮した。⚫️登場人物を再確認のうえ、改めて早回しで読み直したところ、いくつもの巧緻綿密な伏線に気づく。二度読みはダサいと思っていたが、二度読みの面白さに目覚めた。 

    #ドキドキハラハラ

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  • 成瀬は信じた道をいく

    成瀬家電の謎

    ●成瀬は才器抜群で、何事かに一意専心すればその道でナンバーワンになれそうだが、何事にも興味を持ってマルチに行動しオンリーワンの道をひた進む。成瀬道は、気に入ったことを好きなように愉しみ、他人からの評価は気にしないが他人への迷惑は避けることのようだ。●ハラスメントの昭和、バッシングの平成を超える令和のスター成瀬の生き方を、見て感じて少しマネすることで、令和日本の生き辛さを吹き飛ばすことができよう。●ところで、成瀬家電の私案は077-504-8311である。どこかに考察サイトないかな。

    #憧れる #共感する #笑える

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  • 痴人の愛 アニメカバー版

    大正モダンの頂き女子

    ⚫️頂き女子「ナオミ」の成功譚であり、女の色香に惑溺された男「譲治」の失墜譚でもある。まあよくある話だ。⚫️男の自分としては、男の側の気持ちが分からなくはない一方、女の側に好感を持てるはずもない。とはいえ、バブル期のミツグ君やアッシー君について、世間が特に厳しく批判したワケでもないし、当人同士が納得し他所に迷惑をかけないなら、歪な男女関係でも目くじらを立てることもあるまい。⚫️本書は青空文庫で読もうと思ったが、文豪ストレイドッグスアニメ化記念値引に魅せられて、つい本を購入してしまった。書痴の愛である。

    #ドロドロ

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  • 切り裂きジャック・百年の孤独

    資本主義の闇を描く

    ⚫️30年以上前の高校担任国語教諭(K高T先生)による授業内での紹介本である。30余年越しの初読だが、一読驚愕。性と暴力描写が甚だしく教師が生徒に勧める本ではない。⚫️往事は、ソ連崩壊間際で社会主義の敗北と資本主義の勝利が喧伝されていた。本書は、ビクトリア朝ロンドンと1980年代西ベルリンを舞台とし、一見華やかな資本主義が持つ貧富の格差といった闇を執拗に描く。担任教諭は時流に抗し、資本主義の諸悪を適示したかったのだろう。⚫️なお、上野千鶴子「スカートの下の劇場」も推していた。パンク過ぎる。

    #ドキドキハラハラ

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  • 女生徒
    購入済み

    中二病女子の毒を吐く独白

    ●中二病っぽい女子が何気ない日常の出来事等に対し、心の奥で毒づいたり悶えたりしつつ過ごすさまを描く。●太宰は、少女の心理を美しく畳み掛ける筆致で犀利明哲に綴る。モテ男だけに、浮草の如き女心に眉をひそめることなく寄り添うことができる故だろう。●よく言われるところの「女性は女性に厳しい」理由や、非モテ男がモテない理由について、一言で決定的に要約するなど、女心のハウツー本のようでもある。●また十五年戦争期の作家として、オブラートに包みつつ軍国批判を行っている。その巧みな筆の運びに唸らされる。

    #深い

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  • スクラップ・アンド・ビルド

    介護虐待のメカニズム

    老祖父を介護する若者の物語。認知症老母を同居介護している身として、介護問題を考えつつ読む🤔この物語の老祖父も我が家の老母も、常々「死にたい」旨を口にする。しかし、両名ともに内心では「まだまだ自儘に生きたい」と思っているようだ。尊厳死選択の難しさを想う😓また、親子介護は嫁姑介護より惨況になるという。被介護者が自儘を言い易いからだ。老母は介護サービスを介護職員等に気を使うからイヤだと言うが、裏を返せば子供のカピバラKSには気を使っていないのだ。介護虐待のメカニズムが垣間見える😮‍💨 

    #深い

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  • 窓ぎわのトットちゃん 新組版

    教育と戦争を語る不朽の名作

    ⚫️戦争が暗い影を落とす昭和10年代に、発達障害の小学生トットちゃんが、先進的で自由な校風のトモエ学園において明るくすごす日々を描く。昭和56年発刊の黒柳徹子による自伝で戦後最大のベストセラーだ。⚫️自分は愛知県在住である。発刊当時、管理教育の愛知県では、本書を学校図書館から締め出していたようだが、小学3年の女性担任教諭は読み聞かせをしてくれた。世評どおりの良書だと思っていたのだろう。⚫️本書は読者に障害者差別を始めとしたあらゆる差別が過ちであることを心に刻み込ませる不朽の名作である。近日の映画公開も楽しみだ。 

    #ほのぼの

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  • そして、バトンは渡された

    育児のすすめ

    ⚫️少子化時代の「育児のすすめ」である。何をしたら自分が満たされるのかはよく分からないから、自分のために生きることは案外難しい。しかし、自分より大事な子供のために生きることは、自分を確実に満たしてくれる。⚫️育児のある人生は幸せで、育児のない人生は多分つまらない。お金で買えない生きがいを得られる育児のコスパは悪くないのだ。⚫️さて、主人公の義母梨花について、自由奔放というより自儘独善を感じるが、周囲の男達は途方もない器のデカさで接している。現代女性の理想的男性は大度量の持ち主らしい。自分にはムリっぽい。

    #癒やされる

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  • むらさきのスカートの女

    妖しい雰囲気に耽溺

    ⚫️至ってシンプルな文章にもかかわらず、妖しい夢を見ているような世界に誘われる。⚫️何が言いたいのかはワケワカメであった。読了感はTV版エヴァンゲリオンを観た後に近い。⚫️むらさきのスカートの女はコミュ障気味のようだ。コミュ障が最低限度の社会生活を営むためには、元気な挨拶と一人でも友達を作ることが必要である。友達作りはハードルが高いように思えるが、ボッチだと思っていても、黄色いカーディガンの女のように友達になりたいと思っている人は意外といるものだ。至ってシンプルな感想を持つ。

    #切ない

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  • 月と蟹

    中二病前夜の年頃を描く

    ⚫️小学校高学年とは、何も分かっていないようで大方のことは識っている年頃だ。そんな子供達の心象言動について、空恐ろしいほど鋭く生々しく描かれている。⚫️それにしても、養育とは難しい。この物語で、子供にとって肉親は胸襟を開ける相手ではなく、教師は登場しない。大人から子供への接し方を考え込まされる。⚫️大人は子供を少々ムリがあっても一人前に扱うことで、真に頼られる存在となり得るのかもしれない。これは大人と子供を目上と目下に言い変えても同じであろう。自分の職場での目下に対する態度が脳裏に去来し反省しきりである。

    #深い

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  • ユリゴコロ

    ホラーでミステリでスプラッタ

    ●ユリゴコロという不思議なタイトルからして不穏当なホラー調ミステリである。先の見えない展開に翻弄されつつ、愛の不可解さや勁さの描写に心揺さぶられ、ラストで驚愕する。●凄まじいのはリスカ少女のシーンだ。余りにもスプラッタで読むに耐えられず、斜めに読み飛ばしたが、筆力に圧倒されてまともに読むことができなかったという読書体験は生涯初である。●また、出産を契機に心境が一変するシーンは、女性作家にしか描けそうもなく、男性読者の自分には唸るほかなかった。壮絶な怪作である。

    #ダーク

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  • 推し、燃ゆ

    正直、主人公が僅かに羨ましい

     アルコールやギャンブルと同じように推し活も、病気として治療が必要な依存症の域に達することがある。主人公は推し依存症であるが、何かに沼ることで憂き世を忘れて生きる活力を得て、そこで歯止めが効かなくなることは誰しもあり得る。
     さて、五十路の自分はつまらない人生を歩み、今はマッサージ屋で肩をほぐしてもらうこと、TRPGのニコニコ動画を観ること、ラジオで問わず語りの神田伯山を聴くことを、ささやかな楽しみに生をつないでいる。推し活に燃えたひとときに一片の悔いも残していない若い主人公が、僅かに羨ましい。

    #切ない

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  • 梟の城

    意外と面白い司馬の忍者時代小説

     司馬小説について、若い頃は明治幕末戦国期を舞台とした歴史群像物を好んで読み、娯楽時代物は食わず嫌いで読んでいなかった。しかし、歳を経て気も変わり、忍者活劇である本書を手に取る。
     戦闘、陰謀そして性愛が溢れる波瀾万丈の物語で、ハリウッド映画のようにストーリが激しく起伏を起こし、片時も飽きることがない。更に、司馬特有の蘊蓄語りや優れたシーン描写も十二分に堪能できる。
     初読時には、登場人物の中で誰が石川五右衛門なのかを気にしながら読み進めていくと、より面白く読めると思う。

    #ドキドキハラハラ

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  • 風に舞いあがるビニールシート

    自己実現に潜む危うさを描く

     6短編全て、自己実現に潜む危うさを描きつつも、読後の余韻は爽やかという名作揃いであった。
     冒頭作「器を探して」が、最も印象に残る。主人公弥生が、仕事にうんざりしつつも、いつの間にやら仕事に酷くのめり込んでいるさまは、働き盛り世代として到底他人事とは感じられなかった。
     また、短編集の最後を飾る表題作「風に舞いあがるビニールシート」は、締めに相応しい圧巻のラスト1行が心に響いた。

    #エモい

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  • 成瀬は天下を取りにいく

    涼宮ハルヒ似の主人公に圧倒

     どこか「涼宮ハルヒ」に似た優秀で変わり者の女学生「成瀬あかり」を巡る賑やかな日常譚である。
     破天荒な主人公成瀬に対し、良き理解者の幼馴染から目一杯距離を置きたがるクラスメイトまで、世間体を気にする度合いに応じて、様々な人々がわちゃわちゃと関わっていく様をユーモラスに描き、とにかく楽しめる。
     一読して、世間の同調圧力なんてどこ吹く風で受け流しても人生にとって深刻なトラブルになるわけでもなく、人は互いに価値観が異なっても楽しいひとときを過ごせることに気づかされた。

    #笑える

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  • コンビニ人間

    オンリーワンの大肯定

     現代日本の同調圧力による生き辛さを一蹴する好著である。
     評価の分かれるラストシーンについては、コンビニバイトの行かず後家である主人公古倉恵子が、他人の目を気にし過ぎず、自分の納得できる生き方に進むことを示唆したもので、オンリーワンの生を大肯定するハッピーエンドと捉えたい。
     また、本書はラノベのようにエッジの効いた会話やコンビニを水槽に見立てるなど文芸作品らしい表現技巧に優れ、ぐいぐい惹き込まれつつ読んだ。

    #笑える

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