【感想・ネタバレ】月と蟹のレビュー

あらすじ

注目度ナンバー1の著者による少年小説の傑作! 「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」──家にも学校にも居場所が見つけられない小学生の慎一と春也は、ヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを考え出す。100円欲しい、いじめっ子をこらしめるなどの他愛ない儀式は、いつしかより切実な願いへと変わり、子供たちのやり場のない「祈り」が周囲の大人に、そして彼ら自身に暗い刃を向ける……。鎌倉の風や潮のにおいまで感じさせる瑞々しい筆致で描かれ、少年たちのひと夏が切なく胸に迫る長篇小説。 第144回直木賞受賞。

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小学生の慎一と春也、鳴海の危うい関係と、子どもならではの自分ではどうしようもないことに苦しむ閉鎖感が味わい深い一冊だった。何かが違っていれば一緒に危ないことに手を染めてしまったかもしれない慎一と春也の関係が特に印象的だった。

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2025年07月18日

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少年少女の想いが鮮烈に表現されている。
最後にかけてまでの展開。とても楽しめました。
道尾秀介と言えばミステリー、叙述トリック、どんでん返しというイメージが多いですが、こういう想いが爆発したかのような作品も心に強く刺さるものです。

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2025年03月05日

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再読。なんとなく好きな作品だった憶えはあるものの内容は例の如く忘れており、でも読み終えて今回も好きであることを再確認。私は道尾さんオタクですが、中でもこういった少年(少女)の苦悩が鮮やかに描かれている系統の作品が最も好きです。(他に「向日葵〜」「龍神の雨」など。)道尾さんの才能ここに極まれり。今作も主人公の小学生慎一の感情の機微が、序盤〜中盤までムズムズ、ヒリヒリと繊細で引き込まれます。さらに後半284Pでがらりと変化した心境は鬼気迫るものがあり、そのあとはさらに息がつけない展開。ほんと天才。

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2025年01月30日

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直木賞受賞作品です。
舞台は鎌倉。小学4年生という
幼い少年の心の内を描いた小説です。秘密基地的な遊び、子ども時代特有の生き物に対する残酷さ、背伸びをした悪い遊びなどを描きつつ、話は進んでいきます。

主人公の慎一、春也そして鳴海という同級生。皆、家庭や過去に悩みを抱えています。
基本的には慎一の内省を描いた暗めのタッチですが、クライマックスでの疾走感溢れる文体と、ラストの静かな終わり方が印象的です。

小学生の高学年という、子供から脱皮していく微妙な時期の心のうちを見事に描いた素晴らしい作品です。



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2024年07月07日

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小学生の少年がヤドカリ様に祈りをするというストーリー。子供ならではの残虐性や考え方など、もう子供じゃない自分が読むと感慨深いものがあった。大人になるということについて考えさせられたのもよかった。物語自体はすごくダークで惹き込まれる。誰もが経験したことのある感情が比喩を用いて明瞭に描かれており、共感することが多かった。直木賞は伊達じゃないと思われされる作品だった。

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2024年04月14日

購入済み

中二病前夜の年頃を描く

⚫️小学校高学年とは、何も分かっていないようで大方のことは識っている年頃だ。そんな子供達の心象言動について、空恐ろしいほど鋭く生々しく描かれている。⚫️それにしても、養育とは難しい。この物語で、子供にとって肉親は胸襟を開ける相手ではなく、教師は登場しない。大人から子供への接し方を考え込まされる。⚫️大人は子供を少々ムリがあっても一人前に扱うことで、真に頼られる存在となり得るのかもしれない。これは大人と子供を目上と目下に言い変えても同じであろう。自分の職場での目下に対する態度が脳裏に去来し反省しきりである。

#深い

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2023年10月07日

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小学5年生、少年から大人に向かおうとする子ども達の話。

心理描写が的確過ぎて、昔を思い出して
胸が痛くなる。

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2023年07月15日

大切な存在を近くで発見できる

子供時代、それがこの世のすべてだった。そんなことを懐かしく思い出させてくれる物語です。ちょっと切ない異性との関係、絶望的な大人との関係。その時は何が起こっているのか、ちゃんと理解できていなかったはずなのに、分かったつもりでいた。同級生の変化、自分の変化、町の変化、3人で決めた不思議な儀式。。。読み終わったとき、とても切なくなって、小学校の卒業アルバムを開きたくなった。この作品は直木賞を受賞している。しかし、決して娯楽作品ではない!

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2013年10月09日

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2人の少年が両端から綱渡りするみたいに保っていたバランスが、鳴海が加わることで崩壊していき、さらに人生まで狂っていく様子を直視したくなくて、半ば祈るような気持ちでページをめくっていた。小学生って、自分の欲望に対してある意味で大人よりはるかに残酷だ。加減を知らないというか、浅はかさ、認識の甘さが裏返って悲惨な結末を呼ぶ。それを針の返しに喩えた道尾さんはすごい。刺さるのはあっけないけれど抜くときに激痛を伴う。これって何気ない一言や行為が、とんでもない恥や痛みを連れてくるのと同じだ。

子どもの、死に触れるまでの鈍感さと、誰かを亡くしてから極端に鋭敏になる死への恐れが見事に表現されていた。死という概念を、身体を以て理解するタイミングは人それぞれなのだろう。祖父がくちびるの皮をべろんとめくるところとか、人間の老いた部分を直視する暴力性が現れている。自分が小学生の頃、背中の曲がったおばあちゃんを見るだけで胸がきゅうとなって居心地の悪さを覚えた。心が綺麗とかそういう問題ではなく、自分が悲しくならないために目を背けたいだけだという、あのなんとも言えない罪悪感と哀愁。

そんな中で語られる祖父のセリフが悲しいし心にずっしりくる。「お前、あんまし腹ん中で、妙なもん育てんなよ」という一言に、母よりもずっと孫を見つめてきたのが凝縮されている。男同士だからか、漁師だった祖父のさっぱりとした気性なのか、年の功なのかわからないけれど。女である私が(いや、女だからこそかもしれないが)母親に嫌悪感を抱くのは、慎一を通して子ども時代の心細さや母への依存を想起し、しかし実の母とは重ならないフィクションの母(純江)に情が生まれるわけもなく、ただ怒りを覚えるからだろうか。あるいは大人になった身として、慎一が不安定になる原因は純江の監督不行き届きだと感じるからかもしれない。過去と現在、二重の怒りが存在しているような気がする。

傷ついて傷つけて恥ずかしくて、その痛みや後悔や恥や矛盾に耐えられなくなった結果、苦肉の策で痛みに鈍感になることが、大人への第一歩なのか?
その過程で、どうすれば相手を不快にさせ、自分をすっきりさせられるのか、賢くなっていくのだろうか。諭すような口調の方がいっそう相手を傷つけられると発見するように。そして、自分の加虐性を自覚して、それに恐れを抱いてようやく、むやみに人を攻撃すべきではないと理解するのかもしれない。動物だったらそのうち淘汰されていくだろうけど、なまじ賢くてしぶとい人間はそれくらいじゃ死なないので、たまに行き過ぎた一部の人だけが、法を破ることになるのかもしれない。子供とは、大人が予想できないような罪を犯す危うさとつねに背中合わせな生き物に思えてくる。

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2025年12月05日

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道尾秀介の作品は子どもの世界を描いたものが多い印象。
「月と蟹」も、高学年の小学生3人がメインです。
ただでさえ大人になりかけの微妙な時期。少ーしだけ見える子どもらしく無邪気な部分にやたら安心するのは、ほぼずっと息が詰まりそうな展開だからかも。
子どもって大人が思うよりも大人を冷静に見てるものですよね。
どうしたって大人の事情に心が振り回されてしまうのが、仕方ないけど辛い。
大人が言い訳したり取り繕ろったりするのも、子どもにとってはさらにキツい。
子どもの世界にもいろいろあるなぁ、しかもけっこう残酷。
なんとか自分を守ってほしいと思いながらも、それぞれに立ち向かう姿に苦しくなりました。

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2025年08月26日

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消失感を抱えた少年が奇妙な儀式を友達と始める。そこから段々と少年に内包されている自我が変化していき、悲しみや寂しさが溢れてそれは暴力性や非倫理的な思いや行動へとつながっていく。
話の中に流れる描写が少年たちの行動や心情を生々しく描いている。その少年少女たちも家族を失っていたり、家族に暴力を振るわれていたりと家庭の愛をどこか感じられていない心にすっぽりと穴があるような人たちである。それが交わり交流していく中で改めて主人公に訪れる妬みや嫉妬、それらがいつか主人公の人格もどこか変えてしまう。
どうして人生は上手くいかないのだろうか、どうして大人になるのは難しいのか、そんな誰しもが抱える気持ちをこの本の読みに捧げながら、溶かしながら読み進めていくと、腹の中にドロドロとした様々な感情が読み手の中に生まれると思う。

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2025年06月14日

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子どもながらの繊細で無邪気で不安定な感情が表現されていて、自分の子ども時代を思い出した。
今思うと何であんなことしたんだろうとか、自分の感情を頭の中で理解することができなくて、上手く折り合いをつけられないこともあったなぁ。
何度か読み返してますが、初めて読んだ時は春也の「何で上手くいかへんのやろな」のところでなぜか涙が出てしまいました。

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2025年03月12日

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子供が持つ無邪気さと残酷がこれでもかと表現されていていた
道夫さんは向日葵の咲かない夏のイメージで、物語の構成が上手い人、というイメージだったのですが心情描写が今作はきめ細かくて好きです。
最初は遊びのようにザリガニを火に炙る春也がサイコパスに見えたのですが、読み進めていくうちに違うと感じる。それはタバコの持ち方がわからず照れ隠しするところだったり、鳴海に心惹かれてしまうこと、そして鬱屈した環境の中で慎一に救いを見出していたこと。彼も残り二人のようにまだ大人になれない子供だったんですね。

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2024年10月06日

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302ページからの展開が凄い
最初の方の2人だけの空間の空気が伝わってきていて読んでいて、子供の頃に戻ったような気分になれた
まだ理解できない部分があるので今度読み返そうと思う

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2024年07月11日

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子供ならではの素直で残酷な世界を垣間見た感じストーリー展開は飽きなかったし、関係性の描き方が良かった

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2024年06月10日

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ネタバレ

一体、何匹のヤドカリが炙られただろうか。海から取ってきたヤドカリを『ヤドカミ様』として崇め、少年たちは願う。心が『無』になるまでの過程が丁寧に描写されており、かつての言葉にし難い感覚に共感を覚えた。心の廃退とヤドカリの子の成長の対比が印象的。物語の後半~終盤にかけての畳み掛ける疾走感。暗闇の中の月は悲しくも美しかった。

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2023年09月13日

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道尾秀介さんが好きな友からのお勧め。

読んでいるこちらが苦しくなるような灰色の閉塞感が終始漂っていて、
「今のタイミングで読むのしんどいかも…」なんて思っていたが、鳴海が慎一家に遊びに来た辺りから目が離せなくなった。

子供の無邪気な残酷さ、後ろめたさや不安からくる、下腹の辺りがムズムズするあの感覚。
心理描写が見事で、子供の頃抱いた事のある仄暗い感情を思い出した。

道尾さんの作品はどれも一気読みしてしまうなぁ。

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2023年09月09日

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ネタバレ

何も知らずに読み始めたので、いつ殺人事件が起こるんだろう、、と思ってたら読み終わった
読後感がなんとも言えない、叫び散らしたい
小学校高学年ともなれば思考は大人、でも経験値の浅さからか物事の判断力は子供、みたいなちぐはぐさが、なんとも懐かしいような、恥ずかしいような気持ちになった
あと爺ちゃん好き

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2023年09月02日

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どんよりと暗く重い灰色の印象の作品でした。
子供特有の残虐性、繊細さ、悲哀が詰まっています。心の機微をこれ程までに細やかに表現できるのかと驚きました。
当たり前ではありますが、子供といえども社会があり、自己があり。大人が思うよりもずっと複雑で繊細なのだと改めて考えさせられます。
そして、子供だからこその歯止めの効かない狂気も感じる事ができました。
ひたすらに苦しく報われず幸せになれない作品です。じゅくじゅくとした擦り傷を砂で汚れた指で弄くり回すような陰湿な痛みが表現されています。が、人生ってきっとこうなのだよなと個人的には清々しく感じました。

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2023年07月30日

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子どもたちの世界が舞台だが
おじいちゃんの「腹の中で変なもの育てすぎるなよ」が見事に話をシビアにしてく感じがして、のどかだけど緊張感のあるいい話でした

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2023年05月11日

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筆者名からたまにはまたホラーでも読もう、と選んだ本が、ホラーじゃなかったよ、というのが第一印象。で、暗い。が、引きずり込まれるような暗さはないので、読後感は意外とすっきりだった。いびつな家庭の子供達の歪んだ集まり。危うい場面はいくつもあるが、意外とフツーに戻っていく。おそらくこういった環境下で育つ現実の子達も、お話の中の子達もフツーの人になるのだろう。人はそれだけ振れ幅があるということか、子供は強いからなのだろうか。

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2025年10月31日

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小学高学年頃の人間は、嘘もつくし、隠し事もする。自身ですら己の行動原理がわからず、感情の言語化もできず、世界が狭くて仕方ない。そんな中なのに親は否応なしに刺激してくる。そういう返しの付いた釣り針をみんなが心の奥深くにもっていたよな。

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2025年10月11日

Posted by ブクログ

海辺に引っ越してきた小学生の慎一と、似た境遇の春也は、学校に居場所がないもの同士で仲良くなり毎日のように海辺で遊んでいた。あるとき山の中に手頃な窪みを見つけ、そこに潮溜まりをつくり、海辺で捕まえた生き物を飼おうと画策する。その中で捕まえたヤドカリを神様「ヤドカミ様」と称して燃やすと願いが叶う、という遊びを実行した。その後、同級生の女の子・鳴海の参加や家族の変化があり、2人の周囲を取り巻く環境が変わっていく…というストーリー。

海辺の風景描写が鮮やかで、潮の香りが感じられるようだった。生き物の描写もかなりわかりやすい。
登場人物は小学生が多いものの、大人から見たかわいらしい子どもという感じではなく、子どもらしくない面もあるリアルな小学生の心情や態度を上手く表現していた。この年代の子ども特有の生き物を平気で殺してしまう残酷さもしっかり描かれていた。小学生が主人公の物語にしてはかなり暗くてドロドロした印象。子どもは大人が思ってる以上に物事を理解しているぞ、というのがわかる作品だった。

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2025年08月30日

Posted by ブクログ

登場人物に狂気を感じてしまったけど、それは自分自身の境遇が幸せだから理解できないだけで、彼等にしたら当然の感情の動きなのかもしれないと思わせる力があった。数ある道尾作品の中では、どちらかといえばあまりハマらない方だった。

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2024年10月17日

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ど田舎の小学5年生の、子供から大人への過渡期に感じる葛藤や、複雑な家庭環境への思いを表現した作品。小学5年生ってこんな深い思考するっけ?と思ってしまった部分はある。中学2年ぐらいのイメージ。だが、子供ならではの悩み、例えばいじめなど、に加えて、子供でもこれくらいの思考力で持って物事に向き合うことは確かにできるのかもという思いもある。子供の本当の思考力と、大人が子供に対して想定している思考力との間のギャップは少なからずあるのではないか。そして、子供はそのギャップを薄々感じ取っているのではないだろうか?

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2024年08月03日

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子供の残虐さと繊細さ、弱さと強さがバランスよく描かれていると思う。
弱いものを痛めつけることで、相手を思い通りにできる優越感や自己優位性を得て、ストレスを発散させる。死んだヤドカリを神として崇め奉ることは、神を創造した全能感や、大きなものから護られ赦される追体験。いずれも、現実を生き延びる為。
3人それぞれの家庭内のシンドさのぼやかし方と、山の上でのヤドカリ炙りのしつこいくらい詳細な描写のコントラストの、子ども目線での描かれ方は絶妙。
子供は、大人がおもってるより、何でもよく見てよく聞いてよく想像してカンをはたらかせて、物事を解釈するスピードは速い。一見短絡的にみえるけど、そこにいたる背景は想像以上に複雑だったりする。
おとなは子供をなめすぎて、甘えすぎ。大人の事情ってのを一方的に押し付けすぎ。繊細で、自分の心の変化や情報の多さを消化しきれず、頭も心もパンパンなのを、昭三さんみたいに、敏感に感じ取って見守る存在がいなくなって、それでも前に進んでいくってことが、大人になるってことなのかな。
心理描写は丁寧でよかったけど、最後の急展開に至るまでの経過が長すぎて間延びが半端ない。

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2024年07月06日

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こういう少年や少女が主人公の小説で、日本人が書いたものは何だか読んでいてつらくなる。何度もやめてくれ、と思いながら読み飛ばしてしまった。
スティーブン・キングとかのは楽しめるのに。あまりに自分の子供時代と近すぎるからか。
逆に多分小説としては秀逸なんだろう。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 両親の離婚、クラスに馴染めず不登校、母が出会い系で別の男を探してた、わたしの中学生時代の何もかも嫌になった時期を思い出した。
 1つ嫌なことがあると、他のことも上手くいかないって思ってどんどんネガティブ思考になって抜け出せないんだよなぁ。周りの些細な表情や言葉も敏感に感じ取っちゃって生きづらかったあの頃は...。

「何か、粘着質の音が聞こえた。鳴海の父親の、微かな声。同じくらい微かな、純江の声。そしてふたたび静かになった。その静けさの中に、先ほどと同じような粘着質の音が、また聞こえた」(P222)

慎一が車にて、母と鳴海の父の密会現場に潜むシーン。口付けを「粘着質の音」と表現してるのが印象的。母が他の男と性的行為をしてるのを想像するだけでもゾッとするのに、慎一は現場に居合わせちゃうんだからすごい度胸。俺だったらその後、まともに母と顔合わせられないかも。

「鳴海は昼寝から覚めたように、しばし春也に顔を向けていたが、さっと恥ずかしそうに身体を硬くし、それから相手に笑いかけた。前髪で隠れた額は軽く汗ばみ、耳たぶが熱ってピンク色になっていた」(P259)

 慎一、春也、鳴海の三角関係は台詞を使わず表情や仕草だけで、照れ、嫉妬、ショックなどを表現してるのが上手い。鳴海と春也の距離がだんだん近づき、慎一が可哀想になってきて切ない。

「『ね』って、逃げてく奴をロープか何かで捕まえとるみたいやろ。このほら、縦の棒が人やとして、首んとこからぐるぐる巻いて、ぎゅっと掴んで」(P34)

 春也が「ね」を書きまくる場面が狂気を感じで怖い。他にもヤドカリを躊躇なく潰したり「あ、こいつサイコパスや...」って序盤から感じた。慎一宛のイタズラ手紙はなんとなく「春也が書いたんだろうなー」と予想してたので、慎一が春也が書いたのだと見破るシーンの驚きは少なかった。

 最後鳴海の車に乗ってたのは春也なのかヤドカリ神なのか気になる。でも父親を結局殺せなかった春也が慎一のためとはいえ、鳴海の父を殺そうとするかなぁ。モヤモヤして気になる。

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2024年03月31日

Posted by ブクログ

それぞれが暗い現状に悩まされている少年少女の慎一、春也、鳴海。彼らは理不尽を打破するために、海と山に囲まれた小さな町でヤドカリを使った神様を作り出す…!
小学生の抱える闇を圧倒的な筆致で描いた青春小説とでも言えるだろうか。心理描写には息を呑むものがあるが、話は終始暗い雰囲気が漂う。
道尾秀介さんはラストに伏線が次々回収される技巧派のイメージがあったので、それとは対を成すといえる。
自分の勝手な期待でしかないのは重々承知しているが、もっとどんでん返しのような展開を期待してしまった。
ただ、心理描写をメインにした純文学作品としては楽しめると思う。直木賞受賞作と聞いていたのだが、エンタメに全振りしたものだけが直木賞ではないようだ、不勉強を痛感…。

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2024年03月30日

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海辺の町で小学生の三人はヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを始めるが……。
大人になるにはこの運命は辛すぎる。
大人たちの「本当の顔」に気づく時の衝撃度はそれほどではないが、一つの小説として面白い作品と言える。郷愁に吹かれる一作だ。

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2024年03月12日

Posted by ブクログ

道尾さんの作品の中で直木賞を受賞された作品とのことで期待して読んだ。子供ながらの残酷感はあったし、子供ながらの悩みの中で苦悩するのもとても伝わった。どんでん返しという点を期待して読んでいたこともあり、そこまで衝撃を受けなかったため評価はこの程度。ただ、登場人物へとても感情移入できた。人に勧めたくなるという訳では無い。

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

子どもって純粋で残酷で。そして少し大きくなって周りが見え出した頃には寂しさや処理できない感情に戸惑ってしまう。作者は僕が子どもだったころの気持ちを知ってるのか?と思うくらい自分の苦い思い出がよみがえる・・・。

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2023年01月15日

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