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「人はなぜ追憶を語るのだろうか。どの民族にも心の神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ」昆虫採集に興ずる少年の心をふとよぎる幼い日に去った母親のイメージ、美しい少女に寄せる思慕……過去の希望と不安が、敗戦直後の高校生の胸に甦る。過去を見つめ、隠された幼児期の記憶を求めて深層意識の中に溯っていく。これは「心の神話」であり、魂のフィクションである。
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Posted by ブクログ
私の青春時代という時に何度も読み返した作品。 久しぶりに読みたくなったので購入して読んでみた。 今読むとどう感じるのだろうかと少し危惧するような気持ちもあったが、とても面白く読むことができた。 文章が美しく叙情性あふれていて、ストーリーのようなものはほとんど無いのだが文章を読むこと自体を楽しんで読ん...続きを読むでいける。 青春期の心の揺らぎや感性の鋭敏さが描かれていて、青春時代の私がこのあたりに共感して読んでいたことが思い出された。
物語後半、主人公は少年期の記憶を思い出す。そのとき、読者も自分自身の少年期の記憶を思い出す、そんな美しい体験をもたらす、美しい小説です。
“ぼく”というある人間の心の中にある神話を語る、追憶の物語。彼の語る言葉は彼自身のものであって、決して読み手のものにはならない。繰り広げられるイメージも漂う匂いも手触りも、彼がありったけの言葉を以て伝えようとしているもの全て、似通っている所はあるとしても決して読み手の中の神話とは重なり得ない。けれど...続きを読む人が自分の記憶の奥底に沈む“何か”を追い求めようとするその衝動自体は、きっと誰しもが見覚えのある感情であるはずだ。大抵の人はその衝動を形として認識することはないし、その”何か”にたどり着く前に忘れ去ってしまう。しかし”ぼく”は手を緩めることなくその何かを追い求めついには手にするに至る。その全過程が、ここには執拗なまでに詳細に言語化されて刻まれている。 人の心を過去の記憶へと突き動かす感情の形を初めて知ったと思えた。この世のものは、名前を見つけて初めて人の眼前に立ち現れる。 個人の心の中の神話、それは決して過ぎ去った幸福の絵図などではない。それはただなぜか、その陰影のひとつひとつ、手触り、温度のようなもの全てをそのままどこかに刻印しておかなければと苦しい程に思い詰めずにはいられない、そういう言いようもない“何か”だ。人がその姿を捉えようともがく時、名前を付けることは出来ずとも、せめてその輪郭を何かに焼き付けようとして生まれる物語がこの世には多くある。そういうものを書く人、求める人の無意識の意識の流れを、この物語を通して初めて知ることができたと思えた。
辻邦生が、その柔らかい瑞々しい文体、文章に嫉妬した様に、やはり静かなその世界は彼(北杜夫)の最高傑作かもしれない。
美しい文体で、美しいモチーフを用いて、記憶をめぐる物語を描き出す。紡ぎ出された物語もまた美しいのは必然とも言える。 昭和初期、幼い少年の記憶で幕を開け、敗戦前後の高校生の追憶を中心にこの物語は語られる。 非個性的な彼の感覚を通して淡々と描かれる現実と非現実の世界は幻想的でもある。 他人の心を理解す...続きを読むることが不可能である以上、「難解である」という感想はとても生まれやすい小説だと思います。山場もありません。それでも、その世界の美しさに、心を動かされます。きれいな文章です。 耽美よりの方、和風好きでかつ洋物に心惹かれるという方なんかにおすすめです。(H19.04.30)
実は北杜夫はこれと「怪盗ジバコ」しか読んだことがない(苦笑)もともと家にあった本だから、たぶん叔母か母が買ったものだと思うんだけど。中学生のとき読んでガツンと頭をぶったたかれたような気がしたのを覚えてます。
現代では情報過多で時間に追われるように過ごす人が多く、このように自分と向き合って自分で考えて何かを見出していくことができる人は少ないだろうと感じる。あらためて、自然と向き合ってじっくり考えて人のために行動することを意識したいと感じた。
幼い頃のことを、幼い心が感じた通りに、しかし独特の美しい文章で綴った小説かな、と思いつつ読んで、自分の幼い頃も記憶の蓋が開いたように思い出され、いい小説だな、好きだなと読み進めるうち、思い付くままどころか、かなり巧緻に構成された完成度の高い小説だということが分かり、圧倒された。 トーマス⚫マンを読み...続きを読む返したくなった。
北杜夫さんも全集を、しかもうっかり愛蔵版を買ってしまったくらい好きです。 なにか一冊ならどれを選ぶでしょう。 「航海記」? 「楡家」? 「少年」? いろいろ考えた結果、これだろうと。 身につまされるというかボクにとって追体験しやすい内容だったから。
初めて読んだのが中学生の頃だったから、私も大概ませた頭でっかちのガキだったんだろう。 「死」と「人生」と「生きる」ということを繊細に、しかも美しく書いた本書の内容を当時どれだけ理解していたか怪しいものだが、それから何回読み返しても変わらず切なく、哀愁を帯び、そうして愛しい話だ。 安易に論評を加えるの...続きを読むは控えるが、「これ、読んでみろ」と差し出したい本の一冊である。 著者の(ほぼ)処女作といっていい時代に書かれたものだというのに、こんなにクオリティが高いのも驚きの種。
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