小説・文芸の高評価レビュー
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Posted by ブクログ
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映像化した『DUNE』を観て、
ティモシー・シャラメの貴公子感、
レベッカ・ファーガソンの神秘性、
ゼンデイヤの生命力といった、
主要キャラクターの力強さに魅了されました。
元々映画から原作に入ることが多く、
映像では描ききれない細やかな設定や世界観を
小説で補い「そうだったのか」と楽しむのが好きな流れなので、
今回の小説3部作には本当に魅了された。
SFの傑作という肩書きを持つこの「DUNE」は、
手に取った段階でその重量に圧倒される。
そして読み始めたらもう止まることの出来ない物語の流れに
一気に引き込まれてしまった。
なるほど、これが傑作たる存在なのか、と
ぐーの音も出ないほどその世界観に圧倒された。
とくに気に入ったはの、本編後に収録されている附録の数作。
本編後の歴史的考察や語録に収録される言葉たちから、
まるでその世界が実際に存在するかのような、
学校で歴史の教科書を読んでいた頃のような体験をした。
おもしろかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ下巻もとても良かった。
長い年月をかけて観測と計算を積み重ね、ようやく進んだと思ったところで何度も壁にぶつかる。それでも諦めず、間違っていたならまた考え直して前へ進む春海の姿が印象に残った。
特に、ここまで順調に進んでいた授時暦が予報を外したところはかなり苦しかった。周囲の人を失いながら、それでも積み上げてきたものまで崩れる。そこからまた立ち上がっていくところには、学ぶものも多かった。
そして最後の関との出会いは強烈だった。
ずっと直接会わず、算術の問題と解答だけでつながってきた二人だからこそ、最後に実際に会う場面がより印象に残った。
一方で、最後の「天地明察」の章は、それまでの積み上げに比べると少し展開が早く感じた。春海が自分の暦に辿り着き、改暦を成し遂げるまでをもう少しじっくり読みたかった気もする。
春海自身も、歳を重ねたからなのか、急にかなり落ち着いた人物になっていて、根回しや先読み、幕府の動きまで把握しているような振る舞いをする。その成長に少しついていけない感覚もあった。ただ、そこはこの作品の本質ではないので、大きく気になるほどではなかった。
それでも、諦めないこと、学び続けること、間違っていたらまた考え直すこと。物語として面白かっただけでなく、学ぶところも多い作品だった。
10段階評価: 8.5点 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最近はがっかりすることが多々あるので、帯の謳い文句を信じないようにしているんだけれど…
むむむ! これはやられた!!
「鮮やかな反転、驚きの結末!」
まったくだ。“その部分”で変な声が出てしまいましたから。
<刑務所ミステリ>ということで、なんとなく地味なものを頭が勝手に想像していたんでしょうか。まったくやられました。
続編があるので、そう時間をおかずに読みたいと思わされた良作でした。
==データベース===
刑務所、そこはシャバ以上に濃厚な人間関係が渦巻く、更生の最後の砦――。
石川県の加賀刑務所を舞台に、刑務官と受刑者たちの織り成す五つの事件。
仮出所した模範囚の失踪(「ヨンピン」)、暴力団から足を洗う“Gとれ"中に起きた入試問題流出事件(「Gとれ」)、受刑者の健康診断記録とレントゲンフィルムの消失(「レッドゾーン」)など、刑務官たちの矜持と葛藤がぶつかり合う連作ミステリー。 -
Posted by ブクログ
加害者、被害者、支援者、記者、様々な立場から事件について書かれていた。それでもやっぱりりりちゃんというキャラクターに惹かれてるところが大きかった。著者自身もりりちゃんにひっぱられ、これまでの記者人生のモットーを曲げてしまった、しかもそれに気づけなかったと書いていてやっぱりどこか魅力がある存在だったのだなと思った。過去のDVなどの影響で、ホスト狂いになってしまい、ホストに使うためにおじを騙すという悪循環だなと思った。それと同時にマニュアルが沢山売れたというのは、同様の状況に置かれいている人が多くいたんだろうなと思った。今回の事件がきっかけで風営法などが改正されたんだと思うが、一概にホストが悪いとは言いきれないなと思った。りりちゃんが求めていたのは誰かからの承認欲求というか、無条件の肯定、それにより自己肯定感がついていればこのような事件は起きていなかったのかなと思う。多くの人が父親母親から愛情を受けるのに対して、それを受けれなかった人、今でも多くいると思うし、そのような人にどうやって気づいて、どうやって手を差し伸べればいいのだろうと思った。また、映画を作ろうとしていたひとがいっていた、ターゲットがおじじゃなくても成立しているマニュアル、弱っている人に漬け込んでいるマニュアルというところも心に刺さった。いつでも犯罪のターゲットにされるのは色々な意味で弱者の人だと思う。それを思うと今回の事件は妥当だったのかなと思う。犯罪を0にするのは無理だと思うし、理想論としてはなって欲しいが、その意味で見せしめじゃないが、そのような役割で使われたのかなと思う。被害者も悪いだろう、気づくやろうーとは思ったがターゲットにされていたのは身寄りがない人だったので相談もできないならなりうるのかなと意見が変わった。また、作中で語られた、キャラクターを作り上げてしまったことでりりちゃんが辞められなくなったのではという仮説が興味深かった。多くの人が周りからの見られ方を気にするし、関わる人によって態度を変えると思う。仕事や家庭、友達の前では多少キャラクターが違うと思う。りりちゃんは多くの人にりりちゃんというキャラクターを求められていて、これまで求められてこなかった人生にはそれが生き甲斐だったのかなと思った。なので、出所した後はりりちゃんではなく1人の人間として関わってくれる人と出会えたらいいなと思った。りりちゃんも、それに巻き込まれた人が良い人生をこれから歩んで行けたらいいなと思った。
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Posted by ブクログ
239円
★再読
2026/09/10
著者:ビートたけし 本名・北野武。1947年東京都足立区生まれ。浅草フランス座で芸人としてデビュー後、1972年に漫才コンビ「ツービート」を結成、人間の「建前と本音」「理想と現実」との落差を舌鋒鋭く突きまくる芸風で漫才ブームの牽引役となる。テレビに進出後、『オレたちひょうきん族』『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』などの人気番組を次々と手掛ける。映画監督としても『その男、凶暴につき』『ソナチネ』『HANA‐BI』などの話題作を多数世に送り出す。2016年にレジオン・ドヌール勲章、2018年には旭日小綬章を受章。近年は小説執筆にも力を入れている。著書に『弔辞』(講談社)、『不良』(集英社)、『浅草迄』(河出書房新社)など。
「俺自身の脳味噌の働き方は、かなり理科系的だ。 今でも数学の問題を解くのは楽しみだし、オイラーの定理とか非ユークリッド幾何学なんて話を聞くと妙に心が騒ぐ。もし数学者になっていたら、どんな人生だったろう、などと夢想してしまうのだ。 映画監督という、昔は思ってもみなかった仕事をするようになっても、やっぱり俺は理科系だなと思う瞬間がある。シナリオを書いていて、因数分解みたいな作業を無意識のうちにやっている自分に気づくのだ。」
—『全思考』北野武著
「理工学部機械科の学生には、とにかくチンプンカンプンな世界なだけに、それだけ余計に憧れが募った。それになにより、哲学だの文学だの、学生運動の話をしていると女の子にけっこうモテた。俺がすらすらと喋れる話題といえば、ホンダのエンジンがどうしたとかいうくらいのもので、そんな話をしても、女の子にはちっともウケないわけだ。情けないけれど、自分の将来に自信が持てなくなったのには、そういう理由もあったかもしれない。 それに、大学生になって、世の中の仕組みが朧気にも見えてくれば、これから出世するなら官僚のキャリア組だとか、メーカーは給料が安いということがわかってくる。」
—『全思考』北野武著
「だいたい、今の社会は、人生とは何かとか、人間の生きる意味は何かみたいなことを、言い過ぎる。若い人には、それが強迫観念になっている。何かというと、そういうことを言う大人が悪いのだ。自分たちだって、生きることと死ぬことの意味なんか、絶対にわかってないくせに。 天国や地獄が本当にあるのかも、神様がいるのかいないのかも、誰も証明したことがないわけだ。そういう曖昧な状態なのに、生きる意味を探せなんてことを言われたら、誰だって迷うに決まっている。自分の能力だけで、その迷いから抜け出せる人間なんて、ほんの一握りなのだ。 火星に人間を送り込むくらいなら、生きることと死ぬことの意味を、人類の総力を挙げて研究するというプロジェクトに取り組むべきだ。その金を使って、世界中の学者が研究をすれば、いつか答えを出せるんじゃないか。 宗教というものが生まれたのも、つまりはそういうことがわからないからだ。 もし死ぬことが怖くないということになったら、宗教なんていらなくなる。人が宗教に頼る最大の理由は、やっぱり死への恐怖なのだ。死後の世界を誰も知らないから、それを教えてくれる宗教を求めるわけだ。そして、天国と地獄という概念が生まれた。 そんなことを言うと、お前は信じていないのかと言われる。 正直に答えれば、信じてはいないけれど、でも完全に否定しているわけでもない。お布施だの寄付だのをすれば、天国に行けるなんて話は、もちろん完璧に人の作り事だと思っている。すべての宗教がそうだと言うつもりはないが、大昔からそうやって金儲けをしてきた人々がいるのは事実だろう。」
—『全思考』北野武著
「人間はみんな平等だなんて、嘘っぱちだってことを、あの頃から叩き込まれていた。 そもそもウチの近所なんて、子供が「医者になりたい」って言えば、親は「無理だよ、お前馬鹿なんだから」。「新しいグローブが欲しい」って言えば「駄目だよ、ウチは貧乏だから」。それで終わり。馬鹿と貧乏で、ほとんどが解決していた。 一所懸命努力すれば、きっとできるよなんて絶対言わない。「お前は、馬鹿なんだからやめなさい」「学校なんか行かなくていいよ、どうせ頭悪いんだから」「欲しけりゃ将来金持ちになって買いな。ウチは貧乏だから買えないよ」 そういうことの繰り返しだから、子供は自然と自分の分をわきまえるようになった。諦めたり、我慢したりすることを、当たり前のこととして憶えるのだ。」
—『全思考』北野武著
「戦後民主主義だかなんだかで、人間はみな平等ということになった。その平等は、あくまでも法の下の平等であって、金持ちも貧乏人も、同じ法律で裁かれて、同じ基本的人権を与えられますよというだけの話だ。実際には、その平等だってかなり怪しいものだが、とりあえずタテマエとしては、そういうことになった。 それで、勘違いしてしまった。人間はみな平等だ、と。 法の前では平等であっても、人間そのものが平等なわけはない。 顔だって、背の高さだって、頭の中身だって、百人いれば百通りだ。 そして世間を見渡せば、道端の雑草を喰って飢えをしのぐ年寄り夫婦がいたかと思えば、もう一方には自家用ジェットで外国まで飯を喰いにいく金持ちもいる。 どう考えたって、平等なんかじゃない。なのに、どういうわけかみんな平等だってことにしたくて、努力すればなんとかなる、なんてことを言いだした。 子供に「お前は馬鹿なんだから」と言うより、そっちの方がよっぽど残酷だ。」
—『全思考』北野武著
「今の教育のように、人は平等なんだからみんな手をつなぎましょうなんていうのは、裏で喧嘩しろといってるようなものだ。 全員でリレーをさせて、負けたのは全員のせいだなんて教師が言ったって、ほんとうは誰のせいで負けたのかを、みんな知っている。 さっきの話とまったく同じだ。足の速いヤツは速いし、遅いヤツは遅い。馬鹿は馬鹿だし、ブスはブス。平等なんかじゃないことは、子供の目には明白だ。 なのに、表じゃそういうことを言ってはいけないことになっているから、裏で延々と言い続けてしまう。序列がつけられないから、無抵抗な弱い子を叩いて自分の順位を仲間に誇示しようとする。昔と反対に、弱い者イジメで仲間意識を確認するようになったというわけだ。」
—『全思考』北野武著
「話してわからないから殴るのだ。それを、殴っちゃいけない、話せばわかるなんて言っているから、いつまで経ってもわからないままなのだ。 自分で稼いだ金で、子供に飯を喰わせてるのに、子供に舐められてどうする。 殴るのは、虐待につながるなんて馬鹿なことを言うヤツもいる。 自分の子供をなんとかしようと思って殴るのと、殺したり痛めつけようと思って殴ることが同じだとでもいうのだろうか。」
—『全思考』北野武著
「話してわからないから殴るのだ。それを、殴っちゃいけない、話せばわかるなんて言っているから、いつまで経ってもわからないままなのだ。 自分で稼いだ金で、子供に飯を喰わせてるのに、子供に舐められてどうする。 殴るのは、虐待につながるなんて馬鹿なことを言うヤツもいる。 自分の子供をなんとかしようと思って殴るのと、殺したり痛めつけようと思って殴ることが同じだとでもいうのだろうか。「そういうことをする人間がいる。だから、子供を殴るのはやめよう」と言うなら、轢き逃げをする人間がいるから、クルマに乗るのも一切禁止にした方がいい。 そもそも、子供を虐待するような親が、世間じゃ子供を殴っちゃいけないということになったからといって、虐待をやめるわけがない。 子供を殴る話と、虐待をごっちゃにしてはいけない。 それにしても、学校の先生も大変だと思う。 今じゃ生徒を叩いたら、暴力教師のレッテルが貼られてしまう。下手をすると、怒鳴りつけたくらいのことでも、学校に文句を言ってくる親がいるらしい。 猛獣使いに、鞭を使わずに調教しろと言っているようなものじゃないのか。子供なんてものは、どこかでガツンとやってやらないと、どんどんつけあがる生き物なのだ。放っておけば、学級が崩壊するのも当然だ。 昔は学校で先生に殴られても、親には絶対に言わなかったものだ。そんなこと喋ろうものなら、「また悪戯したのかっ!」と、親にまで殴られる。 今の子供は、親が学校に文句を言ってくれるから、そのまま親に言いつける。そして、教師は子供を叱らなくなる。教育環境はどんどん悪化する。子供は叱られ慣れていないから、社会に出てもロクに使い物にならない。」
—『全思考』北野武著
「人間は人間に進化する前、まだ鼠みたいな小さなほ乳類だった頃、さんざん恐竜に喰われてきた。その記憶が DNAのどこかに残っているから、蛇のような爬虫類を恐れるのだという説がある。 マラソンや駅伝のレースで、ランナーがふらふらになりながら走っていく姿を見て、人が無性に感動するのも、話は同じなのかもしれない。 つまりあれは、人間がシャケだった時代を思い出しているんじゃないか? シャケに限らず、渡り鳥でも鯨でも、出産をするために、ものすごい過酷な旅をする種類がいる。人間にいたるまでの長い進化の過程のどこかにも、そういう時代があったのかもしれない。」
—『全思考』北野武著
「そりゃ俺の影響を受けたと言われれば嬉しい気もするが、正直言って残念なのは、彼らの作る番組が、ほとんど俺たちのやってきたことをなぞっているだけなことだ。何だこれ? というびっくりするような笑いが、まだほとんど生まれていない。新しいと思ったことは、まだ一度もない。 今のお笑いは、明らかに停滞期に入っているんだろう。 絵画の世界でも、印象派が出て、キュビズムになるまでにはある程度の時間がかかっているわけだから、それも仕方ないのかなあとは思う。俺たちの笑いに飽きたら、やっぱりキュビズムじゃないけれど、新しい笑いを生み出すはずだと思うのだが、今はまだその手前で立ち止まっているのだ。 だけどこれは、お笑いだけの現象じゃなくて、音楽でも芸術でも、今はみんなそういう状況に陥っている。新しいものが生まれていない。ちょっと見には新しいようでも、よく見てみると、昔の蒸し返しをやっているだけなのだ。」
—『全思考』北野武著
「許せないのが、一緒に酒を飲んでいるときに、「武さんはいい人ですね」という女。 こっちは、悪い人とか、ひどい人になりたくて誘っているのに。そう言われてしまったら、もう後戻りはできない。ずっといい人を通さなきゃいけない。 別れ際に、女はとどめを刺す。「また相談に乗ってください」「ばかやろう、お前には乗りたいけど、相談なんかに乗りたくねえよ」 なんて、口に出して言えるわけない。またしても、「わかったよ。気をつけてな」と手を振る男の寂しさがわかるだろうか。 いや、わかってるんだろうな。わかってて、「いい人ですね」って言っているのに決まってる。それが女というもんだ。 だけど、男はどうしてこうもスケベなんだろう。 揺りかごから墓場まで、男はそんなことばっかり考えて生きている。いかに女にモテるか、もっといえばいいネエチャンとやれるかが、男の最大の関心事なのだ。 100パーセントそうだとは言わないけれど、 99パーセントはそうに決まっている。」
—『全思考』北野武著
「ライバルを潰す最高の方法は、とにかく意味もなく褒めることだって話があるが、それと同じことだ。 芸人を殺すのに鉄砲はいらない。バカなお客がいればいいというわけだ。 面白くなかったら笑わない。 それは客としての、大切な作法だ。」
—『全思考』北野武著
「年寄りは、若い人に文句を言う特権があると、勘違いしてはいけないことをわかった上で言うのだけれど、それでも、最近の若者の作法を見ていると、このままではちょっと危険だと思うことがある。 作法の前提になる、知性が低下しているような気がするのだ。 この世に金で買えないものはない、なんていったヤツがいた。 テレビのコメンテーターをやってるような知識人は、とんでもない思い上がりだって騒いでいたけれど、俺はそうは思わない。」
—『全思考』北野武著
「俺はよく本屋に出かける。ある本屋で、同じおばさんに 3回声をかけられたことがある。 あるとき本を探していたら、おばさんに肩を叩かれた。「武さん、 1カ月ぶりじゃない、ここ来るの」 小声で、あんたとあたしの内緒よって感じで、「私、万引きの監視係なんですよ」って教えてくれた。 雨の日だったのだが、そのおばさんは、ちゃんと傘を持って、普通のお客のような顔して巡回をしていた。 それから 1年ちょっとして、今度は暑い季節だった。 また同じおばさんが、すーっと横へ寄って来て、「どうも、ひさしぶりです」って声をかけてくる。」
—『全思考』北野武著
「ダ・ヴィンチの作品は、十いくつしか残っていないといわれている。手がけた作品はたくさんあるが、ほとんど完成しなかったって聞いて笑ったけれど、考えてみれば、その十いくつの作品が、どれだけの人を養ってきたか。ルーブル美術館なんて、それで喰っているようなもんじゃないか。 フィレンツェも、『ダ・ヴィンチ・コード』の影響とかで、世界中から人が集まっていた。あの街が、旗を持った添乗員の後をゾロゾロ歩くツアー客で、ごったがえしていた。 ピラミッドにしたって、何千年の昔の壮大な無駄遣いが、 21世紀の今にいたるまでエジプトの人を喰わせている。ピラミッドがなかったら、エジプトに行くヤツなんてめったにいないだろう。吉村作治に言わせりゃ、史上最大の公共工事だ。そのエジプトで、蒸気機関車を走らせるのに、戦争で石炭が不足したもんだから、イギリス人はミイラを棺桶ごと燃やしてたって話も残っているけれど。 人間のやることは不思議で、不条理なのだ。俺だって、アフリカで何万人もの人が飢え死にしているっていうのに、映画なんか撮っている。 もちろんモナリザやピラミッドのように、俺の映画が何百年後の人間の役に立つなんて思ってもいない。それこそ単なる無駄に違いないが、それでも好きで映画を撮っている。」
—『全思考』北野武著
「 天才というのは、時代の産物でもあると思う。黒澤さんは才能豊かな人だから、別の時代に生まれてもきっとすごい仕事をしただろう。 それでも、あの時代に巡り会わなければ、黒澤明にはなれなかった。力道山も長嶋茂雄もそれは同じだ。だから、尊敬はしても、黒澤さんを目指そうなんて思ったことはない。 それに、そもそも俺はタイプがまったく違う。 さっきの 17万 2800カットの話でいえば、俺の絵はスカスカだ。あの人の映画には、捨てカットが 1カットもないけれど、俺の映画は捨てカットだらけだ。 リハーサルだって、いつも 1回でオーケーしてしまう。黒澤さんは背景に邪魔な電信柱があれば切り倒すし、天気が悪けりゃ誰がなんと言おうと 1カ月でも待つ。俺はなんだって撮っちゃう。 晴れのシチュエーションで撮るつもりで現地に行っても、曇っていれば曇っているように撮る。ホントはこの天気じゃないんだけどなあって思いつつ、撮っちゃう。 良くいえば、ほころびを繕う天才。 辻褄合わせにかけちゃ、俺の右に出る監督はきっといない。そのかわり、出来上がった作品は最初に考えたのとは全然違ったりする。何これ? っていうくらいに。だけど俺の映画は、それでいいのだ。」
—『全思考』北野武著
「 俺は俺自身のために映画を作る。 自分のために撮って、あとは「アンタも見る?」と聞くだけだ。 映画監督なんてやってる人は、たいてい映画が好きなわけだけど、酒好きと同じで、その好きにも 2種類ある。 映画監督が目的になっている人と、監督が手段にすぎない人だ。 映画監督が目的ってことはつまり、映画さえ撮っていれば幸せなのだ。映画が可愛くてたまらないから、自分の映画を客観的に見ることができない。酒は飲んでも飲まれるなっていうときの、酒に飲まれてしまうタイプだ。日本の映画監督には、こういうタイプがどうも多い。思い込みが強くて、空振りばかりしているのに気づかない。」
—『全思考』北野武著
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Posted by ブクログ
世界には国家の枠を越えて法の支配を守ろうとする裁判組織が二つある。一つは国境問題など国家間の領土問題を主に扱う国際司法裁判所(ICJ)と、戦争犯罪を扱う組織であり、本書筆者の赤根智子氏が所長を務める国際刑事裁判(ICC)だ。前者が国連管轄下の司法組織であるのに対して、後者ICCは各国の供託金により成り立つ独立組織である。よって国連加盟国が自動的に影響を受けるICJと異なり、参加は各国の意思によるものとなる。現在国連加盟国の七割近い125カ国が参加しているが、国連安保理常任理事国5ヶ国のうちアメリカ、中国、ロシアの3 ヶ国は未加盟となっている。赤根所長を輩出する日本は加盟国であり、供託金の額からしても最大の支援国となっている(2400万ユーロ=43億)。
2026年8月、このICC所長赤根氏に対してアメリカが制裁決議を行なった。本書が直前の6月に出版されているので、8月の制裁決定後は、改めて書店に本書が大々的に並んでいるのを目撃した。そしてその制裁決議発動後の高市総理の「残念に思う」発言は、赤根氏の出身国でありながらアメリカを刺激しない弱腰な態度と批判を浴びた。ヨーロッパ各国が赤根氏の断固支援を表明したことに対しての日本の態度が、メディアにもアメリカ従属日本として多く取り上げられていた形だ。
ICCはこれまでにもウクライナ侵攻におけるロシア大統領プーチン氏や参謀長ゲラシモフ氏、前の国防相ショイグ氏などニュース報道でよく聴く面々に逮捕状を出したり、パレスチナを攻撃するイスラエル大統領ネタニヤフ氏にも逮捕状を出すなど、権力を恐れずに法の支配を厳格に運用する組織として、各国から制裁対象にされてきた歴史がある。本書赤根氏は本部のあるオランダのハーグと日本の間を行き来するのに、ロシア上空を通らないよう気を遣う話も取り上げている。
本書はそのような法の支配を世界に示そうとするICCの設立の経緯、そして筆者である赤根氏がどの様に現在の所長の地位に就いたか、同氏の生い立ちなどを追っていく内容となっている。また、前述した様な大国の不参加、アジア地域の加盟国が少ないこと、逮捕状を出しても実効力が不十分(加盟国に入らない限り逮捕できず、モンゴルがプーチンを逮捕しなかった様に)ICCの力の限界などの課題、世界が力による支配に傾きかけている現状、日本が批准していないジェノサイド関連の規約など、数々の課題と今後のあり方を提示している。世界が紛争に満ち、アフリカ途上国の内戦に止まらず、先進国までもが他国に侵攻したり、一般市民を虐殺する今、改めてICCへの期待が高まる。
かつて第二次世界大戦でのニュルンベルク裁判、太平洋戦争での東京裁判、更にはユーゴスラビアやルワンダでの内戦などで、その都度戦争犯罪が裁かれてきた。ジェノサイド犯罪(集団殺害犯罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の平和を破壊する四つの中核犯罪(Core crime)を裁き、それを抑止するための組織は、過去の歴史を見ても必然性しかない。この権力をも法が支配する事の意味と意義を改めて感じ、自分にも何かできないかと考えるきっかけを与えてくれる一冊である。私もかつて法学部で学び、世界からなぜ戦争がなくならないのかと、様々な分野・方向から本を読んできたが、未だ行動に移せていない。赤根氏の話を読んでいると、まだ遅くない、今からできるという勇気を貰えるような気がする。先ずは飛び込むことが重要だと。 -
Posted by ブクログ
1980年頃に徳島県の池田高校が高校野球でブレークした事を覚えておられる方は多いのではないでしょうか。当時池田高校の監督であった蔦文也氏の実像に迫るノンフィクションです。
著者は当時の選手、野球部関係者、などの証言を辿ります。冒頭、元部員が新聞社に出そうとしていた「金の亡者だ」という趣旨の告発文を目にする著者。その裏付けを取る取材を開始するのですが、対象は徳島の田舎町を一躍有名にした地元の英雄とも言える蔦氏。蔦氏は亡くなってすでに20年が経ちます。その名声を貶める可能性のある証言を求める取材の様子からは張り詰めた緊迫感が伝わって来ます。
「優勝して人が変わった」、「お金に執着して講演会ばかりで野球の指導をしなくなった」等の批判的な証言が出てくる一方、予算の限られた田舎の公立高校が”甲子園に出場する”ために必要とされる莫大な金額のお金をどう調達していたのかという視点からは、”勝たなければ甲子園に出られず、そのためには金がかかり、甲子園に出ればさらに金がかかる”という苦しい状況を蔦氏は講演料で賄っていた、という事実も浮き彫りになります。
著者は最終的には冒頭のネガティブな見方と、英雄視される見方を一つの人物像へと昇華させていて、蔦氏を悪人にしていない結論にホッとする読後感でした。
あれだけカリスマ性のあった蔦氏ですから、関わった人の受ける印象は様々であるのは想像できます。しかし、その振れ幅の大きさ、高校野球に関わる”お金”という現代にも通じる負の側面を詳らかにする本書、本書の帯にも明記されているとおり蔦氏の人物像に迫る一種のミステリーという印象も受けました。 -
Posted by ブクログ
大学病院を舞台にした小説といえば山崎豊子があまりに有名だから、これを書くのは大きなチャレンジだったかもしれない。でも権力闘争よりも医療の正義と命の大切さに向き合うことをメインテーマにしたストーリーは、いろいろと考えさせられるところも多かった。西條と真木という2人の心臓外科医の立場、生い立ち、対立、葛藤、協調等々が展開していって息をつく暇もない。札幌という土地、心臓疾患と手術、家族と仕事の間での生き方など、自分に関わることも少なくないこともこの物語に引き込まれた理由かもしれない。自分にはこんなに苦労しながらも理想を貫くかっこいい人生のカケラもないけど。
ミカエルと名付けられた手術支援ロボットも、調べてみればダヴィンチという実在するロボットがあるらしい。そういうことからも作者の記述の裏付けとなる調査研究には感服するところだし、そういったリアリティがこのストーリーをさらに迫真なものへと導いてくれたのだろう。今更ながら読むべき本に出会ってよかったと思う読後感。 -
Posted by ブクログ
印象的だった話
・上條一輝『一致するオブジェクトを検知しました』
ものすごく読みやすい、AIが正確に認識する怪異
・久永実木彦『さようなら、グーテ』
ネコ、いいはなし、能力に即座に気づく犯人と使いこなす主人公
・牧野修『因果骨董店の中庭』
寝たきり患者の集う中庭、生きるに値しない命、きれいな牧野修
・黒木あるじ『ひくりのかっぱ』
旧家に伝わる呪いを食う生きているカッパのミイラ、新作のカッパのミイラ
・斜線堂有紀『乞匣』
売られた武家の娘、姉の『乞匣』、船頭との会話劇
・芦花公園『ヨブは問う』
神チャットAIぽい本、前の持ち主の手記、主人公興味ないわりに聖書知識ある方なのでは
・田辺青蛙『箱守の娘』
嫁として村人に売られた最底辺の娘、箱売りの一族
・大島清昭『雛がたり』
旧家に伝わる古今雛、動く雛人形
・澤村伊智『俺が作った俺の遊び場』
呪物系Youtuber、えれんシリーズ
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