【感想・ネタバレ】スターのレビュー

あらすじ

新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘。二人は大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。受賞歴、再生回数、完成度、受け手の反応──プロとアマチュアの境界線なき今、世界を測る物差しを探る傑作長編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

自分の好きな作品について、どうかその作者が作りたいものを作れていて、それによって生活も満足に成り立っていると良いと思う。

ただ現実はきっと作りたいものを作っているだけじゃない。
プロとして生活のために制作を選ぶことは、自分の好きなことだけをやれるわけではない。
安定したクオリティ。予算内での模索。定められた期間。
何よりも、売り上げ。
需要を満たし、経済活動となること。
それによって自分が生活していけるということ。

主人公の尚吾と紘は、共作映画で受賞してから方や伝統的な監督路線へ、方やSNS中心のファストコンテンツの方向へと向かっていった。
前者は裏打ちされた信頼があるものの多様化する社会の中で牌の取り合いに苦戦し、後者は急速に需要を集めながらもその信用度は不確かである。
二人は互いに違う道を歩みながら、互いに理想との乖離に出会い、夢破れた先の人物に出会い、互いの進んだ道を理解ないままに羨む。
全く別の道を歩んでいるうに見えて、よく似た道筋になっている仕組みが巧みであった。

自分は素人ながら絵を描くことが好きで、関連して色々作ったりもしているけれど、プロではないので好きなことをしているにすぎない。
本来は作っても作らなくてもいい。
プロは違う。
自分の作りたいものではなくても役割として負ったのなら作らなくてはならない。
どんなに理想があったとしても実力や適正がなければその椅子には座れない。
ただそれは、直面した時は人生丸ごと無駄にしたように絶望するだろうがそうではない。
夢破れて自分に座れる椅子でやっていくことを決めた人。
そのひともまた、そこに至るまでに得た経験は無駄になってはいない。

最終的に彼らは、決断する時に脳裏に過る顔を裏切らない形で進む道を決意していく。

自分の作るものは趣味でしかない。
けれど、自分がしているVtuber活動の中で何をするか選ぶ時に、誠実であるべき対象としてよぎる顔はいつもみてくれるあなたのことですよ、本当に。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

冒頭にあった「人は選択することに多大なエネルギーを費やしている」というスティーブ・ジョブズ的思考のとおり、彼らの選択への苦悩が痛いほど理解できる。ただこの苦悩を経ることも必要なんだ。

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2025年10月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2025/10/06
正統派の映画にこだわる尚吾と、今の時代にフィットした動画編集をする絋。自分と違う土俵に立つ相手のことを羨み認めたくない気持ちで揺れる。尚吾と鉱のいいとこ取りする泉の事も認めない理由を探す…みんな得意なことが違い、それぞれのファンを持てばニッチな人たちのスターになり得る。話の本筋ではないがユーチューバーは限られた一部の人ではなく、その人にとってのスターになればいい、そのユーチューバーは手の届かない超高収入の人ではなく会社員的な稼ぎでやっていく人もいる、そんな見方は知らなかった。私も偏見で凝り固まってる。そんな知らない世界を朝井リョウの本ではいつも見せてもらえる。
千紗の、自分はしないと決めたことをしている他人を糾弾する、その作業をしない
まさにそのとおりだと思った。いつももやもや思っていることの言語化が本当に素晴らしい。
今ごろ遅いけど、朝井リョウ強化期間!

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2025年10月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ものづくりにおいての質や価値について考える材料を溢れてしまうほどに与えてくれた作品だった。作中では、多様な視点からやって来た多様な意見や思想が尚吾や絋の中でぶつかりあったり混ざったりしていた。要は、彼らのように考え続けることが大事なのだろうと思う。この本の意図もおそらくそこにある。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

★よかて思うものは自分で選べ
読み終えた今、この文章に全てが詰まってるように思える。自分もモノづくりで生きてきた人間だからこそ、尚吾と紘の隣の芝生が青く見えてしまう気持ちが痛いほど分かった。
"誰でも何でもできる"が増えた現代で、誰かと比べてできない・できてるって比べても意味ない。意味ないっていうよりそんなもの比べられないんだろうな。だからそんな時代に頼れるのは自分の感性、心なのだろう。ぶっとい軸を持つことがこれからの時代もっともっと大切になる。
自分の感性を確かめるために、取り戻すために手元に置いておきたい本だった。

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2025年07月12日

Posted by ブクログ

どんどん世の中が細分化していってコミュニティとか商圏とかが細かくなっていって小さいところでも根強いファンや客がいれば成り立つんだなぁと

よかて思うものは自分で選べ。どうせぜーんぶ変わっていくと。

自分が見えた星の形を描いて、これが星ですって言っていく時代になったんだよね。昔からあるあの星形を、これが星なんだって言い聞かせなくても良くなった
星はそんな形じゃないって批判されまくったとしても、私の見えている星もそれですっていう人と出会えれば、そこが小さな空間になる。世界がまた一つ小分けされる

【神は細部に宿る、これは本当にそうだと思います。細部にこだわってこそ、余計なところで引っかかることなく二時間の映像をスムーズに観終えることができる。質のいい映画の大前提とは、物語とは関係のないところで観客が違和感を抱かないことです。そのためには構図、音、様々な部分で細部にこそこだわるべきです】 p55

そのとき紘たちは、撮影をしながら藪の中を彷徨っているような状況だった。撮影を進めながらも、何をしても不正解を選んでいるような精神状態に陥っていた。一つの作品を完成させるまでには、そのような時期が、必ず何度か訪れる。のめり込めばのめり込むほど客観性を失い、こんなものの何が面白いんだという疑いが拭えなくなり、道標を欲してしまう。そんなもの本当はどこにもないことを、ものづくりに携わる誰もがわかっているのに p109

ないものをあるように見せることが上手い奴らがどんどん先へ行くp133

「ものを作るときに、いろんなことの妥協点を探り合うんじゃなくて、質を高めることしか考えなくていいって、本当に特別な人にしか許されないことなんだって実感したよ」 p137

「俺、分かったんだ。今の時代、百万人の世間が断罪しても、十万人の信者がいればその中で生きられる。どんなに非道な行為でも、大勢の人前でやればそれはパフォーマンスになって、ファンがつく。どれだけ炎上したとしても、情報量が多い今、すぐに全部が有耶無恥になる。どこもかしこも埋め立て地、都合良く上書きし放題だ」
「お互い、もう何だっていいんだよ」
「どうせ皆忘れるから、じゃなくて、皆にずっと覚えていてほしいって思いながら、手を動かしたいです」
「すぐに忘れられてしまうとしても、せめてその時の自分にとっての百点のものを世に出そうって、そう思っていたいので」 p168

「あんたが考えてることって多分、だいぶざっくり言っちゃえば、この世界とどう向き合うかって話なんだよ」
「おかしな等号だらけの世界に対して、自分はどういう判断基準を持つのかっていう話」
「そういうことを根詰めて考えられるのって、人生の中で本当に一瞬なんだよね。世界と向き合うとき、こちら側がひとりだけでいい時間。立場とか責任とか生活とか、そういうことを脱ぎ捨てて世界と向き合える時間」
「その一瞬の中でどういう問いを立ててどれだけ考え尽くしたかっていうのが、映画監督になるような人にはすごく大事なんだろうなって思うよ」
「その時間に考えることから逃げちゃうと、変だなーって等号も見逃しながらぼんやり生きていくことになるから。バランスが大事とかどうせ誰もが行きつくつまんない答えで早々に自分を甘やかすことになるから」
「答えのないことを考えていられる時間って本当に贅沢なんだよ」 p207


要は、大樹の言うことをそのまま信じているわけではなさそうで、走っている間、終始何かを試きたそうな表情をしていた。だけどそれでいて、リング上と自身の肉体以外の場の治安に対して無頓着な様子はそのままで、彼にとってはその様子がひどく心強かった。
この男はこれからも、勝手に生まれて勝手に消えていくルールから外れたところに立ち続けるだろうと思った。
彼が向き合うのは自分自身だけでいい。そうしていることを許された人にだけ宿る輝きの中に、ずっと、いてほしい。拡はそんな願いを、日が昇っていく冬の朝の中に、白い息と一緒に潜ませた。 p217


自分が尚吾とは違う道を選んだのは、凝り固まったルールから解放された場所で、ただただ心震えるものを撮りたかったからだった。だけど、自由に動き回れるように見えた場所にもすぐ、ルールは追いついてきた。そして、そのルールに殺されずやっていける方法をやっと見つけ出すころには、もうその次の新しいルールが姿を現した。拳で相手を倒すというような、勝敗が誰の目にも明らかな場所に立たない限り、次々に生まれるルールから完全に逃れることは、きっとできない。 p219

紙はそのまま、眠るわけでもなく目を閉じる。瞼の裏にあるスクリーンが映し出すのは、いつだって、故郷の島に息吹く景色たちだった。四つの季節などでは区切れない、三百六十五色のグラデーションをまとった風景たち。
大人になって技術と資金を手に入れられれば、高校生のころに体育館で行った上映会をもっと大規模にしたような催しができると思っていた。だけど、それは幻想だったのかもしれない。あの山も海も体育館も、あの瞬間の島にしか、なかったのかもしれない。 p219

「俺たちがテレビを通して観てるものって、結局、文脈とか関係性なわけだから」
例えば海外で無茶なことやらさせる芸能人Aのコーナーがあるだろ
俺たちが観て笑ってるのは、多分芸能人Aの言動そのものじゃないんだよ。そのVTRをスタジオで観てる芸能人Bとの関係性とか、Aと業界そのものの関係性とか、そういうものをひっくるめて観てるんだよ
Aが重鎮であればあるほど企画の無茶さが際立つし、Bが Aの後輩で Aに昔いびられてたなんて文脈があれば最高だよな
裸踊りもゲテモノ食いもそれだけじゃ面白くない。その世界の中で誰がどういう存在で、過去に誰と誰の間にどんな関係があって、ってことの方が大事なんだよ。むしろそれさえあれば裸踊りもゲテモノ食いも何もいらない。
だから個人的に交流があるとかじゃない限り、人気インフルエンサーって肩書きで揃えたからってトークが盛り上がるわけじゃない。話す技術とか以前に関係性も文脈もこれから構築されていく人たちなんだから
YouTuberの動画なんて何が面白いんだって未だに言う人いるけど、その人たちは単純にそのYouTuberのこと知らないだけなんだよな。YouTuberも芸能人もやってる企画はたいして変わらない。出演者と視聴者の関係性が成立してるのが今のところテレビの方が多いってだけ p224

どんな世界にも信じるものを揺るがそうとしてくる人間はいる。都合のいい文脈に挟み込む事でその数値をだまくらかすような悪い遺伝子が存在する。
どんな世界にいたって、悪い遺伝子に巻き込まれないことが大切なんです。1番怖いのは、知らないうちに悪い遺伝子に触れることで、自分も生まれ変わってしまうこと p235

年齢や肩書、おそらく性別までを戻り払う最大の感情は尊敬。余計な文脈を削ぎ落とし、そこにある心のみと向き合うことができれば人間関係は実はシンプルになる p239

そんな細部にこだわっても誰も気づかない、という揺らぎに負けない。
差し出す相手を騙したり、軽んじるような気持ちでものづくりに臨まない。 
細部に宿った神は笑いかけてくれる。 p244

言葉ひとつとっても時間をかけて精査してこだわって丁寧に作ることが大事。どういう意図でそういう表現をしたのか胸を張って説明できるくらい考え尽くしてから作品を届けるべき p282

いま対価として支払われてるのは、お金じゃなくて時間だって話をしましたけど、最近またフェーズが変わったなと感じます。人生です。一回限りの人生を何を成し遂げることに注ぐかって考える人、特に俺ら世代に増えましたよね p321

昔みたいにみんなで一つのテレビや映画を観ていた頃と違って、誰もが好きなように発信できるし、誰もが好きなものを好きなように追いかけられるようになった p325

なんでこの人たちがオリンピックのアンバサダーなの?どこが新時代のスターなの?何ができる人たちで、どうしてその地位にいられるの?
その疑問がもう古いんですよね
だって実際、彼らにはものすごいたくさんのファンがいて、大企業が頼りたくなるくらいの影響力を持ってる。事実、オリンピックのアンバサダーで新時代のスターなんです。 p326

「何か特別なことができるわけじゃない人間が、日々の発信の積み重ねで知名度と影響力を得ていく。ある人にとっては無名の人間が、ある人にとっては唯一無二のスターになる。
そういうことが普通の時代になりました。能力を持つ者がスターとして君臨することだけじゃなく、持たざる者が持ちゆく過程を世に公開し支持を集めることができる。お金を生むこともできる。そんな時代になりました。誰にとってもスターなわけじゃないけど、誰かにとっての小さな星がファンクラブ的な閉鎖空間を設ければ、その中で光り続けられるようになりました」p328

結局、創り出したものにそれだけの価値があるかとか、対価に見合うほどの質なのかっていうのは、考えても仕方ないんだよな
それより、これが自分の作品ですって差し出す時の心に嘘がないかどうか。俺はそこが気になる p350

劇場で映画を上映するときって、人が集まれば集まるほどワクワクするはずなんだよ。どれだけ人が集まっても、全員に同じだけの体験を提供できるって、作り手が胸を張って言えるから
サロンの会員が増えていくとき、正直ちょっと怖かったろ
このままだと提供できる体験が底を突く、全員を満足させられなくなるって、ちょっとは思ったろ
こういうサロンですって色んな人に差し出しながら、本当にこのまま差し出し続けていいのかって、心のどっかでそう思ってたんじゃないのか p351

作ったものを差し出す時に、誰かを裏切ったりする気持ちがない作り手でありたい
物事の良し悪しはどうせ決められないんだから、せめて自分の心だけでも p354

比べてイライラして、あっちの方が質も価値も低いはずなのにって怒ってた
本当は比べられないものを比べ続けてたら、いつか本当は切り捨てちゃいけないものを切り捨てちゃいそうな気がする
生きている限り、何かを選び取ることからは逃げられない。だけど、無理やり同じ土俵に並べてこっちの方が劣っているからとか、そんなふうに考えたいわけじゃない…それくらいの曖昧さがないと、どんどん許せないものばっかり増えていっちゃいそうで怖いの p366

尚吾がずっと苦しそうに見えた。目につくもの全部、無理やり同じ土俵に並べてどっちが劣ってるか議論してるように見えたから
どうにかして後輩の子を認めない理由を見つけようとしてるなって思った
とにかく比べられないものを同じ土俵に上げてる感じがした。それでここがダメあれがおかしいって、無理やり文句つけてるように見えてた
自分がプライド持ってる分野ほど、自分が想定しなかったものが選ばれたときにイライラするもんね p368

これまでは色んな欲求の種類に応えるだけの発信がされてなかっただけなのかもね
私今までは自分は"大は小を兼ねる"の大なんだって思ってた。本物の料理を学んでいる自分は大を与えられるにんけんで、高度で確かな技術が1番素晴らしくて、それさえあればその下に連なるどんな欲求にも対応できるって思ってた。だから自分が差し出したものが認められないとイライラしてた"大"側の私が差し出してるものはあなたの欲求もカバーしてるはずなのにって
でもそもそも欲求には大も小も上下もなくて、色んな種類があるだけ
勝手にそのジャンルで最高峰の場所で学ぶ自分は、そのジャンル全体の欲求を満たせるはずだって思い込んでた。でも私が満たしてあげられるのは、たとえ本当に最高峰の場所にいるとしても、そのジャンルの一点だけ。ピラミッドの中の一点を塗り潰す技術を学んだだけなのに、そこは頂点で、頂点を塗れる自分はピラミッド全部を塗りつぶせるつもりでいた p369

今誰でもなんでも発信できるようになって、ちょっと調べればどんな欲求にも対応してくれるものがあって…世界はこれからどんどん細分化されて、それこそオンラインサロンの集合体みたいになっていくんだろうなって思う。欲求に大小や上下があるんじゃなくて、全部小分けされて横並びになるっていうか 
頂点っぽい巨大な何かが色んな欲求をまとめて満たしているように見えてた時代は終わっていくんだなって
だから自分がいない空間に対して「それは違う」「それはおかしい」って指摘する資格は誰にもないんだよね全部自分がいる空間とは違うルールで成立してるんだもん。たとえ自分はそのジャンルの頂点を知ってると思っても、それが本当に頂点だとしても、頂点の場所にある一つの点だけを知ってるにすぎない
だから誰かにとっての質と価値は、もうその人以外には判断できない。それがどれだけ自分にとって認められないものだとしても
最近の尚吾は、自分の創るものの質を高めようとしてるっていうより、自分はしないって決めたことをしてる誰かを糾弾することに忙しそうだった。自分が知ってる頂点はそれをしてないんだから、って怒り続けてるように見えた その作業はもうやめにしてもいいのかも その作業で守れるものって自分のプライドくらいだから 
そうは言ってもこんなのおかしいって叫びたくなるものに出会う時はこれからもくると思う その時のために私は、誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって思う これからはそういう戦い方になっていく気がするp370

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2025年10月01日

Posted by ブクログ

世界に何かを発表する人にしか分からないテーマかと思ったが全くそんなことはない。アマプラでオススメから何となく流行の作品を視聴している消費者然としている人でも、クリエイター達が何を考えているのか覗くことができる。表現者は表現のあり方を。消費者は消費の在り方を、いま一度見つめ直す機会になるはず。誰かの何かを糾弾しない朝井リョウらしい作品。ずっと傍に置いておきたい

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2025年06月08日

Posted by ブクログ

あああーーー、商業的すぎると見下してしまう気持ちも、見下して自分の狭い価値観に囚われていてダサいなーと思う気持ちぜーんぶ私も持ってる。。商業と芸術の両立難しい。もう一回読む

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2025年06月01日

Posted by ブクログ

信念を貫いて自分のスタイルを崩さずにコツコツ積み上げる努力家と、世の中のやり方に沿ってアウトプットする手段をとりいち早く世に知らしめたいという世渡り派か。
どちらが正しいなんてないし、自分の信じたやり方が世の正解と交わることなんて誰が決めるのか。
比べられないものを比べ続けてたら、いつか本当に切り捨てちゃいけないものを捨ててしまいそうになる。
クオリティ優先でなく、いかにバズらせられるかという現代の風潮が物語っているようであった。
サブスクだとか限定だとか完全食だとか流行り物だとか、今だけ騙されていたいって思うこと、私も無意識に惹かれてることあるなって自覚しました。
人間同士の摩擦によるズレの言語化もさすがだしドキッとする。
作ったものを差し出す時に、誰かを裏切ったり騙す気持ちがない作り手でありたい。
誰かがしてる悪いところより、自分がしてる良いところを言えるようにしておきたい。
そんな逞しさを持ちたい。

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2025年05月27日

Posted by ブクログ

細かい。とにかく細かい。
荒れ狂う時代の波によって変わってしまう価値観と質を根幹にドラマが構築され続けてて、若者からするとホントに良く、作者が議題を見定めていることが伝わる。生半可な観察眼ではない。
一方で構成はシンプル。
会話が多くてその中でひとつひとつ紐解かれていくイメージ。ただし扱いものがモノなので理解するのに時間を要するときがあるし、見解の域を出ないので共感できない時もある。
でも説得力は抜群。

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2025年05月15日

Posted by ブクログ

「質か、量か」
「伝統を守るのか、時代の流れに乗るのか」
「ニーズに応えるのか、作り手が届けたいものを作るのか」

ニーズが細分化する中で絶対的なスターはいなくなった。自分のスターは他人にとっては知らない人。そんな時代に葛藤する作り手の姿に心の奥の方が熱くなった。連休前に読めてよかった。

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2025年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「多様性とは」「スターとは」「良いものとは」といった大きなテーマを様々な登場人物の観点で描き出した作品という印象で内容は難しかったですが、本書がまさに作中で浅沼さんが言っていたような「自分自身で答えを考える物語」で読み応えがありました。

一昔前の物語ならおそらく懲悪の対象になっていたであろう大樹さんや岩角さんも、
「紘(や読んでいる自分)には受け入れ難いけれど、こういう考え方の人もいる」という立ち位置で描かれていたのが、世の多様性を描き出しているなと感じました。

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2025年05月15日

Posted by ブクログ

最後がよかった。欲求に上も下も大小もなく、ただそこにある。こうと省吾が後輩泉に言った言葉に、ひどく共感したし気持ちよかった。よく言い負かした!と思った。だから、その後の千紗の言葉にギクッとした。ただひとつ、全ての事象は人の心が動いて起こること、いたずらに弄ぶような真似はしたくないこと、今決めているのはそれだけ。

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2025年11月14日

Posted by ブクログ

どっちがいいとか答えはないけど、考えてしまう問いをくれる本でした。
正解はないけど、自分はこっち!というのは選べる。

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2025年10月01日

Posted by ブクログ

現代の若者の感情の機微、特に倦んだ感情の描写力が毎度のことながら凄い。
若者でなくとも、何処かしら感情が共有できる場面があると思う。

色んな登場人物が独白するので、テンポが悪い面もあるけど、こっちで共感してなるほど!と思ったことが、あっちから見ると確かに違うかも‥と色々思考がかき混ぜられて、自分なりの意見を考えちゃうのが面白いところ。またこういう読書をしたいな。

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2025年09月03日

Posted by ブクログ

表現する側ではなくとも、いち視聴者として刺さる部分はたくさんあった。
サブスクで作品を観ると、「もっともっと」と欲が加速する感覚も覚えがあるし、だからといってその監督の作るスピードにも限界があるから、同じような雰囲気の作品がないかTikTokのおすすめばっかり漁っちゃうし。
そうやって人によって見たいものが細分化されること、それでも、そのコミュニティの枠を越境した不動の名作が出てくること、どちらも思わず唸るほど納得できる。
なんでこの人は、こんなにも人々の心の動きや社会の変動を、正確に読み取れるのだろう。
あと、朝井リョウ特有の「あ、これ読者の自分にも矢が降ってくるぞ…!」っていう自意識を突き刺す鋭い矢が放たれる感覚にぞくぞくする。自分の中で凝り固まった価値観をぐらぐらと揺さぶられる、鮮烈な読書体験だった。

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2025年08月27日

Posted by ブクログ

学生映画祭でGPを受賞したサークル仲間の2人。「どちらが先に有名監督になるか勝負だな」と言って別れた2人は映画とYouTubeで異なる道を歩む。「細部は神に宿る」と"伝統"が重んじられ"本物"の作品が求められる世界と、大量生産・大量消費が繰り返されるが誰もが作品をリリースできる世界どちらが正しいのか。互いの世界で突き進み葛藤する2人が辿り着く答えとは。
芸術に縁のない自分の人生と思ってたけど、仕事の成果物を作品と捉えると学べることが沢山あった気がする。自分が生み出す物には責任と誇りを持っていけるようになりたい。読んでよかった一冊です。

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2025年08月25日

Posted by ブクログ

全クリエイターにおすすめ!
古今東西のクリエイティブな人が必ずぶつかる壁をこんなにも上手く言語化できたのは本邦初なんじゃないかな?
「本物」を届けたいと思うクリエイター
「なんであんな紛いものがウケてるんだ」とか思ったことあるクリエイター
要するに最低限の深い考えができるクリエイターは読んだ方がいい

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2025年07月27日

Posted by ブクログ

ピラミッド的な共通の価値観は崩壊していって細分化されたコンテンツがそれぞれ盛り上がり、湧き出てはすぐ消えてくイメージはなんとなく理解できている。

拘っても評価されないけどそうしないと自分の仕事に満足できないことってあると思うし、どこまで追求するかも毎日苦悩し続けていくこともやめられないだろうし、

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2025年07月21日

Posted by ブクログ

本と映画が好きだから、作り手の難しさはよく分かった。
人々の価値観は変容するし、多様化するし、昔ながらの権威もそのままの地位ではいられない。
自分も古典を美化しがちなところあるなと思った。
けど、古典で今もなお読まれている本は、確率的に良い本である確率が高いよね。海外の本でも、わざわざ翻訳されているんだから、海外の著者の本は質がいいことが多いはず。質がいいとか、基準が存在しないけど、いいと思う人が多い確率が高い、とここでは定義しておく。

人と比べることが無意味になる。なぜなら存在してるフィールドが違うから。現代ではフィールドは細分化し、増殖する。
だけど、本当にいいものは違うフィールドの人にも影響を及ぼす。心を動かす。逆説的に、他フィールドに影響を及ぼすものがいいものとも言える。
だから、胸張って世の中に送り出せるものを誠心誠意作りたいよね、
っていう話だと思ってる。

だけど、自分の価値観を肯定されたい、という欲は無くなることはないから難しいよね。

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2025年05月29日

Posted by ブクログ

なんとなく読書熱が蘇ってきたタイミングでスラスラ読める著者を。勢いにのりたい。
大きな物語の消失からの現代を描く現代を生きる作家、という印象で、この作品もまんまのテーマ。「みんなが知ってる」という大きなスターが不在になってこれからどうなるやら、みたいなことを切り込んで書きたかったのだと思うし、目配せの効いたバランス感覚がいいなと思う。結論としてはきっとこれからクラスタ的なコミュニティがたくさんできるけど、いいものはそのクラスタを越境するよね。って。おおむね同意でありがとうって感じ。 
ただ個人的には最近真とか美とか善とか、絶対的な基準があるのではないかと感じ始めているので、特に黄金比とか数学的な美しさについて考えることが多いので「数ある価値観を外から評価はできない」というのはほんとかなぁとも。絶対的に美しいものってほんとにないのかなぁ。でも自分も絶対にあると思ってない以上同じ立場に立っているような気もする。他人の価値観を否定するより自分の肯定するものを説明できるようにというのは前向きでいいなと思いつつも優しすぎて気持ち悪くも感じる。ぶつからないとアウフヘーベンは生まれないのでは。でも止揚して生まれた価値観だって相対的な評価しかされないという感覚か。この諦念はぶつかることじゃなくて叩くことを助長しやしないか?
などと悶々と。この割り切れなさが現代的なんだろうなと感じました。退屈しない時代に生まれたものだ。

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2025年05月24日

Posted by ブクログ

「待つ それだけのことが、俺たちはどんどん下手になっている」
この一文は、現代社会を非常に高い解像度で切り取っている。

物と情報が氾濫した現代で、すべてのものがインスタントに消費され、生まれては消えていく。
「ないものをあるようにみせる」人間が跋扈し、小さなコミュニティが乱立する。
無駄に多忙な生活のなかで、本当に大切な「あるものがないように」生きている。
でもそれでいいのだと思う。
なぜなら、騙す人よりも「今はそれに騙されていたい」という人の方が多いからだ。

「酔っていたい」という自分の内側の声に気づけている場合はまだマシだが、多くの場合はその声があることにすら気づけていない。
いってみれぼ、毎朝目覚めて水を飲むつもりでスト缶を一気しているようなものだ。
こんなことをリアルでやっている奴がいたら狂っているとしか形容できないが、今の大半の人間がやっていることは、これだ。


価値観なんて脆弱な基盤の上に立った実態のないものだから、すぐに変わる。うつろいでいく。

戦後の小学生たちは、今まで使っていた教科書のほとんどを墨で塗りつぶさせられた。

だから私は自分の時間、自分の時間で積み上げた感性を信じる。
そのためには自分の感性を磨く必要がある。
自己と向き合い内省すること。孤独に浸ること。
質の良いものに触れること。
質の悪いものを見ない、触れないこと。

今の世の中は、質の悪いものが多すぎる。
「いかに自分の体の中にゴミを入れないか」
これが、現代社会を生きていくうえで最重要だと、私は確信している。

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2025年04月30日

Posted by ブクログ

同じ場所からスタートした2人が別々の道を歩み、そこで違う世界を見て、感じて、考えて、出した答えがまた2人を繋げる。

「細かいところまでしっかりこだわる」尚吾と「自分の目で見て良いと思ったものを撮りたい」鉱。
どっちが良くて、どっちがすごくて、どっちが本物かなんて比べることができないのに、勝手に上か下かを決めて優越感に浸ったり、相手を嫌いになったり、自分を信じれなくなったりするのは本当に勿体無いと思った。

千紗が言ってた通り
「そのときのために、私は、誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって、思う」
この言葉の通り誰かと比べて勝手に優劣を決めたりするんじゃなくて、自分は自分の突き進みたい道を行くのが1番だと思う。
人と比べていいことなんてないよね。

個人的に朝井リョウ作品4作目にして初めて読後の感想をしっかり言語化できる気がする。今までは感情を掻き回されてもそれをどう言葉にすればいいのかわからないそのモヤモヤが心地よくて、誰かと語り合いたくなるのが好きだったからこれは1人で納得できちゃって少し寂しい気もする。

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2025年10月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ


「そのときの自分にとっての百点が求められてるわけじゃない。毎日投稿してること自体をすごいって言ってくれる人がいる。動画長くして広告いっぱいつければ実入りは増える。ないものをあるように見せられるし、そういう奴でも勝ち続けられる」

「尚否は初めて金銭が発生する映像仕事だって喜んでましたけど、俺はその金銭がなんか怖かったんですよね。俺にきた依頼じゃなくて、賞の名前とかその賞が持ってる歴史とか、そういう、俺自身とは関係ないところにある文脈に金が払われてる気がして」

紘は、声に出さずに繰り返してみる。
「どんな世界にいたって、悪い遺伝子に巻き込まれないことが大切なんです。一番怖いのは、知らないうちに悪い遺伝子に触れることで、自分も生まれ変わってしまうことです」

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2025年10月23日

Posted by ブクログ

大学サークルで映像作品を監督し賞を受賞した2人のその後を、2人の視点で描いた作品。
価値観、多様性、細分化された社会と2人の映像作品に対する考え方の葛藤、成長がなかなかに青臭くもあり活力をくれたりもする作品でした。

2025年9月10日

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2025年10月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

映画が好きなので、こういう世界を描いた小説はありがたい!

最後の方の千紗の言葉がテーマなんだろうけど、視点としてとくに新しい発見がなかったので、星3つにとどまってしまったという感じ。


ラストのところ、あえて答えが書かれていないのは、この小説としての筋が通っているな〜と思いました。

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2025年09月12日

Posted by ブクログ

クリエイターになったことないから、めちゃくちゃ共感出来る!とはならなかったけれど、表現が多種多様になっていることには、共感しました。

YouTubeを含めたSNSで誰もが簡単に動画や文章をあげれる時代に、映画監督とか小説家が戸惑うのも理解出来ました。YouTubeも好きだし、映画も小説も好きな私としては、どちらも別物だと思うし、別の楽しみ方だと思う。

YouTubeはもっと気軽に見れる感じ、なんならなにか作業しながらでも見れる。映画はよし見るぞって決意して、時間がある時にしか観れない。でもYouTubeで得られる情報も有益なものがあるし癒されるし、映画でも得られるものがたくさんあるし考えさせられるし。どちらにも違った魅力があると思いました。

表現をする人たちには、新しい時代の流れに戸惑うこともあるのかもしれないけれど、視聴者としては、どちらも同じように楽しんでますと伝えたいです。笑

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2025年09月03日

Posted by ブクログ

余韻を残す、映画のような終わり方が良い。心に響く良い物語だった。30を過ぎたばかりの若い作家が、物語を通してどうしてこれほどにも老成した、まるで経験してきたかのごとく、物事を捉え、人の心の深淵に触れ、迷いの根源に辿り着くことが出来るのか、年長者でありながら気付きの無い自分が恥ずかしくなる。ユーチューバーという新しい若者文化。細分化していく価値観の集合体の行方。名声やお金持ちになりたいとかではなく、贅沢しなくても心豊かにスローに落ち着いて自分らしく生きたいという、時代が育んだ感性、価値観を羨ましく思う。

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2025年05月22日

Posted by ブクログ

新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した2人の大学生が大学卒業後に名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を歩き始める……2人の葛藤や最近のSNS等読み応えがありました。

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2025年05月05日

Posted by ブクログ

何か選択をしなきゃいけないという状況が、比べられないものを比べさせている、もしくは、比べたように見せている

朝井リョウの中ではそこまでかな

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2025年07月13日

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