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新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘。二人は大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。受賞歴、再生回数、完成度、受け手の反応──プロとアマチュアの境界線なき今、世界を測る物差しを探る傑作長編。
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Posted by ブクログ
冒頭にあった「人は選択することに多大なエネルギーを費やしている」というスティーブ・ジョブズ的思考のとおり、彼らの選択への苦悩が痛いほど理解できる。ただこの苦悩を経ることも必要なんだ。
どんどん世の中が細分化していってコミュニティとか商圏とかが細かくなっていって小さいところでも根強いファンや客がいれば成り立つんだなぁと よかて思うものは自分で選べ。どうせぜーんぶ変わっていくと。 自分が見えた星の形を描いて、これが星ですって言っていく時代になったんだよね。昔からあるあの星形を、こ...続きを読むれが星なんだって言い聞かせなくても良くなった 星はそんな形じゃないって批判されまくったとしても、私の見えている星もそれですっていう人と出会えれば、そこが小さな空間になる。世界がまた一つ小分けされる 【神は細部に宿る、これは本当にそうだと思います。細部にこだわってこそ、余計なところで引っかかることなく二時間の映像をスムーズに観終えることができる。質のいい映画の大前提とは、物語とは関係のないところで観客が違和感を抱かないことです。そのためには構図、音、様々な部分で細部にこそこだわるべきです】 p55 そのとき紘たちは、撮影をしながら藪の中を彷徨っているような状況だった。撮影を進めながらも、何をしても不正解を選んでいるような精神状態に陥っていた。一つの作品を完成させるまでには、そのような時期が、必ず何度か訪れる。のめり込めばのめり込むほど客観性を失い、こんなものの何が面白いんだという疑いが拭えなくなり、道標を欲してしまう。そんなもの本当はどこにもないことを、ものづくりに携わる誰もがわかっているのに p109 ないものをあるように見せることが上手い奴らがどんどん先へ行くp133 「ものを作るときに、いろんなことの妥協点を探り合うんじゃなくて、質を高めることしか考えなくていいって、本当に特別な人にしか許されないことなんだって実感したよ」 p137 「俺、分かったんだ。今の時代、百万人の世間が断罪しても、十万人の信者がいればその中で生きられる。どんなに非道な行為でも、大勢の人前でやればそれはパフォーマンスになって、ファンがつく。どれだけ炎上したとしても、情報量が多い今、すぐに全部が有耶無恥になる。どこもかしこも埋め立て地、都合良く上書きし放題だ」 「お互い、もう何だっていいんだよ」 「どうせ皆忘れるから、じゃなくて、皆にずっと覚えていてほしいって思いながら、手を動かしたいです」 「すぐに忘れられてしまうとしても、せめてその時の自分にとっての百点のものを世に出そうって、そう思っていたいので」 p168 「あんたが考えてることって多分、だいぶざっくり言っちゃえば、この世界とどう向き合うかって話なんだよ」 「おかしな等号だらけの世界に対して、自分はどういう判断基準を持つのかっていう話」 「そういうことを根詰めて考えられるのって、人生の中で本当に一瞬なんだよね。世界と向き合うとき、こちら側がひとりだけでいい時間。立場とか責任とか生活とか、そういうことを脱ぎ捨てて世界と向き合える時間」 「その一瞬の中でどういう問いを立ててどれだけ考え尽くしたかっていうのが、映画監督になるような人にはすごく大事なんだろうなって思うよ」 「その時間に考えることから逃げちゃうと、変だなーって等号も見逃しながらぼんやり生きていくことになるから。バランスが大事とかどうせ誰もが行きつくつまんない答えで早々に自分を甘やかすことになるから」 「答えのないことを考えていられる時間って本当に贅沢なんだよ」 p207 要は、大樹の言うことをそのまま信じているわけではなさそうで、走っている間、終始何かを試きたそうな表情をしていた。だけどそれでいて、リング上と自身の肉体以外の場の治安に対して無頓着な様子はそのままで、彼にとってはその様子がひどく心強かった。 この男はこれからも、勝手に生まれて勝手に消えていくルールから外れたところに立ち続けるだろうと思った。 彼が向き合うのは自分自身だけでいい。そうしていることを許された人にだけ宿る輝きの中に、ずっと、いてほしい。拡はそんな願いを、日が昇っていく冬の朝の中に、白い息と一緒に潜ませた。 p217 自分が尚吾とは違う道を選んだのは、凝り固まったルールから解放された場所で、ただただ心震えるものを撮りたかったからだった。だけど、自由に動き回れるように見えた場所にもすぐ、ルールは追いついてきた。そして、そのルールに殺されずやっていける方法をやっと見つけ出すころには、もうその次の新しいルールが姿を現した。拳で相手を倒すというような、勝敗が誰の目にも明らかな場所に立たない限り、次々に生まれるルールから完全に逃れることは、きっとできない。 p219 紙はそのまま、眠るわけでもなく目を閉じる。瞼の裏にあるスクリーンが映し出すのは、いつだって、故郷の島に息吹く景色たちだった。四つの季節などでは区切れない、三百六十五色のグラデーションをまとった風景たち。 大人になって技術と資金を手に入れられれば、高校生のころに体育館で行った上映会をもっと大規模にしたような催しができると思っていた。だけど、それは幻想だったのかもしれない。あの山も海も体育館も、あの瞬間の島にしか、なかったのかもしれない。 p219 「俺たちがテレビを通して観てるものって、結局、文脈とか関係性なわけだから」 例えば海外で無茶なことやらさせる芸能人Aのコーナーがあるだろ 俺たちが観て笑ってるのは、多分芸能人Aの言動そのものじゃないんだよ。そのVTRをスタジオで観てる芸能人Bとの関係性とか、Aと業界そのものの関係性とか、そういうものをひっくるめて観てるんだよ Aが重鎮であればあるほど企画の無茶さが際立つし、Bが Aの後輩で Aに昔いびられてたなんて文脈があれば最高だよな 裸踊りもゲテモノ食いもそれだけじゃ面白くない。その世界の中で誰がどういう存在で、過去に誰と誰の間にどんな関係があって、ってことの方が大事なんだよ。むしろそれさえあれば裸踊りもゲテモノ食いも何もいらない。 だから個人的に交流があるとかじゃない限り、人気インフルエンサーって肩書きで揃えたからってトークが盛り上がるわけじゃない。話す技術とか以前に関係性も文脈もこれから構築されていく人たちなんだから YouTuberの動画なんて何が面白いんだって未だに言う人いるけど、その人たちは単純にそのYouTuberのこと知らないだけなんだよな。YouTuberも芸能人もやってる企画はたいして変わらない。出演者と視聴者の関係性が成立してるのが今のところテレビの方が多いってだけ p224 どんな世界にも信じるものを揺るがそうとしてくる人間はいる。都合のいい文脈に挟み込む事でその数値をだまくらかすような悪い遺伝子が存在する。 どんな世界にいたって、悪い遺伝子に巻き込まれないことが大切なんです。1番怖いのは、知らないうちに悪い遺伝子に触れることで、自分も生まれ変わってしまうこと p235 年齢や肩書、おそらく性別までを戻り払う最大の感情は尊敬。余計な文脈を削ぎ落とし、そこにある心のみと向き合うことができれば人間関係は実はシンプルになる p239 そんな細部にこだわっても誰も気づかない、という揺らぎに負けない。 差し出す相手を騙したり、軽んじるような気持ちでものづくりに臨まない。 細部に宿った神は笑いかけてくれる。 p244 言葉ひとつとっても時間をかけて精査してこだわって丁寧に作ることが大事。どういう意図でそういう表現をしたのか胸を張って説明できるくらい考え尽くしてから作品を届けるべき p282 いま対価として支払われてるのは、お金じゃなくて時間だって話をしましたけど、最近またフェーズが変わったなと感じます。人生です。一回限りの人生を何を成し遂げることに注ぐかって考える人、特に俺ら世代に増えましたよね p321 昔みたいにみんなで一つのテレビや映画を観ていた頃と違って、誰もが好きなように発信できるし、誰もが好きなものを好きなように追いかけられるようになった p325 なんでこの人たちがオリンピックのアンバサダーなの?どこが新時代のスターなの?何ができる人たちで、どうしてその地位にいられるの? その疑問がもう古いんですよね だって実際、彼らにはものすごいたくさんのファンがいて、大企業が頼りたくなるくらいの影響力を持ってる。事実、オリンピックのアンバサダーで新時代のスターなんです。 p326 「何か特別なことができるわけじゃない人間が、日々の発信の積み重ねで知名度と影響力を得ていく。ある人にとっては無名の人間が、ある人にとっては唯一無二のスターになる。 そういうことが普通の時代になりました。能力を持つ者がスターとして君臨することだけじゃなく、持たざる者が持ちゆく過程を世に公開し支持を集めることができる。お金を生むこともできる。そんな時代になりました。誰にとってもスターなわけじゃないけど、誰かにとっての小さな星がファンクラブ的な閉鎖空間を設ければ、その中で光り続けられるようになりました」p328 結局、創り出したものにそれだけの価値があるかとか、対価に見合うほどの質なのかっていうのは、考えても仕方ないんだよな それより、これが自分の作品ですって差し出す時の心に嘘がないかどうか。俺はそこが気になる p350 劇場で映画を上映するときって、人が集まれば集まるほどワクワクするはずなんだよ。どれだけ人が集まっても、全員に同じだけの体験を提供できるって、作り手が胸を張って言えるから サロンの会員が増えていくとき、正直ちょっと怖かったろ このままだと提供できる体験が底を突く、全員を満足させられなくなるって、ちょっとは思ったろ こういうサロンですって色んな人に差し出しながら、本当にこのまま差し出し続けていいのかって、心のどっかでそう思ってたんじゃないのか p351 作ったものを差し出す時に、誰かを裏切ったりする気持ちがない作り手でありたい 物事の良し悪しはどうせ決められないんだから、せめて自分の心だけでも p354 比べてイライラして、あっちの方が質も価値も低いはずなのにって怒ってた 本当は比べられないものを比べ続けてたら、いつか本当は切り捨てちゃいけないものを切り捨てちゃいそうな気がする 生きている限り、何かを選び取ることからは逃げられない。だけど、無理やり同じ土俵に並べてこっちの方が劣っているからとか、そんなふうに考えたいわけじゃない…それくらいの曖昧さがないと、どんどん許せないものばっかり増えていっちゃいそうで怖いの p366 尚吾がずっと苦しそうに見えた。目につくもの全部、無理やり同じ土俵に並べてどっちが劣ってるか議論してるように見えたから どうにかして後輩の子を認めない理由を見つけようとしてるなって思った とにかく比べられないものを同じ土俵に上げてる感じがした。それでここがダメあれがおかしいって、無理やり文句つけてるように見えてた 自分がプライド持ってる分野ほど、自分が想定しなかったものが選ばれたときにイライラするもんね p368 これまでは色んな欲求の種類に応えるだけの発信がされてなかっただけなのかもね 私今までは自分は"大は小を兼ねる"の大なんだって思ってた。本物の料理を学んでいる自分は大を与えられるにんけんで、高度で確かな技術が1番素晴らしくて、それさえあればその下に連なるどんな欲求にも対応できるって思ってた。だから自分が差し出したものが認められないとイライラしてた"大"側の私が差し出してるものはあなたの欲求もカバーしてるはずなのにって でもそもそも欲求には大も小も上下もなくて、色んな種類があるだけ 勝手にそのジャンルで最高峰の場所で学ぶ自分は、そのジャンル全体の欲求を満たせるはずだって思い込んでた。でも私が満たしてあげられるのは、たとえ本当に最高峰の場所にいるとしても、そのジャンルの一点だけ。ピラミッドの中の一点を塗り潰す技術を学んだだけなのに、そこは頂点で、頂点を塗れる自分はピラミッド全部を塗りつぶせるつもりでいた p369 今誰でもなんでも発信できるようになって、ちょっと調べればどんな欲求にも対応してくれるものがあって…世界はこれからどんどん細分化されて、それこそオンラインサロンの集合体みたいになっていくんだろうなって思う。欲求に大小や上下があるんじゃなくて、全部小分けされて横並びになるっていうか 頂点っぽい巨大な何かが色んな欲求をまとめて満たしているように見えてた時代は終わっていくんだなって だから自分がいない空間に対して「それは違う」「それはおかしい」って指摘する資格は誰にもないんだよね全部自分がいる空間とは違うルールで成立してるんだもん。たとえ自分はそのジャンルの頂点を知ってると思っても、それが本当に頂点だとしても、頂点の場所にある一つの点だけを知ってるにすぎない だから誰かにとっての質と価値は、もうその人以外には判断できない。それがどれだけ自分にとって認められないものだとしても 最近の尚吾は、自分の創るものの質を高めようとしてるっていうより、自分はしないって決めたことをしてる誰かを糾弾することに忙しそうだった。自分が知ってる頂点はそれをしてないんだから、って怒り続けてるように見えた その作業はもうやめにしてもいいのかも その作業で守れるものって自分のプライドくらいだから そうは言ってもこんなのおかしいって叫びたくなるものに出会う時はこれからもくると思う その時のために私は、誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって思う これからはそういう戦い方になっていく気がするp370
世界に何かを発表する人にしか分からないテーマかと思ったが全くそんなことはない。アマプラでオススメから何となく流行の作品を視聴している消費者然としている人でも、クリエイター達が何を考えているのか覗くことができる。表現者は表現のあり方を。消費者は消費の在り方を、いま一度見つめ直す機会になるはず。誰かの何...続きを読むかを糾弾しない朝井リョウらしい作品。ずっと傍に置いておきたい
あああーーー、商業的すぎると見下してしまう気持ちも、見下して自分の狭い価値観に囚われていてダサいなーと思う気持ちぜーんぶ私も持ってる。。商業と芸術の両立難しい。もう一回読む
信念を貫いて自分のスタイルを崩さずにコツコツ積み上げる努力家と、世の中のやり方に沿ってアウトプットする手段をとりいち早く世に知らしめたいという世渡り派か。 どちらが正しいなんてないし、自分の信じたやり方が世の正解と交わることなんて誰が決めるのか。 比べられないものを比べ続けてたら、いつか本当に切り捨...続きを読むてちゃいけないものを捨ててしまいそうになる。 クオリティ優先でなく、いかにバズらせられるかという現代の風潮が物語っているようであった。 サブスクだとか限定だとか完全食だとか流行り物だとか、今だけ騙されていたいって思うこと、私も無意識に惹かれてることあるなって自覚しました。 人間同士の摩擦によるズレの言語化もさすがだしドキッとする。 作ったものを差し出す時に、誰かを裏切ったり騙す気持ちがない作り手でありたい。 誰かがしてる悪いところより、自分がしてる良いところを言えるようにしておきたい。 そんな逞しさを持ちたい。
細かい。とにかく細かい。 荒れ狂う時代の波によって変わってしまう価値観と質を根幹にドラマが構築され続けてて、若者からするとホントに良く、作者が議題を見定めていることが伝わる。生半可な観察眼ではない。 一方で構成はシンプル。 会話が多くてその中でひとつひとつ紐解かれていくイメージ。ただし扱いものがモノ...続きを読むなので理解するのに時間を要するときがあるし、見解の域を出ないので共感できない時もある。 でも説得力は抜群。
「質か、量か」 「伝統を守るのか、時代の流れに乗るのか」 「ニーズに応えるのか、作り手が届けたいものを作るのか」 ニーズが細分化する中で絶対的なスターはいなくなった。自分のスターは他人にとっては知らない人。そんな時代に葛藤する作り手の姿に心の奥の方が熱くなった。連休前に読めてよかった。
最後がよかった。欲求に上も下も大小もなく、ただそこにある。こうと省吾が後輩泉に言った言葉に、ひどく共感したし気持ちよかった。よく言い負かした!と思った。だから、その後の千紗の言葉にギクッとした。ただひとつ、全ての事象は人の心が動いて起こること、いたずらに弄ぶような真似はしたくないこと、今決めているの...続きを読むはそれだけ。
どっちがいいとか答えはないけど、考えてしまう問いをくれる本でした。 正解はないけど、自分はこっち!というのは選べる。
現代の若者の感情の機微、特に倦んだ感情の描写力が毎度のことながら凄い。 若者でなくとも、何処かしら感情が共有できる場面があると思う。 色んな登場人物が独白するので、テンポが悪い面もあるけど、こっちで共感してなるほど!と思ったことが、あっちから見ると確かに違うかも‥と色々思考がかき混ぜられて、自分な...続きを読むりの意見を考えちゃうのが面白いところ。またこういう読書をしたいな。
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