またしても吉川英治文学新人賞受賞作品。伊坂の翌年の受賞。
「父さんは今日で父さんをやめようと思う」…この台詞で始まる本作品。
主人公・佐和子が中学生〜高校生の間に家族や周辺で起こる出来事を綴った作品。
佐和子の家族はどれも一癖も二癖もある人達。
「父さん辞める」宣言した父。別居中である事以外、全く
...続きを読む問題の無い良き相談相手の母。
天才的な頭脳と運動神経を持ちながら、飄々とした音痴な兄・直。
この一見朗らかで平和な家族が、実はそれぞれの心に色々な問題を抱え、
ギリギリのラインで家族を形成している。
それでもこの家族の紡ぎ出す物語は優しく温かく、楽しい。
特に兄の直の性格はとても好感が持てる。落ち着いているし天才肌なのだが、人間味に溢れる。
彼女が出来てはフラれ、出来てはフラれを繰り返していたが、
ある時今までとは全然タイプの違う女の子を連れてきたりする。
その彼女とのやり取りも、微笑ましい。
父の「父さん辞める」宣言がこの物語のメインとなると思っていたのだが、
そういう訳ではなかった。
あくまで導入部のインパクトとして存在し、その後の不思議な家族生活に一味添えている感じだ。
メインは佐和子である。
佐和子には大浦勉学という、奇妙な名前の彼氏が出来る。
彼の性格はまっすぐで馬鹿正直。(というより馬鹿?)
佐和子に対しても全力で好意を伝えてくる。
この大浦君の存在も、この物語の温かさや優しさを表しているように思う。
物語のラスト、衝撃的な事があった後に徐々に家族が割と普通の家族として機能し始める。
悲しさも残るが、この家族ならば大丈夫なんじゃないかと思え、安心感もある。
さすがに文学賞受賞作。読ませます。
「風に舞い上がるビニールシート」に通ずる何かがある。かも。4点。