人を救うことは難しいことだけど、人を掬うことは実は簡単にできるのかもしれない。
主人公の梨木匠くんは人からふとこぼれ落ちた感情が、深く手の届かない地に着く前に拾い、掬うことができる。
まとめると、人の心が読めて人に寄り添うことができる人。
まっすぐに人と向き合い、相手が求めていたであろう言葉をさっ
...続きを読むと言ってのけることができる。
人を守る。助ける。救う。そう考えると難しいような気がしてしまう。
だけど、人の感情を掬う。拾う。寄り添う。それは簡単なことなのかもしれない。
何気なく口にした言葉で人を傷つけてしまうことと同じで、何気なく口にした言葉や自分の行動で人を掬うことだってできる。
落ち込んでいた香山くんに声をかけたように、河野さんが初めて教室に入った時、梨木くんがTシャツを見せたように、大竹さんと常盤さんに寄り添い続けたように。
少し光に照らされるくらいがちょうどいい。
後は自分の力で前に進んでいく。
タイトルの「掬えば手には」とはこういうことではないかと思った。
そんな梨木くんのまっすぐさ、勇気、人を想う心が梨木くんに関わる人達を暖かく照らしていた。
彼は人が良過ぎるのではないかと、読み進めながら少し心配にも思った。
誰にでもできることが普通なのか、普通ではないのかそれは本人の捉え方次第だと思う。
誰にでもできることをするのが難しい人だっている。その人にとったら、普通のことではないし、羨ましいことかもしれない。
普通とは多数派の人が声を大にして言っているだけ。普通にいいも、悪いもないと思う。
自分と向き合うのは、自分を1個人で見ることが大切だと思う。
自分は他とは違う1人の人間だと。
最後に常盤さんは行ってしまった。
でも常盤さんを掬えば自分の手には光が残った。(最終ページ14行目)
その光がいつか普通であることに、嫌気がさしていた自分に対しての自信へと変わるのだろう。
初回限定の別冊子のアフターデイも拝読。
後日談として、物語の最後に載せていて欲しかった。
そのくらい彼ら彼女らの今後が気になる終わり方だった。
少も、常盤さんは元アルバイト先のNONNAを「居心地のいい店でした」と口コミしていたことがよかった。
元気でなんとかやっていると分かった瞬間だった。
そして登場人物たちの今後が、明るいものでありますようにと願わずにはいられない。
そんなお話しだった。