小説・文芸の高評価レビュー
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Posted by ブクログ
俵万智さんが言葉について、子育てから、ドラマ、SNS、ラップ、そしてもちろん短歌と、様々な方面から探っています。
SNSやWebコンテンツからは日々新しい言葉が生まれ、呟かれた言葉はあっという間に浸透し、だんだん形を変えたりも。普段気にもとめなかった言葉の面白さと「生きてる!」感に気にづきました。
バズる言葉には流行る理由があったんだ、言われてみたらどれも納得です。
言葉を組み立てる作業でも、助詞の違いや単語の位置で印象はガラリ。そこはやっぱり日本語難しい〜、プロってすごい!と唸るばかり。
俵さんの語り口がとにかく楽しく、何よりやっぱり所々に挟まれている短歌に「短歌すげー」ともなります。
あとは息子さんの「オレが今マリオ」発言!子どもの言葉にハッとする事もよくありますが、これは胸アツでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ長いが読んで損はない。
まさに読書の良い部分である知らない世界、知らない心情を知ることができる。
尚且つならないのだが、憧れる要素がある。それが二進法で生きる世界であった。
そんな世界の中で主人公の生き方は危なっかしく緊張感が常にある、長い物語で何重にもなって擬似体験できるから恐ろしさも増す。賭博、妊娠、死期を渡りながら成長する度合いも見える。
「リアリズム絵画は意味や現実に奉仕する。人間が主ではなく従であるという態度。ゆえに謙って自然と現象を模写する。物を描く。ところがニヒリズムの絵画は自分自身が現実であり、新しい意味であるという自覚をもった絵画であるわけだ。だから画家は意志的に世界と意味、現象と現実を描き換える」
アクティブやパッシヴなニヒリスト。わかったようで、わからぬが物語の締めとして腹落ちせざるを得ない論理でよかった。 -
Posted by ブクログ
下巻は後輩エバの子供が生まれることを軸に、世之介の過去の恋愛、世之介誕生の瞬間、ドーミーの住人たちのささやかな変化などが描かれる。吉田修一さん、世之介を存在させてくれて、ありがとう。いやー、宝物のような本だ。だったら文庫になるまで待つなという話だが、いいことはわかっていたので、とっておいたのだ。
映画かも楽しみ。もちろん高良健吾さんだよね。年もちょうどだ。想像するだけで、泣けてくる。
以下、ぐっときたとこの抜き書き。
「「だからリラックス。この世の中で一番大切なのはリラックスできてること」ソーダバーを齧りながらではあるが、世之介は胸を張っている。」
「自分ではなく、誰かのことを思えるということが、どれほど恵まれていて、贅沢なことなのか。きっと二千花は気づいていたのだと。」
「いいか、人って本当にそれぞれなんだよ。心配のし方、喜び方、怒り方、悲しみ方……、本当に人それぞれなんだよ」
「なぜか、ずっと彼女を待っていたような気がした。咲子から子供ができたと告げられた時よりももっと前、咲子と出会った時、いや出会う前、カメラマンになると決意した時、いや、そのもっと前から、ずっと待っていたような気がしてならない。」
「……私なんて恵まれた人生じゃないんだろうけど、それでもこんな人生の中に今日みたいな、こんな夜があったんだと思えば、なんかそれで満足かも。そんな夜だな―今日は」
「二千花ちゃんがそこにいた世界と、最初からいなかった世界ではやっぱり何かが違う。それがね、一人の人間が生きたってことですよ」
「私の人生なんてさ、わりと平凡なほうだと思うけど、でもそんな中に今日みたいな日があったと思ったら、きっと満足だな。自分の人生に大満足。そんな一日かも。今日は」 -
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横道世之介38歳。修学旅行や遠足についていって生徒たちのスナップ写真を撮ったり、レストランのメニュー写真を撮ったりするような、カメラマン。住んでいるところは、吉祥寺の田舎にあるドーミーという下宿屋で、そこには大学生(男)と20代書店員(女)と40代サラリーマン、それから修学旅行で親しくなった先生の家の息子(高校中退引きこもり)が住む。カメラマンとして一時脚光を浴びた先輩、同じ事務所に所属する後輩などが出てくる。ドーミーの経営者(親から引き継いだ娘さん)とは恋人関係であるらしいが、七年前に亡くした婚約者を引きずっている。今回の世之介は、そんな状況である。
みんなで集まってご飯を食べたり、誰かの話をしたり、どこかへ行ったり、そんななんでもない日々の生活が紡がれる。そんな中で、誰かの心配をしたり、ちょっと仕事が認められたり、小さな起伏がやってくる。もうじき40歳になるにしては、浮ついたような生活をしているように見えるが、内心焦ったり悩んだりはしているものの、今、ここを大事にする世之介の生き方は、変わらない。ああ、素晴らしい小説だなと、あらためて。やっぱり私、吉田修一さんが、一番好きな作家だ。以下、好きなところの抜き書き。
「でもどんな人に出会うかなんて、なかなか自分じゃ選べないじゃん。だったら、せっかく出会った誰かを大事にする方がいいんじゃないかなって」
「なんていうか、結局、幸せってその低いところにあるような気がするんですよね」
「人ってさ、変われるんだよ。土下座してる南郷さん見て、俺、なんかそう思ったなー。嫌な奴に変われた人間はさ、同じようにいい奴にも変われるんだな。変わる才能があるんだから」
「もし一億円当たったら、どうしようかなーと、宝くじを買って以来、ずっとそう思っていたのは間違いない。
そしてそう思っているときの幸福感と言ったらなかったのである。」
「な、なんで生まれてくるかって。……それはあれだよ。なんでお前が生まれてきたかって言うとね、前世でお前がいろんな人を大切にしたんだよ。そのいろんな人たちがまた生まれ変わって、今のお前を大切にしてくれてるんだよ……」
「世之介は小さな春でも探すようにベランダからの景色を見渡した。「そうだなー。俺だったら、こう思いたいかなー。『あー、いっぱい笑った。あー、いっぱい働いた。いっぱいサボって、そんでもって、いっぱい生きたなー』って」 -
Posted by ブクログ
仕事で心が荒んだ時、疲れた時に、この物語に没頭すると自然と心が回復してきて、頭の中のもやもやが洗われる。読み進めるうちに、自分を大切にして日々健やかに生活していこう、と思い直させてくれる。
シャールさんの提供するまかない、登場する料理の描写にはなぜか自炊意欲をかき立てられる感じがして、自分も丁寧に生活したいなと思わせてくれる。
例えばシャールさんがいつも淹れてくれるお茶があるのだが、「湯気と共にシナモンとジンジャーの香りがふわりと立ち昇る、ハーブとスパイスの効果で夏はほてりが引き、冬は体が温まる…」みたいな丁寧な描写で表現されるので、私もちょっと作ってみようかな、飲んでみたいなぁみたいな気持ちになる。食べ物、食材の描写が素敵で癒される。
元エリートサラリーマンであり、社会に揉まれた経験や紆余曲折を乗り越えたのだろう、今はドラァグクイーンとなったシャールさんだからこそ、発する言葉に説得力があって温かく、心に染みるなと思った。登場する常連さんとお針子さんたち、シャールさんの関係性にはクスッと笑える場面も多く、心が和む。次の巻も読むのが楽しみ。
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