あらすじ
明治新政府軍の来襲で家族や友人を失った二本松藩の少年タキは、人並外れた強さをもつ怪しげな「キ」と名乗る一団に窮地を救われ、秋姫という目の見えない老女の家に匿われることになる。理不尽な命令ばかりする秋姫と衝突してばかりのタキだったが、やがて奇妙な絆が生まれ始める。だが、政府軍の魔の手が再び迫り……(「鬼婆図探訪」)。その他、人語を話す大猿が書いた幻の書「狒々日記」をめぐる回想と証言を描く「夢狒々考」、争乱と復讐に満ちたとあるキの激動の半生「最後のキ」など全四編を収録。若き民俗学者・鶯谷玄也が、文明開化と共に姿を消した歴史の闇に生きる集団「キ」の痕跡を追う連作集。
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Posted by ブクログ
明治維新期の混沌、激動の様子がよく描かれていた。最初の東北戦争がとても強烈で、一気に引き込まれた。戦い前の少年兵達の空虚な高揚感や、実際に戦闘が始まってからの呆気ないほどの敗走、敗戦後の無惨な状況など、淡々とした語り口ながら、とてもリアルだった。少年兵が指の力が足りずに鯉口すら切れない様子とか、細かいところではあるが、確かにそうなるよな、と思った。そうした描写が的確であるがゆえに、「キ」や「狒々」についても、本当に存在しても不思議ではないような実感が感じられた。「最後のキ」の話の因果の絡み方も、読んでいて落とし所のないような、そのまま割り切るしかないような、そうした感覚にさせられるのも、良かった。
リアルさと幻想的な雰囲気のバランスが絶妙で、最後の終わり方も、良い感じに締めくくられたと思う。
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若き民俗学者・鶯谷玄也は、鬼とも妖怪ともいわれる超常の集団「キ」の痕跡を追ううち、不可思議な物語と数奇な因縁を知り…。「鬼婆図探訪」など全4編を収録する連作集。
恒川光太郎作品のうち本作はダークな色合いの作品。「キ」をめぐる数奇な因縁は、ややこじつけの感もあったけれどなかなか興味深く、中盤以降は一気読みした。恒川ワールド全開。
(A)
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恒川光太郎が戻ってきた。
最近の作者はSFやファンタジーに趣向があり、初期作品の雰囲気は影を潜めていた。
そんな中、『ジャガー・ワールド』に続けて世に出た本作は初期の恒川光太郎を想起させる物語だ。
伝承や民族史を主題に、“日常の背後にある世界“が存分に描かれている。類似作品は『草祭』だろうか。
この頃の作品も好きだが、あの頃の恒川光太郎を求めている人に是非手に取って欲しい。
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人の道を、ほんの少しだけ外れたところ。
そこに立って、生きている人たちがいる。
その人情と合理性のバランス。
冷たくもあり、
でも、どこか優しい。
これが、作者の通奏低音なのだと思う。
舞台は、明治だったり、
西洋だったり、
現代だったりするけれど、
今回は「和もの」。
代表作の『夜市』と、
どこか同じ匂いがする。
暗くて、怪しくて、
でも、ただ怖いだけじゃない。
その世界を描くのが、
この作者は、ほんとうに上手い。
たぶん、主人公が子どもであることが多いからだろう。
低い視線。
夜は、大人よりも、ずっと大きい。
提灯の明かりも、
路地の影も、
世界のほうが、子どもを包み込んでしまう。
そして物語は、
古代から続く大きな神話を、
どこかゲームのように読み替えていく。
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よくある「影の人々」もの、といえばそうなんだけど、設定もよくある感じだけど、ひとりひとりの関係性や心持ちや情景が積み重なってとても厚みのある物語だった。奇抜じゃないのがむしろ良くて、長い旅の夢を見てたみたいだった。
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美術商の武田は幕末の生まれで去年死去した画家の遺した絵を検分するために、その邸宅へと向かうことになった。その武田に同行する男がいた。彼は鶯谷玄也。民俗学者をしている彼は、明治の中頃までは確かにいた存在である〈キ〉について調べているらしい。〈キ〉は鬼とは違っていて、また妖怪の類ともすこし趣きが違うみたいで……。
縁はどこにでもあって、そして思いもよらない場所でも繋がっている。一読して、まず言葉が頭に浮かびました。謎めいた存在である〈キ〉を巡って展開される物語は、ときおり壮絶で血腥い光景を浮かび上がらせながらも、つねにどこか切ない余韻があるのが印象的でした。去年の末頃に出版された同著者の『ジャガー・ワールド』はマヤ文明を長編4、5冊分くらいの長大な歴史ファンタジーでしたが、こちらは短編の名手振りが味わえる、短編同士の繋がりがとてつもなく綺麗な連作短編集で、併せて読むと、改めて著者の作風の幅の広さを感じられるので、ぜひ二冊とも読んで欲しいなぁ、と思いました。
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この本は個人的に夜市に匹敵する程最高の1冊でした。文章、言葉選び、ストーリー、全てが良すぎた上に最後の最後でやってくれます。切なさと、どこか闇が残る素晴らしい作品。
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『風の古道』や『金色機械』など、これまでの恒川先生の作品を思い出す話だった。でも、新しい。
ユーモアと殺伐さと感動が入り混じっていて、一言では言い表せない読後感だった。
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鬼か幽霊か…幕末から明治にかけ、歴史の舞台裏で封印されてきた「キ」の存在を描く伝奇小説 #幽民奇聞
■あらすじ
時は明治も終わりの頃、民俗学を研究している若き学者の鶯谷玄也。彼は明治の中頃までは確かに存在した集団「キ」の存在を調査していた。それは鬼か幽霊か、そして彼はなぜ追い続けるのか… 歴史の闇に生きる「キ」の痕跡を追う連作集。
■きっと読みたくなるレビュー
幕末から明治、人々が窮屈な生活を送っている時代の人々… 歴史の舞台裏で封印されてきた「キ」の存在を描く伝奇小説です。
若き民俗学者の鶯谷玄也が「キ」について取材を進めていく中、その時代を生き抜いた人々の話を聞くうち「キ」の正体が徐々に見えてきて… という筋立て。全4篇の連作短編になっていますが、最後はエピローグのような掌編ですので実質3篇です。
嘘か真か、不思議な物語だったなー。もちろんフィクションなんでしょうけど、なにもない所に煙は立たないっていうし、きっと元ネタはある。妙にリアルに迫る感じで、読んでるとゾゾ気が立つんすよね。
描かれる舞台が幕末という不安定な時期、だからこそ語られる逸話も辛辣なものばかりなんです。法律も秩序もない、力と欲望でねじ伏せられた汚らしい世の中を丁寧に描いていて、世も末感が抜群なんすよね。
そして最後のエピソードが大好き。何があっても、どれだけ時代が進んでも、人間が大切してきたものは何なのか。全編通して胸が苦しくなるお話でしたが、優しくまとめてくれました。
●鬼婆図探訪
江戸時代の末期、幕府軍と新政府軍の戦いが行われた東北の地。敗戦の末、落ち延びた少年タキは盲目の鬼婆に出会う…
生命の淵でないと体験できないような逸話。胸の奥に渦巻く怒りを、どこへ向ければいいのか分からない。神も鬼も紙一重、どんなに渇望しても、人間にできることなど微々たることと感じてしまう。夢か現か幻か、生死の境をさまよう描写があまりにも強烈でした。
●狒々日記
狒狒が書いた本があるという… 狒狒は読み書きができるのだろうか? その本を持っているという人物を訪れるのだが…
本作では内側から「キ」が語られる、狒狒(ヒヒ)とはどういった存在なのか。興味津々で読み進めちゃう。人の繋がりや、運命の不思議な巡り合わせを感じさせてくれる物語です。
●最後のキ
「キ」に属することになった人たちの物語。彼らは何のため、どうやって生き残ってきたのか。決して語られない歴史の裏側…
激動の時代ともあれば、こんな出来事もあったでしょう。そして「キ」がこういった役割になるというのも人の世の定め。時代は移ろうものの格差社会は令和時代であっても残っています。歴史小説ですが、今こそ読む意義を感じる一冊でした。
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民俗学者の鶯谷玄也は、「キ」と呼ばれる謎の存在について調査を進めるうち、とある画家の残した絵と出会う。そこから人づてに「キ」の謎を解明していく中で見えてきた驚きの事実とは。
ホラーというよりは伝奇小説という感じ。「キ」そのものに怖さはさほどなく、むしろ自分たちの欲望のためなら手段を選ばぬ人間たちの方にこそ恐ろしさを感じた。
エピローグはとても美しく、儚い情景がキを巡る長い旅の終焉を彩っていて素晴らしかった。
Posted by ブクログ
恒川光太郎さんの作品初めてでしたが、読み進めていけばいくほど面白かったです。
謎の「キ」を追うなかで、「必殺仕事人」のような人たちが出てきたり、御伽話のような「狒々 ( ヒヒ )」の話が出てきたり。
先日読んだ「仇討」の話もあったりで次第にワクワクしてきました。
まさに不思議なキ縁の因果です。
狒々は日本では妖怪話に出てくるみたいですが、賢く優しい最後のヒヒさん、当時の山奥の生活見てみたかったな〜。
読後感が凄く良かったですね!
Posted by ブクログ
裏の世界を生きる、人外のものとも思える、”キ”にまつわる短~中編集。刀城言耶シリーズがちょっと思い浮かんだりもして。同シリーズの大ファンとしては、こちらもシリーズ化して欲しい。
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「鬼婆図探訪」「夢狒々考」「最後のキ」「すすき野原の先で」の4編。最後の一編は全体のエピローグとして添えられた数ページの掌編のため、実質は3編構成といえます。ダークファンタジーというよりは「伝奇小説」という言葉がしっくりくる、江戸末期から明治にかけての物語です。
これぞ恒川光太郎、まさに面目躍如といったところでしょう。
物語の軸となるのは「キ」と呼ばれる謎の集団。短編タイトルにある鬼婆や猩々(しょうじょう)、さらには少女の姿をした御屋形様など、この世ならぬ者たちが山中の隠れ里に住んでいるだけでなく、この集団にはごく普通の人間も属しており、街中にアジトを構えるなど、人知れず社会に根を張っているのが特徴です。
彼らは人から仇討ちなどの依頼を受け、独自に調査し、「討つに値する」と言う確証を得たら、秘密裏に抹殺する。(この例を出すと少し俗っぽくなってしまいますが、なにやら「必殺仕掛人」の様です)。そうした中で、時代に押しつぶされ、様々な苦悩を経ながら成長する主人公たちの姿が描かれます。
読後感は、まるで一編の物悲しい挽歌のようです。「最後のキ」という題が示す通り、彼らは歴史の表舞台から消えて行きます。けれど、その母集団はどこかで密かに生き永らえ、またいつか顔を出す日を静かに待っている……そう信じたくなるような余韻が残りました。
Posted by ブクログ
移り変わっていく時代を後世から探しに行くような物語。人ではないものも人であるものも存在したけれど、未来からそれを見た時に「本当にそれは実在したんだろうか?」と疑問の余地が残って、残りながらも「実在してくれていたらいいな」と願ってしまうような郷愁の気持ちを感じさせるのがうまい。きっとこれからの時代でますます彼らの空気は薄くなっていくんだろうけど、それでもどこかに薄らと彼らがいることを信じたくなる。