あらすじ
明治新政府軍の来襲で家族や友人を失った二本松藩の少年タキは、人並外れた強さをもつ怪しげな「キ」と名乗る一団に窮地を救われ、秋姫という目の見えない老女の家に匿われることになる。理不尽な命令ばかりする秋姫と衝突してばかりのタキだったが、やがて奇妙な絆が生まれ始める。だが、政府軍の魔の手が再び迫り……(「鬼婆図探訪」)。その他、人語を話す大猿が書いた幻の書「狒々日記」をめぐる回想と証言を描く「夢狒々考」、争乱と復讐に満ちたとあるキの激動の半生「最後のキ」など全四編を収録。若き民俗学者・鶯谷玄也が、文明開化と共に姿を消した歴史の闇に生きる集団「キ」の痕跡を追う連作集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
恒川光太郎が戻ってきた。
最近の作者はSFやファンタジーに趣向があり、初期作品の雰囲気は影を潜めていた。
そんな中、『ジャガー・ワールド』に続けて世に出た本作は初期の恒川光太郎を想起させる物語だ。
伝承や民族史を主題に、“日常の背後にある世界“が存分に描かれている。類似作品は『草祭』だろうか。
この頃の作品も好きだが、あの頃の恒川光太郎を求めている人に是非手に取って欲しい。
Posted by ブクログ
人の道を、ほんの少しだけ外れたところ。
そこに立って、生きている人たちがいる。
その人情と合理性のバランス。
冷たくもあり、
でも、どこか優しい。
これが、作者の通奏低音なのだと思う。
舞台は、明治だったり、
西洋だったり、
現代だったりするけれど、
今回は「和もの」。
代表作の『夜市』と、
どこか同じ匂いがする。
暗くて、怪しくて、
でも、ただ怖いだけじゃない。
その世界を描くのが、
この作者は、ほんとうに上手い。
たぶん、主人公が子どもであることが多いからだろう。
低い視線。
夜は、大人よりも、ずっと大きい。
提灯の明かりも、
路地の影も、
世界のほうが、子どもを包み込んでしまう。
そして物語は、
古代から続く大きな神話を、
どこかゲームのように読み替えていく。
Posted by ブクログ
よくある「影の人々」もの、といえばそうなんだけど、設定もよくある感じだけど、ひとりひとりの関係性や心持ちや情景が積み重なってとても厚みのある物語だった。奇抜じゃないのがむしろ良くて、長い旅の夢を見てたみたいだった。
Posted by ブクログ
美術商の武田は幕末の生まれで去年死去した画家の遺した絵を検分するために、その邸宅へと向かうことになった。その武田に同行する男がいた。彼は鶯谷玄也。民俗学者をしている彼は、明治の中頃までは確かにいた存在である〈キ〉について調べているらしい。〈キ〉は鬼とは違っていて、また妖怪の類ともすこし趣きが違うみたいで……。
縁はどこにでもあって、そして思いもよらない場所でも繋がっている。一読して、まず言葉が頭に浮かびました。謎めいた存在である〈キ〉を巡って展開される物語は、ときおり壮絶で血腥い光景を浮かび上がらせながらも、つねにどこか切ない余韻があるのが印象的でした。去年の末頃に出版された同著者の『ジャガー・ワールド』はマヤ文明を長編4、5冊分くらいの長大な歴史ファンタジーでしたが、こちらは短編の名手振りが味わえる、短編同士の繋がりがとてつもなく綺麗な連作短編集で、併せて読むと、改めて著者の作風の幅の広さを感じられるので、ぜひ二冊とも読んで欲しいなぁ、と思いました。
Posted by ブクログ
この本は個人的に夜市に匹敵する程最高の1冊でした。文章、言葉選び、ストーリー、全てが良すぎた上に最後の最後でやってくれます。切なさと、どこか闇が残る素晴らしい作品。
Posted by ブクログ
『風の古道』や『金色機械』など、これまでの恒川先生の作品を思い出す話だった。でも、新しい。
ユーモアと殺伐さと感動が入り混じっていて、一言では言い表せない読後感だった。
Posted by ブクログ
恒川光太郎さんの作品初めてでしたが、読み進めていけばいくほど面白かったです。
謎の「キ」を追うなかで、「必殺仕事人」のような人たちが出てきたり、御伽話のような「狒々 ( ヒヒ )」の話が出てきたり。
先日読んだ「仇討」の話もあったりで次第にワクワクしてきました。
まさに不思議なキ縁の因果です。
狒々は日本では妖怪話に出てくるみたいですが、賢く優しい最後のヒヒさん、当時の山奥の生活見てみたかったな〜。
読後感が凄く良かったですね!
Posted by ブクログ
裏の世界を生きる、人外のものとも思える、”キ”にまつわる短~中編集。刀城言耶シリーズがちょっと思い浮かんだりもして。同シリーズの大ファンとしては、こちらもシリーズ化して欲しい。
Posted by ブクログ
「鬼婆図探訪」「夢狒々考」「最後のキ」「すすき野原の先で」の4編。最後の一編は全体のエピローグとして添えられた数ページの掌編のため、実質は3編構成といえます。ダークファンタジーというよりは「伝奇小説」という言葉がしっくりくる、江戸末期から明治にかけての物語です。
これぞ恒川光太郎、まさに面目躍如といったところでしょう。
物語の軸となるのは「キ」と呼ばれる謎の集団。短編タイトルにある鬼婆や猩々(しょうじょう)、さらには少女の姿をした御屋形様など、この世ならぬ者たちが山中の隠れ里に住んでいるだけでなく、この集団にはごく普通の人間も属しており、街中にアジトを構えるなど、人知れず社会に根を張っているのが特徴です。
彼らは人から仇討ちなどの依頼を受け、独自に調査し、「討つに値する」と言う確証を得たら、秘密裏に抹殺する。(この例を出すと少し俗っぽくなってしまいますが、なにやら「必殺仕掛人」の様です)。そうした中で、時代に押しつぶされ、様々な苦悩を経ながら成長する主人公たちの姿が描かれます。
読後感は、まるで一編の物悲しい挽歌のようです。「最後のキ」という題が示す通り、彼らは歴史の表舞台から消えて行きます。けれど、その母集団はどこかで密かに生き永らえ、またいつか顔を出す日を静かに待っている……そう信じたくなるような余韻が残りました。
Posted by ブクログ
移り変わっていく時代を後世から探しに行くような物語。人ではないものも人であるものも存在したけれど、未来からそれを見た時に「本当にそれは実在したんだろうか?」と疑問の余地が残って、残りながらも「実在してくれていたらいいな」と願ってしまうような郷愁の気持ちを感じさせるのがうまい。きっとこれからの時代でますます彼らの空気は薄くなっていくんだろうけど、それでもどこかに薄らと彼らがいることを信じたくなる。