小説・文芸の高評価レビュー
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Posted by ブクログ
すごい厚さの本でしたが、文章が視覚に訴えかけてくる大自然の模様や羆の強靭さに圧倒されながら、あっという間に読み終えました。
全部実話というのがまた恐ろしい。
羆は食糧を獲得すること、厳冬を越えること、怪我を負っても自分の舌だけが手当の方法という点でも、厳しく過酷な大自然の中をからだひとつで生きている。はなから人間が太刀打ちできる相手ではないんだなということを身につまされたような読書体験でした。
戸川幸夫さんの『羆風』は三毛別人喰い羆事件の羆側の思いを代弁しているかのような切り口で描かれており、“人間には人間のルールがあり、羆には羆のルールがある“という表現が今の熊被害を見た時にも、そういうことかと妙に納得させられるものでした。
マタギの文化を知り、怖さだけでなく羆や大自然に対する畏敬の念がより強くなりました。
読んで良かった一冊です。
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Posted by ブクログ
単なる「イヤミス」にとどまらない、リアルなリーガルサスペンス
世間では「衝撃の胸糞イヤミス」として語られることの多い作品だが、実際に読んでみるとそれ以上に「法と弁護士の実務世界」が非常に丁寧に描かれており、知的な学びの多い一冊だった。
物語は二部構成で進む。第一部の少年期は、事故で両親を失った無力な主人公が境遇ゆえに言いなりになる理不尽さに納得がいく。一方で、大人になり弁護士となった第二部でも後手に回り続ける姿には、恐怖というよりもどかしさやイライラを覚える場面もある。
しかし、その葛藤の裏には「法に携わる者としての制約や職業倫理」という現実的な壁が存在する。過激なサスペンスの煽りに惑わされず、法の限界やプロフェッショナルの苦悩を描いたリーガルドラマとして読むと、非常に読み応えのある作成。
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Posted by ブクログ
ネタバレ読書感想|絆回廊 新宿鮫10
大沢在昌の人気シリーズである新宿鮫シリーズも本作で2桁の大台に乗る10作目となった。
とはいえ、作品のテイストとしては、二桁に乗ったことを祝うような作品ではなく、これまでの中でも最も辛い試練が鮫島に襲いかかることになる。
このシリーズは新宿鮫というメインタイトルの前に、その作品を表すサブタイトルが主要タイトルとしてつく。本作の場合は「絆回廊」にあたるのがそれで、まさに鮫島の対面することになる敵側と、鮫島の側の両方に絆が重要なキーワードになって物語を進めていく。
まず本作で鮫島が向かい合うことになるのは、中国人犯罪組織である金石という組織だ。最近数作のシリーズで暴力団対策法の影響に日本の暴力団というのはすでに勢いを失ってしまっており、代わりに外国人組織が新宿で跋扈している。本作における金石は、そのような外国人暴力組織という顔を持ちつつも、構成員が日系人残留孤児2世や3世ということで、日本人としての顔も持っている。彼らは日本と中国の間で、いわばアイデンティティがない存在として描かれており、これまでにない暴力性を特性としている。日本の警官である鮫島に対しても、躊躇はなく、作中においても2回にわたって襲撃を仕掛けてくる。
一方で、本作はその金石に対する日本人側の敵役として、樫原茂という人間を配置する。この樫原は、かつて新宿で対立する団体の構成員を殺したことにより、20年にわたって刑務所に入っていた人間である。その彼はその事件で生まれた因縁を清算するために、鮫島の上司である桃井を付け狙い新宿に舞い戻ってくる。
さらにその樫原を支える人間として、トシミという名の人物も物語に関わってくる。一人称で書かれているために読者はしばらく気がつくことはないのだが、オカマである彼は二十二年間という年月をひたすら、かつて一瞬だけ知り合った橿原を支えるために使い続ける。そしてその絆は本作の中で凄惨な事故を引き起こすことになってしまう。
一方鮫島の方も、これまでシリーズの中で彼を支え続けてくれた晶と桃井という二人の人間を同時に失うことになる。
晶とは彼女がボーカルを務めるバンドの薬物事件による影響、桃井は殉職という差があるものの、彼が人間であり警察官であるために重要だった二つの絆を同時に失ってしまうのだ。
物語の最終版、全てを失った鮫島はそれでも警察官であることを続けること誓い、樫原とトシミを逮捕することに成功する。しかし、既に宿願を達成した橿原にとっては、逮捕は受け入れられる最後の結末でしかなく、また彼を思い続けるトシミにとっても、逮捕は絆の確認でしかなかったことが語られて、物語は終わる。
この後もシリーズが続いていくことことが既にわかっている今では危惧はないのだが、当時はこの間でシリーズが完結すると思った人が多かったらしい。とはいえ、金石との因縁はまだ始まったばかりであり、次に繋がる伏線も本作ではしっくりと張られている。
大切なものを失ってしまった鮫島は、さらに純度の高い警察官として新宿を歩き続けることになるのだろうか。
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