ブックライブの書店員おすすめレビュー

小説・文芸 のおすすめレビュー

  • ブックライブ書店員

    自分の発言や意思に、どれくらい自分がいるだろうか。場所や環境、相手、それぞれが違えば、同じ意見にはならないのではないだろうか。

    主人公の空子は、他者をトレースして自分の性格を作り上げていた。相手が望む発言や態度を瞬時に察し、それを吐き出すだけの人間になる。無味無臭な日々だが、彼女にとっては「一番楽なこと」が大事だった。家では父親と共に母親を都合よく使い、学校ではヒエラルキーの高い友人の傍に立ち、いじめに加担する。日常に潜む性犯罪者には“わきまえた女性”として振る舞い、やがて妻となれば「夫から見て使用価値のある女」として生きる。そんな彼女が行き着く先とは……。

    文字を追うことで、ここまで傷つくことがあるだろうか。自分が環境に流されてしまっていることも、知らないふりをしていることも、日常で感じる絶望も、それらが思い出されては苦しくなった。空子が行き来する世界は、実際にこの社会に存在する“世界”だ。私たちはいつの間にか、同質の階層の中でしか人と関わらなくなり、この社会に“世界”を何個も作っている。そして、その“世界”は互いに無関心である。

    本書は、ユートピアの先にあるディストピアを見届ける覚悟が必要だ。安心や幸福とされる暮らしと個を重視することの矛盾を、直視しなければならない。

    2025年06月02日
  • ブックライブ書店員

    『あなたにほめられたくて:犬の十戒』は2008年に映画「犬と私の10の約束」として多くの人々に感動を与えた本作。
    映画公開後、『犬と私の10の約束』として新たに書籍化もされ幅広い世代に愛されています。
    本作はワンコと暮らす際に必ず理解しなければならない重要なメッセージが詰まった作品です。

    長年ワンコと寄り添い生きてきた方にとって、書かれていることは当たり前のことです。
    たった数行の言葉に涙する方も多いのではないでしょうか。

    しかし、昨今では当たり前のことがキチンと理解できないまま、ワンコを"買って"しまう方もいます。
    これにより不幸なワンコたちが増えてしまっていることも知る必要があると考えます。

    初めてワンコと一緒に暮らす方、ワンコを迎えるすべての人に向け、まず、
    「ワンコとともに生きるということはどういうことなのか」、覚悟や責任について、ワンコが語り掛け教えてくれます。

    たった10個のワンコからのお願いごとです。
    本作を読むことで、忙しい日々の中で忘れてしまいがちな、ワンコとの絆やその存在の尊さを、改めて考えるきっかけとなるのではないでしょうか。

    世界中が涙したとも言われる本作。
    ぜひ書籍と映画両方を手に取り、ワンコとの絆をより深めてください。
    そしてワンコと過ごす一分一秒の大切さをかみしめてみてください。

    2025年04月01日
  • ブックライブ書店員

    繁殖犬。それは繁殖業者(ブリーダー)のもとでペットショップや個人に販売するための仔犬を産ませるための親犬を指します。
    産んでも我が子を育てることはできず、ただ産むだけの存在として扱われることも多いのが現状です。

    近年、悪質なブリーダーに関するニュースが後を絶ちません。
    本作は、悪質なブリーダーのもとで生まれたチワワの女の子が、自身も悪質なブリーダーの繁殖犬としてお母さんと同じ姿になり、
    初めてお母さんの苦しみを知ります。
    最後に女の子が「華」というはじめての、「本当の名前」をもらうまでの壮絶な、そして過酷な物語を、
    静かに向き合って読んでいただければと思います。

    作中、かなりショッキングな描写がありますが、これが日本のペット業界の姿の一部です。
    もちろん良心的なブリーダーもたくさんいますが、反面、悪質なブリーダーや保護ビジネスが後を絶たないのも事実です。

    擬人化しているからだけでなく、華ちゃんの表情をありのまま受け取ることで悲しさや苦しみが伝わってきます。
    私は本作を読んでは苦しくなり、何度も読み続けることができなくなりました。
    手を止めてはまた読んで、苦しくなっては手を止めてを繰り返し、泣きながら読み切りました。

    ペットショップに並んでいる子、ペットショップに並ぶことすらできなかった子、ペットショップに子を並べる為だけに強制的に産ませられる母犬。
    華ちゃんをにんげんに置き換えて読むとどうなるでしょうか。
    私たちが住む日本のペット業界がどれだけの犠牲の上に成り立っているのか、事実から目を背けずしっかりと知る必要があると感じます。
    作者もあとがきで伝えていますが、単純に「かわいそう」「泣ける」ではなく、何かの行動を取るきっかけとしていただればと思います。

    2025年03月07日
  • ブックライブ書店員

    オーブリー・ビアズリーという画家を、皆さんご存じでしょうか?
    彼は19世紀イギリスの画家で、非常に耽美的で退廃的な作品が特徴です。このお話は、そんな耽美主義の鬼才とも呼ばれるビアズリーについての作品です。

    この作品の醍醐味は、何といってもオスカー・ワイルドとの関係性、そして姉・メイベルの描写です。
    ワイルドとは、『幸福な王子』や、この小説の題にもなっている『サロメ』を手掛けた小説家のことです。
    ビアズリーは実際にワイルドの『サロメ』の挿絵を描いているので、関係性は少なからずありますが、この小説ではより濃密に二人の関係性を描いています。

    また、歴史にはあまり出てこない姉のメイベルですが、この小説ではビアズリーとともに生きる主人公のように描かれています。メイベルの視点から見たビアズリーの狂気的な一面が見られることも、この小説ならではだと感じます。

    ビアズリーとワイルドの関係性はどのように描かれるのか。
    メイベルはいったいどうなってしまうのか。
    この小説で歴史の謎に迫ってみませんか?

    2025年02月12日
  • ブックライブ書店員

    『テルマエ・ロマエ』の作者・ヤマザキマリさんのエッセイ集。
    ご本人をして「ちょっとばかり特殊だった」とおっしゃる家庭環境の紹介で始まる1つめから怒涛の28エッセイが楽しめます。MANGAにトイレ、ビールに結婚式…とあちらこちらに話題が飛んでいるように見えて、実際は、17歳で絵画を学ぶためにイタリアへ留学して以来ずっと海外暮らしの筆者が、改めて祖国である日本について「再確認」「再発見」したことがつづられています。
    海外には旅行をしたことがある程度で住んだ経験はない私でも、海外に出たからこそ気づいた日本のあれこれはありますが、やっぱりヤマザキマリさんの視点は非常におもしろくて、「なるほど!」「そういう見方があるのか…」「そんなことある!?」など、さまざまに感情が揺さぶられます。また、エッセイの間に挟まれているイラストも最高ですので、ぜひ読んでみてください。
    ちなみに、私は「その二十六」がお気に入りです。

    2025年01月27日
  • ブックライブ書店員

    “三国志”と言えば、中国の後漢以降、群雄割拠の状態から魏・蜀・呉が並び立ち、中国統一を目指す歴史を壮大に描いた、誰もが知るコンテンツ。正史と呼ばれる歴史書「三国志」と羅貫中が記したとされる小説「三国志演義」に始まり、さまざまな作家がさまざまな角度から描く三国志(あるいは三国志演義)の小説、マンガ、ゲーム、映像、そして解説本まで、どこから手を付けたらいいのか、どこまで追いかけたらいいのか、奥が深すぎてうっかり手を出すのが怖くなるほど。
    その中でも、三国志を語るなら必読!と言えるのが本作、北方三国志です。とは言え、実は未読…という方も多いのではないでしょうか。ハードボイルド感あふれる本作は、ファンタジーよりも人間関係に重きを置きたいあなたに絶対おすすめ。いろいろな登場人物の視点で描かれ、どのキャラクターも人間臭くて、つい引き込まれてしまいます。そして、印象深いセリフが次々に出てきます。お話としてそもそも熱いのに、北方節がまた熱さを上乗せしてくるのです…! これは読むしかない…!!
    個人的に、こういった冊数の多い名作長編こそ電子書籍にピッタリかもなあ…と思わされた一作です。一気に全巻購入しておかなくても、続きが気になったらいつでもどこでも購入できるのは本当に便利でした…読み始めると止まらなくなります。ご注意を。

    2025年01月27日
  • ブックライブ書店員

    「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。」
    から始まるこの小説。一目で引き込まれるこの軽快なリズムは、物語の終盤まで常に刻まれ、ずっと心地いい。しかし、ここで起こることは全然軽快ではなくて、好きでもない男とのセックス、バラバラ殺人事件、インターネットでの過剰な煽りから生まれた集団リンチなど、非情でアンハッピーなものばかりである。
    そして、そんな世界に生きる主人公のアイコ自身も、大人から見たら支離滅裂で頭のおかしい女の子なのかもしれない。でも、彼女の怒涛のモノローグに耳を傾けてみてほしい。支離滅裂でも情緒不安定でも、一生懸命に考えて今を生きている彼女に愛らしさを見出したとき、あなたもアイコの虜になっているに違いないと思う。

    2025年01月22日
  • ブックライブ書店員

    「憂鬱じゃなければ仕事じゃない」――この一言が、あなたの停滞した日々を切り開くきっかけになるかもしれません。出版界の革命児・見城徹氏が語る55の仕事哲学は、厳しさの中に実践的な知恵と情熱が詰まっています。
    本書の魅力は、そのリアルさと具体性にあります。例えば「結果が出ない努力に意味はない」という言葉。何かをやり遂げるには、ただがむしゃらに頑張るのではなく、成果を生む行動を選ぶ必要があるのです。また、「義理を重んじ、人との約束を守れ」という教えは、仕事の基本ながら、どんなキャリアにも通じる最強のルールです。
    これらの言葉は、ただ読むだけで終わるものではありません。日々の仕事に取り入れた瞬間から、行動が変わり、結果が変わる。私はこの本を手にしてから、どんな憂鬱な仕事も「やり遂げた先に何かがある」と信じられるようになりました。
    悩んでいる新人、限界を感じる中堅社員、そして次の一歩を迷うすべてのビジネスパーソンに、この本をおすすめします。読めば、「熱狂」が仕事を変え、人生を動かすことを実感するはずです。

    2025年01月08日
  • ブックライブ書店員

    なぜ人は酒を飲むのか。
    35歳でアルコール中毒による症状で入院した男性が自身の人生を見つめ直す物語。

    アルコールは合法にして、飲めば気分を高揚させ、記憶を飛ばすことができ、依存性が高い。しかし、全員が全員アルコール中毒になるわけでもない。では、その線引きはどこにあるのか。この小説の一節を紹介したい。
    「酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、「飲まないこと」によって与えられなければならない。
    それはたぶん、生存への希望、他者への愛、幸福などだろうと思う。」

    2024年12月25日
  • ブックライブ書店員

    SNSで話題沸騰した『近畿地方のある場所について』の背筋先生による短編ホラー! ※ただのホラーではない

    とある大学生グループが心霊スポットで肝試しをした。その後、そのうちの一人が自殺してしまった。
    さあ、何故でしょう?

    すみません、60ページほどの短編なので、あらすじで言えるのはここまでです。笑
    このお話は最初から最後まで登場人物たちが語り手となっており、当時のことについて証言しているような形となっています。
    そして最後にアンケートがあります。 皆さん、“必ず”答えてくださいね。
    最後の問いに答えたとき、この本の仕掛けに気づき、もう一度読まずにはいられなくなるでしょう。



    私はもう、○○の鳴き声が怖いです。では、失礼いたします。

    2024年11月12日
  • ブックライブ書店員

    くどうれいんさんの日々を少しのぞかせてもらっているだけなのに、なぜか自分の日々の解像度が上がるかもしれない。
    くどうさんに寄り添えるような、それでいて突き放されているような。そんな不思議な気持ちになる本です。

    文中、くどうさんはさも「当然知っているでしょう」と言わんばかりに、たくさんのお友達の名前を特に説明なく出してきます。「私、もしかしてくどうれいんさんのお知り合いだったのかもしれない!」と途中錯覚してしまったほどです。
    でもそれでいて、日記の途中途中に、「なんでも書くと思うなよ」、「見せたい気持ちじゃない」というような言葉も現れてきて、「あ、これがくどうさんの魅力なのかもしれない」と。飼い猫のようにフレンドリーで気ままに見えてその実、たくさんの複雑な気持ちが混在している、そんな魅力がこの作品では垣間見えます。

    日々は人間生きているうえでなんとなくのっかっているものですが、それを何らかの形で残してあげようとするだけで、今まで見えていなかった彩りが見えてくるものなのかもしれない、と思わせてくれる。
    日記への薦めが押しつけがましくないこの本は、もしかしたらあなたの日々の彩りの一つになるのかもしれません!

    2024年10月30日
  • ブックライブ書店員

    ビルマ英軍収容所での日常。
    敗戦後の強制収容所という特異な環境を綴った本著。私は、中盤の「捕虜の見た英軍」以降の章がグローバリズムを推進する社会を生きるうえで様々な気づきを与えてくれると感じた。
    著者は、支配者層であるイギリス人から人種差別を受けているが、同時に旧日本軍を監視する支配層に近いビルマ人とインド人から、日本人というだけで羨望の目を向けられるというあべこべな環境に身を置いていた。そのため、イギリス人からは人種差別を受けるも、ビルマ人とインド人に対しては人種差別意識を持っていた。そのような立場だからこそ、それぞれの人種の価値基準となる文化を身体性や土地柄などから見出している。
    多様性やグローバリズムを語る中で、文化の差異は避けて通れない。しかし、自国の文化に意識的になることはとても難しい。文化とは何かを考えるうえで、本著のエピソードは指針になるのではないだろうか。
    また、戦争の凄惨な情景と馬鹿馬鹿しさ。日本での戦争経験者が少なくなっている今、戦争体験ないし敗戦は国民に何を与えるのかを知るのに最適な本だ。

    2024年08月21日
  • ブックライブ書店員

    お正月に親戚の集まりで孫が話す英国留学体験を聞いて「一生に一度でいいからイギリスに行きたい。お姫様のような旅がしてみたいわ」と言い出した80歳越えの祖母。そして、そんな祖母の願いをかなえてあげたい伯父たちが費用を負担してくれるという、それはそれはゴージャスな「ロンドンお姫様旅行計画」に乗った孫。祖母と孫、2人きりでの5泊7日のロンドン旅行、その顛末は…?
    本作は、「最後の晩ごはん」シリーズの椹野道流さんが書かれる、まるでよくできた小説のような、たった5泊7日とは思えない濃さの旅行記です。私は英国好きなので、タイトルにひかれて読み始めましたが、途中で何度か泣かされ、最後はしみじみと自己肯定感について考えさせられるという、単なるトラベルエッセイとは一味も二味も違う1冊でした。作中の孫である作者は、今のように簡単に画像や映像が残せない時代の記憶をたどって書かれたことで、この旅のことも今は亡き祖母のことも多少美化されつつも見つめ直されて、今だからこそ、このようなエッセイとして昇華されたのだろうと思いました。そして、人をもてなすとは、努力と自信とは、贈り物とは、謙虚と卑下とは…などについて考えさせられました。個人的には、今はもうない、かつてロンドンにあった日系デパートにかかわるお話を非常に懐かしく読みました。
    誇り高いおばあさま、ホスピタリティの権化としか言えないCAさんやホテルスタッフたち、あらゆる登場人物の金言にあふれた本作は、折に触れて何度も読み返したくなる1冊になること間違いなしです。ロンドンが大好きな方はもちろん、豪華な海外旅行に触れてみたい方、高齢者との接し方に悩んでいる方、おもてなしの神髄を知りたい方など、どなたにでも読んでいただきたいです!

    2024年08月08日
  • ブックライブ書店員

    米粒ひとつも残さず食べなさい。
    いただきますをちゃんとしなさい。
    そう、小さな頃から教えられてきた方は多いのではないでしょうか。

    日々「食べ物が私たちに辿り着くまでの背景」を想像しながら食事をする人はどれだけいるか。
    私たちが口にする一つ一つの食材には、多くの人たちの苦労、想い、そして生命が詰め込まれています。

    動物にも感情があり、植物にだって痛みを感じるシグナルがあるといわれています。
    人間のためだけに、家畜として生まれ、育ち、成長し、一生を終えていく。
    その家畜と呼ばれる生命は、日々、何を思い、一生を終えるのか。

    母は自らの生命をかけて子を産み育てる。
    子は大きくなった途端にどこかへ連れ去られ、ずっと戻ってこない...。
    待っても待ってもあの子はかえってこない...。

    一方、大きくなった子は突然大きな車に乗せられ、来た事もない場所で降ろされる。
    何か楽しいことが待っているの?
    見たこともない人間が近づいてきた。すごく怖い顔で近づいてきた。
    恐怖と本能からくる拒絶。そして――…。
    母の悲しみを、子の恐怖を、親子の傷みを、私たち人間は自身に置き換えて考えることができるのでしょうか。

    この絵本は、食肉解体作業員の「坂本さん」と、肉牛として連れられてきた「みいちゃん」のお話です。
    子どもたちには勿論ですが、大人にこそ読んでもらいたい一冊です。
    命の大切さと「いただきます」の意味を心に刻み込んで。

    2024年07月01日
  • ブックライブ書店員

    第9回ポプラ社小説新人賞、堂々の満場一致で受賞!
    「変」と言われ続けてきた高校2年生の田井中。自分の気持ちに素直に行動すればするほど、自分が異質であることを思い知らされてきた。流行りのポップスより、昔のアーティストが好きだった。でも、そのアーティストについて語ったら「変な子ども」の烙印を押された。だから、「普通」になろうと努めてみたけど、どれも上手くはいかなかった。
    そんなとき、爽やかそうな美術教師・二木先生の抱える"大きな秘密"を知ってしまった。二木も田井中と同様、ある性質によって、社会からはじき出される苦しみを知っている人間だった。
    ──許されない欲望を抱えた人間もいる
    「普通」とは何か。そして、それは誰が決めるのか。「普通」であることが正義なのか。では、自分が「普通」とは違うと気付いてしまったとき、どう生きていけばいいのだろうか。社会から逃れて生きることなど、出来やしないのに。
    無理に認められようとしなくていい。「普通」に変わろうとしなくてもいい。ただ、認められない感情を嘘で包み隠して生きていけばいい。
    社会での生きづらさを苛烈に正面から描き切った、確実に存在する現実の物語。

    2024年05月30日
  • ブックライブ書店員

    話題になっていた本なので読んでみました。40代以降に考えるべきこと、例えば残りの人生をどう生きるかなどを考える上で、非常に役に立つ本だと思います。この本に書いてある、指揮命令を現場に伝えなければならない40代はソフト老害である、というのは本当にそうだなと考えさせられます。
    仕事や人間関係などにおいて、社会に長くいるとソフト老害予備軍になっているという現実は身につまされました。放送作家である著者は、わかりやすいキャッチコピーと説明が上手です。これからの中高年に「若さがなくても勇気を持って新しいことに踏み出すと人生平等に楽しさが味わえる」と呼びかけている内容になっており、読み進むうちにワクワク感が味わえます。ソフト老害という言葉にはドキッとしますが、楽しく人生を全うしようと思える内容でおすすめの1冊です。

    2024年05月16日
  • ブックライブ書店員

    国立T大学の向かいにある洋食店で住み込み店員として働く藤丸陽太は料理人見習い。彼は、よく店に来たり出前を頼んだりするT大学の松田研究室に所属する研究者見習いの大学院生、本村紗英に恋をしてしまう。植物学を専攻する彼女は研究対象のシロイヌナズナに夢中で、恋愛にはまったく興味がない様子だが、この恋はいったいどうなる?

    三浦しをんさんご本人によれば、本作は新聞の連載小説だったので、「毎日読む人も飛び飛びに読む人もいるから、ストーリーの時系列が行ったり来たりしない方がいい」というアドバイスがあったそうで、そのためか、お話は非常にわかりやすく進んでいきます。藤丸くんと本村さんだけでなく、研究室の松田教授や先輩たちもそれぞれ個性的にイキイキと描かれていて、気が遠くなるほどコツコツと地道な実験作業の描写が続いても、読み続けている間になんとなく植物学の実験に対する理解が深まるという、非常に三浦しをんさんのお仕事小説らしい側面が存分に楽しめる作品ですが、それと同時に、個人的には「恋愛が“成就”するとはどういう状態を言うのか」を考えさせられた作品でもあり、私はそこがいちばん好きです。何かを追求し続けようとする人を見て癒されたい方におすすめ。

    2024年03月28日
  • ブックライブ書店員

    1冊では滅多に味わえない満足感!

    親族を殺した相手と文通する女性の話や、15年ぶりに娘と名乗る男にあった男性など、
    6つの物語が詰まった短編集。
    ネオンテトラ/魔王の帰還/ピクニック/花うた/愛を適量/式日で構成されています。

    各物語に総じて言えることは、どの話もあなたの心を動かすこと間違いなしということ。
    特にオススメなのは「魔王の帰還」です。
    私は現在20代後半なのですが、人生で一度も味わったことのない感情に動かされ、
    「人生まだまだだな」と思った記憶があります。

    短編集ですが、1話で1冊以上の充実感を得られるはず。
    本好きの方はもちろん、忙しくて読書なんて!という方にも届いてほしい作品です。

    2024年03月26日
  • ブックライブ書店員

    結婚、キャリア、子育て。
    それぞれの人生の分岐を進んだ女たちは、心から分かり合えるのでしょうか。

    専業主婦の小夜子は義母との関係に疲れ働く決心をします。採用されたのはハウスクリーニングの仕事。
    その会社を経営する女社長の葵は、小夜子と同年齢で出身大学も一緒。
    共通点が多いことや、明るい性格の葵の人柄に惹かれた小夜子のコミュニケーションにより、2人は仲良くなります。
    しかし、距離が近くなるにつれ葵の言動に対して疑問を感じるようになった小夜子。
    ひょんなきっかけで葵の過去を知り、2人の関係性は変わっていくことに。

    結婚をするしない、子供を産む産まない、キャリアアップを目指す目指さない。
    年齢を重ねるほど、気が遠くなる決断を求められる機会が女性には比較的多いと思います。
    その分岐は人生を変えるにはあまりにも大きく、選択の内容次第で今まで仲が良かった友人同士の絆を引き離すことも。
    異なる分岐をした人が交じり合うことはなく、同じ道を選んだもの同士で関係を深めていくのだろう。
    そう思っていました。

    しかし、選んだ分岐に対して強い不満を抱いていたらどうでしょう。
    専業主婦の分岐を選んだ小夜子と、やりたい仕事に挑戦する分岐を選んだ葵。
    一見関わることのない2人が、自分の環境に関係なく心を通わせようとしたら…。
    疎遠になった友人がいる人、これからの人生に対して迷いがある人に是非読んでいただきたいです。

    2024年03月26日
  • ブックライブ書店員

    そうだ森見登美彦の京都、行こう。

    過去を振り返って、あの時ああしていればあるいは…。と考えることは誰しもよくあることだと思います。
    この小説ではそんなもしものルートで一体何が起きていたか、いや何も起きていなかったか…。そんな様子を覗き見ることができます。
    たらればの道を歩むのもまた自分なのだとすると、実は何をしていても大して現状は変わらないのかもしれない…。

    森見作品の京都っていいですよね。先生の作品を読んでいると京都に行きたくなります。
    地図にしるしをつけて、作品に登場した聖地の巡礼を行ったこともあります。
    そうしてから読み返すと、さらに良い読書体験をすることができますよ。おすすめです。

    本作に登場する樋口氏は、別の森見作品『夜は短し歩けよ乙女』にも登場します。
    私は、『四畳半神話大系』と『夜は短し歩けよ乙女』のどちらから読むかによって、読者が想像する彼のビジュアルは変化する説を提唱したい…!
    紙版の『夜は短し歩けよ乙女』のあとがきにマンガ家・羽海野チカ先生のイラストが寄せられていたので、羽海野先生は『夜は短し歩けよ乙女』から読んだのではないだろうか…と思いました。
    どちらも未読で、樋口氏のイメージがどう変化するのか気になる方は、『夜は短し歩けよ乙女』から読んでみるとよいかもしれません。

    2024年02月13日