【感想・ネタバレ】アーロン収容所 改版 西欧ヒューマニズムの限界のレビュー

あらすじ

英軍は、なぜ日本軍捕虜に家畜同様の食物を与えて平然としていられるのか。女性兵士は、なぜ捕虜の面前で全裸のまま平然としていられるのか。ビルマ英軍収容所で強制労働の日々を送った歴史家の鋭利な筆はたえず読者を驚かせ、微苦笑させつつ西欧という怪物の正体を暴露してゆく。激しい怒りとユーモアの見事な結合がここにある。強烈な事実のもつ説得力の前に、私たちの西欧観は再出発を余儀なくされるだろう。

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ビルマ英軍収容所での日常。
敗戦後の強制収容所という特異な環境を綴った本著。私は、中盤の「捕虜の見た英軍」以降の章がグローバリズムを推進する社会を生きるうえで様々な気づきを与えてくれると感じた。
著者は、支配者層であるイギリス人から人種差別を受けているが、同時に旧日本軍を監視する支配層に近いビルマ人とインド人から、日本人というだけで羨望の目を向けられるというあべこべな環境に身を置いていた。そのため、イギリス人からは人種差別を受けるも、ビルマ人とインド人に対しては人種差別意識を持っていた。そのような立場だからこそ、それぞれの人種の価値基準となる文化を身体性や土地柄などから見出している。
多様性やグローバリズムを語る中で、文化の差異は避けて通れない。しかし、自国の文化に意識的になることはとても難しい。文化とは何かを考えるうえで、本著のエピソードは指針になるのではないだろうか。
また、戦争の凄惨な情景と馬鹿馬鹿しさ。日本での戦争経験者が少なくなっている今、戦争体験ないし敗戦は国民に何を与えるのかを知るのに最適な本だ。

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Posted by ブクログ

アジア•太平洋戦争に負けた日本は、各国に散らばった兵士たちが日本に帰国することが出来ず、現地でそのまま捕虜(既に戦争には負けているから敗残兵として収容された)となり、何年も労働に従事した。中でも終戦間際にソ連軍が大挙押し寄せた満州方面では、57万人以上がシベリアや中央アジアに連れ去られ、戦後何年も抑留されたシベリア抑留は有名だ。本書はビルマ方面で戦った兵士がやがて現地で降伏し、アーロン収容所に収監されるまで、そしてアーロン収容所内での生活や労働について、実際にそれを体験し、後に歴史学者として名を馳せた会田雄次氏の体験記である。ビルマ方面ではもう一つコカイン収容所というものも存在していたが、インパール作戦に参加して、撤退戦を繰り広げていた日本兵が終戦と共に、それら収容所に収監され、戦後長期に渡り日本への帰国は許されなかった。
本書は日本兵を収容し労働に供させた張本人としてのイギリス軍、そしてインド兵、ビルマ兵が支配する側の人間、そして敗残兵としての日本人は支配される側の人間だ。この中では白人は勿論イギリス人だけであり、本書の内容から、当時の白人社会が、彼ら以外の有色人種に対して抱いていたイメージや扱いが、如何に酷いものであったか理解することができる。今日のアメリカ社会やヨーロッパ社会においても人種差別は根深く残っていると言われるが、当時は戦争で互いが憎しみに溢れた血みどろの戦いを強いられていたとは言え、自分たち白人以外を家畜同様の「生物」としてしか見ていなかった白人至上主義が垣間見れる。彼らにとってはインド人もビルマ人も、勿論日本人さえも同じ人以外の存在にしか映らなかったのであろう。更にはイギリス人が得意とする「分断して統治する」を地でいくような、イギリス人以外を分断して互いに争わせるという手法を採る。勿論最底辺には日本人が置かれた。従って、筆者が最悪な国民として、長期にわたって恨みを抱く様な熾烈で過酷な扱い(特に精神面に於いて)を受け続けることになる。食事の待遇の悪さを訴えた日本人に対して、イギリス人が真顔で「日本軍に支給している米は、当ビルマにおいて、家畜用飼料として使用し、なんら害なきもの」と言うシーンは正に、恨みやいじめではなく、彼らの常識がそうであった事をよく表している。
本書は戦争終結後に各地に散らばって捕虜生活を送った日本人のほんの一部分を切り取ったものに過ぎないが、各国で同じ様に扱われていたのはその後の復員兵の話からも伝わってくる。シベリアはその中でも最も過酷な状況であったと思われるが、ロシア人、イギリス人、そしてオランダ人など白人種が如何に有色人種を劣等扱いしていたか、それら捕虜の記した書籍から多く伝わってくる。紳士で騎士道精神に溢れるイギリス人、というイメージが一気に崩れ去っていくが、先ずはそうした状況に至った戦争自体の経緯や原因を追究する事を考えなければならない。そして更に深い問題である人種差別について、世界からどの様にして根絶するか、より大きなテーマに拡げて考えていくきっかけにしたい。
未だアメリカ社会には根深い差別が残っていると言う。白人黒人など様々な人種が存在するアメリカという国家の国民を分断させ、移民者を排除する政策を採るトランプ。多様性を否定し選民思想かの如くアメリカファーストを声高に叫ぶ。やはり根底には人種差別的な考え方を持ち合わせているのかもしれない。アーロン収容所に君臨するイギリス人。アメリカと源流を同じくする民族。そしてフランスやオランダと共にアジアの各国を植民地としアジア人から搾取する事を当然とした社会。彼ら白人の根底にある考え方について垣間見た様で恐ろしくなる。だが歴史の中にはこうした信じ難い事実があった事を知る事は重要だ。

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2025年06月23日

Posted by ブクログ

なんとも言えない。多面的で変化するものであることが人間であるといったことだろうか。真に共感はし得ない心が描写されていた。

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2025年03月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

記録・実話として大変貴重な、価値のある本です。
本書は色々な人の本で引用されていましたので、以前から読んでおかなくてはいけない本だと思っていました。
聞きしに勝る、想像を絶するというか、これが日本人に対するイギリス系の人間達の本性なのだと思わされました。
捕虜体験により、それまで日本で接していたイギリス人たちとはおよそ異なる、「イギリス人の正体」「イギリス人オーストラリア人の陰湿で残虐残忍な正体」をはっきりと見た体験の記録を残してくれています。

表面は甚だ合理的で、非難に対してはうまく言い抜けできるようになっていた。しかもあくまでも冷静で「逆上」することなく冷酷に落ち着き払って行なっていた。
人間が人間に対する最も残忍な行為。

イギリス人の日本人ビルマ人インド人たちに「人間以下」の動物として見下して対する傲慢な態度の実話の数々。
イギリス人オーストラリア人ニュージーランド人、白人のイギリス系は根本的に今でも大して変わらないでしょう。

収容所長のイギリス人中尉がビルマ人売春婦を何人も自分の居室に集め全裸にさせ、とても書くことのできないいろいろな動作をさせて楽しんでいた様子を見て、英文学をやっていた「英国の教養」を信奉していた学徒出身の日本人少尉は大変なショックを受けた。
イギリス人は男女共に大小の用便中でも部屋に入っていっても平気であった。

女兵士が掃除のお礼に、たまにタバコを一本か二本床の上に放って顎で拾えとしゃくる。

女共は足で指図する。

部屋に入ると一人の女が全裸で鏡の前に立って髪をすいていた。後ろを振り向いたが何事もなかったように髪をすき終え下着をつけ、そのまま何事もなかったように台に横になりタバコを吸い始めた。

イギリス人達の東洋人に対する「人間扱い」しない絶対的な優越感の態度は空気を吸うようになだらかな全く自然なものだった。

真正面からいじめてくるのではないそういった英軍の様々な態度に対し極度の反感を感じた。
今日でも、思い出してくると私は激しい感情に駆られる。「万万が一,再び英国と戦うことがあったら,女でも子供でも,赤ん坊でも,哀願しようが,泣こううが、一寸きざみ五分きざみ切り刻んでやる」という当時の気持ちがまざまざとよみがえってくる。

以下の会田さんの指摘はかなり重要です
P60~
若い軍曹は、若いビルマ人の死体を確認するのに、うつ伏せの死体を、靴の先で激しく蹴り上げるように死体を持ち上げる、ビルマ人の首の骨がガクンと折れる。泥まみれの生気のない顔を見て「フィニッシュ」とつぶやいた。
人間ではなくネズミ一匹の死としか見ないまったく冷静で事務的であった。

オーストラリア兵は特に程度が悪かった。
額でタバコの火を消されたり、靴先で散々顎を蹴り上げられたり、跪かせて足掛け台の代わりに足をのせ、1時間も辛抱させられたり、怒鳴られ、跪かさせられて、口を開けさせられ、顔にションベンをかけられた。

P70
飢えに苦しんでいる170人の鉄道隊の人たちを、わざと病原菌があるカニを食べさせ、赤痢にやられ血便を出し血反吐を吐いて、水を飲みに行き、水の中へうつ伏せして死ぬ。
看視のイギリス兵は皆が死に絶えるまで岸から双眼鏡で毎日観察していた。全部死んだのを見届けて、「日本兵は衛生観念不足で自制心も乏しく英軍の度重なる警告にもかかわらず生蟹を捕食し疫病にかかって全滅した。誠に遺憾である」と上司に報告した。

P.76
あだ名がハゲタカの見事な鷲鼻の、傲慢、陰険、着実、冷静でイギリス下士官の典型のような男。
無類の女好きで復讐欲に燃えたサディスティックな目が私に今でも焼き付いている。
毎晩ビルマ人の女を宿舎に引き入れて、ときには2、3人を連れ込んでキャーキャー大騒ぎし、男女の交わりを電灯も消さず終始演じて見せるのである。とてもしつこく、ニヤニヤして動作を止めないこの男の曲がり鼻と落ちくぼんで、青くギラギラ光る目はまさに畜生を思わせた。
それを見せつけられる私達は吐き気のような嫌悪感と屈辱感を持たされる。

「イギリス人を全部この地上から消してしまったら、世界中がどんなにすっきりするだろう」私は、つくづく心からそう思い、そう考えた。

戦前にイギリス人教授に学んでラングーン大学英文科を出たビルマ人にあった。シェイクスピアに関する卒業論文を書きカンタベリー物語も読んだ、面白かったと言う。敬意を表してその本を見せてくれと言ったら、大得意で貸してくれた。本は絵入りのカンタベリー物語、シェイクスピア劇物語なので、戦前の日本の中学2、3年程度のものである。しかしそのビルマ人はそれが本物だと思っていた。イギリス人はこの程度にしかビルマ人やインド人を評価していなかったのである。

イギリス兵の文章は誤字だらけ、でたらめなのが大部分であった。
算術のできないイギリス兵。オーストラリア兵には10以上の計算ができないと思われる連中が大勢いた。


日本人論も書かれています

私たちには自分を大日本帝国そのものだと考える気概はなかった。自分の約束を守ろうという一徹さ。
日本軍の命令には絶対服従というのは、「長いものには巻かれろ、戦いは誰かがやってくれる。」という心理の基礎の上に立っている。その長いものが正義の具体像でない限り拒否するというのがイギリス人。

私たちの精神的な気概、例えばイギリス兵に対する態度や民族的自覚などは残念ながら情けない限りであった。個人としてはよくても群衆となると手に負えぬバカなことをする。私たち日本人はただ権力者への迎合とものまねと集合的行動と器用さだけで生きていく運命を持っているのだろうか。

イギリス軍がインド兵・ビルマ兵に配った文章に
「諸君がやがて見る日本人は実に醜悪である。目は細く小さく、頬骨が突き出し、口はひどい出っ歯、鼻は低く潰れている。足が短くガニ股で、背は曲がり腹は突き出ている。彼らはこの醜さと、それゆえに軽蔑されることを知っているのだ。彼等の性格もまた狡猾であり、そのため嫌われることも知っている。」
実に不愉快だが、ある程度真実をついている。
ビルマ人の顔立ちは日本人より一般的に良い。
インド人は体格も骨格も顔立ちも日本人より遥かに立派。
善良な表情などとても日本人にできるものではない。

日本人は自分たちの容姿の醜さに劣等感を持ち、しかも過度にそれに敏感になっているのではないか。容姿を気にするなと言うのは、逆に気にしすぎていることの証明ではないだろうか。

日本では、仏教は仏像の美しさに、キリスト教もマリア像の美しさに惹かれて広まっていった。

日本と同じ国土が辺境にあると言ってもギリシャ文化の正統性、豊かさ、巨大さは日本とは比較にならない。そこには暗さ、卑屈さ、僻み、いじけといったものが全くない。その理由の一つはギリシャ人が容姿、特に肉体の立派さ、美しさに絶対の自信を持っていたから。そういう自信を示す文献がある。

インド兵士に、「最後の一人が倒れるまで戦いは続いているのだ。」と言われた。


ただし本書では、イギリス軍に対し肯定的な体験も書かれています。
読み書きや計算ができないからといって馬鹿にしてはいけない。彼らは実に責任感が強い。言ったことは必ず守る。

文系専門のような青白きインテリなど一人もいなかった。
イギリス士官の動作や態度は実に堂々としたものであった。
体格は下士官や兵には見事なものは多くはない。貧弱だなと思うような男も少なくなかった。しかし士官達は、老人以外はほとんどが堂々たる体格で私たちを圧倒した。彼等と接した時ほど日本人の体格の惨めさを感じたことはない。 体格だけでなく動作が生き生きとして自信に満ち、しかも敏捷であった。
彼等は様々な鍛錬を積んできていたのだ。
彼らの体格は階級制度社会構成をかなり正確に反映しており、同じイギリス人かと思われるほどの差があった。
常時ならともかく戦時の軍隊は国家の社会秩序をある程度反映するもの。
市民革命をした市民ブルジョワによる支配は組織や欺瞞教育などではなく、この肉体的な力によったのである。
だからプロレタリアは団結しなければ勝てなかったのだ。

日本のように肉体と精神が本来的に別個のもの、教養と体力とは本来的に別物であると言うのは間違い。
マルクスの見たブルジョワというものの姿は、私たちが観念的に見ている日本のブルジョワなどとはまったく違ったもの。
ブルジョワとプロレタリアは身体から、ものの考え方から何から何まで隔絶したものなのだ。

日本人は一般に家畜の屠畜ということに無経験な珍しい民族。
他のアジア人や、それ以上にヨーロッパ人は慣れている。
家畜を数多く飼育する、多くの動物を取り扱う管理法と技術が必要となる。
ヨーロッパ人は多数の家畜の飼育に慣れていた。植民人の使用はその技術を洗練させ、何千という捕虜の大群を十数人の兵士で護送をしていく彼らの姿には、まさに羊や牛の大群を率いていく特殊な感覚と技術を身につけた牧羊者の動作が見られる。

ヨーロッパ人の動物飼育の感情は、動物を可愛がるのは動物が食料になるから。殺すことと可愛がることとは矛盾しない。 同じ意味で「役に立つ」のである。
ヨーロッパでは毛皮業者や食肉業者の社会的地位が昔から高かった。
生物を殺すのを正当化するためにキリスト教が、動物は人間に使われて利用されて食われるために神によって創造されたという教えを作った。
人間と動物の間に激しい断絶を規定した宗教がキリスト教。
そして相手がいったん人間でないと決めたら、殺そうが傷つけようが良心の痛みを感じないですむ。「冷静に逆上することなく」相手の動物の人間を殺すことができる。

P72騎士道とプルターク英雄伝
卑屈な言葉態度をとった私に対し、将校は、「君は奴隷か。奴隷だったのか」「我々は我々の祖国の行動を正しいと思って戦った。君達も自分の国を正しいと思って戦ったのだろう。負けたらすぐ悪かったと本当に思うほどその信念は足りなかったのか。それともただ主人の命令だったから悪いと知りつつ戦ったのか。負けたらすぐ勝者のご機嫌をとるのか。そういう人は奴隷であって侍ではない。我々は多くの戦友をこのビルマ戦線で失った。私は彼らが奴隷と戦って死んだとは思いたくない。私達は日本の侍たちと戦って勝ったことを誇りとしているのだ。そういう情けないことは言ってくれるな」
そのときの勝者のご機嫌とりを察知されたことに対する屈辱感というものは何とも言えないものであった。

たとえ泥棒をしようとも、ヨーロッパ人にはいったん自分がとった重大な行動の責任はどんなことがあってもなくならないとする考え方がある。また一度やり出したことは都合が悪くなっても、いや悪いと思っても断じて曲げない方が立派で男らしいのだ、という考え方も私たちの想像以上に深く根を張っているようである。
一旦言い出したことは断固として貫くというスパルタ的精神を讃えている。

いろいろと感じさせられることの多い本でした。
日本人もいろいろな意味で、世界中で惨めで情けのない、屈辱的な思いを散々させられてきた国・民族の人達とまったく同じです。

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2022年11月12日

Posted by ブクログ

「西欧の人種差別意識を暴き出した名著」となっていて、確かにそうなのだが、西欧批判の書としてよりも、日本人、イギリス人、インド人、ビルマ人など、それぞれの文化を持った人間の考え方の違いが、作者の経験したことのみをフェアに書くことによって、よくわかる面白さというか、興味深い文化論・文明論になっていて、多くの発見がある。ある種の滑稽さの中に、戦争のリアルも実感できる。確かに名著。

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2018年04月08日

Posted by ブクログ

アルカトラズ島の刑務所とかグアンタナモ収容所みたいなイメージだったが、読み始めて気付く。アーロンって何だっけ。これは戦後捕虜の小松真一による『虜人日記』やシベリア抑留のような話で、ビルマの英軍による収容所の記録だ。

著者が書いているように、ビルマで英軍に捕虜となったものの、ほとんど日本で知られていない。ソ連の強制抑留は多数の犠牲者を出し注目を浴びたが、ビルマの出来事は人びとの関心をほとんどひかなかったらしい。当事者である著者が言うのだからそうなのだろう。

厳しく理不尽な収容所生活はどこも変わらないのだが、シベリアと比べると死と隣り合わせという気もせず、やや牧歌的な雰囲気もある。そんな中でも人権を踏み躙られる日常が次第に看守への嫌悪感を募らせていく。

ー そのなかでも豪州兵は目立って程度が悪かった。その兵舎を膝をついて雑巾がけしていると、いきなり私の額でタバコの火を消されたことがあった。くそっと思ってにらみつけると平気な顔で新聞を読んでいる。激しい憎悪がその横顔に浮かんでいる。ドスンと目の前に腰をおろし、その拍子のようにして靴先でいやというほどあごを蹴り上げられたこともある。私をひざまずかせ、足かけ台の代りにして足をのせ、一時間も辛抱させられたこともあった。ある日K班長が、青ざめ、顔をひきつらせて豪州兵の兵舎作業から帰ってきた。聞くとかれは、豪州兵の便所で小便をしていると、入ってきた兵士にどなられ、ひざまずかせて口をあけさせられ、顔に小便をかけられたという。日本兵は便器でしかないという表示である。

「われわれは、われわれの祖国の行動を正しいと思って戦った。君たちも自分の国を正しいと思って戦ったのだろう。負けたらすぐ悪かったと本当に思うほどその信念はたよりなかったのか。それともただ主人の命令だったから悪いと知りつつ戦ったのか。負けたらすぐ勝者のご機嫌をとるのか。そういう人は奴隷であってサムライではない。われわれは多くの戦友をこのビルマ戦線で失った。私はかれらが奴隷と戦って死んだとは思いたくない。私たちは日本のサムライたちと戦って勝ったことを誇りとしているのだ。そういう情け無いことは言ってくれるな」

英軍の檄が読み手にも響く。しかし、ならば、どう生きろというのか。国の全ての意思決定が、満場一致で決まるなんて事はできない。それを統一できる可能性があるとすれば、宗教や教育による洗脳であり、それこそ戦前の天皇主義だったのではないか。

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2025年05月01日

Posted by ブクログ

Human beings are recognized (authenticated)by “ideology”.

①「東洋人に対する彼らの絶対的な優越感は、まったく自然なもので、努力しているのではない。」
→英軍の東洋人に対する家畜化は、英国の当然のイデオロギーによって疑う余地もなく遂行されていた。彼らは思想教育を施さない事で、東洋人を家畜の枠へと押し込めた。
→発展途上であると言う事実は、先進国の立ち位置を補償するために保持されている。
→資本主義の中で一次産業に従事させる。ある意味では合理的。
→人間でないものにヒューマニズムは必要ない。

しかしそもそも、”生物学そのものがイデオロギー的レトリックである”


近代ヨーロッパ: 美の独立性の主張(美に対する絶対的な自信)
日本: 全ての価値を美醜に還元。(美に対する劣等感)(例えば仏教の教義よりもその仏像の美しさに惹かれて信奉)


インド: まず自然を憎む事、それらの脱却を出発点として成長する。
日本: 自然崇拝と自然への帰依。
ヨーロッパ: 自然と友人になり、時には自然を支配しようとする方向に発展する。


•「人間には様々の型があり、万能の型というものはない。異なった歴史的条件が異なった才能を要求し、その型の人物で、傑出し、しかも運命に恵まれたものだけが活躍した。」
☞人間の価値など、その人がその時代に適応的だったかどうかだけにすぎないのではないか。

•収容所で均質化された状態から、また序列やヒエラルキーが生まれる逃れられない競争化のプロセスを垣間見た。

•国民性☞本来は存在していないけれど、政府や権力によって、”あるように見せかけられているもの”。→政府が国民を統治するためのレトリックに過ぎない。

痛切でありながらユーモラス。こうした歴史的文献をもっと積極的に読んでいきたい。

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2023年11月15日

Posted by ブクログ

戦時には、民族、国柄、文化の違いが剥き出しになるが、それも一律ではなく各自の個性が現れるものということか。
英国人が有色人を人間として見ていないというのはあるが、ソ連のシベリア抑留とは大きな違いは、民族性の違いか、政治体制の違いに依るものか?

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2025年02月14日

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